【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
新作「闇堕ち美少女十人攻略。失敗したら世界滅亡」投稿しました。
シリアス抜きの馬鹿騒ぎ学園モノです。よければ覗いてください。
上鳴タワーの上空、高度400mほどの地点で天使と悪魔が向き合っている。一人は光天使エル・ライトガーデン。両脇に二人の人間を抱えながらも一切相手から目を逸らさずに警戒を続けている。
もう一人は『永死殺総』アネモネ。上級悪魔の一人であり千年を生き、可憐な見た目とは裏腹の残虐性と悪性を誇る彼女はエルを見定めるように蛇のような目つきで睨みつける。口を大きく裂けさせながら遥か下の地上の地獄絵図を作り出した張本人でありながらそのことを忘れたかのようにエルのみに集中している。
「久しぶりだねぇ、エル・ライトガーデンッ……!!あの人間のガキが殺されかけて心折れてるって聞いたんだけど私の勘違いだったのだかなァ?それともぉ……あっさり立ち直れる程度の関係性で想いだったのぉ?だとしたら誑かされたあの少年は可哀そうだよね♪天使にも悪魔にも利用され尽くしてほんとぉに哀れだと思うなぁ」
前回の戦いからあと一歩の所まで追い詰められた『永死殺総』に既に慢心はない。親友である『病孤涙苦』を殺した一人の時点で警戒はしていたがそれでも尚足りなかったと酷く反省した。だからこそ恥も外聞も捨ててエルの弱い部分に容赦なく言葉の刃を突き刺す。それで少しでも揺らぎ、冷静さを失い、殺す機会が生まれるなら御の字と思いながら。
「アリナ、聞こえてますね。私が保護している二人をすぐに転移させなさい。その後この戦闘区域から私と『永死殺総』以外を避難させるように。生命活動的に危険な人間から順にです」
『ああもう!!いきなり復帰して姿見せたと思ったらまぁた無茶苦茶言ってくれちゃって!!!アタイにだって我慢の限界と能力の限界があるんっすけど!!?』
「そうだったんですか、知りませんでした。なにせ私の頼れる後輩はその限界を軽々越えてくれて来たので。思わず期待してしまうんですよ、アリナ」
『~~~~~~~!!!!リョウパイセンに似てきたっすねエル先輩!!!分かったっすよ!!やればいいんでしょやれば!!!その代わりそっちは頼んだっすよ!!!』
アネモネの言葉を無視しながら周辺に結界を張っている後輩に連絡し両脇に抱えた二人が消えたことを確認したエルは腕を回しながら戦闘態勢に入る。悪魔の言葉など耳に入れる必要すらないと言わんばかりの態度にアネモネのこめかみに血管が浮き上がる。
「あのさぁ、そうやって余裕ぶってていいのかなぁ?私達の方は例の下級悪魔を既に捕えてるんだよ?少しでも情報を引き出そうとかしない訳?それとも恋敵なんて死んでもいいと思うくらいには倫理観捨ててきた?天使がそんなのでいいと思ってるn」
「うるさいですね、羽虫が。ぺちゃくちゃ喋るのだけが取り柄なのですか。だとしたらその口を今すぐ縫い合わせてあげましょうか?そうすれば唯一見られる外見のおかげで人に注目してもらえるかもしれませんよ?」
「あ゛?」
「分からないのならこう言い直してあげましょう。――――キレているのはお前じゃなく私だ」
「ふざk」
エルらしくない言い方で話しを切ると同時に虚空から光の鎖が伸びアネモネの身体を縛り付け、エルはその根元を持ち大きく振り回した。千年生きたとはいえその身体能力はアネモネよりエルの方が上。反応も抵抗も出来ないまま空中で独楽のように振り回される。
「なあああぁあああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?!???!」
「そのまま脳漿ぶちまけろォ!!!!!」
そのままの勢いでビルのど真ん中にぶつけられ、頭から血を流しながら体勢を立て直そうとしているアネモネの視界に入ったのは強く握った拳を振りかぶるエルの姿だった。容赦なく顔面を捉えた拳を力の限り振りぬいたエルはそのまま更にアネモネを追撃する。
「ブがっ!?ああ、クソがァ!!!!舐めるなぁ!!!!
ビルを突き破りながらもスカートの中から大量の鳥籠を出したアネモネはその中に封じられていた大量の天使達と悪魔達の死体を解放させた。その数はショッピングモールでの戦いで見せた数を遥かに超えている。千年という時間の間をかけて集め続けてきたコレクションを全てぶつけてでもエルを殺そうと迫る。
「何度も同じ手が通じるわけがないでしょう!!!私を舐めているのはどちらだぁ!!!!」
破裂し、その能力の多くを解放させて襲い掛かってくるそれらに対しエルは一切怯むことなくアネモネを追う速度を更にあげる。死体の塊が次々に弾けるもそれが届く前にエルは真っ直ぐ突き抜け手に持った“光槍”で目の前に立ちふさがる憐れなゾンビを一撃で浄化していく。
「少しは怯めよクソ天使!!!」
「お前を倒すまで私はもう止まらない!!!」
ゾンビの塊の中から飛び出したエルは光の槍を突き出しアネモネを貫こうとする。アネモネは即座に手で叩き落そうとし、力が足りずに肩に突き刺さった。光が悪魔を焼こうと煙を上げる中で苦蟲に顔を歪めながらもアネモネはエルを嘲笑う。
「少しは止まった方が良いって教えてあげるね♪“
アネモネの纏った雰囲気が変わった。そう感じた次の瞬間エルの視界が爆炎に包まれた。大きな爆発は周囲のビルの窓ガラスを破壊し、それに巻き込まれたエルもまたビルの中に叩きつけられる。何が起きたか把握しきれないままそれでもこれまでの経験から即座に立ちあがったエルは急いでビルの中から飛び出し、一瞬後にビルが炎に包まれる。
「これは、アネモネの能力とは系統が違う……?他の能力を持っているなんて、そんなのありえないはず……。悪魔の能力は“欲望”に根付いている、どんな方法を使っても『永死殺総』の能力はしたい操作以外ではないはずなのに」
空中で体勢を整えたエルはビルの向こう側にいるアネモネに対する警戒度を上げる。あそこまで近づけば一方的に倒せると考えていたのは確かで、自身とアネモネの近接戦の実力差を考えればそれは決して的外れではなかった。だというのに止めを刺せなかったとはいえあそこから反撃を食らう事などエルは予想していなかった。
「ありえないなんてありえない、っていうのは人間の創作の言葉だったっけ?」
「ッ!!」
「遅いんだよォ!!!!」
予想外は続く。後方から聞こえてきた悪魔の声に槍を生成し振りぬくもそれを躱したアネモネに懐に入られる。そして再び爆発が起こりエルは地面に叩きこまれた。地面に大きく跡を作りながらもその場にとどまらないように飛び立つエルを追うように何度も爆発が襲い掛かってきた。
「まさか、死体の能力を自分で使えるように……!!?」
「そのまさかだよん♪」
「くっ、あッ!!!」
目にもとまらぬ速さ、まさにそう言える速度でエルに追従して来たアネモネに対し光の矢を撃ちだすもその全てを躱したアネモネはエルに追いつきその白銀の髪を掴み急ブレーキをかける。髪を掴まれたエルもまた止まらざるを得ず、痛みから思わず呻く。
「私の最後の切り札、“
「そんな、馬鹿げた能力が」
「ゾンビとはただの腐肉の塊じゃない。そこに宿る魂あってこそのゾンビ。その魂をも支配する私が、その能力を使えないなんてそれこそ馬鹿げてると思わない、かなァ!!!!!!」
「―――――!!!!」
巨腕化した腕がエルに迫る。これをまともに受ければ戦いを続行するのも厳しいと判断したエルは即座に“光矢”を放ち掴まれている自分の髪を断ち切り自由の身となりその腕を避ける。間一髪で避けたエルの姿を巨大化した腕のせいで見失ったアネモネの視界を光が埋め尽くす。
「ぐあああぁアアアアアアアがアアアアアアアアアアアアア!!!??!!?」
爆発的な光量に吹き飛ばされたアネモネは向かいのビルの中に吹き飛ぶ。轟音を立ててビルを破壊しながら姿を消したアネモネを見てからエルは息を荒げながら膝をつく。白銀の美しかった長髪は切り捨てたことにより不揃いな短髪になっている。だがそれを気にする余裕もなく目の前の強敵に対し警戒を続けなければなならかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。あの金髪悪魔が、捕らえられていると言ってましたね……。流石に『永死殺総』と同時に『炎天渇奪』の相手は、無理ですし。あちらは他に任せるしかないですね……」
悪魔にとって天敵と言える光の爆発を受けてもなおアネモネは倒れていないと半ば確信しつつエルは息を整えて構え直す。予想以上の戦闘力に一切の加減は出来ないと確信しつつ、この場で倒さなければならないとそう己に決めてエルは飛び出した。
「私が死んでも、きっとリョウ君達なら、勝ってくれますよね」
自分の敗北の可能性も織り込みつつ、それでも愛する少年を信じたエルに恐怖はもうなかった。
◆
そんなエルの戦いの始まりを動画で見ていた教授のラボは騒然としていた。いつの間にかラボから消えていたエルが今凶行を行おうとしていた『永死殺総』を止める為の戦いをしに行っているのだ。特にシルフィは頭を抱えながら焦っていた。
「ああもう!!あの子は何やってんのよ!!!いくら何でもあの状態で戦おうとするなんて馬鹿じゃないの!!!いやもう馬鹿よ馬鹿!!!」
「い、いやぁ、でもアレ結構いい感じに戦えてた気がするデスよ?」
「そんなの今だけでしょうが!!!エルは“愛”の供給もしてないのよ!!?私と違ってリョウ以外から受け取らないから残量がどれくらいあるかも分からない!!!そもそもリョウからの供給量がバグってるせいで“愛”が枯渇する感覚すら知らないはずよ!!!あのレベルで戦い続けたら間違いなくガス欠するし、相手はそれを狙ってるに決まってる!!!」
動画の中でアネモネが告げた言葉により既にリルナが捕らえられていることは全体に周知されていた。それを聞いた時からラボの全員が動き出していたがシルフィといざという時の移動要因であるディアンナだけがその場で情報整理をしている。その結果、このまま行けばエルが敗北するとシルフィは確信し、同時にエルもそれを前提にしている可能性にすら気付いていた。
そうでなければ消耗を欠片も気にせず戦いを始めるはずがない。更には大勢の警官を守る為に光の矢をアネモネに気付かれないように降り注ぎゾンビ達を一掃したりしない。
「手が足りない……!!エルを助けに行こうにも上級悪魔は残り二人もいる。しかもその内一人はリョウの“欲望”を吸い上げて前回より強くなってるはず。もう一人の『盗炎結偽』だって、その影響を受けてないとは限らない。アリナ達はあの戦いを誤魔化すのと巻き込まれそうな人たちを避難させるのに手一杯……!!どう頑張ったって私達だけじゃ戦力が足りないわ……!!」
今すぐ親友を助けに行きたくともむやみやたらに動けばそれこそ木乃伊取りが木乃伊になりかねない。かと言って放置していればあの死体の中にエルが追加されることになる。どっちを見ても八方ふさがりになってシルフィは追い詰められる。その視界に回復ポッドで今も眠る、今まで戦って天使達を助けてきた少年が入り込んだ。
「ねぇ、起きてよ……!!エルが、死んじゃうかもしれない……!!嫌よ、こんなお別れなんて!!リョウだって嫌でしょ!!?リョウだって、もっといっぱい、楽しいことしたいでしょ!!!」
言っても仕方ない。そう思っていたから今まで眠っているリョウに声を掛けるのを最低限にしていた。それでも追い詰められたシルフィは今まで何とかしてきてくれた少年に縋りつくしかなくなって。それを止める者は誰もいなかった。誰もがここに彼がいたらどうにかしてくれると想っていたから。
「私は!!エルと、リョウと、もっといっぱいいたい!!!好きだって伝えたいし、エルがリョウと絡んでるところだって見たい!!!幸せになりたいし幸せになってるところを見たい!!!だから、だから、ねぇ!!!!」
シルフィは気付かない。その声にリョウの指がピクリと反応しているのを。リョウが入っている回復ポッドを叩きながら叫んでいるその目からは涙が流れている。追い込まれたシルフィの涙を拭えるのは彼女自身を含めてその場には誰もいない。
「起きてよ!!!ねぇ、リョウっ!!!!!」
そのまましばらく彼女は回復ポッドの前で泣いていた。自分でも何をしているのか分からず、今も傷ついて眠っている少年に縋る自分の弱さが嫌になってそれでも動かなければならないと使命感に突き動かされて涙をそのままにして立ち上がりリョウから背を向けて歩き出す。
縋るのは、頼るのはもうやめると。エルのように自分を省みずに悪魔を倒すことを決めて。暗い決意を抱えたシルフィはもう振り返ろうとしない。
「あ……」
だから彼女は気付かない。シルフィを痛々しく見ていたディアンナだけがそれを見た。ずっと閉じていた瞼が開き、ずっと動いてなかった腕が振りかぶられて。ガラスを突き破ろうと少年が起きたその瞬間を。
「―――――聞こえたよ、シルフィ。ごめん、ずっと寝てて」
ガラスが割れる音に振り向こうとしたシルフィを止めるように後ろから抱きすくめられた。その熱をシルフィは知っている。出会って数ヵ月でなによりも愛しく思い、頼りにした少年の声を知っている。少年――――リョウが起きただけだというのに流れる涙の意味が変わる。
「寝坊してるわよ、馬鹿」
「うん。随分みんなに迷惑かけちゃった。だからすぐにでも謝りに行かないとね」
リョウは今も天使と悪魔の戦いを映し出していた映像を見て決意を固める。自分が伝えなければならない事がある。自分がしなくてはならない事がある。自分が最も欲する人がそこにいる。自分が最も愛する人に危機が迫っている。それだけで何の力がなくともリョウが動く理由になるし、止まる理由は消し飛ぶ。
「今すぐ迎えに行く。だから待ってて。エル、リルナ」
リョウの“欲望”がリルナを求めている。
リョウの“愛”がエルに与えたがっている。
魂から湧き上がるそれを抑えることなく、リョウは戦場に出ることを決意する。
重苦しい展開もここまで。悪魔達が俳句を詠む時間ですね。
今回の曇らせは良かったか?
-
最高だった
-
良いと思う
-
もっと時間をかけて欲しい
-
絶望が足りてない
-
もっと序盤で見たかった