【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-   作:ビスマルク

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そして希望は走り出す

 

 教授のラボで目覚めた僕は何があったかの今までの話を聞いていた。既にあれから一週間以上も経っているという事実に戦慄する。なんてこった、それだけの期間エルのご飯を用意してなかったとか腹切り案件じゃなかろうか。

 

 

「なんか思ったよりも大変なことになってた件」

 

「むしろ死にかけておいて能天気にその反応出来てる方がおかしいのよ」

 

 

 後ろから抱きすくめてるシルフィにぽかっと軽く頭で抗議される。色々と話してくれた結果分かったのはとにかく滅茶苦茶心配させてしまったということだ。というか予想以上にエルとリルナの受けてるショックが大きい。なんで僕が死んでる前提で動いてるんだあの子達。

 

 

「普通は心臓のすぐそばをぶっ刺されたら死ぬんデスよ。むしろなんで生きてるんデスか?いや生きてるのはともかくとしてなんなんデスかその謎の生命力」

 

「そんなこと言いだしたら『大飢万征』とか『病孤涙苦』とか『絵多鬼生(えたきしょう)』とか『獣忠発躯(じゅっちゅうはっく)』との戦い全部頭おかしいことになるんだけど」

 

「頭おかしいって言ってるんデスけど???」

 

 

 おかしい、僕は一生懸命頑張ってきただけだというのになぜこうも異常者のような言い方をされなければならないのだろうか。いやよくよく考えたら言われても仕方ないことをしてるかもしれないけど。

 

 

「……ちょっと。『絵多鬼生』とか『獣忠発躯』とか何も聞いてないんですけど。説明してもらえるわよね?」

 

「あー、えーっと、『病孤涙苦』との戦いの後に海外で戦った上級悪魔達で、うん。ぶっ倒したからもう安心だよ!!!」

 

「正座しなさい正座」

 

 

 今までの経験を思い返しているとシルフィの冷たい声が聞こえてきた。不味い、これはお説教の前兆だ。エルがシルフィのプリンを食べてしまった時の剣幕を思い出し背筋が震える。というか物理的に寒くて震えてきた。

 

 

「クシュン!!」

 

「ちょっと、大丈夫なの?身体とかまだ本調子じゃないんじゃ……」

 

「いや身体は普通に元気いっぱいで動けるんだけどちょっと寒くて」

 

「確かにクーラーは効いてると思うけど……そこまで?」

 

「あー、エアロードさん。そうじゃないデス。リョウさんが寒がってるのはただ単に真っ裸だからデス」

 

「…………はだか……?」

 

「そうデスよ?さっきまで回復ポッドに入ってたんだから局部さえ丸出しデス」

 

 

 ディアンナの言葉の次の瞬間シルフィの叫び声と共に発生した竜巻に巻き込まれ僕はしこたま頭を打った。痛みという意味ではこっちの方がはっきりしてたので胸を刺された時よりも辛かった。

 

 

 

◆

 

 

 

「沢渡君、君は何か騒ぎを起こさなければ気が済まない体質なのかね?」

 

「今回ばかりはその不名誉な扱いを粛々と受け取る所存です」

 

 

 流石に後ろから裸で抱き着かれていたという事実に耐えきれなかったのか今もシルフィは隅で顔を覆って黙っている。手では隠しきれない耳は真っ赤に染まっていて非常に可愛らしいです、はい。緊急事態でなければずっと眺めていたいし愛でていたい。

 

 

「で、エルの髪を切ったカスを潰すのとリルナを利用しようとしているアホを切り刻むのどっち先にやります?僕はどっちでもいいけど」

 

「リョウさん、もう少し本音を取り繕ってもいいのよ?というかドッペルの時の性格が顔を出してるわ」

 

「おっと」

 

 

 ヒルダに言われて顔をマッサージする。シルフィと教授の説明から一刻の猶予もないことは把握した。そして現在僕とリルナの契約はあの『炎天渇奪』のボケに奪われていることも。あのボケに僕の“欲望”を盗られてると思うと心底腹立つ。なので契約を伝ってあっちに流れていく“欲望”を無理矢理止める抵抗をしている。奴の狙いが何かは分からないが悪魔の企みである以上“欲望”を使うことは間違いない。少しでも堰き止めていれば時間稼ぎも出来るだろう。

 

 

「ライトガーデン君の方は現在中級天使達が援護に向かっている為まだ時間は稼げるだろう。だがそこまで余裕があるわけではないのだよ。最悪、彼女は自爆してでも『永死殺総』を相打ちに持ち込むだろう」

 

「なにより沢渡様は現在ドッペルにはなれません。戦力的には未だに劣勢と思えますが」

 

「確かに、ドッペルの姿にはなれないし影の能力も使えないしね」

 

 

 ドッペルとはリルナの能力あっての物だ。影の能力と言いう彼女の能力で身体を包み防具にし、影の形を変え性質を変えることで武器とする。僕はそのエネルギーとなる“欲望”をリルナに供給する。二人揃って初めて僕達はドッペルになれる。

 

 

「リルナとの繋がりが切れている以上影を操る能力は使えない。今の僕にあるのは精々ドッペルの時の身体能力だけだ……!!」

 

「むしろなんで身体能力据え置きなんデスか……?」

 

「だってリルナとの契約が奪われても『炎天渇奪』のボケとは繋がってるし。能力自体は使えなくても“欲望”による身体強化は僕の管轄だから何とでもなるし」

 

 

 これで契約自体が破棄されてたら戦うことも出来ないただの一般人になっていただろうから不幸中の幸いということにしておこう。もしもそうなっていた場合ディアンナかヒルダ辺りと契約することで戦力になろうとは思っていたがその必要はなさそうで助かった。仮にそうなっていた場合助け出した後にリルナに詰められる可能性すらあるのだ。アレで意外と独占欲が強いというのが分かった今回の一件である。

 

 

「それに比べたら『炎天渇奪』ぶっ潰せば契約も消えるから今回は楽だね!!!」

 

「それを楽だと言えるのはリョウさんだけだと思うわ……」

 

「んなことはどうでもいいんだがよ、結局どう動くんだ?俺も暴れていいのか?」

 

 

 ヒルダが呆れたように額に手を当てているがそれでも口が笑みの形になっているのを僕は見逃さない。長話に飽きたのかいつもの調子で戦える時を待っているダフネがあらぶっている。彼女もなり立てとはいえ上級悪魔に成っている。立派な戦力として数えていいだろう。なんとも頼もしい仲間達が揃った物だ。

 

 

「当然暴れてもらうよ。たーだーしー、結界で人がいない状態なのを確認してからね。ダフネって戦ってる時視界が狭くなるから周辺の被害とかまるで考えないし」

 

「そ、そんなことねぇし。俺だって一応は考えてるし……」

 

「ま、詳しい戦略については僕よりも専門家に頼った方が確実だよ。というわけでシルフィ、頼んでいい?」

 

「えっ?私?」

 

 

 蚊帳の外にいたシルフィはここで話を振られるとは思っていなかったのか呆けた顔をしている。だけど僕からしたらこの選択は至極当然のことだった。僕もリルナも、ついでにエルだってその場その場を乗り切ろうとする時は力で押し通ろうとする癖がある。それに比べてシルフィは力押しがそこまで得意ではないからか搦め手も含めて色々と考えている。三体の上級悪魔に更に戦力アップの可能性があるという複雑な状況ならばシルフィに頼るのは不自然ではない。

 

 

「シルフィももう知ってるからはっきり言うけど、僕がドッペルだ。これまでやってきたことは全部僕達がやってきたことだ。だからシルフィなら僕がどれだけ戦えるかも分かってるでしょ?その上で、僕達がどう動けばいいのかを考えてほしい。出来るだけ早く」

 

「…………私でいいの?教授とか、ドッペルとしての仲間に考えてもらった方が」

 

「君がいい。命を預ける作戦を、君になら任せられるから」

 

 

 自信なさげに言う彼女に本心を打ち明ける。シルフィの立てた作戦ならば命を懸けることなど造作もない。そもそもそうなる状況になること自体あり得ないかもしれない。それだけ僕は今の彼女を信用しているし信頼している。

 

 

「僕は今、一番君を信じている」

 

「~~~~~~!!!ああもう!!!分かったわよ!!そこまで言うならやってやるわ!!!教授、すぐにこの子達の能力全部分かる範囲で教えて!!5分……ううん、2分で作戦組み立ててやるわ!!!」

 

「ドール君。エアロード君に全ての情報を公開するのだよ。何かあったら……まぁ全員で逃げればいいだろうからね」

 

「かしこまりました、教授」

 

 

 真っ直ぐ目を見て伝えた言葉に承認欲求の塊の癖に恥ずかしがりやなシルフィは真っ赤になりながらそれを振り切るように教授にデータの開示を要求し、それに応えたドールさんが準備し終えていたそれを見せる。それを凄い速度で読み込んでいる彼女の脳内では色々な作戦が考えられているのだろう。シルフィの真剣なあの表情が、僕は大好きだ。

 

 

「しかしずっと同じラボにいたのに交流あんまりなかったみたいですね。シルフィとか共闘することになる可能性考えて先に能力の開示とか頼んでるかと思ってたのに」

 

「悪魔にとって能力の開示とは自身の本質、“欲望”をばらすも同然なのだよ。いくら君と深い関係があると言ってもそこまで簡単に見せれるものではないのだ」

 

「えっ、じゃあなんで今はあっさりと見せてるんですか?」

 

 

 僕の疑問に本気かコイツという目で見てくる教授に不満を覚える。そんな目で見られるようなことはしていないはずなのに不本意である。

 

 

「君だよ、沢渡君。君が彼女を心の底から信じているからだ。だからヒルダ君達も己の“欲望”を晒すことに納得している。本当の意味で身内として扱うことを今決めたのである。この組織も、ライトガーデン君達も、その中心には君がいた。君が彼女らを動かしたのだよ」

 

「僕が?」

 

「その通りだ。君はもう少し自分が死にかけてる時の彼女達の様子を知っておくべきだな。お通夜をも超える暗い雰囲気でそれはもう本気で息苦しかったのだよ。特にあの二人」

 

 

 あの二人とはエルとリルナの事だろう。人伝に聞いたことなのであまり想像できないがあの二人の暗い所なんて見たくもないし考えたくもないのでそれでいいのかもしれない。

 そう伝えたら「君らしいのである」と教授は笑っていた。あまり自覚はないが、それも見に着けていなかければいけないのだろう。

 

 

「その為にも、二人とちゃんと話をしないと」

 

 

 何を言われるか、何を言うべきか。分からないけれどとにかく二人に会いたかった。二人とあって話をする。どれだけ傷つこうともそれが為せるのであれば僕は平気でいられると断言出来る。

 だから、二人と平和な場所で話す為に今はただ戦う事だけを考えようとシルフィの作戦会議に参加するのだった。





『絵多鬼生(えたきしょう)』と『獣忠発躯(じゅっちゅうはっく)』は本来の三章と四章登場予定だった上級悪魔です。
今作では時間飛ばした二ヵ月でぶっ倒した連中ですね。どちらもカスです。

完結の為モチベあげる為に今章をさっさとやりたかったからスキップした案件。

もしも仮に、例えば。想像ではなく例えばの話をしよう。(滅却師最強風)
万が一書籍化とかしたら書きたいエピソードです。書いたらヒロイン増えるけど。

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