【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-   作:ビスマルク

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リョウとリルナ

 竜崎との殴り合いを終わらせてそのまま走って辿り着いたショッピングモール。頭からは血が流れていたがショッピングモール内にあった布を巻いて血止めにする。ダフネから時間を巻き戻すことで回復させるかと聞かれたが丁重に断っておいた。竜崎との喧嘩をなかったことにするのには抵抗があったし、何よりここから先彼女には途轍もない苦労を掛ける。ほんの少しの消耗も出来れば避けたいところだった。

 

 

「僕の目をごまかせると思ってるその頭に驚いたよッ!!!」

 

「む、ご……!?」

 

 

 抱き着いてきたリルナの姿を真似た、いや奪っている途中の『炎天渇奪』をバックドロップでその頭を地中に埋めたままギロチンキックでその腹部を捉える。脚に集中的に集めた“欲望”によってその威力は上級悪魔であってもただでは済まない威力を持ち、そのまま焼けているテナントに叩き込まれて残っていた商品を散乱させた。

 

 

「ダフネ、あとは任せたよ」

 

「おう。こんないい獲物を譲ってもらって悪いな旦那。さっさとお嬢を取り戻して来いよ」

 

「当然。そっちも楽しんだ上で勝ってきなよ」

 

「……勝てると思ってんのか?上級悪魔に成り立ての俺があの『炎天渇奪』に」

 

 

 常に自身に満ち溢れ、僕とリルナに挑み続けているダフネが少し不安の入った声で聞いてきた。確かに彼女は今まで僕達に勝ったことはない。上級悪魔に成ったとはいえそれから一度も力を使ってないし戦いもしていない。不安を抱いても仕方ないし、勝てるかを心配するのも理解出来る。だけどその上で僕は言おう。彼女に対して少しだけキツイことを。

 

 

「僕は君を信じてるよ。あんな泥棒女には負けないって。いつも僕に挑んでる君のままで戦えば勝てるって信じてる。だって、君はあんなに真っ直ぐに僕達に向き合ってきたんだから。自分の姿で向き合うことも出来やしない弱虫なんかに負けるはずがないって、僕は信じてる」

 

「…………」

 

「勝てるよ。君が勝てると僕は信じてる。君がもし自分を信じられないなら僕の言葉を信じてほしい。言っておくけど僕は仲間に嘘は吐いたことはないんだ」

 

「はぁ……。たく、そういうところだぜ旦那。だけどまぁ、惚れた男相手に騙しを仕掛けるような女には負けたくねぇのは、確かだ」

 

 

 カラカラと笑う彼女はいつもの調子に戻っていた。挑み、戦い、そして勝利を望むダフネに。その姿ならばもう大丈夫だ。いつも僕とリルナを危ないところまで追い込む中級悪魔が進化し、上級に上ったのだから。ここから先は彼女に任せて僕は先に進む。一人ぼっちで泣いているであろうあの子の所に。

 

 

「じゃあ行ってくるよ『時進過浄(じしんかじょう)』ダフネ。仮に、もしも、万が一勝てそうになかったら僕を呼んで。リルナと一緒に助けに来るからさ」

 

「生憎コイツ相手にアンタの出番はないさ。さっさと行きな」

 

 

 その言葉に笑って床を殴り壊す。リルナとほとんど残っていない繋がりは確かにここにあった。だけどリルナは見当たらない。だとすればリルナがいるのは上か下。そして屋上ならば外から見た時に気付くはずだ。それならば残る選択肢は一つ。リルナは今、光届かぬ地下にいる。

 

 

 

◆

 

 

 

「たく、本当苦労するなアイツら」

 

 

 自分よりも強い主を行かせたダフネはそう言って笑う。思い浮かべるのは主の相棒である小さい相棒と、主が“愛”を向けている天使二人。いつも振り回されているであろうあの三人に少し同情するが、そういうところがいいとも言いそうなのが笑えてくる。

 

 

「ヒルダのこと笑えねぇなぁ」

 

 

 同じ少年を最初に主と認め付き従っている同僚を思い出す。『大飢万征』に囚われていたところから助け出されたヒルダは誰かに付き従いたいという“欲望”もあっていの一番に沢渡リョウを認めて従っていた。悪魔としての本能か、助けられた恩義と慕情か。幸か不幸か彼女はそれを口にすることは殆どないが。

 

 

「だけどまぁ、アンタに認められるってのは悪くねぇ」

 

 

 リョウは間違いなく過保護だ。万が一があり得る場所に仲間一人を任せて先に行くという事はほとんどしない。もしするのであればそれは絶対の信頼をその者に預けているという事。そしてダフネは初めてリョウに信じられ、任された。

 

 

「だったら負けるわけにはいかねぇよなぁ」

 

 

 拳を握り締めて力を込める。その瞬間テナントに叩き込まれた『炎天渇奪』アドラメレクが炎を噴き上がらせて立ち上がり姿を見せる。周囲のコンクリートを溶かすほどの熱量が長年生きた上級悪魔の怒りを表している。

 

 

「何故……」

 

「あん?」

 

 

 アドラメレクの目にダフネの姿は写っていない。俯いているその表情は分からないが少なくても笑みではない事だけは確かだ。小さく何度も何度もブツブツと呟いているその姿は幽鬼と言っても過言ではない不気味さを放っている。

 

 

「何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故なんで私に振り向かないの!!!!????!?」

 

 

 突然爆発する熱波にダフネの肌が焼ける。成り立てとはいえ上級悪魔であるはずのダフネを焼くその温度は間違いなくリョウから供給されている“欲望”によるもの。限りなく無限と言っていいそれは脅威の一言では済まないほどだ。

 事実、遠目ではあるがアドラメレクを見ていた竜崎とヒャンはその熱波から逃げるようにショッピングモールから出る。だがダフネはその姿を見て呆れたような表情でアドラメレクを見る。

 

 

「私は完全にあの小娘を真似た、いや同一と言ってもいいほどに奪っていた!!完璧ではないにしろ、それでもその一歩手前まで奪っている!!!記憶も姿も、声も呼び方も何もかも同じはずなのに!!!何故何故何故何故なんで受け入れてくれなかったの!!!私はこんなにも想って想って想い続けてるのにッ!!!!」

 

「魂がドブ臭いからじゃねぇの?」

 

 

 アドラメレクの嘆きの叫びを一言で叩き落したダフネは戦意を漲らせながらいつでも戦闘に持ち込めるように構える。悪魔でありながら技術体系染みたその態勢はドッペルとの戦いを続けた結果ダフネが自然と身に着けた構え。

 ダフネの一言に俯けていた顔を勢いよく上げたアドラメレクは視線だけで殺せるほどの殺意を漲らせて睨む。その表情に一切の余裕はなく、赤い目はより血走って狂気に満ち溢れていた。

 

 

「お前が旦那にどんな執着持ってるかは知らねぇけどよ。あの人は自分が欲しいもんは絶対手放さないし手に入れるけどいらねぇもんは懐にゃ入れねぇよ。悪魔でさえ引くほどに我儘だし、天使だって超えるくらいに懐が広い。テメェはただ単に旦那にいらねぇと思われただけだ」

 

「ふざけるな。私以上に彼を欲している者はいない。ようやく見つけたのよ。長年何が欲しいかも分からずに彷徨い続けて、ようやく見つけた私の光。私の物にするの絶対に」

 

「テメェに抱えられるほど旦那は軽かねぇのさ」

 

 

 ダフネが一歩踏み込む。床に罅が入り周囲に轟音が鳴り響く。アドラメレクがリョウから流れ込んだ“欲望”を使っているのであればダフネもまたリョウから“欲望”を与えられている。条件はほぼ同じ。

 

 

「『時進過浄』ダフネ。旦那に付けられたこの二つ名がテメェの聞く最後の名前だよ『炎天渇奪』」

 

「『愛求堕喰』アドラメレク!!!私はもう『炎天渇奪』じゃない!!!愛を求めて愛を得る為に全てを堕として喰らう!!!」

 

 

 時を加速させ急接近するダフネを全身から炎を噴き上がらせるアドラメレクが迎え撃つ。上級悪魔同士のぶつかり合いがここに始まる。

 

 

 

◆

 

 

 

 落ちて落ちて落ちていく。ショッピングモールの地下にあるはずの地下駐車場は炎によって溶かされて更にその下の空間が出来上がっている。そして僕の視線の向こうには先程見た炎球よりもさらに大きな炎の塊がある。

 

 

「見つけたよ、リルナ」

 

 

 その中心に囚われている彼女を見つける。今もなお奪われ続けている彼女をようやく見つけた。四ヵ月程度しか一緒にいなかったはずなのにもっとずっと一緒にいた気もする最愛の一人。僕が戦うことを決めたあの日、その背を押してくれた相棒。リルナが今、そこにいる。

 

 

「今行くからもう少しだけ待ってて」

 

 

 重力に任せて落ちていけば炎球に飲み込まれ身体中を凄い温度の熱が襲い掛かる。着ている服は焼け落ちて、同時に何かを奪われ続ける感覚に襲われた。何を奪われているのかも忘れそうになって途轍もない喪失感に涙が出そうになって。

 

 

「僕から何一つ奪わせるか」

 

 

 奪われていく中で本当に大事な物だけは絶対に無くさないように抱え込む。エルと共に歩みたいという“愛”を。シルフィの未来を支えたいという“夢”を。リルナが幸せになっている所を見たいという“欲望”を。それらだけは忘れないように自分の中に押し込んで。

 

 

「迎えに来たよ、リルナ」

 

「だ、れ……?」

 

 

 炎の中心にいる彼女はそう呟く。既に自分の名前さえ奪われてしまった彼女に触れる。服も何もない、焼け焦げていくその状況を“欲望”を使って耐えていく。

 赤い炎が視界を埋める。触れれば熱く、同時に何かを奪われていく感覚が強くなっていく。生存本能が触れることを拒むより赤い真紅の炎の中へ手を伸ばして彼女に触れる。

 

 

「なんで……なんでここまで来たの……?奪われていくだけなのに……」

 

「君が幸せになれるように頑張るって、僕は言った。自分の言葉を覆す趣味は生憎ないんだ」

 

 

 奪われていく奪われていく。記憶が、想いが、がらんどうになっていく。それでも湧き上がるものがあって、それはずっと続いている。炎に吸われてもなお決して消えないものがある。それは特別なことではなくて。大切なモノがあったと確信出来れば、誰だって思う当然のことだ。

 

 

「僕は、君を幸せにする。名前も忘れた君を、それでも引き戻す。これは決定事項だ」

 

「ああ……もう、本当にそういうところだよ」

 

 

 

 手を掴んだ彼女が泣きながら笑っている。そんな顔を見たくはなかった。笑うのであれば満面の笑みの方がよかった。だから、これを最後になんてしてやらない。『炎天渇奪』になんぞに僕の想いも記憶も“欲望”も“愛”も奪わせやしない。全て取り戻して僕は明日を彼女達と共に生きる。

 僕の抱え込む全てを彼女と共有していく。共に在った日々を。あの日誓った契約の内容を。一緒に傷つき、一緒に笑った戦いの時を。僕は彼女がいなければここにいないし、彼女は僕がいなければここにいない。僕達は対等で、同じように想っている。彼女の想いもまた僕の中に流れ込んで思わず笑ってしまう。

 

 

「アタシは、リョウちゃんに会えてからずっと幸せだよ」

 

 

 それが本当だと分かるから本当に幸せで、それを失いたくないという想いが強くなる。

 彼女を幸せにしたいという“我欲”が奪い返していく。これまでの日常の全てを。愛しく、平穏で、刺激に溢れていたあの日々を。

 名前も記憶も何もかもを取り戻していく。ただ一つ、契約だけはどうにもならない。でももうあの契約は要らない。それよりももっとずっと強くお互いに求めているものがあるから。

 

 

 だから新しい契約を結ぼう。なによりも強い絆をここに繋ごう。決して離れないように、二度と失わないように。互いへの誓いをここに紡ぐ。

 

 

「僕は君とずっと一緒にいたい。これから先の未来を共に歩みたい。だから、これからも僕と来て欲しい」

 

「いいよ。リョウちゃんがそれを望むなら。あの時は幸せになれるなんて思わなかったけどリョウちゃんと一緒ならどこだってアタシは幸せだよ」

 

 

 契約は交わされた。“魂魄契約”よりも強く結ばれる。例え二人死んだとしても分かたれないほど強く結ばれた。それはもう誰にも解けない。全てを奪おうとする炎さえも焼くことのできない絆。

 

 

「やっぱり、何度見ても君の目は綺麗だ」

 

「ありがと、今は素直に嬉しいよ」

 

 

 影が溢れだし僕達二人を囲い込む。心地よい闇の中で以前のようにリルナは僕の魂に寄り添う形で消えた。でも確かにその存在は僕の中にあって、それがどうしようもなく嬉しくなった。

 

 

「よし、行くか」

 

『うん、一緒にね』

 

 

 影が周囲の炎を消し飛ばし名前も記憶も何もかもを奪い返した。地下から天まで届くほどの影の奔流が邪魔する者全てを吹き飛ばし僕達を遥か雲の上まで運んだ。

 雲のない星が見える夜景にあの日、リルナと初めて会った火を思い出させる。あの時はこんなことになるなんて思ってもいなかった。

 上空で最早慣れ親しんだドッペルになるように影が身体を覆う。しかし、以前とは違った意匠になり首を傾げる。

 

 

「えっと、なにこれ」

 

『前のちょっといかつすぎるというか不気味さが勝ってたからちょっと変えてみたんだ。ヒルダとかディアンナにも相談してもっとカッコいいの。いずれお披露目しようと思ってたんだよね』

 

 

 以前は全体を覆う襤褸切れのようなフード付きの外套が消え、全身がはっきり見えるような衣装になっている。背中には赤いマントが付いており強い力を感じる。そして顔を隠す為の白い骸骨を模した仮面もまた変わっている。以前は顔全体を囲んでいたのが、今は目の周辺だけを隠す白いマスクに。なんてこった、いつの間にか僕の好みを把握されていたようだ。

 

 

『気に入ったかにゃ?』

 

「ああ、物凄くねッ!!!」

 

 

 さぁ、次は一人で戦っているあの子の元に行こう。大切な者は何一つ奪わせないし失わない。その決意を新たにして僕は空を駆けだした。




“比翼連理の絆”
リョウ君とリルナが結んだ新しい契約。魂魄契約は互いに結んだ契約内容を守れなかった場合死ぬことになるが、この契約はそもそも契約内容を決める手順がない。
この契約を交わした者同士は来世でも必ず巡り合う。死んでも決して離れなくなるほどに強く因果が結ばれることになる。魂が続く限りの未来をお互いに渡すことによりその力は魂魄契約よりも更に強い力を引き出すに至る。

なおこの契約を交わすのには条件があり、互いに強く想っていることが絶対条件。その上で互いにこの相手に全てを任せてもいいと魂から思えなくてはいけない。結ぼうとして失敗した場合即死である。過去にこれを結んだ存在はただ一人、とある魔王だけである。

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