【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-   作:ビスマルク

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120話に合わせてこの話を書きたかった。
ほら、120ってなんか特別感あるから……!!


リョウとエル

 光と氷が激しくぶつかり夜の闇の中で反射し輝いている。その幻想的な美しさとは裏腹にそれを放った両者は互いに身体の至る所から血を流しながら空をかけていた。

 

 

「殺してやるッ!!エルッ!!ライトガーデンッ!!!!」

 

「たとえ殺されたとしてもお前だけは……!!リョウ君が生きる世界に、お前は要らないッ!!!!」

 

 

 地面スレスレを飛ぶエルに対して周囲の建物を足場に跳び回る『永死殺総』アネモネは巨腕化した腕を振るい地面ごと砕こうと迫る。辛うじて急停止することで直撃を避けることが出来たエルだが大量の弾け飛ぶ瓦礫に襲われ、それを防ぐ為に両腕を交差させた。しかしそのせいで一瞬だけアネモネの姿を見失い更なる追撃を許してしまう。

 

 

「“死体憑依(デッドオンステージ)”ィ!!!!」

 

「っ!!またっ!!?」

 

 

 自身の肉体を巨大化させる能力が消えアネモネの姿が元に戻る。同時にその両手から見るからに毒々しい二本のナイフが握られている。瓦礫に紛れてエルに迫ったアネモネはそれを振るい、エルはそれを“光槍”により辛うじて受け止めるのに成功する。

 

 

「ざぁんねん、食らえば綺麗に腐食して殺せたのにさぁ!!!腐敗死体見せればアンタの愛しの彼氏も嘆いてくれるんじゃないのぉ?」

 

「リョウ君を悲しませようとする奴は要らないんですよ、私もお前も含めて!!!!」

 

 

 ギリギリと力を入れられ押し切られそうになるところをアネモネの背後から出現させた“光鎖”を縛り付けることで止める。そのまま距離を離すように投げ飛ばした。

 

 

「吹きとべぇ!!!」

 

「ぐぎゃ、あがあああああああああああああ!!!?!?」

 

 

 ビルにもぶつかることのなかったアネモネは悠々と着地し、次の瞬間着弾した“光矢”によりその身体が光に包まれる。悪魔にとって特攻のその光は幾ら複数の能力(ちから)を使っているアネモネでさえも耐えられない苦しみを与える。

 

 だがそれでも、恩讐の炎は止まらない。

 

 

「舐・め・る・なァ!!!!!」

 

 

 雨のように降り注ぐ光の矢の中でアネモネは腕を前に出すように構え、視界に浮かぶ照準をエルに合わせて弾丸を撃ちだす。光の中でさえ撃ち落とされることなく真っ直ぐ進んだ弾丸はエルの身体を撃ち抜く。

 

「ッ!!……?なにも、ない?」

 

 衝撃を受けるもダメージがない弾丸に不思議に思いつい攻撃を取りやめてしまったエルの元に巨腕が迫る。まともに構える時間もなく捉えられたエルはそのまま向かい側にあるビルにまで吹き飛ばされ壁にめり込んだ。

 

 

(な、ぜ……?私は今、攻撃をやめて……?)

 

 

 ダメージ以上にその前にあった不可解な状態に疑問を持ちつつその場からすぐに飛び立つ。直後追撃を仕掛けてきたアネモネの巨腕がビルを破壊した。倒れてくるビルはエルの側に落ちてくる。逃げるのは難しいと考えたエルは“光矢”を一つにまとめ貫通力を高め放つ。はたして“光矢”はビルを撃ち抜き大きな穴をあけた。その穴を通り向こう側に通り抜けたエルを待っていたのはまたしても毒々しいナイフを持ったアネモネだ。

 

 

「シャアッ!!!」

 

「く、こんな物ッ!!!」

 

 

 先程“光槍”出して無理な体勢であっても受け止めたそれを武器を出すこともなく避けることを選択する。その違和感に気付いたのは毒々しいナイフがエルの身体に切り傷をつけた時だった。

 

 

「っあ!?……さっきの、違和感は……!!」

 

「「安心感」を弾丸にして撃ち込んだのさァ!!!ダメージはないけど違和感を覚えるほどの危機感を持つこともない!!!これを持ってた悪魔は私のコレクションの中でも特に強かった奴だよ!!!!」

 

 

 急速に身体に回る毒に身体が内部から冒されていく。能力を全開にすることでその腐敗を止めるがそれは同時に戦闘に対して使える力が制限される事と同義。一当てしたナイフを捨てて即座にアネモネは次の能力に切り替える。

 

 

「徐々に腐っていく肉体!!追い詰められていく精神!!!お前は見る者が疎むほどに醜くなって死ぬんだよッ!!!!」

 

 

 本来の自分の能力である死体操作、スカートの中から大量の鳥籠が出現し、その中から同数以上のゾンビが這い出てエルに迫る。咄嗟に翼を広げて飛び上がるもゾンビは人間だけではなく天使や、少数だが悪魔も存在する。空を飛ぶ術を持つゾンビがエルを追い空に浮かぶ。

 

 

「こんな、尊厳を踏みにじって……!!」

 

 

 何度見ても嫌悪感を抱かせる能力だとエルは吐き捨てる。殺した者の魂をその肉体に封じ使役する。見れば中世の鎧や服を着ている者もいる。つまり、数百年にわたって『永死殺総』によって使われ続けているという事。アネモネのコレクションとして決して逆らう事の出来ない人形として。

 

 天使の死体の中にも羽が千切れている者は生前のようにそれを広げようとして失敗している。悪魔は生前の“欲望”を満たそうと動こうとし、壊れた機械のようにギリギリとエルを追う指示に無理矢理移行させられている。その姿を悍ましいと思うと同時に哀れだと感じた。

 

 

「これがお前のやり方なら、お前は『病孤涙苦』以上に悍ましい悪魔だッ!!!」

 

「あっはぁ!!それは私にとっては誉め言葉にしかならないんだよォ!!!」

 

 

 ゾンビがエルを追いその身体を道に見立ててアネモネが走り迫る。飛行速度ではエルに届かない事を理解しているが故に、ゾンビではエルを殺すのは不可能だと分かってるが故に。そして何より憎い仇をこの手で殺すことに執着しているからこそ無理矢理にでも近づく。

 

 

(死体の能力を自身が使う、能力元の生前に近いほどの出力を出す。だけど必ず限界がある!!使えば使う程消耗しているのならばここまでの戦いでかなり削れてるはず!!)

 

 

 事実簡単なことでは体力が削れるはずがない上級悪魔であるはずのアネモネでさえ脂汗をかいて呼吸を荒くしている。それは次々と別の能力を使っていることの影響だろう。使う能力もかなり制限しているようにエルには見えた。

 

 

(私を殺すことに執着している以上なりふり構わずに全てをぶつけた方が勝率は高いはず。だけどそれを出来ない、あるいはしないという事は何かしらの制限かリスクがある。体力の消費量からしてかなりの無茶をしているはず!!!)

 

「死ねぇ!!!!」

 

「ッ!!」

 

 

 ゾンビの道を辿りエルに追いついたアネモネが再び“死体憑依(デッドオンステージ)”を発動し巨腕化した右腕を振るう。上を取られたエルは打ち下ろされる腕の勢いに逆らわず身体を駒のように回転させて受け流す。

 

 

「お前が死になさい」

 

「ぐぺっ!?」

 

 

 勢いを殺さずその回転のままアネモネの顔面を捉えたエルの脚がその身体を弾き飛ばし地面に叩き落す。アネモネは自身の攻撃の勢いさえも利用された一撃でめり込んだ地面の上から動こうとしない。油断なく、それでも好機と見たエルは“光槍”を手に最高速度でその身体を貫こうと接近する。

 

 

「時間切れ♪」

 

 

 地面に寝たままのアネモネが嘲笑と共に一言呟く。それと同時にエルの背にあった白翼は消え、確かに持っていた“光槍”は手から粒子となり零れ落ちた。翼を失くしたエルは空中で身動きを取ることも出来ずに落下するところをアネモネが操作する天使ゾンビが抑えつける。

 

 

「ぐ、ぎっ……!!」

 

「本当、よく暴れてくれたもんだよ。あれだけ能力を行使して、毒を食らわせて消費させまくったのに“愛”がここまで枯渇しないなんて本当おかしいって」

 

「あ、あぁあっがあ……!!!!」

 

「でも、削りに削ったからさぁ、もう毒に抵抗するのも限界なんじゃないのぉ♪だんだん、徐々に紫になっててるよぉ……!!」

 

 

 右腕の傷口周辺が紫に変色し、徐々に広がろうとする。それを抑え込もうと力を入れようにも既にエルに残っている“愛”はほぼ尽きており不可能。飛ぶことも光弾の一つを放つことも出来ない。十字架に括られた聖人のように空中でゾンビ達に磔にされたエルは身動き一つとれない状態にされる。

 

 

「お前を私のゾンビにする。コレクションなんて可愛らしい使い方なんてしてやんない。お前の死体を使って人間を殺しに殺しまわってやる」

 

 

 狂笑と共に放たれた未来はエルにとって決して受け入れられない未来だ。だが抵抗する力はすでになく。その身体は死に向かって行く。

 

 

 

◆

 

 

 

(これが私に与えられた罰。リョウ君を騙して、幸せを貪っていた強欲な私に与えられる罰。だったら、受け入れるしかない)

 

 

 死への恐怖は薄かった。最初から戦いでいつか死ぬと考えていたからか今がその時になったとしても平然と受け入れることが出来た。徐々に死に向かって行く身体に痛みはあり、その痛みに反応して声が漏れ出るけれどそれが自分への罰だと思えば平気で耐えられる。

 

 

(結局、私は何一つ伝えられなかった。大切なことを、何一つ)

 

 

 ずっと守っているつもりだった。この天使と悪魔の戦いが続く世界で何も知らないで生きられるのであればそれが幸せなのだと。違っていた。私はずっと愛する彼に守られて来た。何も出来ず、何も伝えられず、無様に死んでいくのが私の結果だというのであればそれは私に相応しい最期だとすら思う。だけど。

 

 

(いやだなぁ、見られたくないなぁ……)

 

 

 死ぬことに恐怖はない。それは確かに本当だけどそれでも腐った死体で彼似合うのは嫌だった。恋し愛した少年に見られるのであれば綺麗な所を見られたかった。『永死殺総』は私を言葉通りリョウ君にぶつけるだろう。そして彼は問題なく勝利するだろう。だけど腐った姿が最後に見せるのは嫌だった。どこまでも、私は私のことを考えている。

 

 

(あの子に負けるのも、いやだなぁ……)

 

 

 きっとリョウ君は立ち上がる。守りたい日常があるなら、彼がそれを諦めるはずがないと今ならそう思える。きっとその時隣にいるのは金髪の小柄な悪魔の少女。私とは考え方が違う、だけどリョウ君をとても大切に想っている彼女が隣にいる。そしてその時私は彼の隣にいない。それがどうしても嫌だった。

 

 

(もっと一緒にいて、もっと一緒に楽しんで、もっと一緒に笑って)

 

 

 そのどれも出来ずに朽ちることに涙が出る。天使で最高の天才だと言われ続けたけど結局私はこうやって泣く情けない存在だった。でも、それでも、この数ヵ月が幸せだったことは確かだ。それ以前の年月を遥かに超えるほどに楽しく、嬉しく、幸せだった。だから口は笑みを浮かべられる。

 

 

(ああ、でも……後悔があるとすれば、それは……)

 

 

 この後自分がいなくなった世界で彼は生きる。それはいいけれど、嬉しいことだけど。それでも一つ心残りがあるとすれば。何か一つ、願いが叶うのであれば。それはただ一言伝えたい。

 

 

「リョウ君に、好きだって、言いたかったなぁ」

 

 

 でももうそんな機会はないからこの話はここで終わり。微かに残った“愛”が枯渇した。もう抵抗することも出来ない。だから私はここで腐って死ぬ。

 

 

 

「―――――そんな大事な言葉なら、もっとちゃんとしたところで聞きたかったかな」

 

 

 

 その筈だったのに急速に力が戻る。気付かない内に四肢を縛っていたゾンビが影で貫かれ空中に縫い留められている。そして縛られていたはずの身体は冷たく温度のないゾンビの手ではなく、誰よりも暖かく待ち望んでいた彼の手があって。

 

 

「やぁ、エル。良い夜、とは言い難いけど君と過ごせるならどんな夜でも待ち遠しいや」

 

「りょう、くん……?」

 

 

 影を纏ったような黒の色は変わらなくともその衣装は以前とはまるで違っていた。白い仮面も顔全てを覆う骸骨ではなく目元を隠すマスクになっている。そしてその声はいつも聞いていた、ここ数日ずっと聞けなかった愛おしい少年のもので。

 

 

「ッあ!!ドッペ―――――」

 

「邪魔だ」

 

 

 私を抱きしめているリョウ君に激昂し襲い掛かろうとした『永死殺総』を影をぶつけることで地面に叩き落す。そこから抜け出せないように圧倒的な物量の影が殺到し圧し潰そうとしている。

 

 

「エル、ただいま。遅くなってごめん」

 

「ぇ……あ、わ、たしは……」

 

「言いたいことがいっぱいある。言わなきゃいけないことがいっぱいある。騙しててごめんとか、そういうこともずっと言いたかった。君に謝らなきゃいけないことがいっぱいある」

 

「ち、ちがっ!!謝るのは、そうするべきなのは私です!!リョウ君が謝ることなんて」

 

 

 何一つない。そう続けようとした私の口を温かい何かが塞ぐ。目を見開いてみればそこには愛しい少年の顔が凄く近くて、キスされたのだと分かれば幸福が身体の中から湧き上がってきて。今まで感じてきた幸せよりももっとずっと上だと思ってしまう。

 触れていた唇が離れて、名残惜しさを感じながらも彼を見つめる。彼もまた私を見てくれている。その顔が赤く染まっているのはきっと私の見間違いじゃない。だって私もそれ以上に赤くなってるって分かるから。顔に血が集まって爆発しそうで。

 

 

「僕は君が好きだよ。あの時、6歳の時に出会った最初の時から。僕は君が大好きだ」

 

「おぼ、えて」

 

「思い出した、が正しいね」

 

 

 私を横抱きしながら彼は伝えてくれる。彼自身の想いを伝えてくれる。それはとても嬉しいもので、ずっと求めていた物で。だからこそ少しだけ悔しい。だって私の方がずっと、もっと、彼のことを好きだから。

 

 

「リョウ君……、言いたいことが、あります」

 

「聞かせてほしい」

 

「私は……私も……、私だって!!」

 

「うん」

 

「リョウ君のことが好きです、大好きです!!愛してるんです!!」

 

「聞かせて、もっと」

 

「貴方がいなければ世界に意味を見出せないくらいに!!初めて会ったあの日から!!貴方は私の希望で、貴方に会いたくて私はここまで来て」

 

「僕も、君と再会する日を待っていた。朧気でも覚えている君に、ずっと会いたかった」

 

 

 気持ちを伝える度に、受け入れてもらえるたびに幸せで涙が流れる。それを見せたくなくてリョウ君に強く抱き着く。二度と離したくないと、二度と失いたくないその温もりに縋る。リョウ君もまたそれを受け入れて抱き返してくれる。それが幸せ過ぎて、嬉しすぎて。

 

 

「エル。僕は君に会えて幸せだ。でもそんなのじゃあ満足できないから。僕は僕の為に君をもっと幸せにする。幸せにしたい。だから、だからさ」

 

「はい」

 

「僕と、これからもずっと一緒にいて」

 

 

 その懇願に対する返答は笑顔だけで十分だった。




新作「田舎少年が行く学園青春狂騒曲 厄ネタを添えて」を連載中です。

軽い気持ちで読める馬鹿騒ぎをモットーに描いていますので是非に。

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