【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「はぁ、はぁ……!!クソ、これも全て、あの小娘のせいだ……!!!」
周囲全てを燃やしながら黒い翼を広げたアドラメレクはそのまま空へ飛び立つ。視線は変わらずダフネが潜んでいるであろう地下に向けられながら、胸を抑えながら息を荒げる。呼吸をするのも難しくなっているのは今まで抑え込んできた魂魄契約の影響だ。
(彼からの“欲望”の供給が滞っている……!!その上、魂魄契約で私を殺すと結んでいるあの小娘の決意自体が緩んでる……!!このままじゃ、契約自体が消えてしまう!!!)
既にリョウとリルナは“比翼連理の絆”を結んでいる。その結果元々結んでいた“魂魄契約”が上書きされかけている。それを奪い運用しているアドラメレクにも当然その影響は出ている。刻一刻と与えられる“欲望”が減っていることに冷や汗を流しながらダフネを処理した後のことを考えた。
(彼があの小娘と新しい契約を結んだこと、それはいい。それならば再び奪ってしまえばいいだけの事よ。だけど問題なのはそれをするには彼を弱らせなければならないということ。『永死殺総』一人じゃそれを行うのは不可能。彼を仕留める寸前にまで持っていくには上級悪魔数体の協力が必須。なんらかの報酬を餌に釣り上げる……!!)
なぜ自分が拒まれているのかを考えずにただ奪う事だけを考える。それしかないと自分を定義づけ、それで今まで上手くいっていたからと他の方法を探すことをやめた結果。そんな自分に対して何の疑問も持たず、罪悪感を抱くこともない。その炎をもって高みに立ち全てを奪う、その姿はまさに本人が嫌っていた『炎天渇奪』の名を体現していた。
「その為にもさっさとここから離れる。今すぐ死になさい雑魚悪魔」
方針を決めたのであればもうここにいる意味など欠片もない。すぐにでも逃げ出したいがそれをしようとすれば『時進過浄』、ダフネが追ってくる。これまでの戦いで速度という一点においてアドラメレクを遥かに凌駕しているダフネから逃げるのは至難の業だ。その上、ダフネを殺すことに成功すればここを任せたリョウの精神を揺らがせることが出来るかもしれない。アドラメレクがここに残り、ダフネを殺すことを選択するには十分すぎる理由だった。
アドラメレクは両の手に炎を灯らせ、それを増幅させる。リョウから得た“欲望”を更に日本中から奪い集めた“欲望”を重ね合わせることで更に力を底上げする。反動で身体から軋む音が響くも今はこの戦いに決着をつけることだけを考える。
「何もかも燃やし尽くす。骨の一欠けらも、“欲望”の一片さえも残さずに消してやる」
夜の暗闇の中に太陽が現れる。煌々と燃える炎がただ一体の悪魔に向けられる。時間加速で出せる最高速度でも逃げることを一切許さない温度は周囲を溶かし、消していく。自分の能力に耐性があるアドラメレクでさえも近づけば火傷するそれは他者にとっては絶死の領域。腕を振り下ろす動きと同期して地面に落下する疑似太陽。
「“時象固定、連結、加速限界超過”」
それに対してダフネは能力を限界まで強化し迎え撃とうとする。クラウチングスタートの構えを取り、上空に浮かぶ太陽とアドラメレクを見据え、その口角を限界まで上げて獣のように嗤う。既に勝利への道筋は作られている。あとは無茶をして傷がつく可能性が高いという事だけだが、それだけで格上に勝てるというのならばダフネという上級悪魔にとっては本懐である。
「さぁぶっ飛ぶぜ。準備はいいかよ空回り!!!」
「準備はいいけどその言い方はやめてちょうだい!!自覚しているだけ胸が痛いのよッ!!!」
ダフネの背中に必死になっているのは炎天使ヒャン・フレイム。リョウ達の決着を見届けようとここまで来た彼女はアドラメレクを倒す為の一手としてダフネの言葉に乗せられた。それが迷惑をかけ、命まで奪おうとしたリョウとその恋路の邪魔をしてしまったエルに対する贖罪だと考えて。
(あああああああ!!!でも早まったかも!!コイツ絶対百パーセント間違いなく手加減なしで加速するつもりよね!?えっ、もしかしてこれが噂のジェットコースター?だとしたら人間はこんな物に乗って喜んでるの?……人間って、凄いのね……)
今まで見下してきた人間は思っていた以上に逞しいのかもしれない。そう現実逃避気味に考えていたヒャンは飛び出したダフネの速度に合わせて炎を噴出させる。悪魔を燃やす炎は当然ダフネにも有効だが、その炎によるダメージを巻き戻し続けることでダフネは対応し疑似太陽に突っ込んだ。
(熱い熱い熱い!!!上級悪魔の能力がこれほどだなんて!!!エル様達はやっぱり凄かった!!!)
(コイツの炎でかなり軽減されてるがそれでもダメージはやべぇな!!!さっさと貫かねぇとこっちが死んじまう!!!)
疑似太陽の中を限界まで加速した速度で突っ切ろうとするダフネとヒャンだがその身体に受ける火傷のダメージは人間であれば間違いなく死ぬほどだ。それでもヒャンの炎によるアドラメレクの“奪炎”の遮断とダフネの巻き戻しによる軽減で二人は息抜き、疑似太陽を貫いた。
「つ――――らぬいたぁ!!!!」
「んなっ!?」
「二度とこんな無茶ぶりしないでよ……!!」
失速しながら疑似太陽を貫いた二人はアドラメレクの眼前に姿を見せる。あの全てを焼き尽くす最大威力の炎の中に飲み込まれてなお五体満足で生きているという結果に強く動揺し、貫かれたこともあって疑似太陽が霧散する。夜闇を照らす太陽が消え周囲が再び闇に包まれる。
(落ち着きなさい!!こいつらは今のを生き残るので限界!!翼も焼けて飛ぶことも出来ない!!!追撃してしまえば、それで私の勝ち!!!!)
一瞬冷静さを失ったアドラメレクも生き残った二人の姿を見て再び戦意を取り戻す。ダフネもヒャンも悪魔と天使の象徴である翼が焼けてろくに残っていなかった。飛ぶのに必要な器官を失った以上空高く飛べばまるで問題なく止めを刺せる。それどころかこれで逃げる算段が付いたと二人を嘲笑った。
だから彼女は見過ごした。この場にいるもう一人を。リョウ以外の人間を取るに足らないと見下し利用するしか考えてこなかったが故に。アドラメレク自身が道具として勧誘して使い捨てた存在を記憶からも捨てていたが故に。
「うぉ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
「は?」
ダフネ達が疑似太陽を壊すと計画し、それを愚直なままに信じた竜崎が飛び出す。その速度はダフネによって加速しており、その力はアドラメレクによって上級悪魔に届くまで上げられている。悪魔同士の戦いに天使が介入し、人間がその詰めを任される。その異常事態に長く生きてきたからこそ困惑するアドラメレクの身体に竜崎の拳が突き刺さる。
「オ――――ごぉ……!!?」
「お、ち、や、がれぇえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
体内の空気全てを吐き出すほどの衝撃によって一瞬意識が飛び掛かったアドラメレクを竜崎が掴み地面に向かって落下していく。人間である竜崎が空を飛べるはずもなく、そして今の攻撃で意識を一瞬失ったアドラメレクが対処することも出来ない。
「ぐ、あああああ!?離、せ!!私は、私はこんな所で!!!!」
「絶対放してたまるかよ!!!テメェは俺と一緒に死にやがれ!!!!」
錐揉状態で落下していく二人。竜崎を何とか引き剥がそうとするも自分が与えたその剛力は上級悪魔にも通用するレベル。己の過去が文字通り彼女を掴み取り動きを取ることを許さない。
竜崎もまた、暴走させられていた時の記憶がある。リョウとの殴り合いに関してはお互い様であり、互いに納得する為に必要だったと思うもそれ以外は違う。リルナを襲い目の前の悪魔にいいように使われたこともしっかり覚えている。元来プライドの高い彼が自分といいように使ったアドラメレクを許せなくとも当然だった。
「いい啖呵だぜガキィ!!!!!!!」
だがそのまま落下してもアドラメレクは死なない。そのことを熟知していたダフネは地面に墜落するまでの間に自身の身体をギリギリ動ける状態まで巻き戻し、地面に着地すると同時に走り出した。狙うは一点、アドラメレクの命のみ。ダフネにしがみついているヒャンもまた180センチはある長身を絡めてついていく。
「こんな、こんな!!!私がこんなの!!いや、いやよ!!!せめて彼の手で!!私は彼の中に残って!!!」
「テメェが入る余地なんざ旦那の中にゃあるわけねぇだろうがァ!!!!!!!!!!」
落下していく身。翼を広げて空に逃げることも出来ず。炎はヒャンによって防がれる。逃避も迎撃も出来ない状態でアドラメレクは絶望する。愛しく全てを手に入れたいと思った少年に見られることもなく最期を迎えることに。全ての人々から“欲望”を奪い尽くそうと考えていた悪魔は自分の“欲望”を欠片も満たすことなくその最後を迎えようとして行く。
「私を見て!!私を求めて!!!そうすれば私が全部与えるから!!!私が他の誰よりも貴方を愛してるって教えるから!!!私には貴方だけ、貴方には私だけ!!!!それが幸せなんだって絶対に教えてあげるからッ!!!!!」
「一方的な思い込み、それを
どこまでも独善的な言葉にヒャンが吐き捨てる。敬愛する少女を愛し、敵である悪魔をも味方にする少年に対しアドラメレクの言葉はどこまでも空虚であり意味のない言葉だ。
「というかお前、アイツの名前も呼べてねぇじゃん。そんな奴愛するもクソもねぇだろ」
「――――――――」
利用するしか考えておらず、個人の認識すらしていない。アドラメレクは当然竜崎の名前を知らないし知ろうともしない。そしてそれはリョウに対しても同じだった。名前を知らず、知ろうともせず、ただ愛するからという言葉だけで求め続けた。自分が欲するものだから必ず手に入ると信じ続けて欲した者に目を向けることもしなかった。
「食らいやがれええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
限界を超えて加速した拳がアドラメレクの顔面に突き刺さり破壊しつくす。ダフネの右手も同時に砕かれるも気にせずに振るわれたそれに対処も出来ずアドラメレクの身体は吹き飛びビルを幾つも貫通し地面に転がった。
「あばよ独りよがりのクソ女。テメェはお嬢の仇でも何でもなくただの邪魔者として死んで行け」
煙となって消えていくアドラメレクの身体を見届けてからダフネはその場に大の字になって倒れる。リョウから与えられた“欲望”はもうほぼ残っていない。指一本動かすことすら億劫になる気だるさの中でそれでもダフネは大きく笑った。今まで満たされてこなかった強敵を倒したことによる達成感が魂すらも振るわせる。
「勝ったぜ旦那。あとは、そっちだけだ」
月に向かって拳を突き上げて、今度こそ全ての力を使い果たして意識を失い彼女は意識を失う。
見る者全てが分かるほどに機嫌良さそうな、幸せそうな笑みを浮かべて。
『炎天渇奪』アドラメレク、その最後は誰にとっても大きな意味を持たないただの障害として排除される物だった。
今回の曇らせは良かったか?
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最高だった
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良いと思う
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もっと時間をかけて欲しい
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絶望が足りてない
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もっと序盤で見たかった