盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

108 / 108
第108話 選んだ世界

「それでは、あの巨大に融合したモンスターを倒したのは、あなただと?」

 

 王都の騒乱から数日後。

 応接室のソファーで、魔法協会の使者が疑念と期待の入り混じった顔で身を乗り出していた。

 

「いかにも! このブルトン家当主、ジャック・ブルトンの画期的な成果で間違いない!」

 

 ジャックは胸を張り、大げさな身振りで堂々と宣言した。

 

(おっさん、ノリノリだな……)

 

 俺は部屋の隅で、お茶を濁しながらその様子を眺めていた。

 

「水晶花にマナを吸収させ、意図的な流動現象を引き起こしたのだ。賭けではあったがな」

「素晴らしい! その研究、ぜひとも我々魔法協会にも一枚噛ませて頂きたい!」

「やぶさかではない。しかし、これは非常に崇高な研究だ。さらに発展させるには、それなりの研究資金が必要になるが?」

「ええ、もちろん! 協会の方で十分に用意いたしましょう!」

 

(しっかり金取んのかよ。そして払うのかよ、魔法協会)

 

 貴族のハッタリと商魂のたくましさに、俺は呆れを通り越して感心してしまった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 使者が満足げに帰った後、俺はジャックに声をかけた。

 

「上手くいったみたいですね」

「全く、途中から自分が何をしゃべっているのか分からなくなったぞ」

 

 ジャックはソファーに深く背を預け、ふうっと息を吐いた。

 

「しかし、本来ならラクン先生の偉大な名声となるはずなのだ。私の手柄にしてしまって気が引けるがな」 「その割には、ずいぶんノリノリに見えましたけど」

「すべては、ラクン先生が魔法協会の連中に目を付けられないためだからな」

 

 ジャックが真面目な顔で答える。

 

 水晶花を咲かせる技術。

 そして、ラクンの歌の力。

 それが公になれば、ラクンは魔法協会に"研究対象"として連れ去られ、自由を奪われかねない。

 ルードのように。

 

「俺は決して、先生の手柄を横取りして私腹を肥やした訳じゃありませんからね!」

 

 ジャックはラクンに向かって、空高く弁明した。

 彼なりの、大人としての責任の取り方であり、優しさなのかもしれない。

 

「酒が、飲みたい」

 

 いつの間にか足元にいたラクンが、服の裾を引いてポツリと要求する。

 

「ただちにご用意します! ルネぇ!」

「お任せください。極上のメスター酒です」

 

 使用人のルネが、最初から用意していたかのようにグラスを持って現れた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 屋敷の屋根の上。

 見晴らしの良い屋根の頂上で、ユラは1人、夕焼けに染まる王都の街並みを眺めていた。

 

「高いところが好きなの?」

 

 俺が声をかけながら隣に腰を下ろすと、彼女は少しだけ目を細めた。

 

「……そうかも」

「ケルー、我もー」

 

 下からラクンが短い手を伸ばしてアピールしてくる。

 俺はラクンの脇に手を入れ、ひょいっと抱きかかえて屋根に引き上げた。

 

「ラクンは高いところ、平気か?」

「少し、怖い」

 

 ラクンは恐る恐る足を伸ばし、屋根の感触を確かめる。

 

「ちゃんと掴まってて。滑るから」

「おお……」

 

 そう言って、ラクンは俺ではなく、隣にいたユラの手をギュッと両手で掴んだ。

 

(……俺じゃないんだ)

 

 ちょっと寂しい気持ちになりつつも、2人が寄り添う姿を見て自然と頬が緩む。

 

「高いところから見る夕日も、悪くないな」

 

 俺は空を見上げる。

 これまでの旅で、地平線に沈む夕日を何度も一緒に見てきた。

 荒野で、雪山で、そして王都で。

 

「……ユラの復讐は、これで果たせたと思う」

 

 俺が静かに口にすると、ユラはピクリと肩を揺らした。

 

「ルードはユラが見つけて、ユラが追い詰めたんだ」

 

 だから、もう彼女が手を汚す必要はどこにもない。

 これで終わりにできる。

 

「ルードはもう、きっと何もできないよ」

「……そうね」

 

 ユラが小さく頷く。

 夕風に揺れる彼女の横顔は、憑き物が落ちたように穏やかで、綺麗だった。

 

(ルードは、間違いなくクソ野郎だった)

 

 人の命を何とも思わず、自分の狂った思想のために世界を壊そうとした。

 でも、あいつが言っていた"予定調和の世界"という言葉。

 マナ結晶の恩恵による安定と停滞。

 

 俺がこの異世界で感じていた"違和感"とは、少し違っていたかもしれない。

 それでも、あんな思想の持ち主じゃなかったら……お互いの世界の見え方について、もっと普通に話し合えることもあったのかもしれない。

 

 俺はこの世界のルールを、まだよく知らない。

 だからこそ、自分で確かめに行くしかない。

 

「ラクンは、これからどうしたい?」

「我は、同胞を、探す」

 

 ユラの手を握ったまま、ラクンが力強く答える。

 

 ラクンはオークの女王とゴブリンの族長から、同胞を見つけたら支援するように言われていた。

 それはラクンを旅立たせるための方便だったのかもしれない。

 けれど、彼女にとっては使命となった。

 

「それじゃ、色んなところを旅しないとな」

「うむ!」

 

 その時、懐のエナックが小さく光る。

 メッセージの受信を知らせるサインだ。

 

「モーリンからだ」

「カホンのギルドマスター?」

「うん。調べて欲しいことがあるって」

 

 画面には短いメッセージと、マップの座標が記されていた。

 

「王都での依頼?」

「いや、ここからずっと西の方だな。……なんか変わった村があるらしいんだ。そこを見てきてほしいって」

「……王都のことも、まだ全然回りきれてないのに」

 

 ユラが呆れたように笑いながら、でもどこか楽しそうに尻尾を揺らす。

 

「ジャックの家なら、タダで、寝れるぞ」

 

 ラクンが、この快適な居候生活を惜しむように呟く。

 俺たちはその言葉に思わず声を出して笑った。

 

 居心地のいい場所ができた。

 頼れる仲間も、帰る家もある。

 だからこそ、俺は自分の足で、もっと広い世界を見てみたいと思うんだ。

 

「それじゃ……準備しようか」

 

 大きく伸びをする。

 沈みゆく夕日に別れを告げる。

 

「ラクンが旅に出るって聞くと、ジャックが驚きそうね」

「過保護だからな、あのおっさんは」

「ぬい、持っていく」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

押し入れの向こうは異世界でした(作者:Brooks)(オリジナル現代/コメディ)

▼練馬区江古田の古いアパートで一人暮らしをする女子大生・篠原澪は、友達の少ないボッチ気質の二十歳。趣味は彫金とギター。貯金は十万円ほどしかなく、大学、家賃、生活費に追われながら、六畳一間で静かに暮らしていた。▼ある日、小さな地震のあと、部屋の押入れの向こうが異世界の市場につながる。▼幸い、言葉は通じた。澪は恐る恐る異世界へ足を踏み入れ、手元にあった爪切りを売…


総合評価:165/評価:-.--/連載:302話/更新日時:2026年09月01日(火) 16:29 小説情報

機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー(作者:井上斐呂)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

20XX年、日本。超電導モータと大容量コンデンサの普及によりロボット競技であるジャックス(JAXX:Junk Arts eXtreme versus)が隆盛を極めていた。▼ジャックスの競技者である高校生、新堂 巧(シンドウ タクミ)はランカーとして活躍していたが、訪れた展示会場でデモ機の暴走事故によって死に瀕する。▼目覚めるとそこは真っ白な空間で目の前には謎…


総合評価:171/評価:7.75/連載:219話/更新日時:2026年08月31日(月) 18:41 小説情報

異世界でとんかつ屋さんとして生きていきたい(作者:藤沢春)(オリジナルファンタジー/文芸)

十五歳で異世界に転生した『さくら』は、元九十八歳。▼ネコ型の魔獣『キャット・シー』と暮らしながら、王都で開くことになった小さな食堂『とんかつ さくら』。▼試行錯誤しながら作る、ちょっと懐かしくて、やさしい料理。▼その味と不思議な安心感はじわじわ評判になり、気づけば普通の客だけでなく、王族や貴族まで巻き込む大騒ぎに発展していく。▼地球で過ごした過酷な青年期。▼…


総合評価:174/評価:7/完結:86話/更新日時:2026年07月21日(火) 11:10 小説情報

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:3027/評価:7.94/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報

転生したら異世界の宇宙最強の龍でした!〜0から星と生命を作り出して一大文明の支配者になったので現代日本へ帰還します。自分は日本が一番暮らしやすい。〜(作者:電動ガン)(オリジナル現代/コメディ)

目覚めたら無だった。何も無い。宇宙さえも。自分の身体を見る。銀色の甲殻、長い尻尾これモンスターだ!?よく見ると俺の他にも二頭のモンスターが。ドラゴンだこれ!!▼俺たち三頭の女神龍は宇宙創成の前の世界にいる。俺たちを生み出した主神の指示で世界を作り生命を繁栄させることとなったけど・・・・・・それ何年掛かるの?▼何億年も掛けて生命が宿れる星を何個も作り、失敗し、…


総合評価:2688/評価:7.63/連載:142話/更新日時:2026年08月31日(月) 14:23 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>