夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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日常パート その10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──4月9日 7時3分 牢屋敷内 食堂──

 

(推奨BGM「Sar-gedy-静-」♪50)

 

 牢屋敷内の探索から丸1日が経ちました。私は今食堂で例のまずい朝食を摂っています。

 

 「ガツガツ、ガツガツ‥‥」

 

リナ

 「チサっち、がっつきすぎだっつのー。喉に詰まるぞ?」

 

ノカ

 「‥‥私、念の為、水を取ってくるわ」

 

 「アタイの魔法ならガツガツ、そんなことにはガツガツ、ならないガツガツ‥‥」

 

 「食べながらなのに普通に喋ってる‥‥すごい」

 

ナタ

 「あはは‥‥どうやらこれも彼女の魔法の効果の一部のようだね」

 

 向こう側のテーブルでは、チサさんを中心に話が盛り上がっているようです。昨日の正午までの監禁で食欲のレベルが更に上がったのか、チサさんは以前よりもさらに旺盛に食事にがっついています。

 

 さすがに懲罰房にもう一度入りたくはないようで、必要以上の食事を摂らないようにはしているようですが、そのせいか物足りなさそうにしていました。

 見かねたセリナさんが食事を分け与えたようですが‥‥それでも足りないようです。

 

リス

 「い、いいいいいかがでしょうかッ‥‥!」

 

キラ

 「筋は悪くないが‥‥まだ改善の余地はあるな」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「そうですわね‥‥もう”ひとパンチ”ほしいですわね」

 

ヅハ

 「《紅茶》と《パンチ》ってなかなかミスマッチな言葉の組み合わせですね‥‥」

 

 隣の机では、なぜかアキラさんが紅茶の入れ方をエリスさんにレクチャーしています。

 どうやらリヴィアさんの提案で始まったようで、最初は拒否していたアキラさんでしたが、リヴィアさんに押し切られたようで渋々指導を始めたようです。

 

 ですが、一度始めると面倒見よく指南をしていたようで‥‥やはりアキラさんは言動に対して優しい性格の持ち主のようです。

 

オリ

 「ハアハア‥‥美少女たちのお戯れがこんな至近距離で見られる‥‥案外ここでの生活も悪くないのやもしれませんな‥‥」

 

ナデ

 「‥‥まさか、本気で残るつもりじゃないでしょうね」

 

オリ

 「いや、もちろん、帰りたいは帰りたいですよ。でもそれはそれ、これはこれと言いますか‥‥ハアハア‥‥」

 

コト

 「この牢屋敷でなんだかんだ一番強かなのは、ミオリさんかもしれませんね‥‥」

 

ナデ

 「‥‥同感です」

 

 私が座っているテーブルには、ミトさんのいる方を避けた結果やってきたカナデさんと、いつの間にか現れていたミオリさんが座っていました。

 

 カナデさんは時折ミトさんの方に目をやっては、彼女の様子を気にしているようです。ミトさんはその視線には気がついていないようですが‥‥。昨日の件を少なくともカナデさんはまだ気にしているようです。

 時折、ミトさんへと向ける視線が揺れています。その視線のブレが何を意味するか‥‥私には分かりません。

 

 一方のミオリさんは‥‥説明するまでもありませんね。

 

オリ

 「と、とうとう、適当にあしらわれてしまいました!」

 

 ‥‥さらりと心を読むのはやめて欲しいです。

 

 こうして今日の朝食は、全員が同じタイミングで一堂に介しています。昼食や夕食はともかく、朝食はそれぞれの起床時間の関係上、全員が揃うことはおそらく稀でしょう。

 事実、昨日はみんなバラバラのタイミングで朝食を摂っていました。それが今日は違う。それにはある理由がありました。

 

クア

 「みんな注目。まだ食べている人はそのままで構わないから聞いてほしい」

 

 1人離れたところで食事を摂っていたリクアさんが立ち上がりました。

 

キラ

 「昨晩メッセージで送ってきた話とやらをするのか、真壁」

 

クア

 「ああ、そうだ」

 

 そう。私たちが今日こうして食堂に集まったのは、昨日の夜にリクアさんが全体メッセージで7時に食堂に集まるように要請したからです。

 正直全員が集まるとは思っていませんでしたが‥‥面倒くさがっている人は同室の人が無理やり引っ張ってきたのか、全員が無事に食堂に集まっていました。

 

ナデ

 「それで、話とは一体なんなのでしょうか」

 

 カナデさんがリクアさんに問いかけます。

 

クア

 「昨日、1日かけて私はこの牢屋敷をはじめ、島内の施設を巡れる範囲で訪れ、状況を確認していった」

 

クア

 「一応、牢屋敷にある施設自体は十分なものが揃ってはいた」

 

クア

 「行動の自由を制限されているとはいえ、監房にはベッドがあるし、シャワールームには1日1回だが着替えが用意されているし、味は不味いが食事も3食用意されている」

 

クア

 「衣食住は保証されているから、この点においては問題はないと言える」

 

クア

 「他にも娯楽室の存在や、自由時間の際は建物外に出られるなど、ある程度の自由も保証されている」

 

 「‥‥随分と管理者側の方を褒め称えているみたいだけど‥‥結局何が言いたいの‥‥?」

 

クア

 「私が言いたいのは‥‥用意された施設の”クオリティ”の話だ。この食事1つ取っても、味のクオリティは最底辺中の最底辺だ」

 

クア

 「昨日、常盤クンが指摘したように、これではストレスを和らげる食事がむしろストレスになりかねない」

 

 リクアさんは自分が座っていた机のあたりをウロウロとして、プレゼンをする社長のような動きを取ります。場の支配権がリクアさんへと移っていくのか、みんな彼女の話に耳を傾けています。

 

クア

 「そこでだ。私はこれから、この牢屋敷内の生活環境の質を向上させたいと考えている」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「生活の質を向上ね‥‥。‥‥具体的にはどうなさるおつもりで?」

 

 リヴィアさんが尋ねます。本物のお嬢様である彼女が言う“生活の質”は、他の人達のそれよりもハイレベルでしょう。彼女を納得させるのがリクアさんの関門の1つになるかもしれません。

 

クア

 「今のところ考えているのは大きく2つ。1つは食事の質の改善だ」

 

 「ご飯ッ!」

 

 案の定チサさんが食いつきました。突然立ち上がり、机を両手で叩きます。食べ終わった後乱雑に放置された彼女のお皿が揺れて危うく落ちかけるところでした。セリナさんが慌てて、テーブルの中央に皿を避難させている様子が見えます。

 

クア

 「ああご飯だ。この数日でみんなも散々身にしみて分かっていると思うが、ここの食事はあまりにも不味い」

 

クア

 「おそらく看守が作っているものと思われるが、クオリティは最悪中の最悪だ。まともに食べられるのは、この既製品のコーンビーフくらいだろう」

 

 リクアさんは倉庫から持ってきたであろう缶詰を掲げてみせます。

 

クア

 「そこでだ。この近辺の使われていない土地を開墾し、簡易的な家庭菜園を始めたいと考えている」

 

 リクアさんは続けてポケットから小さな袋を取り出しました。中には小さな粒がたくさん入っています。

 

クア

 「これはサンルームにあるデスクの中から発見した。ラベルが貼られていて、これを見るにどうやらこれらは野菜の種らしい」

 

リス

 「そ、そんな物があったんですね、気がつきませんでした」

 

クア

 「野菜が実るのには少々時間が掛かるが‥‥収穫が可能になれば、食事の質は向上するだろう」

 

ノカ

 「待ちなさい。種類にもよるけど、野菜の収穫は早くても1、2ヶ月はかかるはず。その間は食事の内容が変わらないことになると思うのだけど?」

 

リナ

 「ていうか、あーしらの目的ってこっからの脱出じゃん? 悠長に野菜育ててるヒマなんてあんの?」

 

 2人の反論は至極真っ当でした。私たちの最終的な目的は、この島からの脱出。野菜を育てているヒマなどないと考えるのは当然です。

 リクアさんは、想定通りの質問が来たとでも言いたげに軽く鼻を鳴らすと、続けます。

 

クア

 「最もな意見だ。まず黒部クンの意見についてだが‥‥近々ゴクチョーに掛け合って、私たちの食事を自分で用意できないか掛け合ってみようと思う」

 

ナデ

 「自分たちで用意というと‥‥炊事当番を設けるということでしょうか」

 

クア

 「その認識で相違ない。今のままだと、あの不器用そうな看守に丸投げすることになるからな」

 

クア

 「倉庫を見て回ってみた限り、食事の材料自体はある程度揃っている。調理する人間が変われば、自ずと味が変わるはずだ」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「やや1名、厨房に立たせてはいけなさそうな方もいらっしゃいますが‥‥まあ、それなら問題はなさそうですわね」

 

 リヴィアさんの視線はチサさんの方へ注がれています。当の本人は一切気がついていないようですが。

 

クア

 「そして星谷クンの疑問についてだが‥‥今回提案する生活の質向上は、あくまでも囚人間のストレスと不和を減らし、殺人事件を発生させないための取り組みだ」

 

クア

 「これと並行する形で、脱出の算段も立てるつもりだから心配しないでほしい」

 

ヅハ

 「そもそもの話、私たちはまだ生活の基盤を組み立てられていません‥‥」

 

ヅハ

 「衣食住はある程度整えられていますが、今の状況は言うなれば無人島にいきなり放り出されたのと同じです」

 

ヅハ

 「生活の基礎を整えて初めて、脱出計画を立てることができる‥‥真壁さんはそう言いたいんだと思います」

 

クア

 「代弁ありがとう、常盤クン。と、言うことだ。目下の行動指針としては、まずここでの生活に慣れて、体調を万全にすることだ」

 

クア

 「食事の改善はその足がかりとして必要不可欠。故にこのような提案をさせていただいた」

 

リナ

 「それならまあ、納得は行く‥‥のかな? でも、あーしはできる限り早くこっから出たいから。脱出計画もしっかり頼むよ」

 

ノカ

 「私も星谷セリナと同意見よ。みんなで仲良くすること自体は悪くないわ。けれど、ここから出れなければ本末転倒」

 

ノカ

 「生活の基盤が整い次第、すぐに脱出計画に移るべきだと主張するわ」

 

 セリナさんはやや不満げです。妹さんがいると話していましたし、彼女はここから出る動機が他の人と比べて大きいのでしょう。

 ナノカさんも同様に、脱出に対し意欲を見せています。昨日の一件を考えるに‥‥彼女もここから脱出する強い動機を有しているようです。リクアさんに低減を行うのは、至極当然の流れでしょう。

 

クア

 「無論だ。ここで一生過ごし続けるなんて、実質的な”死”に等しい。みんなが不自由無く過ごせるようになったのを確認したら、すぐに脱出計画を立てるよ」

 

 リクアさんは2人の目を見据えてしっかりと答えます。堂々と言いきった彼女に対し、それ以上何かを言う理由もなく。2人は静かに頷くと、リクアさんの話を促します。

 

 それに相槌を打ったリクアさんは続けます。

 

クア

 「そしてもう1つ。この牢屋敷だが、建物自体がかなり古く、また手入れが行き届いていないのかところどころガタが来ている部分が多い」

 

クア

 「これらのガタが来ているところを補修して快適に過ごせるようにしたいと考えている」

 

キラ

 「要するにDIYじみたことをしようってわけだな」

 

クア

 「早い話がそうだ。畑作りにしろDIYにしろ、これらの作業を通じて生活の質を上げつつ、私たちの仲を深めていきたいと考える」

 

クア

 「突然誘拐されたとはいえ、私たちはいわば”チーム”だ。この先の脱出計画のためにも、互いの親睦を深めることは重要ではないかな?」

 

 リクアさんはやや芝居がかったような身振り手振りで私たち1人ひとりに視線を送ります。

 いくつか疑問を呈する人もいましたが、今となっては彼女の言葉に否定的な意見を述べる人はいませんでした。

 リクアさんの話には説得性がありますし、なによりもこの劣悪な環境は耐え難いというのがみなさんの総意なのでしょう。これに反対する人は誰ひとりいませんでした。

 

クア

 「みんな納得してくれたようだね。よし。それじゃあ今日から早速計画を進めよう。まずは諸々の道具の調達から始めないといけないね」

 

 リクアさんの提案に、みんなが動き始めました。

 チサさんは追加のご飯を求めて騒ぎ、セリナさんは畑作りに意外と乗り気で、エリスさんは「メイド仕事です‥‥!」と張り切って、カナデさんは調律に戻ろうとしています。

 

 不安と期待が入り混じる中、私たちの“共同生活”は、静かに幕を開けるのでした。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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