夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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日常パート その16

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───同日 8時47分 牢屋敷内 厨房───

 

(推奨BGM「迷宮の徒」♪8)

 

 小麦粉の袋を確保した私たちは、その足で厨房へと向かいました。道中、リクアさんは何度もふらつき、おぼつかない足取りでした。袋の重量を支えきれていないようです。

 見かねたシヅハさんが時折支えようとしていましたが、リクアさんはそれを頑なに拒み、自分の力だけで袋を運ぼうとしていました。

 責任感が強いのか、はたまた強情なのか‥‥どちらとも取れないリアクションでした。

 

 医務室経由で牢屋敷内に戻り、ラウンジを通って食堂へとたどり着きました。

 

コト

 「そう言えば、まだ厨房には入ったことがありませんでしたね」

 

クア

 「基本的に‥‥看守しか使わない想定の場所みたい‥‥だからねッ‥‥」

 

 助けようとする声を拒否し続けた結果か、リクアさんの声はとぎれとぎれになってしまっています。軽く脂汗をかいているようです。

 

ヅハ

 「ほ、本当に大丈夫ですか、真壁さん‥‥」

 

 シヅハさんは今にも倒れそうなリクアさんを心配そうな面持ちで見つめます。倒れてきた場合にリクアさんを支えられるよう袋を小脇に抱えて、もう片方の手を背中の近くで待機させています。どこかで影を回収したのか、影の縄も待機させています。

 

クア

 「大丈夫‥‥もう厨房はすぐそこだ‥‥」

 

 リクアさんはこんな状態でも1人、先頭を歩き続けています。ようやく厨房の扉の前につくと、小麦粉の袋を文字通りドサリと床に落としました。息が上がっているようで肩が上下に心もとなく動いています。

 

クア

 「ゼェ‥‥ゼェ‥‥さあ、厨房だ。これを中に運び込もう」

 

 リクアさんはドアノブの錆びた厨房の扉を、最後の力を振り絞るように弱々しく開きました。

 

 厨房の扉を開けると、まず鼻をくすぐったのは油と金属の混じった匂いでした。

 部屋の中央にはステンレス製の調理台があり、その表面は長年の使用でかすかに曇っています。けれども、光の角度によっては鏡のように私の姿を映し返しました。

 

 壁際には、大小さまざまな鍋やフライパンが整然と吊るされています。取っ手の位置までそろっているのが妙に几帳面で、どこか無人の清潔感が漂っています。

 その反対側の壁には、家庭用よりも少し大きめのガスコンロが3口。上には換気扇があり、ゆっくりと油を吸い上げるように低い音を立てています。火をつければ、きっとレストランの厨房のように部屋全体が熱を帯びるのでしょう。

 

 奥には業務用の冷蔵庫が2台。隣には業務用のオ─ブンが据えられています。天板の上には計量カップや泡立て器がそのまま置かれており、誰かがついさっきまで作業していたような気配を残していました。すぐ横の小窓から日光が差し込んで、天板がその光を反射しています。

 

 流し台の蛇口からは、錆びた鉄の匂いがわずかに漂います。けれども水は澄んでおり、光を反射して銀色の揺らぎを見せていました。

 

ノカ

 「‥‥誰かと思ったら、篠宮マコト。‥‥それに、南雲ヒナタに真壁リクアに、常盤シヅハまで。大所帯で何の用かしら?」

 

リス

 「みなさん、何かの袋を持っていらっしゃるようですが‥‥」

 

 厨房にはナノカさんとエリスさんの二人がいました。大鍋で何かを煮込んでいるようです。

 

クア

 「ああ、黒部クンに三条クン。ちょうどこの4人で倉庫を探索していてね。地下室を発見したんだが、そこに小麦粉があったんだよ」

 

クア

 「保存するなら厨房のほうが向いているだろうから、ここまで運搬してきたわけだ」

 

 リクアさんは先ほどまでの疲れが嘘だったかのように、ハキハキと話します。しかしよく見るとまだ息が上がっているのか、肩が上下に動いています。無理をしていると見受けました。

 

 その後、私たちは小麦粉を厨房へと運び込みました。リクアさんは袋を持ち上げるのを諦めていないようで、また無理やり袋を抱え込むと私たちが袋を置いたところになんとかようやく、といった様子で運んでいました。

 

クア

 「さて。このままこの袋で保存していてもいいのだが‥‥袋自体がカビなんかで汚れている可能性があるし、別の容器に移しておくのが無難だろうな」

 

 息を整え直したリクアさんは厨房の戸棚を開けて回ります。

 

ノカ

 「あ、それならちょうどいい空の容器があるわ。確か‥‥」

 

 ナノカさんはリクアさんが物色しているのと反対側の戸棚を開けると、四角い大きめの透明なプラスチックの容器を持ってきました。

 

クア

 「ああ、助かる」

 

 容器を受け取ったリクアさんはそれを作業台の上に置くと、またもや苦しそうにしながら袋を同じく作業台の上に移します。

 私やヒナタさんも手伝おうとしましたが、流石に疲労が蓄積してきているのか、咎められることはありませんでした。4つある袋をすべて作業台に移します。

 

ナタ

 「この容器なら、今持ってきた小麦粉がすべて入りそうだね」

 

クア

 「そうだ。これなら保存に適さないあの倉庫よりも、長く小麦粉を保存しておける」

 

 リクアさんは袋の口を緩めると慎重に袋を持ち上げ、容器に小麦粉を投入していきます。サラサラと容器の中に滑り落ちていく小麦粉は特段傷んでいる様子もなく、きれいな白色です。時折、粉が辺りに舞って白い煙のようになっています。

 その作業を合計4回、淡々と繰り返していきます。容器はちょうど袋4つ分くらいの大きさがあったようで、空っぽだった容器は白い粉でこんもりと満タンになりました。

 

ヅハ

 「最後に蓋をして完成ですね」

 

 シヅハさんは粉が舞わないように、静かに蓋を閉めました。そのまま容器をどこかの戸棚にしまおうと容器を持ち上げようとしたシヅハさん。それをリクアさんが静止しました。

 

クア

 「少し待て。より長く保存する方法がある」

 

 差し出された手にシヅハさんは怯んだように目をパチパチとさせます。「すまない」とリクアさんは一言謝罪すると、小麦粉で満杯になった容器に手をかざします。

 

 しばしの沈黙。リクアさんは手をかざしたきり、びくともしていませんでしたが、やがてかざした手を下ろしました。

 

クア

 「よし。これでいい」

 

コト

 「あ、あのリクアさん。今一体何を‥‥?」

 

 行動が理解できなかった私はリクアさんに問いかけます。

 

クア

 「ああ、それはだな‥‥」

 

 リクアさんは容器の方にチラリと目をやります。視線の方を追うと、いつの間にかヒナタさんが容器の蓋に手をかけて、そのままガタガタと揺らしていました。

 すると、何かに気がついたのか、ニヤリと笑ってこちらに容器を差し出します。

 

ナタ

 「なるほどね。“そういうこと”か、真壁さん」

 

クア

 「ああ。“そういうこと”だ」

 

 何やら通じ合っているのか、2人は意味深に笑い僅かな言葉を交わすのみです。ヒナタさんはリクアさんが何をしたのか、今の行動1つで見抜いたようです。

 何が何やら判別できなかった私もヒナタさんと同じように蓋に手をかけますが‥‥。

 

コト

 「あ、あれ?」

 

 蓋はまるで接着剤でも付けられたかのように固着されて動きません。なんとかして開けようと無理やり蓋を引っ張ってみましたがそれでも開く気配はなく、さきほどのヒナタさんと同じように容器がガタガタと音を立てて揺れるだけです。

 その後、その様子を見ていたシヅハさん、ナノカさん、エリスさんも続けて蓋に手をかけますが、開く様子は全く見られません。

 そこまでやってようやく、私は何が起こっているのか察しが付きました。

 

コト

 「も、もしかしてリクアさん‥‥何か《魔法》をかけたんじゃないですか?」

 

クア

 「‥‥正解」

 

 リクアさんは不敵に笑うとエリスさんが悪戦苦闘している蓋に再び手をかざします。

 

リス

 「ひゃわあああッ!」

 

 すると突然蓋がスポンと抜けました。小麦粉の重みで容器が倒れて中身がぶちまけられるという事態にはなりませんでしたが、蓋が外れた衝撃で上の方にあった小麦粉が宙を舞います。

 

リス

 「な、なななななにが起こったのですかッ!?」

 

クア

 「なに。ちょっと容器を密閉してみただけだよ。私の《魔法》でね」

 

 リクアさんは自信ありげに右手の人差し指をピンと立てると得意げに笑います。

 

コト

 「い、いいいい一体どういうことでしょう」

 

 エリスさんの魔法で口調がおかしくなった私ですが、リクアさんに事の真意を尋ねます。

 

クア

 「私の魔法は《空気圧縮》。狙った対象の周囲の空気を圧縮することができる魔法だ」

 

 リクアさんはエリスさんから蓋を受け取ると、それをはめ直し再び容器の方へ手をかざします。一見すると何も起こっていませんが、こうしている間にも魔法が発動されているのでしょう。

 

クア

 「これでよし。今、もう一度容器の中の空気を圧縮した。今、この中は真空状態だよ」

 

 リクアさんは「さあどうぞ」と言わんばかりにエリスさんに容器を示してみせます。

 再び彼女が蓋に手をかけると、エリスさんは顔を真っ赤にして蓋をこじ開けようとしますが、一向に開く気配はありません。

 

リス

 「あ、開きませんんん‥‥」

 

クア

 「と、まあこんな感じだ。使い所は限定されるだろうが、使える場面ではかなり役立つ魔法だと考えている」

 

 蓋を開けようとプルプルしているエリスさんを無視して、リクアさんは続けます。

 《空気圧縮》‥‥使い手の技量が試されそうな魔法ですね。メモしておきましょう。

 

 

─人物データ「真壁リクア」の情報を更新した─

 

・真壁リクア(まかべ りくあ)

囚人番号30番。15歳。【空気圧縮】の魔法を持つ少女。狙った対象の周囲の空気を圧縮することができる。

 

 

 その後、私たちは普段使い用の小麦粉を小さめの容器に取り分け、残った分を大きな容器に残して戸棚にしまいました。リクアさんの空気圧縮の魔法のおかげで、小麦粉の日持ちは少し長くなりそうです。

 この島にどれだけの物資があり、また供給されるか未知数のため、少しでも長く保存できる手段があるのはかなり助かります。

 

ヅハ

 「ところで‥‥おふたりは何を作っていたのでしょう」

 

 シヅハさんはグツグツと音を立てて煮えたぎる大鍋の中身が気になるようです。蓋が僅かにズレていて、その隙間から湯気が漏れ出ています。

 

ノカ

 「‥‥いけない。夢中になって火の番を忘れていたわ」

 

 ナノカさんは慌ててパタパタと大鍋の方へと駆けていきます。鍋の蓋を開けてオタマでグルグルと中身をかき混ぜているようです。

 

ナタ

 「一体、何を作っているんだい?」

 

 興味を持ったヒナタさんが鍋の方へと近づいていきます。そして‥‥わずかに顔をしかめました。

 

ナタ

 「‥‥本当に、“何”を作っているんだい?」

 

 あまりに微妙な顔つきのヒナタさんの様子が気になって私たちも鍋を覗き込んでみます。

 オタマでグルグルとかき混ぜられていたのは‥‥紫色というか茶色というか‥‥ともあれ、奇妙な色をした謎の液体でした。妙に粘性があるようで、オタマでかき混ぜられるたびに二チャリと嫌な音が鳴ります。

 

リス

 「黒部さま‥‥確か、ス─プを作ってみるとおっしゃっていましたよね?」

 

 一緒に料理をしていたであろうエリスさんが困惑した様子で、眉間にシワを寄せながら尋ねます。

 

ノカ

 「え? ええ、そうよ」

 

 ナノカさんはエリスさんの問いの意図が分からないのか、きょとんとした顔でオタマをグルグルとかき混ぜ続けます。エリスさんは困惑しきったのか、こちらは目をグルグルとさせています。

 

ナタ

 「ええと‥‥三条さんも手伝っていたんじゃないのかい?」

 

リス

 「私はたまたま厨房に来たタイミングで黒部さまに手伝ってほしいと頼まれたので、材料を切っていました。調理自体は黒部さま1人でされています」

 

 作業台には包丁とまな板。そして玉ねぎや人参の欠片が一部残っていました。‥‥よく見ると、メイド服のフリルの隙間に野菜の欠片がいくつも落ちています。どうやら材料を切っていたのは本当のようです。

 私たちの困惑を意に介すことなく、ナノカさんはオタマで液体を小皿に移すと、ひとくち味見しています。

 

ノカ

 「‥‥うん。いつもの味になっているわ。これならみんなも喜ぶはず」

 

 いつもの味‥‥もしかして、ナノカさんの家ではアレが日常的に‥‥? あるいはナノカさんの作る料理の腕が‥‥。

 

クア

 「‥‥黒部クン。良ければ、ひとくち頂いてもいいか?」

 

コト

 「し、正気ですか!?」

 

ナタ

 「‥‥明らかに‥‥”そのようなアレ”というか、なんというか‥‥大丈夫なのかい、真壁さん」

 

 私とヒナタさんはあの料理に挑まんとするリクアさんの肩を引き寄せると、小声で問い詰めます。ナノカさんは目をパチパチとさせています。幸い聞こえていないようです。

 

クア

 「炊事当番の制度を作ると言ったのは私だ。全員の料理のスキルを把握しておかなければならない」

 

ナタ

 「言わんとしていることは分かるけれども‥‥」

 

 リクアさんは私たちの静止を振り切るとナノカさんから小皿を受け取り、皿の上のソレを口にします。

 

クア

 「‥‥‥‥‥‥」

 

 ひとくち飲んだ瞬間、リクアさんの顔がス─プと同じくなんとも言えない顔色へと変化していきます。

 

クア

 「‥‥炊事当番の制度は、少し見直したほうがいいな」

 

 それがリクアさんの最後の言葉でした。フラリと気が抜けたように足がもつれ、リクアさんは倒れかけます。慌てて駆け寄ったシヅハさんのおかげで転倒こそ免れましたが。

 

ノカ

 「そ、そんなに美味しかったのかしら‥‥?」

 

 渋い顔をして倒れたリクアさんを見て、ナノカさんは喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない、といった面持ちを浮かべるのでした。

 

 




以下、作者後書き




















ナノカ姉がメシマズ属性持ちだったら嬉しいな、というお話でした。
お菓子作りは得意だし、料理の腕は確かだけども、味覚に難があって勝手に変な味付けをしてしまうという設定にしております。
(ただ原作で提供されている料理は缶詰に入っているっていう描写があったはずなんで、料理が不味い理由=看守と断定するのは少し危うい気もするのですよね‥‥)

ところで、今日の公式様からの情報開示でいよいよナノカ姉の口調が確定しましたね‥‥。対政府の人間に対してもあの態度を取っているとなると、牢屋敷でどう振る舞っていたのかがいよいよ分からなくなってきました(質問者が政府の人間だと気がついていない可能性もありますが、何とも言えないところです)

まあ、当作品は前回示した解釈でいくので変えるつもりはありませんが‥‥彼女が本性を現す場面では、公式の示した口調に倣うことにします。
その場面がいつ来るかって? そのうち来ます。だって、ナノカ姉は牢屋敷で‥‥。
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