【星谷 セリナ】
「はー‥‥なんとか終わった」
チサさんの世話で疲れたのか、セリナさんはくたびれた様子です。
【朝雛 チサ】
「アタイ、風呂なんか入らなくても大丈夫なのに」
【星谷 セリナ】
「ぶーたれんなし。せっかく可愛いお顔してんだからちゃんとケアしなきゃ駄目だぞ?」
膨らんだチサさんの頬をセリナさんは指でつつきます。ブーッとチサさんが空気を吐き出しました。このやり取りを見ていると、少しだけ子どもの頃を思い出す‥‥そんな気がしました。
【常盤 シヅハ】
「それにしても‥‥なんで寝間着がないんでしょうね」
【常盤 シヅハ】
「私みたいに比較的緩めの服はともかく‥‥白川さんやリヴィアさんみたいなドレス系の服だと、寝る時かなりきつそうです」
シヅハさんは熱気を逃がそうとフードの部分をパタパタとしています。
【白川 ミト】
「まあ、これしか服がないから仕方がない‥‥下着姿で寝るわけにもいかないし」
【朝雛 チサ】
「アタイは平気だぞ!」
【星谷 セリナ】
「風邪ひくからいけません! アキラっちに怒られるぞぉ?」
【朝雛 チサ】
「ちぇっ」
食堂の前を通りすぎ、私たちは階段に差し掛かりました。無駄に深いところに監房があるため、降りるのにしばし時間がかかる構造になっています。
【篠宮 マコト】
「服のデザインもそうですけど‥‥1日1回しか着替えが供給されないのも不便ですよね。着替えのタイミングを図りかねます」
【星谷 セリナ】
「シヅハっちとチサっちはさっき着てた服、使い回してたよね?」
よく見ると、二人の服には薄っすらとホコリがまだ残っています。掃除の際についたものがそのままになっているのでしょう。
【常盤 シヅハ】
「夜はもう寝るだけなので、多少汚れていても気にならないです。それよりも朝きれいな服で一日を始めたいので」
【朝雛 チサ】
「アタイもそんな感じだな!」
【星谷 セリナ】
「チサっちはそれ以前の問題っしょ‥‥。ま、なんにせよ、そこは人それぞれか。朝シャン派もいるだろうしねー」
この牢屋敷はいつでもお湯が出るようになっています。一部の人はセリナさんの言うように朝にシャワーを浴びているのかもしれません。妙なところで囚人に優しいんですよね、この牢屋敷‥‥。
その後私たちはそれぞれの監房へと分かれました。時刻はもうすぐ22時。1日の終わりです。
その夜は、いつもより空気が澄んでいるように感じました。廊下の照明がぼんやりと灯り、牢屋敷の奥へと長い影を落としていきます。
けれど、その静けさの中で、確かに何かが息づいていた気がしました。
その夜、私はなぜか眠りにつく直前まで、どこか遠くで水音が響いている気がしていました。
──あれが、最後に聞いた“日常の音”だったのかもしれません。
以下、作者後書き
あともうちょっとです。もうちょっとでこの作品のホンシツ部分に突入します。もう少しだけお付き合いください。