本日の作業開始時間は8時半と決められていましたが、美味しい食事のおかげで皆さんやる気が出ていたのか、自然と作業の開始時間が早まっていました。
農地決め班は設置した照明を点灯してから作業に取り掛かるようです。リクアさんが昨日設置した照明を色々といじくっていました。たまたまその場面に出くわした私は、その様子を観察しています。
【真壁 リクア】
「これは‥‥ここを弄ればいいのだろうか」
【早瀬 アキラ】
「いや、そっちは多分角度を変えるためのレバーだろ」
【真壁 リクア】
「ああ、たしかにそうだね。それじゃあ‥‥」
2人とも使い慣れていないものを触っているからか、苦戦しているようです。
【真壁 リクア】
「ここを押せばいいんじゃないか‥‥」
リクアさんがなんとなくボタンを押すと‥‥
【篠宮 マコト】
「きゃっ!」
ライトが点灯しました。何も考えず真ん前に突っ立っていた私は、ライトの光をモロに照射されます。すぐに横にどいて光から逃れました。うう、目がチカチカします‥‥。
流石は舞台用の照明と言ったところでしょうか。やたらめったら明るいです。
【真壁 リクア】
「すまない、篠宮さん! 大丈夫か?」
【常盤 シヅハ】
「篠宮さん、大丈夫ですか‥‥?」
自分自身で照明の明るさに驚いたリクアさんが慌てて駆け寄ります。遠くにいたシヅハさんもその明るさに思わずビックリしたのかこちらにやってきました。
【篠宮 マコト】
「だ、大丈夫です。まだ少し目がチカチカしていますが‥‥」
ライトの残像が強く焼き付いたのか、目を閉じると変な形のモヤのようなものが瞼の裏に映っています。治るのに少し時間がかかりそうです。
リクアさんもシヅハさんもワタワタとどうすればいいのか分からず、ひとまず私のそばに付いてくれています。
【早瀬 アキラ】
「篠宮が心配なのも分かるが‥‥とりあえず、この明るいのをどうにかしたほうがいいんじゃないか?」
1人冷静なアキラさんは、照明をチョイと指さします。照明は相変わらず強い光を照射し続けています。
【常盤 シヅハ】
「あ、それなら私が‥‥」
私の前で屈んでいたシヅハさんは立ち上がると、照明の裏側に回りなにやらダイヤルを調整し始めました。それに伴って光が少しずつ弱くなっていきます。
【常盤 シヅハ】
「大体、これくらいならちょうどいいでしょうか」
シヅハさんは気持ち明るさを抑えめにして照明を調整しました。
【真壁 リクア】
「いや‥‥常盤クン、それでは少し弱すぎる」
リクアさんも照明の裏側に移動すると、同じようにダイヤルを調整し始めました。シヅハさんの調整したものよりも、より明るいほうがベストだと考えているようです。
リクアさんは何度かダイヤルと照明の角度を調整しては、照明の前に立って、明るさの確認をしています。
【真壁 リクア】
「うん。これくらいがちょうどいいかな」
結局のところ、照明は最初と比べて少し弱いくらいの明るさに設定されました。
その代わり高さと角度を調整し、真横から当たるようにするのではなく、上から光が注がれるような形に調整されました。舞台上の照明と同じような構図です。
【常盤 シヅハ】
「あの‥‥少し、明るすぎませんか?」
シヅハさんはオズオズとリクアさんに申し出ます。
【真壁 リクア】
「いや、これくらいのほうがちょうどいい。今の牢屋敷は薄暗すぎるからね。明るいほうがみんな過ごしやすいはずだ」
シヅハさんの意見をリクアさんはけんもほろろに否定しました。
一言、改めて私に謝罪の言葉を述べると、アキラさんを伴って他の照明を点灯しに移動します。アキラさんを選んだのは、照明の高さの調整の際、背の高い彼女が役に立つからでしょう。
私はと言うと、まだ目がチカチカしています。瞼の裏に映るモヤは減ってきましたが、それでもまだ違和感が残ります。
【常盤 シヅハ】
「だ、大丈夫ですか‥‥?」
シヅハさんはまだそばに付いてくれています。彼女自身も少し動揺しているのか、軽く息が上がっているようです。
【篠宮 マコト】
「大丈夫です。怪我をしたわけではないので‥‥」
思ったよりも本気で心配されているようだったので、やんわりと否定します。あまり心配をかけさせるのもよくありません。
【常盤 シヅハ】
「な、なら、いいのですが‥‥」
そう答えながらも、シヅハさんは落ち着かない様子で視線を彷徨わせていました。
照明の光が白い壁に反射し、床に光の筋を作っています。その明るさに、彼女はほんの一瞬だけ目を細めました。
【篠宮 マコト】
「‥‥まぶしいですね」
【常盤 シヅハ】
「え、あ‥‥はい。少しだけ」
いつもよりわずかに早口な返答。シヅハさんはフードの端を指でつまみ、頬のあたりを影で覆いました。
続けてリクアさんが別の照明を点け始めると、空間全体が一気に明るくなり、私の注意はそちらへと逸れます。
【真壁 リクア】
「これで牢屋敷も少しは見違えるだろう」
その言葉に、シヅハさんは笑顔を作って頷きました。けれどその笑顔は、どこか固いものでした。光が彼女の頬を照らし、その表情の影の部分をかき消していきます。
私はそれを深く考えもせず、ただ眩しさに瞬きを繰り返しました。