【星谷 セリナ】
「あーもう、落ちねえぇぇ‥‥!」
私たち掃除班は、昨日大方の部分を掃除したということで、今日は2組に分かれて掃除を行うことにしました。ミトさんとシヅハさんにはラウンジの方を掃除してもらい、残った私たちはシャワールームでカビ取りを行っています。
他の部屋と違い、この部屋だけ照明が設置されなかったため、前よりも少し薄暗く感じます。
牢屋敷のカビは長い間掃除がされていなかったのか、カビがタイルの隙間にびっしりと生えています。ただでさえ滑りやすい環境ですが、このカビのせいで倍は滑りやすくなっているのではないでしょうか。
私たちは物置から適当な掃除用の洗剤を持ってきてゴシゴシと洗っていますが、中々落ちそうにありません。随分と深く根を張ってしまっているのでしょう。
【星谷 セリナ】
「ていうーか、カビ取り用の洗剤じゃない時点で無謀だったかぁ‥‥。時間の無駄じゃねー、マジで」
声のトーンが下がっていくのにつれて、ブラシを動かす手も少しずつ遅くなっているようです。
そんなセリナさんとは対照的にチサさんはものすごい勢いでブラシで床をゴシゴシとしています。そのたびに床に残った水が飛び散って彼女の服や顔を濡らしていきます。
【朝雛 チサ】
「ぬうおおおおおおおッ。ゴシゴシゴシゴシッ!」
【星谷 セリナ】
「あんま張り切ってっと、洗剤目に入るぞ~」
セリナさんは気だるげに呼びかけますが、チサさんは話を全く聞いていないようです。セリナさんは呆れたようにため息をつくと、近くのブースからシャワーを取り出しました。
【星谷 セリナ】
「30分くらい粘ったけど、こりゃダメそーね。さっさと洗剤落として他の組に合流するほうが賢いな、これ」
セリナさんはシャワーの栓を捻るとアチラコチラに散水を始めます。3つあるシャワーブースにそれぞれ水が流れていきます。
ところが、一番奥にあるシャワーブースだけ水が流れていきません。
【星谷 セリナ】
「ありゃ? どうなってんだこれ」
同じく疑問に思ったセリナさんが近づいて確認します。
【星谷 セリナ】
「あちゃー。髪の毛めっちゃ詰まってるし」
私も排水口を覗いてみます。見ると、いろんな長さや色の髪の毛が複雑に絡み合って詰まっています。これでは流れるものも流れません。
【星谷 セリナ】
「そういや昨日もここ使ったけど、思い返せば流れにくかった気がすんな~。チサっちに気ィ取られて気がつかなかった」
セリナさんはしゃがみ込むとためらいなく排水口の金網を外して、中に溜まった髪の毛を取り除きます。ゴム手袋越しとはいえ、抵抗なく手を突っ込んでいます。
【篠宮 マコト】
「き、気持ち悪くないんですか‥‥?」
【星谷 セリナ】
「? いや、まあ掃除ってそんなもんっしょ」
【星谷 セリナ】
「あーし、家ではよくこれやってたし。女が多い環境ならしょっちゅう起こる現象だからね~」
確かに、ここに攫われてきているのは全員少女です。髪の毛が長い人も多いでしょう。詰まりやすいのも納得です。
髪の毛の除去自体はすぐに終わりました。溜まっていた水はゆっくりと流れていきます。
カビ取りこそできませんでしたが、ひとまずの垢汚れなどは落とせたでしょう。
一心不乱に床を擦るチサさんからセリナさんがブラシを取り上げると、私たちはシャワールームを後にしました。