夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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日常パート その26

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───同日 12時32分 監獄島 裏庭───

 

(推奨BGM「Sar-gedy-静-」♪50)

 

 自由時間開始後、私たちは軽い昼食を摂り作業を行うことにしました。しかしながら‥‥。

 

クア

 「集まったのは5人か‥‥」

 

 裏庭に集まったのはリクアさんの他に、アキラさん、セリナさん、チサさんとそして私。13人中の半分にも満たない、わずか5人でした。

 

 昼食の際、リクアさんが可能な限りの参加を募りましたが、ミオリさんとナノカさんが「大きな花瓶を見つけたのでそこに生ける花を探しに行きたい」と申し出ました。それにエリスさんも参加したがり、3人が離脱。

 このメンバーでは少し不安だと、ヒナタさんも花畑に向かうことになり、さらに1人離脱することになりました。

 

 リクアさんはその提案に一瞬迷いを見せましたが、それもまた生活環境の改善か、と飲み込み、特に咎めることはありませんでした。

 

 続けてカナデさんが中途半端になっているピアノの調律を済ませてしまいたいと申し出ました。リクアさんは先ほどと同じ理由で許可を出し、追加で1人離脱。

 

 リヴィアさん、シヅハさん、ミトさんは連日の作業で疲労が溜まったと主張し、それぞれ自分の監房などで過ごしたいと言いました。

 疲れているのに無理強いはさせまいと、3人を休ませる決断をリクアさんは下さざるを得ませんでした。

 

 こうして残ったのは5人。

 体格が大きく、本人も動くのには慣れているという、アキラさんが残ってくれたのは幸いでした。

 私たちの中で一番エネルギッシュであろう、チサさんの参加も心強いです。「ご飯のためならアタイやってやる!」とやけに張り切っています。

 

クア

 「ともあれ、諸君らの参加に感謝する。暗くなるまでにどこまで開墾できるかは私自身未知数だが、できる限りの全力を出すことを約束するよ」

 

コト

 「あの。からかうつもりはないのですが‥‥リクアさん、本当に作業できるんですか? 昨日小麦粉の袋を運ぶ時、随分苦労されていたみたいですが‥‥」

 

 昨日のリクアさんの様子が頭によぎり、思わず尋ねてしまいました。農具もかなりの重さがあります。昨日でさえあの調子だったのに、はたしてリクアさんにこれを振るうことができるのでしょうか‥‥。

 

クア

 「‥‥大丈夫だ。私に任せてくれ。この程度、やりきってみせる」

 

 リクアさんは胸を張って堂々と言い切りました。私にはその言葉がどこか虚勢のようにも映りましたが‥‥本人が大丈夫だというのなら、その言葉を信頼しましょう。

 

リナ

 「ひろーい‥‥それに、結構草生えてんね。これ、どっから手ェつけんの?」

 

クア

 「まずは雑草を抜く。根を残すとまた生えてくる。ここ‥‥杭を立てた範囲が今日の作業エリアだ」

 

 土の上に4つの杭が立てられていました。この周辺を今日は耕していくようです。

 

 「おー。この広いのが全部食べ物に化けんのか?」

 

クア

 「それは私たちの頑張り次第だ。体力的に考えれば、2時間で30平方メートル……畝4本が目安だな。形さえ作れれば、明日からは植え付けに移行できる」

 

 「細かい数字はよくわかんないけど、とにかく手を動かせばいいんだな! よしっ。アタイやるぞー!」

 

 私たちはしゃがみ込むと、せっせと草を抜き始めます。サンルームから持ってきたバケツに抜いては入れ、抜いて入れ、を繰り返していきました。

 

 

 

───────

 

 

 

 大体1時間ほどかかってある程度の草を抜き終わりました。

 太陽の光が差し込む環境ではありますが、そこまで光が強くないことが幸いし、思っていたよりは汗をかかずにすみました。

 

クア

 「‥‥よし、ここまででいいだろう。表層の草はほとんど取り切れた。根が浅かったのが幸いしたな」

 

クア

 「これならこのまま耕しに入れる。今は‥‥13時25分。監房に戻る時間込みで‥‥作業に割けるのはあと1時間弱と言ったところか」

 

クア

 「よし、みんな。次はここらを耕してくぞ」

 

 リクアさんの号令で私たちは立てかけておいた農具を手に取ります。疲労具合を見てみると‥‥チサさんとアキラさんはそこまで疲れていなさそうです。私は3割くらいの疲労。残りの2人はそこそこ疲れていそうな様子でした。

 特にリクアさんが無理をしているように見受けられます。ですが、その様子を表に出すことはなく、彼女も農具を手に取ります。

 

リナ

 「うへー。まさか農作業なんかやると思わんかったよ。花のJKがやることじゃ‥‥いや、農業高校の人に失礼か」

 

 農具の持ち手の部分にもたれかかったセリナさんが、ついさっき草を抜いたばかりの場所を見つめます。

 

キラ

 「とにかくやるぞ。作業してる内に雑念なんて消えるもんだ」

 

 アキラさんは被っていた小さなシルクハットを外し、囚人服の腕をまくります。筋骨隆々という言葉にふさわしいたくましい腕があらわになります。

 

リナ

 「うひょー、すっげえ筋肉」

 

 セリナさんは思わず感嘆の声をあげます。

 「見せもんじゃねえよ」と言いながら、アキラさんが力強く鍬を振るうと、乾いた地面がドスッと鳴って割れました。

 それを見たチサさんが「うわ、筋肉すごっ‥‥」と呟きながら鍬を引きずってきます。

 

コト

 「この黒い土の部分を掘り返すんですよね?」

 

クア

 「そう。深さは10センチほど。表土をひっくり返すことで酸素が入る。手早くいこう」

 

 私たちはそれぞれの位置に散り、作業を始めました。

 

 しかし‥‥最初の5分で、誰もが思い知りました。土を掘るというのは‥‥想像以上に重労働だということを。

 

リナ

 「ねぇリクアっち、これ全然進まないんだけど!? 土が固いよ!」

 

クア

 「乾いてる部分は角度をつけて削る。力任せに振ると疲労が溜まる。‥‥ほら、こう」

 

 リクアさんは説明しながら鍬を構え、重心を下げて丁寧に一打を入れました。

 乾いた地面が割れ、その下から湿り気を帯びた黒い土がのぞきます。

 

 「おおっ、すげぇ‥‥! なんか《農家》っぽいぞ!」

 

キラ

 「朝雛、手ェ止まってんぞ」

 

 「ぬああ、ごめん」

 

 チサさんの声が裏庭に響き渡り、作業の空気が少しだけ和みました。

 

 作業開始からおよそ20分。私たちは黙々と手を動かしていました。鍬を上げて振り下ろして。

 さっきの草むしりと動きが変わっただけで、同じ動きを繰り返し続けるというのはまったくの同じ。

 それどころか、先ほどよりも全身を使う動きのため、疲労の蓄積具合が目に見えて早いです。

 

 アキラさんとチサさんは手を止めること無く鍬を振り下ろし続けていますが、残る3人は定期的に手を止めています。これは骨が折れそうです。ましてや私たちは素人。時間がかかるのは仕方のないことでした。

 

 中々終わりが見えない作業に辟易としていた、その時でした。

 

 「ぬぉっ!?」

 

 鍬を勢いよく振り上げたチサさん。勢いが強すぎたのか、鍬が手からスッポ抜けてしまいました。そして不幸なことに‥‥。

 

 「あああっ、落ちた!」

 

 飛んでいった鍬は幸い誰にもぶつかることはありませんでしたが、チサさんのすぐ側にあった古井戸に落ちてしまいました。鍬の金属部分が、地面か井戸の壁面にぶつかるカラン、という音がかすかに聞こえます。

 

クア

 「大丈夫か、朝雛さん!? 怪我は?」

 

 リクアさんが即座に駆け寄ります。

 

 「あ、アタイは大丈夫。それよりも、鍬が‥‥ごめん」

 

 チサさんはしょんぼりとしてしまいました。

 

クア

 「気にするな。そこまで深くない」

 

 リクアさんは井戸の中を覗きつつ応答します。私も覗いてみましたが、確かに思っていたよりは深くないです。底がライトなしでも見えるくらいでした。

 

クア

 「星谷クン、確かロープがそこにあったはずだ。持ってきてくれないか。命綱として使いたい」

 

 セリナさんは言われた通りロープを持ってきました。かなりの長さがあるため、命綱には十分だと言えます。

 

クア

 「すまないが、私に巻いてくれ。もう片方は、どこかの木にくくりつけてほしい」

 

キラ

 「おい真壁、お前が行くより俺が行ったほうが‥‥」

 

 心配したアキラさんが声をかけます。

 

クア

 「無用な心配だ。農地を耕すと言い出したのは私だ。この場で起こった問題には可能な限り私が対処する。さあ星谷クン、頼む」

 

 セリナさんも同様に心配そうな面持ちでしたが、リクアさんが何度も促すので諦めて彼女の体に縄を巻き付けました。その間にアキラさんは丈夫そうな木の幹に縄を巻き付けます。

 

(推奨BGM「慄き鳴き」♪14)

 

リナ

 「うわ‥‥。さっき大した事ないって言ってた割には‥‥けっこう深くない? これ降りんのヤバいんじゃ‥‥」

 

クア

 「見たところ3メートル強だ。壁の石積みはまだしっかりしているし、そこに足を引っ掛ければどうにかなる」

 

 リクアさんは井戸の縁に手をかけ、慎重に体重をかけながら足場の感触を確かめました。苔むしてはいますが、石の凹凸が多く、靴底で踏み込めばある程度は支えになるようです。

 

キラ

 「‥‥やっぱり俺が下りよう。お前じゃ落ちたら‥‥」

 

クア

 「何度も言わせるな。これは私の責任だ。大丈夫、なんら問題ない」

 

 リクアさんはアキラさんの言葉を遮ると、両手でロープの結び目を確認し、深く息を吸いました。

 縄のもう一端は太い木の幹に三重に巻きつけてあり、アキラさんがその手元をしっかりと握っています。セリナさんとチサさんも不安そうに見守る中、リクアさんは井戸の縁に片足をかけ、ゆっくりと身を下ろしていきました。

 

コト

 「リクアさん、足元、滑りそうです。気をつけて!」

 

クア

 「問題ない。石の段差を見つければ安定する‥‥こうして、体重を分散させながら‥‥」

 

 井戸の中は外の光が届かず薄暗く、ほんの少しの冷気が地面から上がってきます。リクアさんは片手でロープを握り、もう片手で壁面の石を探りながら、足場を確かめるように1歩ずつ降りていきました。

 およそ半分ほど降りたところで、彼女は壁の突起に足を置き直し、静かに息を吐きます。

 

リナ

 「リクアっちー! そこらへん足元どう?」

 

クア

 「‥‥足場は問題ない。あと1メートルだ」

 

 ロープを伝い、井戸の壁面を慎重に下りていくリクアさん。その顔に焦りはなく、むしろ呼吸を整えながら1歩ずつ確実に動いているように見えました。

 

 しかしその時‥‥。

 

リナ

 「あっ、リクアっち、そこ滑るっ!」

 

 セリナさんの声が響くよりも早く、リクアさんの足がわずかにずれました。石積みの間に生えていた苔が、わずかに湿っていたのです。

 

クア

 「‥‥ッ!」

 

 片足を滑らせた彼女は反射的にロープを強く握りましたが、その瞬間、縄が手のひらを焼くようにすべり、鋭い痛みが走ったのかリクアさんは苦痛に表情を歪ませます。

 

コト

 「リクアさん!」

 

キラ

 「踏ん張れ!」

 

 アキラさんが咄嗟にロープを引き締め、リクアさんの体が中ほどで止まります。井戸の壁に肩を強くぶつけたのか、乾いた衝撃音が響きました。

 

クア

 「‥‥大丈夫。浅い擦過傷だ」

 

 リクアさんは荒い息を整えながら、再び体勢を立て直しました。片手のひらからじわりと血が滲み出ていますが、顔には痛みよりも悔しさの色が浮かんでいます。

 

リナ

 「ムリすんなって! てか血ィ出てるし!」

 

クア

 「問題ない。皮膚が切れただけだ。‥‥っと。ほら、鍬は回収できた」

 

 彼女はもう片方の手で鍬の柄を掴み、壁に立てかけるようにして押し上げました。

 セリナさんと私が手を伸ばし、鍬を受け取ります。

 

クア

 「‥‥さて、次は私だな」

 

 リクアさんは壁に残る突起を頼りに再び登り始めましたが、左手に力が入らないのか、動きがぎこちないです。

 

キラ

 「無理すんな、引き上げる」

 

 アキラさんがロープをぐっと引くと、彼女の体がゆっくりと持ち上がります。やがて地上に戻ったリクアさんの手のひらには、擦れて赤くなった痕と、うっすらと血がにじんでいました。

 

コト

 「リクアさん‥‥!」

 

クア

 「気にするな。大したことはない。‥‥だが念のため、医務室で消毒してくる。ついでに‥‥泥でも落としてくるかな。井戸の底が思っていたよりもぬかるんでいた」

 

 そう言って彼女は自らの右手を押さえ、深く息を吐きました。肩にも土がついており、転倒の衝撃で少し打撲したようです。

 足元は井戸の底が深い泥になっていたのか、靴全体が土気色に染まっています。この分だと中まで泥まみれでしょう。

 この先の作業でまた汚れるとはいえ、流石に一度洗い流してリセットすべきでしょう。

 

 「ごめん、アタイがすっ飛ばしたせいで‥‥!」

 

クア

 「謝るな、朝雛クン。作業中の事故はつきものだ。それよりも、残りの畝を仕上げておいてくれ。私が戻るまでに一段落ついていると助かる」

 

 そう言い残し、リクアさんは血のにじむ手を軽く握りしめながら立ち上がり、ゆっくりと牢屋敷の方向へ歩き出しました。

 

 背中越しに見えたその手の震えは、痛みよりも、自分の不注意を許せない悔しさのように見えました。

 

 

























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