夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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日常パート その2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───同日 17時3分 牢屋敷内 食堂───

 

BGM停止推奨

 

 ある意味ただならぬ気配を感じた私たちは、早足で食堂へと向かいました。幸い食堂は階段を登ってすぐ右手の扉だったので、迷うことはありませんでした。

 

ナタ

 「‥‥妙だね。さっきの騒ぎから一転して今はやけに静かだ」

 

 食堂の扉は閉じられた状態でした。そしてヒナタさんの指摘のように、扉の向こうは嫌に静かです。何かあったのでしょうか。不安はますます広がっていきます。

 

ナタ

 「ひとまず入ろうか。概ね何が起こっているか予想はつくけれども‥‥」

 

 ヒナタさんが先陣を切り扉を開けます。私もそれに続きます。

 

ナタ

 「おっとこれは‥‥中々な有り様だ」

 

 ヒナタさんは食堂の光景に思わず声を唸らせます。

 続けて私も食堂を覗き込みます。そして‥‥それを見ました。

 

(推奨BGM「Ema-虚-」♪37)

 

 私たちのために用意された食事は全て根こそぎ食べ尽くされていました。ビッフェスタイルの食事だったのでしょう。長机に用意されていた大皿全てが空っぽになっていました。

 床には全てを貪り終え、満足げな表情で仰向けに倒れるチサさんの姿。食べかすまみれの口元が、彼女が犯人であることを如実に指し示しています。

 

キラ

 「ハア‥‥ハア‥‥遅かったか」

 

 チサさんの傍らには、彼女を追いかけてきたであろうアキラさんが息をあげていました。

 

キラ

 「速攻で追いついたと思ったのにこのザマだ。‥‥食べるスピードが常軌を逸している」

 

 アキラさんは息がまだ整わないのか、恍惚そうな表情のチサさんを睨むのみに留まっていました。このまま放っておけば手が出そうだと思った私は思わずアキラさんの方へと駆け寄ります。

 

コト

 「ひ、ひとまず落ち着きましょう。食事はその、ゴクチョーさんに頼めばどうにかなるかもしれませんし」

 

キラ

 「‥‥そうなればいいんだがな」

 

 アキラさんの背中を擦っていると、入口のあたりが騒がしくなってきました。喧騒を聞いて他の人達も駆けつけてきたようです。

 

リス

 「お、おおおお食事が、全部食べられちゃってます!」

 

 「‥‥もしかして、今日食事抜き?」

 

リナ

 「あちゃー。こーれはやっちゃってんねー」

 

クア

 「‥‥由々しき事態だ」

 

 慌てる人、食事が取れないことに絶望する人、割と軽めのリアクションの人など、反応は人それぞれでした。

 

??

 「おやおやこれは‥‥初日から想定外の方向で騒ぎが起こってしまったようですね」

 

 突然、通気口の方から声がしました。見ると、天井付近にある通気口からゴクチョーさんが飛んできました。騒ぎを聞きつけたのでしょうか。

 

(推奨BGM「看るモノ達」♪16)

 

クチョー

 「食事を提供したのは、ほんの5分ほどの前のはずですが‥‥もしかして、あそこで寝ている彼女が、全て食べ尽くしてしまったのですか?」

 

キラ

 「そうだ。食事提供の通知を見た瞬間、俺の静止を振り切って飛び出しやがった」

 

クチョー

 「それはまあ‥‥災難でしたね」

 

クア

 「わざわざ現れたということは、何か救済策を持ってきた、ということでいいのだろうか?」

 

 リクアさんが低い声でゴクチョーさんに尋ねます。管理者側の人間‥‥いやフクロウなので警戒しているのでしょう。

 

クチョー

 「ふむ‥‥本来であれば食事は1日3回決まった量のみの提供なのですが‥‥。このような事態が起こることはある意味想定外でした」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「先ほどのラウンジでの彼女の言動を見ていれば、ある程度予想できた事件だと思いますわ。そちらの予見不足ではなくて?」

 

クチョー

 「やれやれ。耳の痛い話ですね‥‥。食事抜きにして変に暴動を起こされるのも厄介ですし‥‥」

 

クチョー

 「‥‥分かりました。今回は例外的に追加の食事を提供しましょう」

 

クチョー

 「ですが、これ以降は皆さんできちんと管理を行ってくださいね。看守に連絡を入れておきます」

 

 ゴクチョーさんが何やら顔を白黒させると、それを合図に看守さんがフラフラと現れ、食堂奥の扉へと消えていきました。恐らくあの奥が厨房なのでしょう。

 

 なんとか食事にありつけそうと感じたみなさんは、安堵の息をつきました。一方、この状況を作り出した犯人である当のチサさんは、満足したのか寝息をあげ始めました。

 

 「‥‥もっと食わせろォ」

 

オリ

 「夢の中でもまだ食べてますぞ! 食いしん坊属性マシマシですな‥‥」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「‥‥当分目覚めそうにありませんわね」

 

ナデ

 「このままここに寝かせるわけにもいきませんし‥‥部屋に運んだほうが良さそうですね」

 

リナ

 「あ。んじゃ、あーしがやるわ」

 

 カナデさんの意見に、真っ先にセリナさんが手を挙げました。床に寝転ぶチサさんの前に行くと、ひょいと子供をだっこする母親のように、慣れた手つきででチサさんを持ち上げます。

 

キラ

 「おい、お前がやる必要はねえよ。同室の俺が止められなかったのが原因の発端だ。俺が連れて帰る」

 

リナ

 「あーあー気にしなくていいし。あーし、妹でこういうの慣れてっから」

 

ノカ

 「星谷セリナ‥‥あなた、妹がいたのね」

 

リナ

 「んー、そうよ。ナノカっちもお姉ちゃんいる感じ?」

 

ノカ

 「い、いえ。私は‥‥ひとりっ子よ」

 

 セリナさんの問いにナノカさんは言い淀みました。兄弟姉妹に関する話がタブーなのでしょうか。

 

 「んー‥‥もうなくなったぞー‥‥」

 

リナ

 「おーおー愛いのう。んじゃあーしはこの子部屋に返してくるわ」

 

 セリナさんがチサさんを抱えて部屋を出ようとします。その時でした。

 

クチョー

 「少しお待ちなさい」

 

リナ

 「あ? どうした?」

 

クチョー

 「朝雛チサさんについてですが‥‥囚人間の秩序を乱したとして、今回は例外的に“懲罰房”送りとさせていただきます」

 

ヅハ

 「懲罰房‥‥それってなんですか」

 

クチョー

 「おや? 魔女図鑑の規則のところに書いておいたはずですが‥‥確認されていないようでしたら、こちらで改めて説明しておきましょう」

 

クチョー

 「懲罰房は、この牢屋敷内における規則に反した場合において連行される部屋です」

 

クチョー

 「主に自由時間以外での外出や、脱走行為の謀議ないし実行が判明した場合、連行の対象となります」

 

クア

 「‥‥だとしたら妙だな」

 

クア

 「規則には『食事を独り占めにしたら規則違反』とも『囚人間の秩序を乱したら規則違反』とも書かれていない」

 

クア

 「規則に書かれていない違反行為を勝手に作り出して連行するのは、平等に反しているのではないか?」

 

 リクアさんの反論は的を射ていました。何が違反行為になって、何が違反行為にならないか知らされていなければ、私たちは生活のしようがありません。

 しかし、リクアさんの反論に対してゴクチョーは無感情に解答します。

 

クチョー

 「ですから《例外的》と述べているのです」

 

クチョー

 「この先、毎回同じようなことを彼女にされては、たまったものではありませんから‥‥」

 

クチョー

 「“戒め”と“見せしめ”の意味を込めて、今回は例外的に懲罰房送りとさせていただきます」

 

クチョー

 「その代わりと言ってはなんですが‥‥拘束期間は明日の正午までとします。これならまだフェアだとは思いませんか?」

 

クア

 「理解しがたい提案だが‥‥どのみち、君たちに逆らえば私も懲罰房行きだ。連れていきたければ連れて行け」

 

 リクアさんはあっさりと引き下がりました。

 

コト

 「い、いくら明日の正午までとはいえ、拘束するのは少しかわいそうではないでしょうか」

 

 思わず私はゴクチョーさんに反論していました。リクアさんが引き下がってしまった以上、誰かが声を上げなければチサさんは連れて行かれてしまいます。

 

クチョー

 「‥‥‥‥‥‥。申し訳ありませんが、既にこちら側で決定したことですので」

 

 ゴクチョーさんは一瞬の間の後、再び機械的に返答しました。どうやら考えを変えるつもりはないようです。

 

 直後、看守さんが複数ある腕を使って大皿に乗った料理をいっぺんに持って食堂に戻ってきました。それらを大机に並べていったのを確認したゴクチョーさんは、看守さんに指示を飛ばします。

 

 看守さんはフラフラとセリナさんの方に行くと、ジッとセリナさんの顔を見つめます。チサさんをこちらによこせ、と訴えかけているのでしょう。

 

リナ

 「うっ‥‥これ、引き渡したくねーって言ったら、その剣でバサーってイカれるヤツ‥‥よね?」

 

クチョー

 「まあ‥‥そうなりますね。看守が黙示の抵抗と見なせば‥‥斬られるでしょう」

 

 ゴクチョーさんの淡々とした返答に慄いたセリナさんは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、チサさんを看守さんに差し出します。

 

リナ

 「ご、ごめんね、チサっち‥‥あーし、まだ死にたくないんだわ」

 

 セリナさんはオズオズとチサさんを手渡します。身柄を確保した看守さんは、そのままチサさんを連行します。

 

 すると、優しいセリナさんの抱き方から、乱暴な看守さんの抱き方に変わったせいか、チサさんが目を覚ましました。

 

 「‥‥あれ。アタイ、何を‥‥」

 

 チサさんは寝ぼけまなこであたりをキョロキョロと見回します。

 やがて自分が抱きかかえられていることに気が付き、視線を上げてようやく置かれた状況を理解したようです。

 

 「げーっ! か、看守だぁぁ! な、なにをするだァー!」

 

 チサさんはジタバタと暴れ出します。しかし、看守さんの複数ある腕にがんじがらめにされてしまっているので、抵抗は意味をなしていません。

 

クチョー

 「あっ。下手に動かないほうがいいですよ。あんまりにも長い時間もがくと、反抗の意思ありと見なされて、その場で処刑されちゃいますから‥‥」

 

 「ピッ!」

 

 ゴクチョーさんの言葉に、チサさんは即座に抵抗を止めました。そしてそのまま、親猫に首根っこを掴まれた猫の如く、固まったまま食堂から退出させられます。

 

リナ

 「チサっちまじでごめん! 後でご飯持ってってあげるから!」

 

コト

 (‥‥これ以上餌付けするつもりなのでしょうか)

 

 「アタイが何をしたってんだぁぁぁ‥‥」

 

 チサさんの嘆きは徐々に遠ざかっていきました。それを見たゴクチョーさんも、いつの間にかどこかへと飛び去っていったようです。食堂には12人の少女たちが取り残されました。

 

クア

 「‥‥ひとまず食事にしよう。せっかく用意してくれたのだからな」

 

 リクアさんの提案で、私たちは食事に入ることになりました。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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