夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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日常パート その3

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

(推奨BGM「Sar-gedy-静-」♪50)

 

 チサさんの連行後、私たちは大皿に盛られた料理を用意されたプレートとお椀に分けて、それぞれ食事を取っていました。

 プレートは4つにスペースが区切られており、それぞれに少しずつ食べ物を配置する、いわばビュッフェスタイルです。

 

 座席は監房と違って指定されておらず、みなさん好きなところに座ったようです。

 それでもどうやら既に合う、合わないの雰囲気をある程度感じ取ったのか‥‥一定のグループができているように見受けられました。

 

 固まって座っている人たちを確認すると、まずはリヴィアさんとアキラさんが目につきます。

 先ほどラウンジでいがみ合っていた2人ですが、1人で座ろうとしたアキラさんの元にリヴィアさんが近づいていったようです。

 

 アキラさんはその行動に舌打ちをしていましたが、特に席を移動すること無くそのまま食事を取り始めました。一方のリヴィアさんはどこか嬉しそうな顔でアキラさんの向かいで食事を取っています。

 ‥‥どうやらあの2人、浅からぬ関係がありそうです。

 

 他に固まって座っているのは、ミオリさんとセリナさんの2人です。こちらはセリナさんが声をかけたようで、ミオリさんはどもりながらもお誘いに乗ったようです。

 

 ミオリさんは時々体の節々から変な音を出しながら食事を取っています。セリナさんはその様子を見て面白がっているようで、スマホを取り出して勝手に写真を撮っています。

 ‥‥あれが“オタクに優しいギャル”というやつなのでしょうか。

 

 その他の人たちは単独で食事を取っていました。ですが、ミトさんとカナデさん、あとシヅハさんとヒナタさんは比較的近い位置で食事を取っています。どこか気になるところがあるのかもしれません。

 

 私は‥‥どこに座ればいいのかわからず、ひとまず同室のヒナタさんの近くに陣取ることにしました。取り分けた謎の料理たちをスプーンで口に運んでいきます。

 

 「‥‥口の中の水分が全部持ってかれる、これ」

 

 ミトさんは1人2つ分用意された謎のブロック状のビスケットを、モサモサと食べています。口から欠片がポロポロと落ち、彼女のドレスにこぼれていきます。

 

リス

 「うっ‥‥これ、雑草の風味がします‥‥」

 

 謎の緑色のペーストを口に運ぶエリスさん。‥‥顔が深緑になっています。相当口に合わないのでしょう。

 

ナデ

 「‥‥このスープ。味が薄すぎです‥‥それにヌルい‥‥」

 

 カナデさんはスープをひとくち飲んだ瞬間、しかめっ面を浮かべます。

 私も試しに口に運んでみると、絶妙な味の薄さが広がりました。コンソメベースのスープなのでしょうが、味が薄すぎてスープの体をなしていません。

 《水のようなスープ》‥‥いえ、《スープのような水》といったほうが正しいかも知れません。

 

ヅハ

 「‥‥このコーンビーフだけは普通みたいです。味もそんなに悪くない」

 

 恐らくコーンビーフだけは既製品なのでしょう。これだけはまだ食べられる味でした。培養肉や大豆肉が提供されていたら、もっと渋い顔をしていたかも知れません。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「‥‥一体何味なのかしら、このゼリー。それに目に悪いですわ」

 

 リヴィアさんは謎に虹色に輝くゼリーをツンツンとスプーンでつついています。

 私もひとくち食べてみると、ケミカルな甘みが味蕾を刺激します。海外のお菓子ともまた違ったベクトルの甘さと果物の風味で、脳がチカチカとする感覚に襲われます。

 

オリ

 「いやーまさか、いわゆる“ディストピア飯”を食べる日がやってくるとは‥‥」

 

オリ

 「オタク的には一度は憧れるものですが、実際にこれを毎日食べる可能性があるとなると、萎えますなあ」

 

 みなさん渋い顔で黙々と食事を取っています。食事を全く取れないというのは辛いですが、このようななんとも言えない味の料理しか提供されないというのもまた辛いものです。

 この先の生活では、このような料理しか口にすることができないのでしょうか。

 モソモソとビスケットを齧りながら、先の見えない状況を憂います。私たちは‥‥ここから無事に家に帰ることができるのでしょうか。

 

 せめてもの安らぎの時間になるであろう食事の際に提供される料理がこれでは、気も休まりません。皆さんも同じ感情を共有しているのか、空気は重苦しいものとなっていました。

 

クア

 「ふう、ご馳走様。みんな、食べながらでいいから聞いてくれ」

 

 重苦しい空気を断ち切ったのはまたもリクアさんでした。

 先ほどのラウンジでもそうでしたが、彼女は私たちの中でリーダーシップを取ろうと試みているようです。

 

クア

 「みんな、突然奇妙なところに誘拐されて不安だろう。私もまだ状況が飲み込めていない」

 

クア

 「けれども、みんなで力を合わせればこの状況を乗り越えられるはず。私はそう信じている」

 

 リクアさんはやや芝居がかった喋り方で私たち全員に視線を送ります。

 

クア

 「既にみんな気がついているだろうが、私たちは1人1台スマホを支給されている」

 

オリ

 「‥‥残念ながら、圏外でネット接続は不可能なようですがな。うう‥‥リリース日からログインしていたソシャゲの連続ログイン記録がぁ‥‥」

 

クア

 「ソシャゲ? 何の話をしているかわからないが‥‥圏外で外への連絡手段が取れないのは事実だ」

 

クア

 「外部からの救助をこのスマホで行うことは諦めたほうがいいだろう」

 

クア

 「問題になるのは、さっきあのフクロウがラウンジで口走った《魔女図鑑》というアプリだ」

 

 リクアさんは手元のスマホを操作すると、魔女図鑑のアプリのホーム画面を提示しました。

 

クア

 「いくつかタブがあるようだが、この内“規則”のタブが一番重要だ。食事を摂り終わったものから各自確認してもらいたい」

 

クア

 「“人物”タブには全員分の人物リストが載っているようだから、これでお互いの顔と名前を覚えよう」

 

 食事を取り終えていた私は、スマホを取り出すと魔女図鑑のアプリを開きます。規則のタブをタップすると、ⅠからⅤまでの規則が表示されました。

 中身をざっと確認します。規則の中身は、概ね『管理者側に逆らうな』といった趣旨のものが大半で、私たちが囚人として囚われの身になった事を改めて実感させられます。

 

 他のみなさんも、まずい食事はさっさと片付けてしまいたかったのか、ほとんどが食べ終えているようです。同じようにスマホを取り出して、規則の確認をしているようでした。

 

クア

 「先ほどの朝雛クンのようにならないために、これから各自この規則に書かれた内容に従って生活すべきだろう」

 

クア

 「もちろん、無理にとは言わないが、無用なストレスがかかるのはよくない。規則に従うことが懸命だと助言しておくよ」

 

ナデ

 「『囚人は強いストレスを受けると魔女化が進む』‥‥。『魔女になった者は堪えきれない殺人衝動で、殺人を犯すおそれがある』‥‥」

 

ナデ

 「つまり、あなたは私たちが魔女化しないように努めるべき。だからストレスを避けるように規則を守ろう、と主張しているわけですか」

 

クア

 「その通りだ。規則のページの他に、“記録”というページがある。魔女や魔法に関する情報が載っているページのようだ」

 

クア

 「今鳳月クンが言ってくれたように、私たちは皆、魔女になる可能性があると、記録のページに記述がある」

 

クア

 「殺人衝動を抑えきれない、恐ろしい魔物‥‥そういった印象が説明から見て取れる」

 

クア

 「あのフクロウが言っていた殺人事件は、これが原因で起こると見ていいだろう」

 

 “殺人事件”‥‥改めてその言葉の響きに身震いします。私たちの中から殺人者が出るなど、考えたくもありません。

 

オリ

 「なるほど‥‥一見すると今の状況はデスゲームそのものですが、よくよく考えてみると、管理者側が望んでいることはあくまでも“共同生活”ということになっていますな」

 

オリ 

 「管理者が才能ある少年少女を集めて《コロシアイ》をさせるようなデスゲームものとは、根本的に違っているようです」

 

オリ 

 「我々の置かれた状況は、あくまで共同生活の中で殺人事件が“起こり得る”というだけであって‥‥」

 

オリ 

 「管理者は動機を与えるなどして、積極的に殺人が起こるような環境を作り出そうとはしていないようです」

 

クア

 「倉科クンの指摘のとおりだ。私たちが行わなければならないのは、あくまでも“共同生活”。誰かを殺すことを強いられているわけではない」

 

クア

 「すなわち、“必ず殺人が起こる”というあのフクロウの発言はある種ブラフとも言える」

 

ヅハ

 「けれども‥‥こんな環境に置かれたんじゃ、いずれストレスが溜まって魔女化が進行すると思います」

 

ヅハ

 「それに‥‥この食事はストレスになるレベルでまずいです。もし管理者側が殺人を望んでいないのであれば、できる限り快適に過ごせる環境を作るはずです」

 

ヅハ

 「粗悪な監房、行動の自由が保証されない規則、まずい食事‥‥」

 

ヅハ

 「少なくとも管理者側は私たちにストレスを与えることを目的として、これらの設備や規則を設けているように思えます」

 

 ミオリさんとリクアさんの意見にシヅハさんが反論しました。確かに彼女の言うことも的を射ています。こんな生活環境で過ごしていれば、1週間もしないうちに精神がすり減ってノイローゼになってしまいそうです。

 

クア

 「その点は私も危惧している。‥‥いくつか案がないわけではないが、まだ私の中で消化しきれていない」

 

クア

 「数日間時間をもらいたい。ストレスに関する問題について、結論は必ず出すよ」

 

 リクアさんは堂々と言い切りました。その姿勢に気圧されたのか、シヅハさんはそれ以上何も言いませんでした。

 

 リクアさんはその後着席し、再びスマホに目線を落としました。魔女図鑑の内容を改めて確認しているのでしょう。

 私も再び規則に目を通します。殺人事件、魔女裁判、そして処刑‥‥どれも現実では、普段の外の世界での生活とは到底無縁だった単語の数々。それが共同生活の規則の中に明文として記載されていることに大きな不安感と違和感を覚えます。

 

BGM停止推奨

 

 ‥‥本当に殺人事件が起こるのでしょうか。もし殺人が起こり得るとして、私たちはそれを未然に防ぐことができるのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──いえ、“全員殺す”‥‥。それが私たちの使命です。

 

 ──全ては‥‥‥‥‥‥のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コト

 「‥‥!?」

 

(推奨BGM「慄き鳴き」♪14)

 

 突然頭の中に声がしました。誰かに話しかけられたのではないかと周囲を見回しますが、皆さんと私の間には、一定程度の距離があります。誰かが私の耳元で囁いたわけではありません。

 それにさっき聞こえた声の主は、ここにいる人たちの声と一致しません。私は今、ここに存在しない誰かに話しかけられた‥‥そう考えざるを得ません。

 いえ、しかしこの感覚はどちらかというと、誰かに話しかけられたという感覚ではなく‥‥私の過去の記憶‥‥?

 

コト

 (‥‥ダメです。思い出せません‥‥。大事なことのはずなのに‥‥)

 

 頭に靄がかかっているような感覚に襲われます。何か非常に大事なことを忘れてしまったような‥‥。

 

 その瞬間私は目眩に襲われます。激しく脳が揺さぶられたような不快感が全身を駆け巡り、思わず体を縮こませます。

 私は一体誰なのでしょう。記憶喪失でもないのにそう自身に問いかけざるを得ない奇妙な状況に体の震えが止まりません。

 

 ‥‥これではいけません。周りに心配をかけてしまいます。今はとにかく自分を律しないと。

 

 思えば、自宅のベッドで眠りについてから、牢屋敷に来るまでの記憶を私は有していません。どのようにして連れされたのかは分かりませんが、その際に記憶の混濁が起こったのでしょう。

 今聞こえた言葉は、私が過去に見た映画か何かのワンシーン‥‥そうに違いありません。

 そのように私は自己完結しました。しかし疑問が解消したわけではありません。

 

 

 

 ──なぜ私はここに連れてこられたのでしょうか。

 

 

 ──なぜ私はここに来るまでの記憶を持っていないのでしょうか。

 

 

 ──なぜ私は大切な何かを忘れているのでしょうか。

 

 

 

 考えても仕方のないことで頭がいっぱいになりました。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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