夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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日常パート その7

 

 

 

 

 

 

 

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───同日 某時刻 牢屋敷内 図書室───

 

(推奨BGM「Sar-gedy-静-」♪50)

 

 私は2階の図書室を訪れていました。

 ここにある本の大半はヒナタさんが命名した謎の言語‥‥フィクスマージ語で書かれていましたが、もしかしたら私たちの知っている言語で書かれた本もあるかもしれません。

 今後になにか役立つ情報が得られる可能性に期待して、私は扉を開けました。

 

 目に真っ先に飛び込んでくるのは、やはりあの謎の大木。相変わらず天井に根を張って、葉っぱの代わりに紙を辺りに撒き散らしています。何度見てもやはり奇妙な光景です。

 以前ここを訪れた時は、手前側だけ探索していたので今日は奥の方まで探索してみることにします。本棚がいくつも置かれていて、ここに蔵書される本を全部確認するだけでも、相当な期間を要しそうです。

 

 辺りをキョロキョロと見回しながら探索していると‥‥

 

【黒部 ナノカ】

 「きゃっ」

 

 本棚の角からナノカさんが出てきて、出会い頭にぶつかってしまいました。幸いお互い転倒することはありませんでしたが、驚いた時の動作で彼女が腕に抱えていた本が床に落ちます。

 

【篠宮 マコト】

 「あ。ご、ごめんなさい! 前方不注意でした‥‥」

 

 私は慌ててナノカさんに謝りつつ、落ちた本を拾います。表紙にはフィクスマージ語。相変わらず、何が書いてあるかは判別できません。

 

【黒部 ナノカ】

 「い、いえ。こちらも少し考え事をしていたから‥‥。ごめんなさい」

 

 ナノカさんも残りの本を拾い上げると、私が回収した本を受け取ります。

 

【篠宮 マコト】

 「今日は一体ここで何を?」

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥色々と調べ物よ。ここから脱出するための手はずとして、まずは敵の情報を知るのが先決だわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「ここに蔵書されている本は、おそらくその殆どが魔女によって書かれたものだと推測できる。‥‥使用されている言語が、例のフィクスマージ語だから」

 

 ナノカさんは抱えた本をキュッと握りしめます。以前のリクアさんの計画に、ナノカさんは難色を示していました。現状ではナノカさんが、私たちの中で最も脱出に意欲を見せている人物だと言えるでしょう。

 

 ナノカさんは近くの机まで移動すると、本をドサリと置きました。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「あら、珍しい組み合わせですわね」

 

 机の反対側にはリヴィアさんの姿がありました。彼女も表紙にフィクスマージ語が書かれた本を読んでいるようです。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「おふたりで読書会といったところかしら?」

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥そんな楽しげな集まりではないわ。‥‥私は今から、この本を‥‥ひいては、この言語の翻訳を試みるつもりよ」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「ずいぶんと壮大な計画ですわね」

 

 焦りの表情を滲み出すナノカさんに対し、リヴィアさんはまあ、と口元に手を当てて少し大げさなリアクションを取ります。

 

【黒部 ナノカ】

 「いつまでも、ここで過ごし続けるわけにはいかない。‥‥いずれは脱出しないと、みんなここで共倒れになる」

 

【黒部 ナノカ】

 「私は‥‥そんな事になってほしくないの」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「‥‥それはそうですわね。このままここで過ごし続けていても‥‥私たちに待っているのは《緩やかな死》のみ」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「脱出しなければと逸るのも、当然のことですわね」

 

 リヴィアさんはそう返答すると、再び本に視線を落とします。ページをめくる早さを観察してみると、そのペースは比較的早めです。

 

【篠宮 マコト】

 「リヴィアさん、結構早いペースで読んでいるように見えますけど‥‥もしかして、内容を理解できているんですか?」

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥! そうなの、リヴィア・ローゼンタール‥‥?」

 

 私の推理にナノカさんが食いつきました。リヴィアさんはため息をつくと、私たちの問いに首を横に振ります。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「いいえ。ぜーんぜん分かりませんわ」

 

 リヴィアさんはお手上げとでも言いたげに、両手を挙げる大げさなポーズを取ります。

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥期待外れだったわね」

 

【篠宮 マコト】

 「けれど、リヴィアさんってその‥‥“外国人”ですよね? どこの国の出身なのかは、知りませんが‥‥」

 

【篠宮 マコト】

 「もしかしたら、リヴィアさんの国の言葉とフィクスマージ語に何か共通点があったりしないでしょうか?」

 

 私たちの中で、唯一リヴィアさんだけが外国人だと思われます。ここまで、彼女の国のことについて、私は情報を得ていません。

 純粋な好奇心半分。翻訳の手がかりが眠っている事に対する期待半分を抱えて、私はリヴィアさんに尋ねます。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「わたくしの出身は、貴方がたが知らないようなとても小さな国です。おそらく名前を申し上げても、頭に疑問符が浮かぶだけでおしまいでしょう」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「それと、わたくしの国の言葉との共通点は‥‥今のところ、見いだせていませんわね。貴方がたの国の言語は、比較的容易に理解できたのですが‥‥」

 

 リヴィアさんはお手上げといいたげな面持ちで、読んでいた本を閉じます。

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥けれども、あなたは母国語に加えて、日本語も修得しているのよね? 言語に対する造詣は私たちよりも高いはずだわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「あなたさえよければ‥‥協力してくれないかしら。私たち全員にとっての利益になるはずよ」

 

 リヴィアさんは頬杖をつくと、しばし考え込みます。やがてゆっくりと顔を上げると静かに頷きました。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「まあ、ここでやることもないですし‥‥手伝って差し上げますわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「ほんと‥‥? ‥‥ありがとう、リヴィアさん」

 

 ナノカさんは破顔して喜びを露わにします。口調も少し柔和なものになっていて、彼女の新たな一面が少し見えたような気がします。

 

【篠宮 マコト】

 「しかし‥‥どこから手をつけたものでしょうか。始めようにも足がかりがないと‥‥」

 

 私の懸念にリヴィアさんが答えます。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「いえ‥‥全く手がかりがないわけではございませんわ」

 

【篠宮 マコト】

 「え。でもさっきは、母国語との共通点は見いだせなかったって‥‥」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「それは、わたくしの国の言葉との話ですわ。‥‥手がかりは、そう。今まさに、ここにいますわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「ここに‥‥“いる”?」

 

 リヴィアさんから飛び出した意外な一言。てっきり、何かの本にヒントが載っているのかと思いましたが‥‥“いる”という言い方は、まるで人物を指しているようです。

 どうやら私の予想は当たっていたようで‥‥リヴィアさんはおもむろに手を上げると、そのまま私を指さしました。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「篠宮さん。他ならぬあなたがその手がかりですわ」

 

【篠宮 マコト】

 「わ、私、ですか‥‥?」

 

 何か悪いことをしたわけでもないのに、ドクンと心臓が跳ねました。私‥‥なにかしましたっけ?

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「以前の裁判の冒頭‥‥そこから手がかりは顔を出していましたわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥もしかして。篠宮マコトが叫んだのをきっかけにみんなが使い出した、あの謎の単語のことかしら」

 

 リヴィアさんは首肯します。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「ええ。”IG-ject”、“SaGree”といった謎の単語たち‥‥」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「本に載っているフィクスマージ語は意味が判別できないですが‥‥わたくしたち、これらの単語は、直感的にその意味を理解していたでしょう?」

 

 ‥‥確かに、私があの単語を叫んで以降、皆さん、議論中事あるごとにあの謎の単語たちをごく自然に‥‥それこそ、自身の母国語のように取り扱っていました。

 そのような芸当ができるのは、単語の意味やニュアンスを肌感覚で理解しているから。本に載っている知らない単語よりも、手がかりとしてはかなり価値が高そうです。

 

【黒部 ナノカ】

 「例えば、IG-jectなら‥‥『それは違う』といった意味合いの時に使っていたわね」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「ええ。ここからこの言葉の構造が何となく見えてくるはずですわ」

 

 リヴィアさんは近くにあったペンを取ると、メモ用紙に“IG-ject”と書き込みます。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「おそらくあの単語を文字に起こすなら、こんな感じになるでしょう」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「“IG-ject”‥‥何かに異を唱える時にこの語を用いるという情報も合わせて推察すると‥‥この言葉の構造が見えてきますわ」

 

【篠宮 マコト】

 「”何かに異を唱える”‥‥“IG-ject”‥‥。あ、もしかしてこの“IG”の部分って、《異議》から来ているんじゃないでしょうか」

 

 リヴィアさんは軽く笑みを浮かべました。どうやら正解のようです。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「わたくしもそう考えますわ。そして残る“ject”の部分。こちらは‥‥“Objection”の一部から来ていると、わたくしは考えますわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「“Objection”‥‥英語で、《異議》と訳せるわね」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「ええ。これらから推測するに‥‥おそらく、フィクスマージ語は、同じ意味を持つ複数の言語を合成したものである可能性が高いと言えますわ」

 

 リヴィアさんの言葉を聞いて思い出すのは、フィクスマージ語の辞典に書かれた表紙の文字。確か‥‥“fiXmArge”となっていたはずです。

 今のリヴィアさんの話と合わせて考えると‥‥。

 

【篠宮 マコト】

 「“fix”‥‥単語のスペルなどを“調整”したうえで、“merge”‥‥“合体”させる‥‥。なるほど、フィクスマージって、そういうこと‥‥なんですかね?」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「そうだと思いますわ。“IG-ject”に限って言えば、英語と日本語の複合体ですが‥‥他の単語はどうか分かりません」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「ですが、わたくしたちが知っている言語が元になっていると分かっただけでも‥‥十分な足がかりになり得るはずです」

 

 リヴィアさんの推理に私とナノカさんは感嘆のため息を漏らします。ナノカさんは早速着席すると、本を開きました。

 

【黒部 ナノカ】

 「‥‥ありがとう、リヴィア・ローゼンタール。おかげで取っ掛かりが見えたわ」

 

 以前ヒナタさんが見つけたフィクスマージ語の辞書をナノカさんは1ページずつめくって、中身を確認しています。

 

【黒部 ナノカ】

 「時間がかかるかもしれないけれど‥‥この言語の意味を必ず理解できるようになってみせるわ」

 

【黒部 ナノカ】

 「そして‥‥必ずここから出る手がかりを見つける」

 

 ナノカさんの瞳は静かに、けれど強い決意を宿していました。その様子を反対側から見ていたリヴィアさんはそっと呟きます。

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「わたくしもできることがあれば、お力添えいたします。けれど‥‥急ぎすぎないほうがよくってよ」

 

【リヴィア・ローゼンタール】

 「”焦燥は徒労の友”なんて言葉もあります。冷静に努めることを推奨いたしますわ」

 

 リヴィアさんの小さな忠告は、ナノカさんの耳に届いていたのでしょうか。

 必死になってページをめくってはメモに単語を走り書きしていくナノカさんに、私はかける言葉を見つけることが出来ませんでした。

 

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以下、作者後書き


















本作オリジナルのフィクスマージ語について触れたので、他のフィクスマージ語についても解説しときます。

・IG-ject…作中で説明された通り。「異議」と「Objection」を合わせたもの

・KuREIV…「くらえ」と「Receive」を合わせたもの

・MitCho…「ちょっと」と「Minute」を合わせたもの

・KoPint…「ここだ」と「Point」を合わせたもの

・SaGree…「賛成」と「Agree」を合わせたもの

・PurK’yu…「追求・追究」と「Pursuit」を合わせたもの

・RoN‘FuTe…「論破」と「Refute」を合わせたもの

・Zell…「全部」と「All」を合わせたもの

・ArgR’oN…「反論」と「Argue」を合わせたもの

“wE-MitTa”のみ、原作で既に考案されているものを拝借しています。
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