夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

9 / 16
日常パート その6

 

 

 

 

 

 

 

【選択肢へ戻る】

 

───同日 某時刻 監獄島 サンルーム───

 

(推奨BGM「pAciKa' ConWa」♪32)

 

 マップを頼りに、私はサンルームを訪れていました。

 

 囚人向けに用意されたであろう施設の中では、唯一このサンルームだけが牢屋敷内から入ることができず、屋敷に併設される形で建てられています。

 私は一度医務室を経由し、勝手口から外に出るとサンルームへと向かうルートを通りました。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら、篠宮さん。奇遇ですわね」

 

 サンルームに入るとすぐ、私を呼ぶ声がしました。見ると、リヴィアさんがいました。

 白い蝶を想起させる模様があしらわれたガーデンチェアに腰掛けて、優雅そうに紅茶を飲んでいます。

 

リス

 「あ、篠宮さま。ようこそいらっしゃいました」

 

 傍らにはなぜかエリスさんがいて、お茶汲みをさせられています。‥‥メイドだからでしょうか。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「ちょうどいいところに三条さんがいらっしゃったから、とっつかまえてお茶会と洒落込んでいるところですわ。よければ篠宮さんもご一緒にいかが?」

 

 リヴィアさんは近くにあったもう1脚のガーデンチェアを自ら引いて手招きしてきます。

 

コト

 (断る理由もありませんし‥‥せっかくならいただきましょうか)

 

コト

 「では、お言葉に甘えて、ご相伴に預からせていただきます」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら、そんな堅苦しくしなくてもいいんですよ」

 

 リヴィアさんは少し残念そうな面持ちです。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「わたくしは、この牢屋敷に閉じ込められた仲間の1人として、あなたとお茶会をしたいと思っていますの。だからほら、そんなに気を張らないで」

 

 リヴィアさんは柔和な笑顔を浮かべ手招きします。いかにも名家のお嬢様然とした人ですし、会う人みんなに毎度丁重な対応をされているのでしょう。

 

コト

 「わかりました。では、自然体で」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「その発言が出る時点で既に自然体ではありませんわ。ここにいるのは年頃の女の子3人。そう思ってくださいな」

 

 リヴィアさんはティーカップを傾け、ゆっくりとハーブティーを流し込みます。私の前にも淹れたてのお茶がエリスさんから差し出されます。ひとくち飲むと、ハーブの香りがいっぱいに広がりました。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「わたくしがさっき手摘みしてきたハーブで作りましたの」

 

リス

 「わ、私も同行しました。ローゼンタールさま、ハーブの知識が豊富で、とても勉強になりました」

 

コト

 「この辺り、ハーブが自生しているんですね」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「相当大きな島のようですから、植生も幅広いものになっているようですわね」

 

コト

 「‥‥“島”? 今、島と言いましたか?」

 

リス

 「ハーブ摘みをしている時に気がついたのですが、この辺り、かすかに潮の匂いがするんです。波と思しき音も聞こえますし、間違いないと思います」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「広さはおおよそ50ヘクタールといったところでしょうね。かなり広大な土地のようですわ」

 

コト

 「かなり大きな島、ですか‥‥」

 

 それだけ大きな土地を有する誰かによって私たちはここに連れてこられたのでしょう。一体私たちはなぜ‥‥。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「まあ、今は脱出がどうこうと言える時期ではありませんわ。じっくりと状況を観察して、来たるべき時を待つしかありませんわね」

 

 私の懸念を察知したのか、リヴィアさんは優しく私に言います。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「三条さん、おかわりいただけるかしら」

 

リス

 「ローゼンタールさま、かなりの量をお召し上がりですが‥‥大丈夫ですか?」

 

 エリスさんの心配をよそに、リヴィアさんは心配ない、と言いたげにため息をつきます。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「某国の紅茶の1日あたりの平均摂取量は5杯から7杯と言われています」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「他にも、世の中には数時間でコーヒーを17杯も召し上がる方がいらっしゃると、以前小耳に挟みましたわ。わたくしのお茶の摂取量など、微々たるものです」

 

 ‥‥某国の摂取量はともかく、コーヒー17杯の人は流石にカフェイン中毒で倒れてしまうのではないでしょうか。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「ついでに、そのコーヒー17杯の方は、モーニングコーヒーでさらに13杯もコーヒーを召し上がられているそうです。それに比べたら‥‥この程度、大したことありませんわ」

 

 ‥‥胃に穴が空きそうですね。そのコーヒーの人。

 

コト

 「ところで、エリスさんはその‥‥お茶汲み係でいいんですか? どうせだったら一緒に楽しみましょうよ」

 

リス

 「いえ‥‥私はむしろ、こっちのほうがいいんです。完璧なメイドを目指すのが、私の将来の夢、ですから」

 

 いわゆるクラシカルメイドの囚人服がひらりと揺れました。

 この牢屋敷で支給される囚人服は、各囚人にちなんだものが支給されるパターンと、そうでないパターンがあるようです。

 リヴィアさんとエリスさんは少なくとも前者に分類されそうです。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「といっても、まだまだその道程は遠いようですわ」

 

 リヴィアさんはエリスさんのエプロンを指さします。彼女のエプロンには、赤だったり緑だったり何かしらのシミがこびりついています。それらの色から察するに、今朝出された例のまずい食事が飛び散ったのでしょう。

 

リス

 「こ、ここここれは、そのぉ‥‥は、恥ずかしいです」

 

 真っ赤になって慌てるエリスさんの姿に、私は思わず笑みをこぼしました。

 

コト

 「あはは。まあ誰にでも失敗はありますよ」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「そうですわ。わたくしだって完璧を目指そうとしていても、現実はそうはいかないものですわ」

 

リス

 「い、いえ。ローゼンタールさまは完璧なお嬢様として振る舞われているように見えます」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら。買いかぶりすぎですわ。わたくしは《完璧》ではありません。ただ‥‥“完璧であるように見せる”のは得意ですの」

 

 軽く笑いながらも、リヴィアさんの言葉にはどこか鋭さがありました。

 

リス

 「‥‥完璧であるように、見せる‥‥」

 

 その言葉を繰り返すエリスさんの声は、小さく、微かに震えていました。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「ええ。世の中、実際に完璧である人なんて滅多にいませんもの。わたくしだって過去には‥‥」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「‥‥いえ、今はやめておきましょう」

 

 一瞬何かを話しかけたリヴィアさんでしたが、唇を軽く噛むと、結局話すのを辞めてしまいました。‥‥誰にでも、言いたくない過去というものがあるのでしょう。

 

 リヴィアさんの優雅な口調の裏で、エリスさんの表情から笑みが薄れていきます。

 彼女は自分の胸の前でぎゅっと両手を握りしめ、何かを抑え込むようにうつむきました。

 

コト

 「‥‥エリスさん?」

 

リス

 「わ、私は‥‥そういうふうに、できたらいいんですけど‥‥。いつも、失敗ばかりで‥‥皆さんに迷惑ばかりかけて‥‥」

 

 ハーブティーの香りの中に、わずかに湿った空気が混ざったような気がしました。

 エリスさんの手が小刻みに震え、カップの中の液面がかすかに揺れています。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「まあまあ、落ち着いて。わたくし、そんなつもりで‥‥」

 

 リヴィアさんが言いかけた瞬間、私は胸の奥がざわつくのを感じました。

 理由のわからない焦燥感。不安でも、悲しみでもなく、もっと混ざり合った何か、心が軋むような感覚。

 

コト

 (なん、ですか。これ‥‥?)

 

 エリスさんがうつむいたまま、息を詰めているのが見えます。

 彼女の指先がかすかに白くなるほど力が入り、その震えが、まるで空気ごと伝わってくるかのようでした。

 胸の奥で、誰かの“感情”が触れた気がしました。私の心臓が、彼女の鼓動と同じリズムで高鳴っていきます。

 

コト

 (まさか、これって‥‥)

 

リス

 「も、申し訳ありません。‥‥感じちゃってますよね、私の、“感情”」

 

コト

 「え、ええ。なんとも言えない感覚ですが‥‥急に焦燥感に襲われています」

 

リス

 「それ、私の《魔法》です」

 

コト

 「ま、《魔法》‥‥?」

 

リス

 「《感情共鳴》とでも言えばいいのでしょうか。私が感じた感情、喜怒哀楽全ての感情が、他の人にも伝播してしまうんです」

 

リス

 「私には操作ができない魔法で‥‥無意識の内に周囲の人に私の感情が共有されてしまうんです」

 

 感情の共鳴‥‥感情を押さえるべき栓が抜けっぱなしになってるのみならず、それが周囲にまで広がってしまっているのでしょうか。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら。わたくしはなんともありませんわ」

 

リス

 「効きやすい人やタイミングなんかがある魔法なんです。ローゼンタールさまは、今回たまたま影響されなかっただけかと」

 

 エリスさんは俯いたまま、苦しそうにしています。

 

リス

 「あ、あたし、自分の魔法が大嫌いです。周りの皆さんに迷惑をかけて‥‥こんなの完璧じゃありません」

 

 エリスさんは手にしていたティーポットをガーデンテーブルの上に置きました。

 

リス

 「メイドは‥‥自分を滅し、使えるべき人のために感情を押さえるべき存在です」

 

リス

 「そんな私が、自分の感情に押し流されてしまうようでは‥‥完璧とは言えません‥‥!」

 

 その声は小さく震えていました。

 サンルームを満たしていたハーブの香りが、いつの間にか薄らいでいっているのを感じます。窓の向こうで陽光がきらめいているのに、空気はどこか冷たいものでした。

 リヴィアさんはしばしティーカップを見つめ、静かに息を吐きました。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「“完璧”、ね‥‥。でも、わたくし思いますの。完璧って、他人を不安にさせないことだけを指すわけではありませんわ」

 

 リヴィアさんの声は落ち着いていました。どこか優しい響きを帯びています。

 サンルームの透明な天井を通して、午後の日差しがリヴィアさんの銀髪を照らしました。

 紅茶の表面に光が反射し、小さな光の粒がゆらめいています。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あなたの魔法が“感情を伝える”ものなら、それは本来、とても素敵なことなのではなくて? たとえば、喜びや安らぎのような感情を広げられたら、みんなを幸せにできるかもしれませんわ」

 

コト

 「ええ。私もそう思います。ネガティブな感情を伝えてしまうのが怖いのはわかりますが、ポジティブな感情だって伝わるんでしょう? それなら、それを使えばいいんじゃないですか」

 

 私は無意識のうちにそう言葉を継いでいました。彼女の“感情”が心に流れ込んできた瞬間の、あの圧倒的な力を思い出します。

 あれがもし、悲しみではなく、温かさや優しさだったなら‥‥。

 

リス

 「ポジティブな感情‥‥」

 

 エリスさんは顔を上げました。

 けれどその瞳には、わずかに怯えのような光が宿っています。

 

リス

 「でも、嬉しいとか楽しいとか‥‥そんな感情でも、伝わった相手が本当にそう感じているとは限りません。私が“無理に”笑わせているだけかもしれません」

 

 その言葉には、長いあいだ積み重なってきた“自己否定”の影が落ちているとわたしは感じました。喜びすら他人を支配するものとして恐れている‥‥そんな風に見えます。

 

コト

 「それでもいいじゃないですか」

 

 思わず、語気を強めてしまいました。エリスさんが驚いたように目を瞬きます。

 

コト

 「誰かが笑えるきっかけになるなら、それだって“救い”だと思います。たとえ作られた笑顔でも、そこから本物の笑顔に変わることだってありますよ」

 

 エリスさんは何かを言いかけて、口を閉ざした。

 その沈黙の中で、外の木々が風に揺れる音が小さく聞こえます。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「ええ。あなたが感情を封じ込めてしまえば、誰も何も感じ取れませんわ」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「でも、あなたが笑えば、誰かの心も少し温かくなるかもしれない。わたくしは、それを“完璧ではない優しさ”と呼びたいですわ」

 

 リヴィアさんの言葉は、春の陽のように穏やかだった。

 彼女の微笑みに照らされるように、エリスさんの頬がわずかに緩む。

 

リス

 「‥‥完璧ではない、優しさ‥‥」

 

コト

 「私たちはたぶん、誰かの“完璧”じゃなくてもいいんです。あなたが自分の感情をちゃんと持っているって、それだけで十分です」

 

 エリスさんは少し俯き、そして静かに頷きます。彼女の肩の力がわずかに抜けるのが見えました。

 

リス

 「‥‥そう、ですか。そんなふうに考えたこと、なかったです」

 

 その瞬間、サンルームの空気がわずかに変わりました。

 彼女の胸の奥で、何かがほんの少しだけ解けたように感じられます。紅茶の香りが再び穏やかに広がり、三人の間にやわらかな沈黙が落ちました。

 

リス

 「‥‥それでも。私の中でのメイド像は、やっぱり自分の感情よりも、誰かのために仕え、行動することに重きをおいて行動する人ということに変わりはありません」

 

リス

 「ですが‥‥私の感情が誰かの感情をいい方向へ変えていく力をもっているのなら‥‥それも悪くないのかもしれません」

 

 エリスさんは完全には私たちの意見には賛成していないのでしょう。彼女の中に確固として存在する“メイドの像”を捨てきることはできないのでしょう。憧れはそう簡単に消し去ることはできないですから。

 

 けれど、その表情には、これまでにはなかった柔らかさが宿っていました。

 彼女の指先が、静かにカップの取っ手を撫でます。

 紅茶の表面が、風に揺れる水面のように微かに波打ち、そこに天窓からの光が反射して瞬きました。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「ふふ。そう、それでいいのですわ。完璧であろうとする姿勢そのものが、すでにとても“人間的”ですもの」

 

 リヴィアさんは微笑みながら言いました。その声には、茶葉の香りに似た穏やかさと、どこか哀しみのような余韻が混じっていました。

 

コト

 「‥‥ええ。人間らしさって、そういう“ゆらぎ”のことなのかもしれませんね」

 

 私の言葉に、エリスさんは一瞬だけ驚いたように目を瞬き、そして小さく笑いました。  

 その笑顔はまだどこかぎこちなく、けれど確かに、彼女自身のもののように、私には感じられました。

 

──人物データ「三条エリス」の情報を更新した──

 

・三条エリス(さんじょう えりす)

囚人番号39番。16歳。【感情共鳴】の魔法を持つ少女。自己の感情を他人に伝染させる。本人の意志にかかわらず発動し、魔法を操作することもできない。感情が伝染するか否かは個人差がある。

 

【選択肢へ戻る】

【全ての場所を探索し終えたらこちらへ】

 




以下、作者後書き





























クッ‥‥!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。