機動戦士ガンダム 地獄の底のお姫様 ―木星帝国の王女は、地球を焼かないと決めた― 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「よう、テテニス。茨の冠の具合はどうだい」
U.C.0136。放棄区画を開墾した試験農耕区。その乾いた大地で、白髪混じりの髪を振り乱して、泥だらけでクワを振るう男がいた。グレイ・ストーク。……というのは通り名で、その正体は、第一次ネオ・ジオン抗争をたった一人で終わらせた伝説の英雄、ジュドー・アーシタだ。木星圏でそれを知る者は、ほんの一握り。
「なんで……こんな所に、あなたが」
「木星が面白そうだったからさ。ガキの頃、俺はこの星を目指して旅立った。人が変われる場所があるとしたら、宇宙の一番遠い所だって、そう信じてな」
傍らでは、ボロボロの作業着の女性――ルー・ルカが、古い無線機をいじって不敵に笑ってた。かつて彼と戦場を駆けて、歴史の表舞台から静かに消えた戦士。
「……わたし、もう限界かもしれない。民を救おうとするほど“ドゥガチの娘”って憎まれて、父の遺したシステムに縛られていく。何をしても、父の影がついてくる。わたし、一体、何のために……」
ジュドーは黙って聞いて、それから自分の掌を見せた。何度も失敗してようやく作った、黒く湿った“本物の土”。それを、わたしの白い手にそっと握らせる。冷たくて、それでいて、確かな重みがあった。
「あんたが背負ってるのはな、死んだ親父の罪だけじゃない。今を必死に生きてる連中の“明日”だ。そいつは確かに重い。茨の冠ってのは言い得て妙だな。だがな、ルーも俺も、シャングリラの亡霊はしぶといんだ。あんたの焼くパンが木星で一番の御馳走になるその日まで、ここは離れやしない。だから――一人で抱え込むな」
農耕区の奥に、シートを被せた巨大な塊があった。かつて“ガンプ”と呼ばれた、原形をとどめないほど改修された伝説の機体。平和を願いながらも、いざという時は戦う覚悟を捨てない。それがこの人たちの生き方だ。
わたしは土のついた手で、思わず目元を拭った。生まれて初めて、誰かに「一人で抱え込むな」って言われた。……その一言が、茨の棘の痛みを、ほんの少しだけ和らげた。ばか。泣かせないでよ、じいさん。
その時、ジュドーの表情が一変した。少年みたいな笑顔が消えて、歴戦のニュータイプの鋭い眼が宇宙の彼方を射抜く。彼の桁外れの感応力が、木星の最深部から届く“異物”を捉えたのだ。「……テテニス。あんた、あの工廠に何を置いてきた。あそこから聞こえるのは、死んだ人間の脳波だ。それも、俺がガキの頃に博物館の記録で見た、一年戦争のニュータイプのものだぞ。なぜそんな大昔の死者の思念が、今この木星で、こんなに生々しく脈打ってる」。……シャリア・ブルの亡霊。ジュドー・アーシタっていう本物の英雄でさえ、その深すぎる深淵の気配に、初めて戦慄していた。