機動戦士ガンダム 木星の深淵 シロッコの亡霊とジュドー・アーシタ 王女ベルナデットの木星戦記   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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神の雷の残り火

戦闘が終わり、動力センターを包んでいた殺気は、システムの駆動音という無機質な静寂へと取って代わられた。私は、満身創痍のバタラをゆっくりとハンガーへ着艦させた。ハッチを開けると、焦げた電子回路の異臭と、機体から漏れ出す冷却水の甘い匂いが混じり合い、肺の奥を刺す。私の指先は、サイコミュの過剰なフィードバックの余韻で、いまだにピアノの鍵盤を叩くように細かく震えていた。

 

「……テテニス。あんた、また少し木星の女の顔になったわね」

 

タラップの下で待っていたのは、ルー・ルカだった。彼女は煤けた作業着のまま、私の乱れた髪を乱暴に、けれど優しく整えてくれた。その手は、かつて戦場を駆けた戦士の硬さと、この地で土を耕し始めた者の温かさが共存している。

 

「これ、食べなさい。生き残った奴の義務よ」

 

ルーが差し出してきたのは、布に包まれた、不格好で重みのある塊だった。それは、かつて憧れたシーブックの焼くような、白くふっくらとした美しいパンではない。ジュドーたちが温室で育てた芋の粉を混ぜ、この鉄の檻の中で、何度も失敗を繰り返しながら焼き上げた、岩のように硬いパンだった。

 

「ジュドーが火力を間違えて焦がしちゃったけど……私たちがここで焼いた、最初のパンよ」

 

私はその塊を両手で受け止め、思い切り齧りついた。ひどく硬く、喉を焼くような土の香りが口いっぱいに広がる。洗練された地球の食事とは程遠い、野性味溢れる、生きるための味だ。けれど、咀嚼するたびに、温かな熱が胃の奥から全身へと染み渡っていくのを感じた。

 

あの日、トビアが渡してくれたリンゴの鮮烈な甘さ。シーブックが守り抜こうとした、日常の穏やかな匂い。それらはもう、遠い地球にある手の届かない幻影ではない。不器用で、焦げていて、泥臭くても、今私の手の中にあるこのパンこそが、私たちがこの地獄で掴み取った「最初の現実」なのだ。

 

「……美味しい。本当に……美味しいわ、ルー」

 

涙が溢れ、頬を伝って冷たいパンを濡らした。父、クラックス・ドゥガチが遺した、地球を焼き払うための「神の雷」。その残り火は、私の涙と、この泥臭いパンの温もりの前で、ようやく完全に消え去ったのかもしれない。

 

「テテニス、あんたの選んだ道は、あの親父さんが作った帝国よりもずっと厳しいぜ。何しろ、奇跡も雷も起きねえんだからな。地道に、一歩ずつだ」

 

いつの間にか背後に立っていたジュドーが、私の肩に大きな手を置いた。彼の言葉は厳しいが、その瞳には、かつて木星へ向かった少年が持ち続けていた「希望」という名の輝きが、今も失われずに宿っている。

 

宇宙世紀0136年。

私はテテニス・ドゥガチとして、この茨の道を歩み続ける。いつかこの星の誰もが、自分の手で焼いたパンの匂いに包まれ、偽物ではない太陽の光を仰げるその日まで。たとえどれほど時間がかかっても、この手に伝わる土の温もりがある限り、私は二度と道を見失わないだろう。

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