機動戦士ガンダム 地獄の底のお姫様 ―木星帝国の王女は、地球を焼かないと決めた―   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

22 / 22
ザンスカールの、狂風

地球から届く通信は、もうニュースじゃなく、悲鳴の断片だった。

 

U.C.0153。ギロチン。前近代的な死の象徴が、最先端のモビルスーツと一緒に地球を蹂躙してる。カガチが木星から持ち出した毒は、サイド2の『ザンスカール帝国』って苗床で、想像を超える狂い咲きを見せてた。マリアが掲げた“母性による救済”は、今や反対者を断頭台に送る“女王の狂気”に変わってる。優しさの皮を被った、いちばん残酷な狂気だ。

 

あの日、リングの中で「もう祈りたくない」と泣いていた小さな声を、わたしは覚えてる。あの子は救済の道具にされた犠牲者だった。なのに今、その名を掲げた国が、人の首を刎ねて回ってる。……救ってあげたかった。手を掴みたかった。でも届かなかった。あの一瞬の「あと少し」が、こんな地獄になって地球に降り注いでる。全部、わたしが取りこぼしたツケだ。

 

「テテニス様! 第2シャフトの冷却材が漏出! 事故じゃありません、テロです! ザンスカールのシンパの仕業です!」

 

報告する若い士官の目に、わたしはかつて父を崇拝した民と同じ“熱”を見た。カガチが木星に植えた選民思想の苗木は、ジュドーたちが去った後のこの星でも、静かに根を広げてた。憎しみは、こんなにも簡単に受け継がれる。愛や優しさを一つ根付かせるのに何年もかかるのに、憎しみは一晩で燃え広がる。……不公平だ。ほんとうに。

 

地球では、リガ・ミリティアのまだ13歳の少年ウッソ・エヴィンが、かつてのトビアみたいに、巨大な力に翻弄されながら剣を振るってるという。……わたしも、トビアも、ウッソも。誰も望んで戦士になったわけじゃない。ただ、守りたいものがあった。それだけなのに。どうして子供ばっかりが、大人の狂気の尻拭いをさせられるんだろう。13歳。わたしが檻の中で膝を抱えてた歳と、そう変わらない。

 

「消えなさい! 偽りの救済に酔いしれる、亡霊たち!」

 

ザンスカールへ合流しようと蜂起した急進派を、わたしはビーム・サーベルで切り裂く。超重力下の戦闘は、一瞬のミスが原子レベルの圧縮を意味する。わたしはサイコミュで敵のマリアへの盲信を読み取って、その心の隙間に冷たい一撃を叩き込んだ。刃を振るうたびに、自分の中の何かが少しずつ削れていく気がする。それでも、止める。ここで止めなきゃ、この毒はもっと地球へ流れ込む。

 

「ごめんなさい。でも、その祈りは誰の腹も満たさない。マリアも、あなたたちも、カガチって男に利用されてるだけなのよ」

 

1機、また1機と、闇に火花が散る。でもわたしがどれだけここで戦っても、地球に吹く狂風は止められない。あの少年が、ウッソが、今この瞬間も、エンジェル・ハイロウを止めようと、たった独りで戦ってるかもしれないのに。わたしはこの木星の底から、一歩も動けない。数億キロの距離が、こんなに憎いと思ったことはない。ごめんね。あなたの分まで戦えなくて、ごめん。

 

「トビア……わたし、何もできなかった。あなたの平和を、守れなかった」。爆発する敵機の光の中に、あのリンゴの幻影を見た気がした。……その時、サイコミュに地球圏から一条の思念が届いた。ウッソのでも、狂ったマリアのでもない。トビアの――でも確かに、あの日から20年の時を経て“年老いた”トビアの、落ち着いた声。数億キロの彼方から、まっすぐわたしの心に、こう告げた。「よう、木星のお姫様。久しぶりだな。……あんたに、どうしても会わせたい人がいるんだ」。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

キラ・ヤマトになってしまった…(作者:星乃 望夢)(原作:機動戦士ガンダムSEED)

なお、准将みたいに頑張らないと世界が簡単に破滅しそうな戦略兵器がポコポコ簡単に撃たれるマッポーめいた終わらない明日へ目指して「それでもっ、守りたい世界があるんだぁぁぁ!!!!」しないとならない模様。▼将来別嬪なお姫さまが嫁になったり、カッコいいロボットに乗ってオレTUEEEEE!!!!出来るイケメン主人公ではあるが、絶対に転生したくない主人公の1人である。▼…


総合評価:22516/評価:8.45/連載:117話/更新日時:2026年06月19日(金) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>