機動戦士ガンダム 地獄の底のお姫様 ―木星帝国の王女は、地球を焼かないと決めた― 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
呼吸をするだけで、わたしたちは料金を取られている。
木星圏で「ただの空気」なんてものはない。空気は配給されるもので、計量されるもので、たまに取り上げられるもの。地球の子はタダで吸ってるって聞いた時は、正直、殴りたくなった。ずるい。
イオの暴動は鎮圧された。おかげで警備に穴があいて、わたしは立入禁止の技術中枢に忍び込めた――と、思ったのに。
「お待ちしておりました、テテニス様」
……穴なんて、なかった。全部この氷水の掌の上。わたしがここに来ることすら、予定表に書いてあったらしい。もう嫌だ、この男。
「本日の講義です。聖王ドゥガチ様が、あなたに最も学ばせたいと願われた記録――パプテマス・シロッコ」
また金髪。ジ・オとかいうごつい機体で、女たちの献身を燃料に、自分だけを神様みたいに加速させていくエゴイスト。同じ木星帰りでも、シャリア・ブルの静けさとは正反対。深淵から獲物を見てる、捕食者の目だ。
「彼は劇薬です。服用すれば力を得るが、中身は空虚。他者を信じられぬ、底なしの孤独。ですがその空虚こそ、今の帝国に必要なのですよ」
「……最低ね。それ、強さじゃなくて、ただの欠けてるだけでしょ」
言い返した瞬間、警報。第4ブロックに、正体不明の作業艇が突っ込んできた。守備隊のバタラ3機が容赦なくビームを浴びせ、艇は紙みたいに弾け飛ぶ。
でも、その陰から歪んだ改造機が飛び出した。迎え撃つのは試験機クァヴァーゼ――シロッコの遺した設計を、木星流に、もっと暴力的にねじ曲げたサイコミュ機。
そして、わたしは見てしまった。あれは戦闘じゃない。支配だ。有線アームが敵のコクピットを掴んで、中のパイロットを内側から焼き殺す。それも、断末魔の恐怖ごとエネルギーに変換して。相手の心ごと、握り潰す。
……シャリア・ブルが「人が優しくなるための力」って呼んだものが、この鉄の檻の中では「人の心を踏み潰す暴力」になってた。同じサイコミュなのに。吐きそうだ。
改造機は爆発すら許されず、エネルギーを吸い尽くされて木星の重力に落ちていく。その断末魔のノイズに、わたしは確かに聞いた。作業艇の通信士の、最後の叫びを。
「シャリア・ブルは生きている! “検体番号1”の座標は――」
通信は、そこで焼き切れた。でもわたしは確かに聞いた。検体番号1。座標。禁書で拾ったあの遺言と、一言一句おなじだ。つまり、この暴動はただの反乱じゃない。誰かが――たぶん木星の底で朽ちていく誰かが――命がけで、あの人の遺した真実に手を伸ばしてた。……ばか。無茶しないでよ。わたしは、そっと拳を握った。分かった。分かったから。その手、わたしが代わりに伸ばしてあげる。この毒だらけの帝国の、その先にある“凪”まで。