機動戦士ガンダム 地獄の底のお姫様 ―木星帝国の王女は、地球を焼かないと決めた―   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

7 / 15
密航者は銀河を駆ける

「テテニス様、聞こえますか。応答してください、テテニス様」

 

窓のないコンテナの中で、通信機からマーサの声。彼女はまだ、あの帝国の中にいる。わたしを逃がした罪が、これからどんな“清算”を彼女に強いるのか。……考えると、胸が潰れそうだ。

 

「聞こえてる。マーサ、あなたのおかげで、わたしは檻を出られた」

 

「よかった……。テテニス様、わたし、決めました。あなたが教えてくれたリンゴのこと、忘れません。いつか木星にも、本物のリンゴが実る日が来るって、信じます」

 

コンテナの中は致死量の放射線とガスが渦巻いてる。だから最新鋭のバタラの索敵でも、中の生体反応までは見抜けない。わたしはサイコミュを研ぎ澄まして、壁の向こうを描き出した。……来る。

 

バタラ1機の駆動音が装甲を伝う。全長18メートルの鉄の巨人が、すぐ横をゆっくり通り過ぎる。モノアイの赤い光が継ぎ目から差し込む。心臓の音まで、押し殺した。

 

「……対象、発見できず。第4区画、異常なし。哨戒を続行する」

 

駆動音が遠ざかる。わたしは薄い空気を、ようやく吐き出した。全身汗だく。引きこもりに、この緊張感はきつい。

 

目的地は地球圏のヘリウム・ベース。父が「猿の巣窟」と呼んで、シャリア・ブルが「人が優しくなれる場所」と書き残した、約束の地。着ける保証なんてない。でも、行くしかない。あの青い星のほうへ。

 

「テテニス様……わたしは、木星の土になります。さようなら、ベルナデット様。どうか、本物のリンゴを、食べてくださいね」

 

ベルナデット。逃亡を決めた夜に、自分でつけた新しい名前。帝国の弾頭テテニスじゃない、ただの女の子としての名。……マーサだけが、知ってる。

 

「……うん。食べる。あなたの分も。約束する」

 

それを最後に、通信は砂嵐に呑まれた。船体が震え、最終加速。凄まじいGが体を壁に叩きつける。3倍の重力に慣れた骨さえ悲鳴を上げる。でもこれが、あの重力から逃げる対価だ。安いもんだ。

 

半年の孤独な航海。わたしはずっと、一枚の写真を握りしめてた。父の書斎から盗んだ、U.C.0079当時の、まだ汚れてない青い地球。何百回も眺めた。この星のために逃げるんだって、自分に言い聞かせて。

 

――でも。航海の終わり近くになって、わたしはやっと気づいた。写真の裏に、父のじゃない筆跡で、こう書いてあったのだ。『この船は、地球へは着かない』。その意味を理解するより先に、船体を熱線が掠めた。けたたましい警報。……ああ、そういうこと。ベルナデットって名前のわたしの航海は、ここで終わるのかもしれない。フォンセ・カガチは、わたしが檻を出るずっと前から、この結末を書き終えてた。……どこまで、先回りする気なの。あの、氷水。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。