暇を持て余した、天使たちのあそび


(淫夢要素は)ないです

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悪趣味エンジェルズ前編

 

 

「どうだ!私の傑作は!やっぱり恐怖には鮮度があるんやなって」

 

—なにこれ、スプラッター映画かよ悪趣味やな

—こわっ…なに?サイコさんなの?

—被害者の横でピースすんな

 

「私のことはどうでもいいだろ!」

 

—怖いなぁ…次元超えて攻撃してきそう

—メンヘラ怖いわぁ

 

「はぁ、これだからお前らはダメなんだ」

 

 

—かわいい!

—中身終わってるけどな

—お前正気か?

 

「うーん、同じ趣味してるはずなんだけどなぁ」

 

 

—全く理解できないわ…えっこれ僕がおかしいの?

—こんなの見にきてる時点で大体のやつは趣味悪いだろうな

 

 

「ちぇっ、なんだよ」

 

—あーあ、凹んじゃったじゃん!責任取れよ

—まぁ、理解できない奴は早々に消えるだろ。

 

 

 

 

天国では死なない。

当然の事である。

しかし、いや、故にそこの住人刺激を求めるのだ。

 

 

 

 

 

ここは天界の掃き溜め、表では到底言えないような趣味を思う存分楽しむ所。

 

破壊、堕落、悲劇を楽しみ、傲慢で強欲で怠惰に過ごすことが許される…いや誰にも咎められない場所。

 

 

Eちゃんねる。

 

それがこの天界サービスの名前だった。

 

 

○○○

 

 

「なんかなぁーマンネリー」

 

 

天界の時間は有限であって莫大である。

悲劇、と一口に言っても無数にあるが、この天使はそのほとんどを視聴済みであったのだ。

 

 

「やりたいことやったもん勝ちの世の中なんだけどなぁ。」

 

 

この天使はすでに燃え尽きていた。

しかし、やる事がなく自堕落に過ごす、これは創作者以前に天使として落第である。

やりたい事がなにもないというのは即ち負けなのだ。

 

 

 

「戻るべきは初心…かな」

 

 

 

飽き飽きした日々とお別れするには、過去の成功を追体験するのが一番。

思い立ったが吉日を字でいく天使である。

そこからは速かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

突然だが、この天使の趣味は人間の映画やアニメを視聴することだ。

だからこそ人の悲劇に心躍らせるようになり、感動するようになった。

 

つまりこの天使がしていることは再現なのだ、自らを感動させたそれを他者と共有したい。

 

 

ただそれだけの理由で動く怠け者の天使であった。

 

 

「えぇ…と確かここかな?」

 

 

四方八方に飛び交う扉。

その一つ一つが別の世界へ通じている。

 

剣と魔法のファンタジー、サイバーと銃のディストピア。

獣が人のように振る舞う奇妙なものや、残酷なまでにシビアなものまで、多種多様な世界への入り口がそこにはあった。

 

 

「確か…NO.200442だったかな。」

 

 

現れた古式ゆかしいその扉。

 

その扉を開け、光の中に飛び込んだ。

 

 

◇◇◇

 

選ばれたそこは、剣と魔法のファンタジー。

魔王と勇者が覇を競い合う伝統的なRPGのような世界。

 

 

 

人間が終わってて、魔族の方が善人みたいな設定の場合もあるが、この世界はどっちにも善人と悪人がいる中途半端仕様。

 

だからこそ面白い。

 

 

 

「さぁさぁ、本日もやって参りました!剣と魔法のファンタジー世界。

今回やるのは、恒例の追放されたやつ救ってみたドッキリ〜!!」

 

 

—ネタ切れ乙

—親の顔より見た

 

 

「今回なんですけど、お馴染み、冒険者ギルドに来ております。

…相変わらず汗臭いな。」

 

 

ちなみに、ヒトが天使の本当の姿を見れば発狂死する。

 

だから天使の姿はヒトには見えない。

ヒトは神に連なるものを見ることができない、それは自己保存の形であり進化の結果だ。

 

——とどのつまり見えてる奴が死んだだけ

 

 

 

 

 

「お前はクビだ。」

 

—あっ…

—本日の被害者御一行

 

 

金髪碧眼、そして腰には装飾過多な鞘に収められた剣を携える男、『アンダー』の声が、ギルドの酒場に響き渡る。

 

 

 

「そっ…そんな、待ってください!自分は仕事をちゃんとやってたじゃないですか!」

 

「ああ、荷物持ちの仕事をな」

 

 

—荷物持ちくんキター

—荷物持ち追放されがち

—いや転職しろよ

 

「なんで…こんな突然…」

 

「これ、なんだかわかるか」

 

男はリンゴほどの大きさの小汚い皮袋を持ち上げる。

 

 

「アイテムポーチだよ、どんなものでも入る携帯型マジックアイテム。」

 

 

その小さな袋に野次馬たちは騒ぎ出す。

 

 

「そんな高価な物を…俺たち仲間だったんじゃないんですか!」

 

——リストラ…僕も経験があります

——南無三

——天使がお経とはこれ如何に

 

「そりゃな、でももうクビだ。道具は給料を払わなくても文句を言わなくていい。」

 

 

「みんなはどう思うですか!?仲間ですよね!?」

 

しかし、だれも返答しない。

俯きすらせず食事にご執心のようだ。

 

——食い方汚っ

——この女ダメだわ

——ホモは綺麗好き

 

「…そういうことだ、全部決まった事なんだよ。」

 

もう野次馬もいない。弱者が切り捨てられただけ、荷物持ちの少年が少女であったのなら「どしたん?話聞こか?」とやってくる人間もいたかもしれない。けれど、彼は男なのだ。

荷物持ちの彼を見るヒトなんていない…

 

 

そう、ヒトは。

 

◇◇◇

 

 

後ろ指を指され静かに、沈むように店を出る。

そんなわかりやすく落ち込む少年に、邪悪な天使の囁きが届く。

 

『ねぇ、そこの君。』

 

振り返っても何も居ない。それどころか賑わっていた街すらも静寂に包まれ生き物の気配を感じない。

 

 

『そこのしょぼくれた顔をした君だよ。』

 

「…誰ですか?一体どこにいるんですか?」

 

『誰だっていいじゃん、そんなの。でもまぁ"天使"って呼んでよ。呼び名がないってのはなかなか不便だからね。』

 

 

天より降り注ぐような優しい音色。

思わず全てを委ねてしまいたくなるような清らかさ、それこそがこの声の主の正体が魔に連なる者ではないことの証拠。

 

 

 

『君はね、捨てられるような人間じゃない。価値が無いなんて言うやつは見る目がない。大丈夫、君は間違ってなんかいない。

君はこの状況を理不尽だって思ったんだろう?ならこの状況は明らかに間違いなんだ。

私を信じてなんて言わないよ、でも君自身を信じて…ね?』

 

 

 

くどいようだがこの天使は悪趣味である。

けれど、この天使は自己を信じて突き進む姿勢が大好きなのだ。

 

 

天使は自己を信じて予想外を発掘する採掘家。

 

 

そして、それを自慢し共有したいだけのただのオタクなのだ。

 

——いやただの狂人だろ

 

 

 

…あと、視聴者たちとはわかり合えていない。

でも、ここの天使はそんな事は気にしない。だって、自分が楽しいから。

 

 

『君に祝福を授け、前世の記憶を取り戻させてあげましょう!』

 

 

光の粒子が荷物持ちの少年に降りかかる。

海馬に接続し、いい感じにいじくり回して出来上がり。あとは刷り込みだけだ。

 

 

——パラパラしてんなぁ、ふりかけみたいで美味しそう

——フケみたい(ボソ

 

 

『あなたは実は転生者だったのです。

ブラック企業に勤め、残業帰りに寄ったコンビニで晩酌を買い帰路に着こうとしたところを神の手違いで殺されてしまったのです。』

 

——は!?主が間違いを犯すわけないだろ!?あくまで設定だとしても許されざることだぞ!

——げっ、エデウヨやんけ

——こんなところ観てる時点でこいつも同罪定期

 

『神はこの男を哀れに思いました。ええ、当然です。自らの手で一つの魂の結末を乱してしまったのだから。故にスキルを与え然るべき時に記憶が復活するように仕組んだのです』

 

——前世の記憶()

——実際こんな手の込んだことやるの?

——俺本職だけどたまにあるよ、こんな丁寧に対応しないけど

 

「なるほど…そうだったのですね。確かに記憶が曖昧ですが、そんな気がしてきました。…そうか、僕は崇高な使命を背負っていたのか。」

 

 

——崇高な使命()

——うーん、まあ本人が幸せならいいんじゃね?

 

 

『ええ、それは他の誰でもないあなたが生まれ持った力。才能あるあなたが持つべき象徴です。』

 

 

——そんなすごい力を持った奴が荷物持ちなんてするわけないんだよなぁ

——後悔したってもう遅い!世界最強の荷物持ちはどんな荷物も運びます!これありじゃね?

——力を手に入れてやることが荷物持ちなのか…

 

 

『さあ!解き放ちなさい!君の本当の力を!』

 

 

——急に命令口調かよ、手違いで殺したにしては態度デカすぎて草

——孵卵器はお帰りください

——態度がデカすぎます!

 

 

 

世界は眩い光に包まれて、明るさだけが満ちていく。

 

 

 

『あっやべ』

 

天使の咄嗟の機転…いや、見せ場の喪失という最悪を避ける為とにかく遠くへ荷物持ちの少年を連れてテレポートする。

 

大陸全体が大きく揺れ、地殻が砕けた事により地脈を刺激。その結果地上に異常な量の魔力が放出される事になる。

各国はすぐに警戒体制に入り、魔王軍の侵攻に備え始め、魔王もまた人間連合軍に備え、魔物たちに力を貸し付ける。

 

 

 

今から約1週間後、この街に南部平原壊滅の知らせが届き大騒ぎになることを天界の奴らは何も知らない。

 

 

…いや、たとえ大穀倉地帯であった南部平原が壊滅しようとも、天界には微塵も関係なかったのだった。

 

 

 

—-ンァーッ!被害がデカすぎます!




前中後の3部構成を予定しております。

ノリと勢いで書いたので不定期更新です。
よろしくお願いします。

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