お待たせしました、更新再開します。
「あはははははは!!!」
私の両室で、同室のキョウコがお腹を抱えて大笑いしている。
配信されている例のアニメをスマホで見てるからだ。
「ねえトキコちゃん、これ全部本当なの!?」
「……」
彼女のスマホの画面では、魔王様の演技指導の元、怪演をしている私の姿が映し出されていた。
「実を言うと、アニメ化の為に多少は盛ってるらしいのよ……」
「え、全部事実じゃないの?」
「うん。そのシーンでは私とメグルがアセンションして足止めし、血清の到着を待っている状況でしょ?
実際にはそんなことなくて、私による被害が広がる前にシュウ君にカードにされて、錬金術準備室に運ばれたらしいの。
当然、血清が出来てから私は元に戻されたわ」
カードにされるのは愉快な事じゃないけど、その時ばかりは感謝しても良かった。
多少盛ってるらしいけど、そこで叫んでいる自分の姿が全て事実ではないと言うわけではないからだ。
「ま、普通に不祥事だもんね。
アセンション学園が魔王様の肝いりとは言っても、集団吸血鬼化事件は普通に種族間問題、みたいな?
あの時はそんな大騒ぎにならなかったし、トキコちゃんの言う通りだったのかもね」
キョウコはアニメを見ながらそう呟いた。
私が元に戻るまでの間、実際にどういう感じであったのかは、私に走る由もなかったわけである……。
§§§
「俺、トキコに甘えてた……」
錬金術準備室に移動して、猫屋敷先生達の血清の完成を待っている間、椅子に座っているメグル君は沈み込んでいた。
その手には、トキコちゃんのカードがあった。
「トキコの言う通りだ、こんなのアセンションじゃない」
「気にする必要などないだろう。あんなのは凡愚の戯言だ」
壁に背を預けているガイ君が、ぶっきらぼうにそう言った。
言い方は素っ気ないけど、彼なりに気を使ってるのかもしれない。
「でも、トキコは幼馴染なんだ。誰よりも知ってるつもりだった。
俺達の関係はそれだけだった。停滞してたんだ。それに満足してることに、俺は気づかされた。そんなのアセンションじゃないだろ……」
「え、つまり、メグル君はトキコちゃんと付き合いたいってこと?」
僕は疑問に思ってそう言ったんだけど。
なぜか周囲の皆は僕を睨んできた。ううッ、何だか空気の読めないこと言ったみたい……。
「メグルさんが仰りたいのは、お二人はお互いに高め合う存在ではなかった、ということでしょう?
この世界の人間の最終目的は、──魂のアセンションによる、神の御許へ向かうこと。
今の関係に満足することは、堕落にも等しい。そう言うことなのでは?」
キュリア様が二人の関係を言語化してくれた。ああ、なるほど、そう言うことか!!
そのストイックさがメグル君の良いところでもあり、頑ななところでもある。
メグル君は立ち止まることを良しとしない人間だ。
メグル君にとって、トキコちゃんは自分が帰って来れる場所だったんだけど、メグル君的にはそれは甘さだと思っちゃったんだろう。
……別に良くない? って僕は思うけど、メグル君にとっての対等な相手ってライバルの事なんだと思う。
お互いに高め合って、みんな一緒に強くなれる。それを体現したいんだと思う。
まったくもう、本当にメグル君ってば、ミク好みのホビーアニメみたいな勇者マインドなんだから。
だからこそ、僕もメグル君のことが好きなんだけど。
「メグ、血清を打つ前に、トキコとアセンションさせてくれ」
メグル君はカードと化した吸血鬼トキコちゃんのイラストから目を離して、カードの精霊? らしい小人ちゃんにそう言った。
「私は構わないよ。きっと彼女もそれを望んでいるだろう。周囲に被害が出ないように、結界は張らせて貰うけど」
「……ありがとう、相棒」
「気にしないでくれ、君の問題は私の問題だ」
小人ちゃんの言葉に、メグル君は頷いて見せた。
「次はシュウ、お前の番だ」
「え、僕?」
メグル君は急に僕を見て、睨むような視線を向けて来た。
「まだ、人をカードにしてるんだな」
「うん。そうだよ」
「真剣に答えてくれ。なんでそんなことをするんだ?」
……僕は、嬉しかった。
メグル君が、僕を理解しようとしてくれている!!
「メグル君は、エデンズ・コードは楽しい?」
「……ああ、何よりも大好きだ」
「それと同じことだよ」
だから僕も本気で応えた。
「────愉しいんだ。
ねえ、メグル君。人間の人生って、積み重ねだって思わない?
それがこんな薄っぺらいカードに凝縮されて、その人生と魂が数字とテキストになるんだ。これでワクワクしないっていうのは、カードゲーマーとして嘘だと思わない?」
僕の言葉に室内の空気が、変わった気がした。何でだろう。
「新しいパックの開封、まだ見ぬ新しいカードを求めてストレージの山に手を突っ込むみたいでさ、それが人の数だけあるんだよ!?
これで楽しくならないなんておかしいよ!!」
「おかしいのは貴様だ」
ガイ君が吐き捨てるように言った。何で!?
キュリア様も、人間こわッ、って表情になってるし……。
「……シュウ。全部理解できないって言うのは、多分嘘だと思う」
「でしょ?」
「でも、人間をカードにするのは間違ってる」
「うん。知ってるよ。僕はこれを正しいことだなんてちっとも思ってないよ」
「なら!!」
「でもそんな僕を、ミクは求めてくれたんだ!!」
僕は笑った。
「メグル君。僕は魔王の四天王なんだ。
魔王様は神様が産み出した、人類の求める理想の悪そのもの!!
僕はその配下として、悪を行う者として選ばれた!!
メグル君。僕に他人をカードにするのを止めさせられるのは、魔王様……ミクだけだよ」
僕はミクの下僕に過ぎない。
僕はミクの代行者。それを通して、僕のしたいことをしてるに過ぎない。
「ミクは僕の邪悪を肯定してくれた。
そしてそれを行うにふさわしい役割をくれた。
わかってるよ、僕は社会不適合者だ。だからメグル君、僕を倒してまたミクに挑んでよ。
それが僕の役割で、ミクの……魔王様の望みなんだ」
いつか、人類が魔王なんて存在を必要としないほど強くなれるように……僕はよろこんでその尖兵として働くんだ。
「それが、僕のアセンションだよ」
「……わかった。もう何も言わないよ。俺はお前を友達として、止めてやる!!」
「うん、待ってるよ」
僕とメグル君の間に、確かに友情はあったんだ。
僕らは理解し合い、次はもっといいアセンションが出来るんだ。
だけど。
「──ふざけるな!!」
猫屋敷先生に指示をしていた小人ちゃんが声を張って叫んだ。
「楽しいだと、楽しいなんて理由で、我が祖国を、世界を滅ぼしたのか!!」
「……ああ!! 君ってマルサムボーン世界の住人だったんだ。
ごめん、どの都市国家の出身だったの?」
僕は合点がいって、そう尋ねた。なぜか他の皆は、うわぁ、みたいな表情をしていた。
「……都市国家アンリローズを覚えているか?」
「うん。覚えてるよ、凄いよね中世の近未来国家みたいな?
知ってるメグル君、魔法で浮かぶ小舟みたいなので人々が通行しててね、こっちの科学力じゃまだ夢物語の空飛ぶ車を実現してたんだよ!!」
「……う、うん」
なんでだろう、メグル君の反応は微妙だった。
「そう言えばメグル君、僕の送り物を喜んでくれた?
魔王様がプレゼントすれば喜んでくれるって言ってたけど」
「あれ、お前の差し金だったのか……」
「あのカード群に封入されてた英雄ユニットと僕、戦ったんだよ!!
カードにする直前、市長さんの名前を呼んでたんだ。逃げろ、逃げてくれって。僕笑っちゃったよ、逃げ場なんてどこにもないのに」
あれ、でもその市長さんらしきカードは見つからなかったような……。
まあでも何万人もカードにしたし、その中に紛れ込んでたのかも。
「……貴様だけは赦さない。
貴様が大好きなカードにしたあと、バラバラに引き裂いて肥溜めにすててやるッ」
「……うーん。でもあれ、仕事だからなぁ。魔王軍として命令されてやったことをそんなに恨まれてもなぁ。
それとも、あなたの国の兵士が戦って他国の兵士を殺しても、その兵士の責任になるの?」
「ならなぜ市民を全員殺した!! あそこまでする必要はあったのか!!」
「殺してないよ。カードに成っただけだって」
「同じことだ!!」
うーん、困ったなぁ。僕一人で責任は取れないし。
「くくくッ」
あ、その声は。
「ミク!!」
僕の影から、ミクが沸き上がるように現れた。
「魔王ッ」
「あのさ、シュウ。魔王の業務規定に、滅ぼした世界に万が一生き残りが出たら説明責任ってものが生じるらしいんだよ」
ミクは何だかちょっと面倒くさそうにそう言った。
「ほら、私の仕事は神の代行だから。その試練から生き残ったのなら、それは運にせよなんにせよ、神の意志を上回ったわけだから、残党として処理は出来ないみたい。めんどー」
「説明、だと……!? 一体何を説明すると言うんだ!!」
「お前の世界が滅ぼされた理由」
ミクは僕の頭を撫でながら端的に口にした。
「……私の故郷が、滅ぼされた理由……」
「知りたくない? 知りたくないならそれでいいよ。そっちが要らないって言ったわけだし。どうせ知ったところで辛いだけだし」
「いや、知りたい」
小人ちゃんは怒りや憎しみを抑え込み、学者さんみたいな表情で言った。
ミクが露骨に嫌そうになった。
多分これは僕に丸投げされる流れだろうなぁ。
もしかしたら、或いは……。
ミクもまた、命令される側に過ぎないとわかったからかもしれない。
「じゃあ、あとで資料をそっちに送るよ。送り先は、メグル君の部屋で良いかな?」
「あ、うん、わかった」
「魔王様、それとも理事長とお呼びした方がよろしいですか?」
ずっと話に付いていけないのか黙って作業をしていた猫屋敷先生が声を挙げた。
「なーに?」
「その、先ほど発生した吸血鬼化騒動の報告をしたく……」
「あーうん、校長に言っておいて」
「かしこまりました。その、これは事故的な側面が強いので当該生徒達への処分に出来れば口添えの方を……」
「なに言ってるの?」
猫屋敷先生は大人としてちゃんとしてたんだけど、ミクはこう言った。
「私は見てたよ。あの子に吸血鬼化された生徒は、みんなアセンションで負けてる。
アセンションで負けた方が悪いんじゃん。処分は不問。以上」
「……了解しました」
「あ、勿論、倫理的とか人道的なあれこれを無視していいって言ってるわけじゃないから。
物事にはそれ相応の対価が必要ってことだよ」
ミクが登場してからそわそわしていたキュリア様が、ホッとした様子だった。
猫屋敷先生も何か言いたげだったが、異議は無いようだった。見てたなら止めろよ、ぐらい思ってるかもしれないけど。
「物事には、それ相応の対価が必要、ですか。魔王様」
すると、ガイ君がにやりと笑った。
「メグル。貴様はこいつに四天王を辞めさせたいのだったな? 四天王でなければ、魔王の代行者ではなくなり、必然的にカード化の力は使えなくなる」
「えッ、うん、まあ……」
「なら四天王の地位に相応しい対価を示せばいい」
「そりゃあそうだけど、俺にそんな対価なんてモノは……」
僕は唖然とガイ君の言葉を聞いていた。
今、ミクはこの世界に君臨する存在なのだ。
その直属の四人の地位なんて、一国の首相のでも吊り合わないはずだ。
「あるだろう。ここに、この俺はお爺様から推薦を受けた四天王候補だ」
「あッ」
「それを掛け金としてくれてやる」
「でもッ、ガイ、もし俺が負けたら……」
「くだらんな」
ガイ君は困惑するメグル君に向かって、鼻を鳴らした。
「この俺が、お爺様の推薦が無ければ魔王様の四天王になれないとでも?」
す、すごい自信だ……。
「この俺に七光りなど不要だ!! たとえ負けても借りだと思う必要は無い!!
俺は俺の意志で、俺の望んだ道を行くのだからな!!」
僕は隣のミクを見た。目を輝かせている。これはまさしく、ミクが見たかったものだ。
「……あの、別に僕は四天王の座を賭けるなんて」
「いいよ、私が許可する!!」
「だよねー」
僕の道に僕の意志は関係無いようだった。
「でも四天王候補と、現職の四天王の地位は吊り合ってるとは言い難いね。
追加でベッドが必要かなー」
と、ミクは顎に指を当ててそう言った。
「あ、じゃあミク。今の仕事をメグル君たちに手伝ってもらうっていうのはどうかな?」
「……うん、アセンションをするのはシュウだ。君が決めていいよ」
「じゃあそれで」
あのアセンションを才能だとか言ってる連中をメグル君たちと一緒にカードにしまくるのは楽しいだろうしね!!
……悪いことは、悪いと分かってやるから楽しいんだし。
「メグル君、それでいい?」
「……」
メグル君にとってはまたとないチャンスだけど、即答しなかった。
彼は無鉄砲だけど、バカじゃない。馬鹿だったらアセンションが強い訳がない。
「メグル、君の好きにするといい」
「わかった。やるよ、やろう。アセンションだ」
小人ちゃんの方を一度だけ見て、メグル君は頷いた。
「わぁ、嬉しいな!! 今度は前みたいに、舐めたデッキを使わないで、本気でやろるよ!!」
僕はメグル君に勝ったことはないけど、心躍った。
自分の全てをぶつけるアセンションこそ、僕たちの望むことだった。
「水を差すようで悪いが、血清がそろそろ完成する」
キュリア様から採取した血液を利用した血清の調合が、どうやら完成するようだ。
「……魔王様、此度はご迷惑をお掛けしまして申し訳ございません」
「え、なんで?」
「わたくしは魔王様の推薦を受けてこの学び舎に通わせて頂いておりますので。だからなにとぞ……」
キュリア様はミクに深々と頭を下げて、こう言った。
「ヘルシング機関やイスカリオテの呼ぶのはだけはお許しくださいませ!!」
僕たちはその言葉に呆気に取られ、顔を見合わせた。
「それ、漫画の話だよ……」
「はい……?」
僕たちは丁寧に、それは創作であると伝えた。
「そんな、ヨコタやマキナ公爵は地球で悪いことをしたら、ヘルシング機関やアンデルセン神父みたいな刺客がやって来るって言っていましたのに……」
キュリア様は膝を突いてそう言った。相当ショックを受けているようだった。
結局、キュリア様はしばらくの間自分が親類縁者におちょくられていたことに気づいて沈み込んでいたのだった。
本作とは全く関係ないことですが、本作と同じ孤島を舞台としたカードゲームがリメイクされるそうですね!! ええ、全く関係無いですが!!
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ではまた、次回!!
この中でどのキャラが好き?
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