「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!」」
獰猛さを孕んだ2人の声が風の中に響く。黒と赤のDホイールとホワイトライトが時速200キロを越えて第1コーナーへ突っ込む。
追従していたミナミは堪らずブレーキをかけた。しかし、偽ムクロとノエ先輩はDホイールを限界まで傾け、火花を散らしながらもアクセルを緩めない。
(あの走り……、やっぱりノエ先輩もスピード狂……!?)
引き離されたミナミは直線を狙って再加速し、2人に追いつく。まず見えたのはホワイトライトのテールランプ、その奥に偽ムクロの違法改造を思わせる巨大なマフラーがあった。
「先攻はもらったぜ! 俺様のターン、ドロー!」
TURN 1
偽ムクロ LP 4000 手札5→6枚
「ノエ先輩」
「ごめーん、第1コーナーとられちゃったー」
ようやく声の届く距離まで追いついたミナミに、ノエ先輩が緊張感のない声を漏らす。
しかし、さっきの走りはブレーキを知らないスピード狂のそれだった。コピーキャットとはいえ『スピード☆キング』を名乗る相手にあそこまで食らいついておいて、よく平然としていられる。
「おいおいおい、こんなことで後輩に心配されてるようじゃ、この先もたないぜ。俺は手札から〈スカル・コンダクター〉のモンスター効果を発動!」
スカル・コンダクター
星4/闇属性/アンデット族/ATK 2000/DEF 0
偽ムクロのフィールドに燕尾服をはためかせた、アンデットの指揮者が幻影になって現れる。
「こいつを手札から墓地へ送ることで、攻撃力の合計が2000になるように手札のアンデット族モンスターを2体まで特殊召喚できる!」
「早速きたね、ムクロちゃんの
「なんだ、もう知ってるのかよ。まぁいい。〈スカル・コンダクター〉、地獄の行進曲を聴かせてやれ! 手札より攻撃力1000の〈バーニング・スカルヘッド〉を2体特殊召喚!」
アンデットの指揮者が大きく手を振ると、突如として偽ムクロのDホイールの左右で炎が燃え上がった。その炎の中から赤い眼光がミナミを睨み付けてきた。燃えているのは巨大なドクロで、何もない
バーニング・スカルヘッド(攻撃表示)
星3/炎属性/アンデット族/ATK 1000/DEF 800
「〈バーニング・スカルヘッド〉は手札から特殊召喚した時、相手に1000ポイントのダメージを与える」
「それが2体、ということは……!」
「合計ダメージは2000ポイントだ! 1ターン目からかっ飛ばしていくぜ! ヘル・バーニング!」
燃え盛る2体のドクロが顎を開き、ごぉお、という音と共に灼熱が襲ってきた。隣にいたミナミでさえ熱を感じるほどの業火がノエ先輩のホワイトライトを飲み込む。
「うわっ、熱っ!」
「ノエ先輩!」
ノエル LP 4000 → LP 2000
真っ赤な炎の中からホワイトライトが走り出てくる。ダメージ量は「うわっ、熱っ!」のひと言で済ませていいはずのものではないが、ちらりと見えたノエ先輩はいつもと変わらない表情をしていた。
思えば〈バトル・イーター〉の2500ダメージもかすり傷みたいなもの、と流していたか、この人。
「あっちっちー、ライディングスーツの中が蒸れちゃったよー。これ、帰ったらすぐシャワー浴びないと」
「随分と余裕だな。だったら望み通り速攻で終わらせてやるぜ! 2体の〈バーニング・スカルヘッド〉をリリース!」
2体のドクロが自身の炎によって焼き尽くされる。その残滓である炎がひとつとなり、新たな形を成す。
「来やがれ! 〈スカル・フレイム〉をアドバンス召喚!」
ごぉお、と再び炎が燃え上がる。その炎を背負いながらドクロの冠と血のようなマントを羽織ったアンデットの王が姿を現す。
スカル・フレイム(攻撃表示)
星8/炎属性/アンデット族/ATK 2600/DEF 2000
「ひゅー、早々にお出ましだねー。ムクロちゃんといえば、このカードだからねー」
「なら、こいつのモンスター効果も知ってるよな。〈スカル・フレイム〉はバトルフェイズを放棄することで、手札から〈バーニング・スカルヘッド〉1体を特殊召喚できる」
「それでは、まさか……!」
ミナミの声に偽ムクロがニヤリと笑った。
「3体目の〈バーニング・スカルヘッド〉を特殊召喚!」
偽ムクロのDホイールに並走する〈スカル・フレイム〉が手をかざすと、何もない空間から炎が吹き出し、その中にドクロが現れた。
バーニング・スカルヘッド(守備表示)
星3/炎属性/アンデット族/ATK 1000/DEF 800
「気をつけてください、ノエ先輩!」
「おっと、気遣いのできる後輩でよかったな。だが俺は容赦しねぇぜ。〈バーニング・スカルヘッド〉の効果発動! 手札から特殊召喚したことにより、相手に1000ポイントのダメージを与える! ヘル・バーニング!」
ドクロが顎を開くと同時にごぉお、と地獄の業火がノエ先輩とホワイトライトを襲った。連続での特大ダメージ。これはさすがに厳しいはず、とミナミも心配したのだが──。
「うわあっ、熱っ! あちゃちゃちゃ!」
タバコの火でも落としてしまったような慌て方で、燃え盛る炎からノエ先輩が出てきた。間違っても地獄の業火に対するリアクションではない。
(でも、これでノエ先輩のライフは風前の灯火。まだ先攻1ターン目なのに……)
このライフではミナミとのデュエル訓練で見せた〈バトル・イーター〉で戦闘を強制終了させることもできない。デュエルしているのはノエ先輩なのに、ミナミは我がごとのような緊張に襲われた。
「俺様のファンなら、もうわかってるよな。次がラストターンだってことも」
「えっ」
「私は本物のムクロちゃんが好きなのであって、偽物には微塵も興味ないよ」
「そりゃ残念なこった」
「けど〈スカル・フレイム〉のもうひとつの効果なら、ちゃんと知ってるよー。ドローフェイズにドローする代わりに墓地にある〈バーニング・スカルヘッド〉を手札に戻せる、でしょ」
「……っ、それでは……!」
「ハハハッ、ギャラリーも気づいたみてぇだな。そうよ。次の俺様のターンで墓地に眠る〈バーニング・スカルヘッド〉を手札に加え、そいつを〈スカル・フレイム〉の効果で特殊召喚する。それでジ・エンドだ」
〈バーニング・スカルヘッド〉のダメージは1000ポイント。それを4回も繰り返すなんて。本物の炎城ムクロなら素直に称賛できたが、相手は他人に成り済ましてカードショップを襲っている犯罪者だ。なんとしても、このデュエルで拘束しなければ──。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド。さぁ、最後のターンを楽しみな、ハハハハッ!」
偽ムクロ LP 4000 手札0枚
「ノエ先輩、大丈夫ですか」
「んんー? あー、だーいじょぶ、だーいじょぶ。あと局外ではデュエルチェイサー103だよー」
「あっ、失礼しました」
ノエ先輩の雰囲気につい気が緩みそうになるが、ここは実戦であり、相手は逃走を図っている犯人なのだ。とはいえ、この状況から巻き返せるのか。
「それじゃ、いっくよー。私のターン、ドロー!」
TURN 2
ノエル LP 1000 手札5→6枚
ようやく最初のターンが回ってきたのに、ライフはたったの1000しかない。こんな不利な状況下でどうデュエルするのか。不謹慎かもしれないが、ミナミは興味をそそられた。
「ところでさー、後攻のメリットで何だと思う?」
「藪から棒だな。俺に言わせりゃ、誰かの後ろを走るのにメリットなんざねぇよ」
「そっか。じゃ、私が教えてあげなくちゃね、たっぷりと」
一瞬、ノエ先輩の声に獰猛なものが交じる。その指がカードホルダーから手札を抜き取った。
「手札から魔法カード〈亜空間バトル〉を発動!」
亜空間バトル 通常魔法
「亜空間、バトル? なんだそりゃ」
「デッキの中のモンスターでバトルするカードだよ。お互いのプレイヤーは攻撃力?以外のモンスターをデッキから選んで、その攻撃力を比べる。攻撃力の高かったモンスターはプレイヤーの手札に加わって、逆に低かったモンスターは破壊されて、プレイヤーは500ポイントのダメージを受ける」
「同じ攻撃力、だったら」
「引き分けの時は両方のモンスターをデッキに戻す。そして、この勝負を3回繰り返す、と解説はこのくらいでいいかな」
「いいぜ、その勝負のったぞ」
「やーりー」
「要は攻撃力の高いモンスターで勝負すりゃいいんだろ。楽勝だぜ」
「余裕だねー」
「そういうお前こそ、わかってるのか。負けたプレイヤーは500ポイントのダメージを受ける。つまり、2回負けた瞬間、お前のライフは尽きるんだぜ」
「覚悟のうえだよ」
ちらり、と横目を向ける。ノエ先輩の顔はシールドの反射で見えなかったが、口許は自信ありげに笑っていた。そんな中、デッキからカードがせり出してくる。偽ムクロと勝負するカードだ。
「1枚目、いくよ」
「いつでも来やがれ」
偽ムクロも同じくカードを手にしていた。〈亜空間バトル〉第1戦目だ。
「ふっ、待ってるのは趣味じゃねぇんでな。俺様のカードはこいつだ! 最上級アンデット〈スピード・キング☆スカル・フレイム〉! 攻撃力2600だ! さぁ、さっさとカードを出しな」
スピード・キング☆スカル・フレイム
星10/風属性/アンデット族/ATK 2600/DEF 2000
【セキュリティ】のデッキでシンクロ召喚に頼らず、あの攻撃力を上回るのはなかなか難しいところ。やはりこの勝負、ノエ先輩が不利なのでは──。
「私のカードは〈
「何!?」
星10/闇属性/爬虫類族/ATK 3000/DEF 0
両者のモンスターが幻影となってフィールドに出現する。片や人馬一体になった最上級アンデット、片や胴体が極太の縄状になった巨大な蛇。〈スピード・キング☆スカル・フレイム〉が手から放った火球を避け、〈
「うっ、うぅ……、ちっ、かすっちまったか」
偽ムクロ LP 4000 → LP 3500
「さぁて、2枚目もいくよ」
「なるほど……そういうことか……」
偽ムクロの意味深な声が風音の間を縫って、ミナミにも聞こえてきた。しかし、その意味を理解するより早く2戦目が始まった。
「次は私から行っちゃおっか。選んだのはさっきと同じレベル10の〈
「だったら、俺はこいつで勝負だ。〈馬頭鬼〉攻撃力1700だ」
馬頭鬼
星4/地属性/アンデット族/ATK 1700/DEF 800
再びモンスターのビジョンが現れる。しかし〈馬頭鬼〉は下級モンスターほどのステータスしかない。〈
「うっ、うぅ……」
偽ムクロ LP 3500 → LP 3000
ダメージを受ける偽ムクロに、ミナミは1戦目とは明らかに違ったものを感じていた。バトルに勝つ気がなくなった、とでもいえばいいのか。それはノエ先輩も同じだったらしい。
「どうしちゃったのさー。急に弱腰になってるよー」
「てめぇこそ、やり口が露骨すぎんだよ」
「ああー、さすがにバレちゃったかー」
おどけたノエ先輩に対し、偽ムクロは苛立たしげに言う。
「〈亜空間バトル〉でてめぇにダメージを与えようと、俺が攻撃力の高いモンスターを見せたところを、さらに攻撃力の高いモンスターで返り討ちにする。てめぇのデッキには、そのための大型モンスターがわんさか入ってるんだろ?」
「わんさか、かどうかは想像にお任せするよ」
「けっ、何を今さら……。攻撃力3000が1枚見えた時点で、あと2枚も入ってるって判断するのが妥当だろうが」
なるほど。偽ムクロは〈亜空間バトル〉でデッキに眠るエースモンスターを消費するより、あえてダメージを受けてでも切り札を温存することを選んだのか。しかも、だ──。
「さぁ、3戦目と行こうぜ。俺のカードは既に決まってるがな」
「なら私も遠慮なく行かせてもらおっかな。私のカードは3枚目の〈
「俺のカードは〈
さっきと同じ光景が繰り返される。〈
偽ムクロ LP 3000 → LP 2500
「その〈馬頭鬼〉っていうモンスター、墓地で発動する効果があるよね?」
「おおっと、そこまでお見通しか」
ライフを削られたのに、偽ムクロの声には余裕があった。それもそのはず。〈馬頭鬼〉には墓地から除外することで、アンデット族を蘇生させる効果がある。〈スカル・フレイム〉が倒されたところで痛くも痒くもない。そのことはノエ先輩も承知しているはず。
「ちなみにだけど〈亜空間バトル〉で手札または墓地へ加わったモンスターはこのターン、効果を発動できない」
「そりゃ残念だったな。手札3枚もゲットしたのに使えずじまいか」
これでノエ先輩の手札は一気に8枚にまでなったが、そのうち3枚ある〈
「むふー、それじゃ行くよー」
きらり、とノエ先輩がヘルメットに陽光を反射させる。目許は見えないが、その声からは獰猛さが滲み出ていた。3枚の手札を引き抜き、それらを一気に墓地スロットへ。
「レベル10、レベル10、レベル10! 以上3体を墓地へ送って〈モンタージュ・ドラゴン〉を特殊召喚!」
コストになった3枚の〈
『『『グオォォ、グオオオォォォォォォ!!!』』』
モンタージュ・ドラゴン(攻撃表示)
星8/地属性/ドラゴン族/ATK ?/DEF 0
3つの咆哮と共に筋骨隆々の青いボディが両翼を広げて真昼の空を舞う。前回のデュエル訓練では真正面から対峙したミナミだったが、頭上をとられると、ヘリに追尾される逃走犯にでもなった気分だった。
「随分と派手なご登場だが、攻撃力?じゃ締まらねえぜ」
「それなら心配いらないよ。〈モンタージュ・ドラゴン〉の攻撃力は、召喚時に墓地へ送ったモンスターレベルの合計×300になる」
「墓地へ送ったのは3体のレベル10モンスター……、ってことは」
レベルの合計は30、そして攻撃力はその300倍だ。
『『『グオォォッ……グオオォォォ……!!!』』』
モンタージュ・ドラゴン ATK ? → ATK 9000
両翼を広げた〈モンタージュ・ドラゴン〉がその青いボディをさらに巨大化させる。元々盛り上がっていた筋肉が張り裂けんばかりにさらに隆起し、広がった両翼が陽光を遮り、ハイウェイを覆い尽くすほどの影を落としている。
「ほぅ、攻撃力9000か。手札3枚をコストにしただけのことはあるな。1ターンキル狙いか」
「そうかもね、と言いたいところだけど、にしては随分と余裕だね。何か秘策でもあるの? それともただのブラフ?」
確かに。この状況で〈モンタージュ・ドラゴン〉が〈スカル・フレイム〉を攻撃すれば、一瞬で偽ムクロのライフは消し飛ぶ。それを理解できない相手ではない。仮に打つ手がなくなって、ブラフに頼るしかないとしても、果たしてあそこまで余裕を演じきれるものなのか。
しかも今は時速200kmの超スピードでハイウェイを疾走している。轟々と鳴る風音は、少しでも集中を切らせばDホイールが蛇行しかねないことを物語っている。
(けど、偽ムクロのライディングに動揺は微塵もない。となると……あっ!)
ミナミは偽ムクロのフィールドを見て、あることに気づいた。さっきのターン、3体の〈バーニング・スカルヘッド〉による効果ダメージの応酬で忘れかけていたが。
──カードを1枚伏せてターンエンド。さぁ、最後のターンを楽しみな、ハハハハッ!
最後の最後に偽ムクロはリバースカードをセットしている。
(もし、あのリバースカードが攻撃に対するカウンターだとしら……)
攻撃力9000を前にして余裕でいられるのにも納得がいく。しかも今は後攻1ターン目だ。前回、ノエ先輩は〈トラップ・スタン〉で罠カードを無力化していたが、この状況ではそれもできない。
必死に追従しながらもミナミは目線をノエ先輩に向ける。それは偽ムクロも同じだったらしい。
「どうした。せっかくの攻撃力9000も棒立ちじゃ、無意味だぜ。言っとくが、このターンで〈スカル・フレイム〉を始末できなきゃ、てめぇは敗北だぞ」
次のターン、通常ドローの代わりに〈バーニング・スカルヘッド〉を墓地から回収し、それを〈スカル・フレイム〉が特殊召喚。そして、手札から特殊召喚された〈バーニング・スカルヘッド〉がノエ先輩のライフ1000を焼き尽くす。それが偽ムクロの狙いなのは確実だ。
(ここは攻撃しないといけない。けど、攻撃したならほぼ確実にトラップが待ち構えている……)
ミナミ自身、見えない罠を警戒するくらいなら突っ込むタイプだが、ここまで見え透いた罠には二の足を踏まざるを得ない。だが、そんなミナミをよそにノエ先輩が高らかに叫ぶ。
「んふふ……バトルだよ! 行けぇ〈モンタージュ・ドラゴン〉! 〈スカル・フレイム〉を攻撃!」
(ここで迷わず攻撃宣言を!? けど……!)
相手には伏せカードがある。ノエ先輩がそのことを忘れているはずがない。吹きすさぶ強風の中、偽ムクロが狡猾に笑う気配がした。
しかし、時すでに遅し。〈モンタージュ・ドラゴン〉が胸部を膨らませ、3つの口からそれぞれ破壊光線を放つ。目がくらむほどの光量が偽ムクロのDホイール目掛けて降り注ぐ。
「そいつを……待ってたぜ!」
獲物が罠にかかったと舌なめずりする声が風に乗って届く。
「リバース罠オープン! 〈
風の中、開かれたリバースカードにミナミは思わず目を疑った。
「〈
「おぉっと、本物がデュエルで使ってなかったら、俺様がデッキに入れてないとでも思ったか。甘いぜ、セキュリティ」
ファンではないミナミでも本物の炎城ムクロがどういうデュエルスタイルかは知っている。炎のアンデット族を駆使して、バーンダメージで相手のライフを焼き尽くす。そこに〈
「ちょっとばかし真似ることより勝つことを優先させてもらったぜ。〈
偽ムクロのフィールドに巨大な筒が2つ現れる。手品グッズのようなカラフルな筒が〈モンタージュ・ドラゴン〉のブレスを轟音をたてて吸い込んでいく。片方の筒に吸い込まれた破壊光線がもう片方の筒から打ち上げ花火のごとく発射される。上空でUターンした光線が、攻撃力9000のダメージとなってノエ先輩のホワイトライトへ襲いかかってくる。
「ノエ先輩!」
「これでジ・エンドだ! あばよ!」
勝利を確信した偽ムクロがDホイールを加速させようとした、その瞬間──。
「……対象にとったね?」
「あん?」
いぶかしむように偽ムクロが振り返った。この状況でダメージ9000をしのぐ手立てなんてあるはずがない。そう思っているだろう相手に、ノエ先輩はカードを切った。
「この瞬間、手札の〈
古聖戴サウラヴィス
儀式/星7/光属性/ドラゴン族/ATK 2600/DEF 2800
──パシュンンン!
上空でUターンして急降下してきた破壊光線がノエ先輩の頭上で砕け、光の粒子となって霧散してい。一瞬何が起きたのかわからなかったが、ミナミが目線をあげると、ノエ先輩のホワイトライトを守るように白い髭をたくわえた青白いドラゴンがそこにいた。
「な、何だ、このモンスターは……!?」
「〈古聖戴サウラヴィス〉だよ。このモンスターは手札から捨てることで、私のモンスターを対象にした相手の魔法・罠・モンスター効果を無効にする!」
「なっ……対象にとる効果、だと……!」
偽ムクロはすぐさま自身のフィールドを見た。その視線の先にある〈
「これで〈モンタージュ・ドラゴン〉の攻撃を防ぐ手立てはなくなったね」
「ば、馬鹿な……こんな、ことが……!」
震える偽ムクロの声には、もう相手を嘲笑うような余裕は欠片もなかった。完全に化けの皮が剥がれている。手の中にあったはずの勝利が敗北に擦り変わった恐怖が風を介して伝わってきていた。だが、それで容赦するガールズ・セキュリティではない。
「〈モンタージュ・ドラゴン〉、〈スカル・フレイム〉を攻撃せよ! 攻撃力9000! パワー・コラージュ!」
『『『グオオオオオォォォォ!!!』』』
胸部を大きく膨らませた〈モンタージュ・ドラゴン〉が再び3つの口から破壊光線を発射する。轟く雄叫び。目に見えるすべてをジャックする光量が暴風を伴って〈スカル・フレイム〉を瞬間的に焼き尽くす。そして攻撃力差は実に6400。そのすべてが戦闘ダメージとなる。
「ああぁ……あああぁぁぁ……!」
──ドゴォォォォオオオオン!
「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
偽ムクロ LP 2500 → LP 0
恐怖と怒りの入り交じった断末魔がハイウェイに響く。パワー・コラージュの光線で真っ白になった視界の中、Dホイールがスチームを噴く音を鳴らす。スピードを奪われた偽ムクロのDホイールが、甲高くスピンしながら高速で後方へ走り去っていく。
その光景を横目に見ながらノエ先輩はホワイトライトを寄せてきてた。
「んふふ、ざっとこんなもんだよ、新米ちゃん」
「は、はい……」
そうして、かわいくVサインしてみせた。もっとも、あんな獰猛無比なデュエルの後ではまったくかわいく見えなかったが。
◆ ◆ ◆
デュエルの決着から間もなくして到着した治安維持局の護送車によって偽ムクロことコピーキャットは身柄を確保された。
正確には回収されていった、と表現した方がいいかもしれない。ノエ先輩とミナミが駆けつけた時にはスチームの中で白目を剥いたまま気絶しており、護送車に乗せられる時も逮捕というより大型荷物の運搬のような雰囲気だった。
聞くところによると、これまでもノエ先輩が容疑者を片っ端からライディングデュエルで倒していき、その後ろで控えていた護送車が負けた相手を回収していっていたらしい。だからみんな手慣れた様子だったのか、とミナミは妙に納得してしまった。
ずっとハイウェイを封鎖しているわけにもいかず、偽ムクロを回収するなり護送車は走り去っていった。
ミナミたちもこれから帰局して必要とあらばデュエルギャングの摘発に応援として呼ばれるだろう。そう思った矢先、ノエ先輩に無線が入った。
「はーい、こちらデュエルチェイサー103。コピーキャットは無事確保したよー。……はい、……はいはーい、……了解っと」
「ティール隊長からですか」
「おっ、よくわかったね。あっちも片付いたってさ」
「片付いた、というのはデュエルギャングの摘発がですか」
「そーだよ」
緊急封鎖していたハイウェイを風が吹き抜けていく。
その風がミナミにはなぜが空しかった。いや、誤魔化さずにいえば、デュエルギャング一斉摘発の方から応援要請がかかるかもしれないと覚悟はしていた。それが杞憂に終わったのたが、ほんの少し空しかった。
しかし、考えてみれば当然のことなのかもしれない。
あっちにはティール隊長を含むベテラン局員が総動員されている。いくら無法者の集団とはいえ早々に制圧されるだろうし、万が一にも応援要請がかかるなら新人ではなく、経験のあるガールズ・セキュリティだろう。
間違っても良家の子女で、腫れ物扱いされている自分がそんな危険な任務に抜擢されるはずがない。このコピーキャットの容疑者を確保する任務に呼ばれたのでさえ奇跡といっても過言ではないくらいなのだから。
「すごいですね、ノエ先輩たちは」
停めたホワイトライトに腰かけたままいると、自然とそんな声が漏れてしまった。
「どうちしゃったのー? せっかく犯人逮捕できたのに、元気ないよー?」
「あっ、すいません、これは……」
慌てて表情を作る。それでも自分自身への気持ちは隠しようがなかった。
今回の一件、ミナミは果たしてどれだけ事件解決に貢献できただろうか。
もしたしたら、自分がいなくても敏腕な先輩たちがあっさりと事件を解決していたのではないか。いくら頭を振っても、心の底にそんな嫌な考えが残ってしまう。
「ちゃーんと貢献してるよ、新米ちゃんは」
「は、はい?」
ノエ先輩が腰かけていたホワイトライトから身を起こす。
犯人の身柄確保のため一時的に封鎖しているが、ここはハイウェイのただ中で、本来ならこうしてDホイールを停止させているのもかなりまずいことなのだが、ノエ先輩は慌てる仕草も見せずに歩み寄ってくる。
「さっきのデュエル、新米ちゃんのお陰で勝てたようなものだからねー」
「そうですか。ノエ先輩なら、あの偽ムクロに追い付くくらい容易かったと思いますが」
「あれ、いま私って遠回しにスピード狂って言われた?」
まずい、バレたか。
「言っとくと、Dホイールのチェイスじゃなくてデュエルの中身のことだよ。ほら、この子」
言いながらノエ先輩は腰のデッキホルダーからカードを抜き取った。青い枠のそのカードにはさっきのデュエルでも見た白髭をたくわえたドラゴンが映っている。
「〈古聖戴サウラヴィス〉。このカードね、新米ちゃんに負けてから入れたんだ」
「あのデュエルの後ですか」
あまり思い出したくないが、ノエ先輩との初デュエルはミナミがデュエル訓練で対戦相手を見つけられなかった時だった。スイーツアンティで賭けをしていたがため、あとでティール隊長からこってり絞られることになるのだが、デュエルの内容といえば──。
「確か、ノエ先輩の〈モンタージュ・ドラゴン〉に私が〈禁じられた聖杯〉を発動して」
「そーそー。効果無効にされて、攻撃力もパーになっちゃったんだよね。おまけに攻撃宣言時だったし」
そのせいでノエ先輩は攻撃対象のモンスターに返り討ちにされ、そのままライフを削りきられて負けたのだった。
思い返してみれば、さっきの偽ムクロとのデュエルも攻撃時にエースである〈モンタージュ・ドラゴン〉を狙われたし、あの攻撃力9000を相手にすると、誰も彼もが同じプレイをするようになるのか。
(でも、利にかなってはいるわね)
ノエ先輩の〈モンタージュ・ドラゴン〉は大振り故にそこを突き崩せれば、デュエルの流れを一気につかめる。だから狙い目にもなってしまうのか。そしてその弱点を狙ってきた反撃の芽を摘むためのカードとして〈古聖戴サウラヴィス〉はなかなか好相性なのだろう。
「さっきみたいな後攻1ターン目だと〈トラップ・スタン〉が使えなくて悩んでたんだけど、この子は手札から捨てて発動できるからね。それに〈エフェクト・ヴェーラー〉とか〈禁じられた聖杯〉とかも跳ね返せるんだよ」
「あとはレベル7なので、いざとなれば〈モンタージュ・ドラゴン〉のコストにもなる、ですか」
「んふふ、よくわかってんじゃんか」
やっぱり、この先輩たちはすごい。あのデュエルの後、ミナミはティール隊長と懲戒免職を懸けたデュエルをすることになり闇雲に防御カードをデッキに入れることしかできなかったが、この人はきちんと敗北を次の勝利へつなげている。
(それなら、私も──)
この先輩たちと肩を並べられるガールズ・セキュリティにならないと。そう決意を新たにしようと思ったところで──。
「ところで新米ちゃんさ」
さっきまで晴れていた空が急に暗くなってきた。どこからともなく現れた分厚い雲が太陽を遮って、ハイウェイ全体に影を落としている。
それから、ずずいっとミナミの上にも影がかかる。
「帰り道にちょーっとデュエルしていかない? あー、何にも他意はないよー、ほんとにー」
ノエ先輩だ。目はにっこりしているのに、なぜか口許が獰猛な肉食獣のそれにしか見えないのは日陰になっているからか。それとも思い出を話している途中に敗北の記憶でも開けてしまったのだろうか。
「え、えーっと」
「言っとくけど、遠慮するのはなしだからね」
「……は、はい」
ここでノーと言えるほど、ミナミは骨太ではなかった。
Turn END
▼ノエルの使用オリカ▼
星10/闇属性/爬虫類族/ATK 3000/DEF 0
「
(1):自分・相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃力3000以下のモンスター1体を対象として発動できる。手札のこのカードを装備カード扱いで対象モンスターに装備する。装備モンスターの攻撃力は600ダウンし、攻撃できず、表示形式の変更もできない。
本編では召喚コストになっていましたが、本来は手札から発動できる〈闇の呪縛〉みたいなカードです。
相手の攻撃モンスターに装備して攻撃を防ぎつつ、返しのターンで攻撃力ダウンしたところを叩いたり、逆に自分から攻撃した時に相手モンスターに装備して戦闘破壊を狙ったりできます。
守備力0の闇属性なので〈悪夢再び〉にも対応しているので使いまわしや〈モンタージュ・ドラゴン〉の手札コストにもなってくれます。
ネーミングは〈
〈亜空間バトル〉のテキストが判明した時に、これで〈モンタージュ・ドラゴン〉の召喚コスト集められる、と思って出来たデュエルです。いつの話だとか言わないでください。
ノエちゃん先輩のデュエルはワンショットで決着がつくので、何かしらの捻りを入れていきたいですね。
オリジナルカードWikiの投稿方法について質問です( ・ω・)∩シツモーン
-
今までみたくカードWikiのみでいい
-
話の巻末に一覧として附属していい