お嬢様がGBNにいるわけないだろう!   作:プラ板の削りカス

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【朗報】ピケストの後任、決まる

 昨日の夜、結局ユリカさんのいう「課題」とはなんなのかと考えて眠れずにいたら、久しぶりにピケストから連絡があった。

 なんでも、後任のメイドさんがようやく決まったらしい。

 時間こそかかったけど、決してなあなあにせず、自分の足で探し回った上で決めたのだから、腐れメイドのくせにそういうところが律儀なのよね。

 

 そんなわけで後任のメイドさんは今朝から着任する、という楽しみも加わって、結局私は一睡もできないまま朝を迎えていた。

 正直クソ眠い。なんで夜は活動をサボってたくせに朝になると活発になり出すんだよ、睡魔の野郎はよ。

 でも、どんな子が後任になるのか、仲良くなれるのか、気になって仕方がないから、居眠りなんてしてられない。

 

 だから、舌を噛んで、眠気を強制的に覚ましていると、こんこんこん、と、部屋のドアを折り目正しく3回ノックする音が聞こえてきた。

 

「入っていいわよ」

『失礼いたします』

 

 がちゃり、と部屋のドアが開くと、向こう側に立っていたメイド服の女の子2人が、深々と一礼してから入室してくる。

 なるほど、二人体制になったのね。

 今までピケストが担当していた業務量が異常だったといえばそれまでだけど、それを涼しい顔でこなしていた、あいつが大概化け物なだけの話だ。

 

「し、失礼いたします、お嬢様……へへ。私はヨナドリ・ハレと申します。この度はピケスト先輩の後任と、こちらのブメザラ・キョウの教育係として着任いたしました。誠心誠意ご奉仕しますので、どうか、末長くよろしくお願いします……」

「ブメザラ・キョウだ。お嬢様。メイドとしての経験はないが、ピケスト先輩から完璧に後任を果たせると見込まれてこの度着任した。任された以上は完璧に職務を遂行してみせる」

「わーわー、キョウちゃん! 敬語敬語!」

「はっ、私は完璧ではなかった……失礼いたしましたお嬢様、この後反省点をまとめたレポートを提出し、完璧に修正します」

 

 なんか思ったよりすげぇのきたな。

 ゆるくウェーブがかかった、淡い金髪のハレちゃんには見覚えがある。確か、クソ親父が幅を利かせてた最後の頃に入ってきた新人だったはずだ。だから、娘の私に対しても萎縮しているのかもしれない。

 逆に、アメジスト色の髪の毛が特徴的なキョウとは全くもっての初対面だった。ピケストからはハウスキーパーの専門学校から能力を見込んで引き抜いてきたという前置きをもらっていたから能力は優秀なんだろうけど、うん。

 

「ピケスト先輩はいかなるときも職務を完璧に遂行する完璧なメイドだったと聞いている……私は完璧ではない……」

「もう、落ち込まないでってば。キョウちゃん。なんかあったら、ハレさんが責任取るから……最悪腹も切るから……」

 

 なんというか、ピケストが選んだ後任らしいというか。

 萎縮してるけど私と面識のある相手に、能力はあるけど度を超した完璧主義者。

 メンターとしての役割をハレちゃんに任せつつ、キョウちゃんにはピケストが見込んだ能力を発揮してもらおうという考えなのだろうけど、人格面を全く考慮してないのがあいつらしい。

 

「別にそのままでいいわよ、キョウ。私もあんたとハレちゃんの前では取り繕うつもりはないから」

「本当か? それは助かる。完璧ではないのは承知しているが、敬語ばかりは堅苦しくて覚えきれなかった……今度レポートを作成して提出せねば……」

「えっ、本当にいいんですか……? ハレさん、東京湾の底に沈まなくていいんですか……?」

 

 もうそこまで覚悟決めてたのかよ。

 そんなことでいちいち人を沈めてたら、東京湾の魚が豊漁になっちまうだろうが。

 キョウはもう人となりがわかったけど、ハレちゃんもハレちゃんでなんだか卑屈というかこの家に対する信頼があんまりないのを感じるし、なにより。

 

「私とピケストは主従とはいえ、気心知れた仲だったと自負しているわ。だから、あの子の後任に選ばれた貴女たちとも仲良くしたい。それじゃダメかしら?」

「そういうことなら歓迎する。私はGMC専門学校では友達と呼べる存在がいなかった。そういった意味で完璧ではないので非常に助かる」

「お、お嬢様が仰るなら……へへ、ハレさんにできる範囲のことならなんでもしますんで……」

 

 まあ、この様子だと本当に打ち解けて仲良くなるまで時間はかかりそうだけど。

 でも、よかった。

 クセこそ強いけど、変に気を遣ったり、遣われなくても済むような相手を、ピケストはちゃんと見繕ってくれたのだろうから。

 

「で、ハレちゃんがメンターってことだけど、GBNでの活動もサポートしてくれるの?」

「そ、それについては残念ですが、私は詳しくないので……あくまでも私はキョウちゃんのメンターであって、実質的にお嬢様を陰に日向にサポートするのはキョウちゃんというか……へへ」

「ピケスト先輩からガンプラバトルとガンプラの制作及びガンダム作品の履修は完璧に教えてもらった。GBNのダイバーランクもSS? まで上げてから着任したので、心配はない」

 

 凝り性の相手にガンダムとやり込みゲーを与えた末路って感じだった。

 でも、キョウちゃんがSSランクまで上がれるだけの腕前とガンプラ知識を持っているのは素直にありがたい。

 シナノちゃんが加入してくれて、レディビルドの総合的な前衛性能は上がったといえるけど、遊撃手のピケストが抜けたことで、搦手に対する耐性は大きく下がったといっても過言ではないのだから。

 

「それじゃあ早速だけどキョウ、ガンプラを見せてもらえる?」

「承知した。これが私のガンプラ……『ムラサメ改・スピアヘッド』だ」

 

 メイド服の腰につけていたガンプラホルダーからキョウが取り出したガンプラは、ムラサメ改をベースにしながらも、ブレードアンテナが4本になっていたり、随所にインフィニットジャスティスガンダム弐式の要素が組み込まれていた。

 

「なるほど……ピケストが見込んだだけのことはあるわね。フォランテスをプラノコで分割してムラサメ改の翼基部とくっつけてるのね」

「その通りだお嬢様。そして、足首はイモータルジャスティスガンダムのものを使用して、膝アーマーも移植する形で取り付けているから、カルキトラビーム重斬脚も使用できる」

「やるじゃない。変形もできるんでしょ?」

「もちろんだ。ダリルバルデのコンポジットアームズは盾にネオジム磁石で接続するように改良してあるから、腰のビームサーベルも2本に増やせた。完璧に遊撃手としての責務を果たせると自負している」

 

 ふんす、と、キョウは、表情こそ変わらないけど、どことなくドヤ顔を披露したように見えた。

 確かに、可変機であるムラサメ改の特性を殺すことなく強化しているのなら、ピケストのヴィシャスが抜けたことで失われた機動力を補うには、十分だといえるだろう。

 そこまで見越してキョウを後任に選んだのなら──いや、ピケストのことだから、そこまで見越して選んだに違いないわね。

 

「あのぅ……お嬢様……」

「どうしたの、ハレちゃん?」

「こ、これ……ハレさん必要ないのでは……? 大人しく田舎に帰って出直して……」

「なに言ってんのよ、ピケストの異常な業務量は、背中を見てきたハレちゃんが一番よく知ってるじゃない」

 

 私とキョウのやり取りを聞いて、若干卑屈になっていたハレちゃんの両肩に手を置き、真っ直ぐに目を見つめた上で言い放つ。

 キョウちゃんがどれだけ優秀だとしても、申し訳ないけど幼い頃から私の世話と業務を両立してきたピケストには経験で敵わない。

 学園とGBNを担当するキョウをフォローし、家での業務を任せる相手が必要だから、ハレちゃんも後任に選ばれたのだろう。

 

「わ、私も必要……なんですかね、へへ」

「ハレちゃんの他に替えが利く相手が必要なんじゃない。替えが利かないハレちゃんだから必要なの。私が友達に選んだ相手なんだから、もっと自信持ちなさいよね!」

「……へ、へへ……ありがとうございます……」

 

 私が笑顔で親指を立てると、ハレちゃんはぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 いってしまえば、私の立場であればメイドはいくらでも替えが利く存在だ。

 それでも、「ヨナドリ・ハレ」という女の子と、「ブメザラ・キョウ」という女の子はこの世にたった1人しかいない、かけがえのない存在だと断言できる。

 

「それじゃあ早速だけどハレちゃん、髪を整えるのと、着替えさせてくれるかしら?」

「は、はい! 喜んで……!」

「では私は学園への完璧な潜入準備を進めておく。ハレ先輩、お嬢様を頼んだ」

 

 一礼してから、キョウちゃんはガンプラホルダーにスピアヘッドをしまい込んで、部屋を出ていった。

 優しく丁寧に髪を梳かしてくれるハレちゃんの手つきに確かな慣れと経験を感じながら、私はキョウの背中を見送っていた。

 新しい朝を、少しだけ自由に変わった空気を肺一杯、吸い込むように。




癖つよメイドの後任はやはり癖が強かった
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