幻真赫月天 〜Phantom or Truth〜 作:咲野 皐月
間髪入れずに第6話、進めて行きましょう。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみください。
「……私、貴女に謝らなければ行けないわね。仲間を……友達を真っ先に疑う真似をしてごめんなさい。記憶が戻って無かったとは言え、あまりにも褒められた物じゃない」
「い、いいよそんなっ! 私だって千聖ちゃんと同じ立場なら、同じ事を言ったかもしれないし……!」
私は彩ちゃんの案内を受けて、街が一望できる高台にやって来ていた。例え幻の人格と記憶を植え付けられていたとしても、友達を真っ先に疑うなんて……絶対にするべき事じゃない。この報いは、必ず受けさせるわ。私にこんな事をさせるなんて、相当な命知らずね……。
「それで彩ちゃん、私で目醒めた幻真獣ファイターは……6人目と言ってたわね。他のみんなは何処かしら?」
「うん、今ちょうどここに」
「今回は早い到着でしたね、丸山さん」
彩ちゃんの背後からそう聞こえたため、私はその方向を確認した。そこには紗夜ちゃんや燐子ちゃん、イヴちゃんに京介くんが揃っていた。……ただ一つだけ、奇怪な所を指摘するのなら。
「ねえ京介くん、一つ聞いてもいいかしら?」
「何ですか?」
「私の目の錯覚かしら……スマホが、ひとりでに宙に浮いているのだけれど?」
「千聖ちゃん、大丈夫。私もまだ慣れてないから」
……こんな事で安心なんてしたくなかったわよ。
『我が名はヴェイズルーグ。赫き月の災いを打倒せし者』
「……そのヴェイズルーグは、どうしてスマホに宿っているのかしら。いえ、聞こうかと思ったけどそれは割愛するわ。それよりも先ずは状況の整理をさせて頂戴」
『わかった。先ずは大前提として、この世界は幻創カードによって創られた……幻の世界だと言う事を頭に入れて貰おう』
幻創カード……いよいよ話が現実離れして来たわね。
『三週間ほど前の夜、この地球と惑星クレイに同時に赫き月が満ちた。その時を境にその星に生きる全ての者が幻に染まり、偽りの人格と記憶を植え付けられた』
「そして俺とヴェイズルーグは、その翌日から独自に調査を行なった。住民には聞き込みを続けたし、霧が辺りに漂っていたから外に出られるかどうかも全て検証した」
『だが結果は同じ。聞き込みで得られた情報は全く無く、霧の外に出る事も叶わなかった』
……それは、相当危険な状況ね。
この幻世界の外に出られないのなら、一番の解決方法はその発生源を何とかするしか無いけれど……そこは既にわかっているのかしら?
「安心して下さい。解決方法ならあります」
紗夜ちゃんの言葉の後、私たちはある一点を一斉に見つめた。そこには螺旋階段を彷彿とさせる、大きな塔が聳え立っていた。そしてその前に建っている城壁を思わせる門からは、異様な程の威圧感が感じられた。
「あそこにあるミラージュタワーに赴き、その頂上にある幻創カードを手に入れる事です」
『だが、ミラージュタワーは特殊な結界で守られている。幻影ファイターによって守られし、特殊な結界だ』
「幻影ファイター……それが、私たちの戦う相手」
『そうだ。その者たちを全て倒さなければ、ミラージュタワーへの道が開かれる事は無い』
その幻影ファイター達に対抗する為の手段……それが、私たちの持つ幻真獣カード、と言う訳ね。色々とツッコめばキリが無いけれど、一先ず解決策が見つかっているだけでも値千金かしら。
「しかしだ千聖さん。いくらアンタと言えど、今回の戦いを無傷でやり過ごす事は出来ん」
「……はい。幻影ファイターは、わたしたちとは違って、この世界を守る為に、牙を剥いて来ます……。そして、負ければ最後、元の人格と記憶は、全て……幻に呑まれてしまいます」
「……そう言う事ね」
まさしく、お互いの存在を賭けた戦い……この事を私たち以外に知らないのが唯一の救いだけど、普通なら暴動が起きても仕方無いわね。
「そう考えると、私たちは一番最悪の状況に居るわね」
『なぜそう断言出来る』
「ヴェイズルーグ、彩ちゃんから聞いたのだけれど……目醒めた幻真獣ファイターは、私で最後なのよね?」
『そうだ』
「なら、颯樹は幻影ファイターで確定だわ」
私から齎された言葉を聞いた5人が、思わず息を呑む。
『……そうか。キョウスケが最初に電話した相手が、サツキと言う名だった事は理解している。しかし、我の予測は悪い意味で的中していたのか』
「嗚呼。俺ももしかして、とは思ったがな……」
「そうね。そして颯樹の実力は、みんなも骨身に染みてよく知っているでしょう?」
……颯樹のあの実力で、幻影ファイターになっているのだとしたら、幻創カードを手に入れる以前の話。ミラージュタワーに張り巡らされている結界を解く前に……最悪の場合、私たちの方が全滅してしまいかねない。それほどに颯樹は強いし、まともにやり合える人の方が少ない。
そして極め付きは、なかなか自分から出て来ない。
こうなると私たちが完全に疲弊しきった頃合いを見て、一気に奇襲を掛けて来る可能性が高そうね。それか若しくは、私たちの陣形を崩す尖兵として送り込まれて来るかの二択だけど。
「これから私たち、颯樹くんや千歌ちゃんと言った、並み居る強敵を……全て倒さないといけないんだよね」
「ええ、その通りよ」
「そして幻から解き放って、元の世界を取り戻さないといけないんだよね」
「はい、その通りです。……丸山さん、不安ですか?」
紗夜ちゃんからの問い掛けには首を横に振り、彩ちゃんは否定の答えを返した。彼女と一緒に二年も同じバンドで一緒に居たのだから、彩ちゃんの諦めの悪さは知っている。彼女はやる時はやる、それはイヴちゃんもよくわかっているはず。
……あら?
いつもなら元気良く答えるはずなのに、今回は
「不安になってる場合じゃないよね……。元の世界を取り戻せるのは、私たちだけなんだから……。たとえ誰が相手でも……戦わなきゃ……」
そうだ。弱気になってる暇なんてない。相手が颯樹くんでも千歌ちゃんでも……倒す以外の選択肢は無い。そうしなきゃ、大切な世界は元に戻らないんだ。
大切な……世界……。
そういえば……勇くんはどうなったんだろ?
記憶を思い出してからてんやわんやで会いに行ってる暇も無かったな……。会ったとしても私たちの関係は無くなってるから覚えてないかもだけど……。
あれ? そういえば勇くんが幻影ファイターになってる可能性も……ゼロじゃないんだよね……?
もしそうだとしたら……彼と戦わなきゃいけなくなる、ってこと……?
頭によぎったひとつの可能性。それでも私は、その可能性が現実にならない事を祈るばかりだった。
「……千聖ちゃん、ちょっといい?」
「何かしら?」
「千聖ちゃんは……本当に颯樹くんが幻影ファイターの一人だったら……戦える?」
「そうね、怖くないと言ったら嘘になるわ。颯樹と対立する事はあったけど、あの感覚は何度やっても慣れないもの」
「……そっか」
「それでも……今はやるしか無い。覚悟は出来てるわ」
千聖ちゃんは拳を握りしめながらそう言った。
「そっか、千聖ちゃんは強いね……」
「……彩ちゃん?」
「ううん、なんでもないよ! うん……。なんでも……ない……」
私の声は次第に小さくなって行った。
……私は、まだ怖いよ……。だって、お互いの存在を賭けて戦わないと行けないと言う事にも恐怖が付き纏うのに……その相手がもし自分の大切な人で、戦いの果てでその存在を消さなきゃ行けないなんて。
(こわい……こわいよ……。わたし、一体どうすればいいの……!?)
私は内心でそんな事を思いつつも、他の皆の方を見た。
その様は各々で違うけど、もう顔付きは戦闘態勢って感じだった。特に京介くんと紗夜ちゃんに千聖ちゃんは、誰が相手でも全力で戦うと言う気概すら見せていた。それを言うならイヴちゃんは元からそうだったし、燐子ちゃんもいずれは覚悟を決めるはずだ。
「……そういえば、その戦いの名前……何と言うの?」
「その戦いの名は」
京介くんが千聖ちゃんの質問に答えようとした時、突如として黒い霧が何処からとも無く現れ始めた。そしてそれは徐々に集まって人一人を覆い切れるくらいまで大きくなって……。
『その戦いの名は幻真星戦。全ての幻真獣カードの所有者が目醒めた様だな、運の良い事だ。ならば改めて宣戦布告と行こう』
「あ、アナタは……!?」
『我が名はガブエリウス。この幻世界を治める者』
ガブエリウス……。この人が、この世界の……。
『幻を広げ、私はこの世界を創り変える。その為に幻真獣には消えて貰う。幻を暴き、真実を露わにする力を持つお前たちにはな』
「ガブエリウス……なぜ、アナタはこんな事を!」
『私は世界の過ちを正し、理想の世界へと導く先導者。故に我が障害となる幻真獣を全て排除する。その為ならば、如何なる手段をも用いよう』
そ、そんな……。
そんな事をしたら、みんな……バラバラに……!
『幻影ファイターが勝てば、幻真獣の力は消える』
『逆に幻真獣ファイターが勝てば、幻影ユニットの力は消える。そして全ての幻影ファイターを倒した時、結界は壊れ、扉が開く』
『その時は、この私が直々にお前たちと決着を付けるとしよう。互いの大切な物の為に』
……戦わなくちゃ、行けないんだよね……。
そうしないと、私たちの紡いで来た思い出が何もかも全部消えちゃう……。楽しかった事ばかりじゃない、辛い事だって沢山あったけど、でもそのどれもがかけがえの無い大切な物。
けど、ガブエリウスさんは……その全てを消そうとしている。私たち幻真獣ファイターを全員倒す事で、真に取って代わろうとしている。そんなの……嫌だよ……絶対許せない……!
『幻真獣ファイターか、幻影ファイター。どちらかが全滅するまで、戦いは終わらない』
『お前たちが幻を消し去るか、我らが真実に取って代わるか。お互いの存在を賭けた戦い……それこそが幻真星戦。逃れる術は存在しない。まあ、約一名ほど戦う以前の者も居る様だが、そうであっても我らは一切容赦しない。幻真獣は必ず消す、必ずだ』
……っ!?
『早々に受け入れる事だ、消え行く運命をな』
そう言ってガブエリウスさんは、再び黒い霧の中にその身を隠して消えて行った。そして辺りは完全に闇に包まれ、その場には私たち幻真獣ファイターだけが残った。……そんな時だった。
「揃った様ですね、全ての幻真獣ファイターが」
『誰だ!』
ヴェイズルーグさんが突如として聴こえた声に誰何すると、その正体は少しずつ姿を現して……って!?
「暫くでしたね、丸山さん。皆さん」
「ち、ちか……ちゃん……」
「無事にあの後合流できたみたいですね。若宮さんと再会した時に見ていましたが、心配は杞憂でした。これで私も心置き無く貴女方に宣戦布告ができます」
そう言う千歌ちゃんの瞳は真っ直ぐで敵意があり、気を抜けば一瞬で切り裂かれそうな程に鋭かった。
「千歌ちゃん、貴女も幻影ファイターだったのね」
「はい、そうです。ですが、今回の私はあくまで偵察に来ただけです。……どうぞ、出て来てください」
そして千歌ちゃんの呼び出しで現れた人物は、大きめのパーカーに付属してるフードを深く被っていた。
「お前……何者だ?」
「ハァ……。幻真獣ファイターは……これで全員か。めんどくせぇ」
「まだ質問に答えて貰ってないぞ? 会話のやり方も知らないのかお前」
京介くんは謎の人物に強く答えを要求したが、求める返答は一切無い。でも私は、その人物の面影にある心当たりがあった。
「待って、もしかして……」
「勇くん……?」
私がその名を呟くとその人はフードを外し、その顔を見せた。
……間違いない!
「良かった……っ! 無事だったんだね!」
「待て彩さん!」
勇くんの元に駆け寄ろうとする私を、京介くんは勢い良く片手で静止した。
「京介くん……? なんで……!?」
「あの人はさっき『幻真獣』って口にした。普通の人はそんな事も知らないはず、それに幻真獣ファイターは千聖さんで最後だ。
つまり……」
「勇さんは幻影ファイターだ。そうだろ? ヴェイズルーグ」
『ああ、この者から赫月の力を感じる。間違いない』
京介くんの言葉に勇くんは無言を貫く。
「嘘……でしょ?」
「その人の明察通りだ。俺はお前たちの敵……らしい」
勇くんがそう言うと、私はその場で崩れ落ちた。間一髪でイヴちゃんが支えた為、大事な怪我には至らなかったものの……私の表情は現実を受け入れられないと言わんばかりだった。
「アヤさん! しっかり!!」
「まさか貴方がそちら側に回ってるなんて……」
勇くんの顔を見るや燐子ちゃんはそう呟き、京介くんは訝しむ様に彼の顔を見た。
「ここに来たと言うことは……」
「ええ、やはりファイトを仕掛けに来たと見て間違いないでしょう」
京介くんに続く様に、千聖ちゃんと紗夜ちゃんも警戒態勢に入る。しかし、一方の勇くんは一切動く素振りは無かった。
「待て、先ずは話をしよう」
それどころか逆に提案を持ちかけてきた。
「話……?」
「俺は無益な争いは嫌いだ。そこでアンタらに提案をしたい」
「アンタらの持つ幻真獣カードを渡せ」
「……は?」
勇くんの言葉を聞いた瞬間、京介くんたちは「コイツは何を言ってるんだ?」と言わんばかりの顔をしていた。
「佐倉さん、貴方……自分が何を言ってるのかわかってるのですか?! それは私たちに戦わずして自ら負けを認めろと言ってる様なものですよ?!」
「勇くん、冗談にしては笑えないわよ? そんな事をして私たちになんのメリットがあると言うの?」
「この場を双方無傷で収められる。不満か?」
紗夜ちゃんと千聖ちゃんの問いかけにすら、表情を何ひとつ変えずにそう答えた。
「お前、こんな夜遅くにこんな場所まで来てわざわざお喋りに来たのか?」
「ああ、この戦いから手を引け……とな」
「嫌だと言ったら?」
「力ずくで従わせるまで」
勇くんはそういうと自身の“幻影”ユニットである……《救済の零 ブラグドマイヤー“幻影”》を取り出した。
こうなると戦いは避けられない。
(どうしたものか……。元の世界の勇さんでも颯樹さんのスパルタ指導を突破したくらいの実力はある……。全く、どうしてこうも面倒な奴が選ばれてるのやら……)
「京介くん、ここは私が行くわ」
考え事をしていた京介くんに声をかけたのは……千聖ちゃんだった。
「行けるのか?」
「ええ、いつかは戦わなきゃ行けない訳だし。それに……今の彩ちゃんを彼と戦わせる訳にはいかないもの」
千聖ちゃんに言われて京介くんは横目で私を見る。
……あ、あはは……お見通しだよね……。でも!
「……わかった。じゃあ「私が……行く」……は?」
千聖ちゃんからの提案を、少し悩んだ後に呑もうとした京介くんに割り入る形で、私は戦うと立候補をした。まだ状況が上手く飲み込めていないけど、やらなくちゃ……わたしが、やらなくちゃ!
「彩さん、無理すんな」
「そうよ。それに彩ちゃん……まだ震えてるじゃない」
「ありがとう、千聖ちゃん。でも……私がやるよ」
「私がやらなきゃ……いけないと思う」
そう言って私は勇くんの前に立つ。
その時、一斉に全員のスマホが鳴り始めた。私自身は設定した覚えの無い通知音に戸惑った事もあり、少し反応が遅れてしまったんだけど。
……そこに記されていたのは。
「こ、これは……」
「幻真星戦成立の合図です。この幻世界に敵対した者として、貴女は承認されました。これから貴女は、自らの存在を証明しなければなりません。佐倉さんと言う大切な存在を蹴落としてでも、元の世界を取り戻すと言う意志を」
そ、そんな……!
「……やっぱり、私が変わるわ。こんなの認められない」
「私としては貴女でも構いませんが、白鷺さん。せっかくやる気を見せてくれた丸山さんの意気込み……それを無碍にするのは、興が削がれるとは思いませんか」
「千歌ちゃん……っ!」
私が戸惑っているのを他所に、地面が円形に赫く発光したかと思うと、その下から螺旋状にファイトテーブルが出て来た。そして六つのサークルが他の領域と共に光を示し、私に戦いを強制する様だった。
「……仕方無い。さっさと終わらせる」
「京介くん、この状態になるともう止められないの?」
「……さすがのアンタと言えど、無理だ。システムが彩さんと勇さんの戦いを承認した……それを安易に阻めば、アンタの持つ幻真獣の力が、その代償として消去される危険性がある」
「そ、そんな……!」
「幻と真のカードファイト。互いの存在と運命を賭けた、逃れられぬ一戦だ」
……こうなってしまった以上、戦わないと。
まだ手は震えてるし、この不自然な程の鼓動の速さも治まっていないけど……私は、戦う!
「行くよ、勇くん!」
「……」
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の投稿日は未定となっておりますが、次回から二話連続でファイト描写が入る都合上、予定としている二週間後の投稿に間に合わない可能性がございます。
読者の皆様にはご心配とご迷惑をおかけしますが、更新をお待ちくださると幸いです。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。