ウマ娘に領域展開を教えたい転生者トレーナー 作:白髪サングラス女
ブルボンの最初の目標であるクラシック三冠。それに挑戦する前に、ジュニア級のうちにGⅠのレースを体験させておきたい。そう思って、ブルボンの目標レースとしてホープフルステークスを選んだ。
ホープフルステークスを選んだ理由として一番大きいのは2000mの中距離だから。いずれ否が応でも示す事になるとはいえ、早めにブルボンが中距離でも問題ないという事を大々的に示しておきたいのだ。いい加減、短距離マイルの方が……という声は聞き飽きた。
タキオンやカフェの担当をする事に関しては想定外の事だったが、併走相手がいるというのは思いの外大きかった。来年デビューする予定の2人にとっても。
トレーニングに関しては何の不備もないと自信を持って言える。トレーニング毎のマッサージによって怪我は防止し、身体的なスタミナを増やすトレーニングもやったし、ブルボンに合わせて坂路トレーニングなんかも少し多めにやった。
ホープフルステークスでの相手で一番怖いのはライスちゃんだが、まだブルボンの方が上。ミークちゃんは阪神ジュベナイルフィリーズに出てトリプルティアラ路線に進むらしいので、ブルボンと当たるのはまだまだ先。
今のところはブルボンが途中で空中で3回転半するような勢いで転ばない限りは負ける事はないはず。ただ躓いて転ぶ程度は受け身からの流れるような復帰を練習しているので問題ない。
さて。目先の目標であるホープフルステークス。ブルボンの実力から言えば問題ない。
じゃあ何が、という話だが。
「なーるほど……楽しみに待っててって言うからノータッチだったけども、そうきたか……」
ホープフルステークスは重賞の中でもGⅠに分類される。GⅠの何が他のレースと違うかといえば、GⅠに出走するウマ娘は勝負服を着て走るのだ。
そう、勝負服。そのウマ娘によって千差万別。確かに軽くて走りやすそうというものから、一見して絶対に走りにくいだろうと思うようなものまであるが、俗説として勝負服を着ると普段よりも早く走れるらしい。非科学的な話だが、俗説となるにはそれだけの理由がある。
私からすれば歴戦のウマ娘の勝負服なんて半分呪具みたいなものだ。そりゃあ、普通の体操服よりもという話である。
そういう実用的な面以外にも、単純に勝負服イコールGⅠであり、名誉あるGⅠで走る際の正装的な面もあるため、そこからウマ娘たちの憧れだとか。
まぁ、そういう一般論は良い。デザインに関してはウマ娘本人が決めたり、トレーナーも一緒に決めたりと色々と決め方はあるらしいが、ブルボンは自分で決めた。父親には相談したらしいが、私は楽しみにしていてほしいと言われたのでノータッチだった。
で、ついにできたという勝負服のお披露目会がトレーナー室であった訳だ。
「自己評価Sとなるデザインに、可動域、機動性共に問題のない勝負服です。どうでしょうか」
「自己評価S……いやね? カッコいいよ? カッコいいんだけどもね?」
ぱっと見の印象はSFに出てきそう。メカメカした装飾は確かに一部でロボっぽいと言われるブルボンに合っている。走りやすさに関しては今さら言うまでもない。
ただ。
ただ、だ。
「ちょっとピッチリ過ぎない? いや、ピッチリなのはこの際良いにしても、その走ったら何も隠せなさそうなミニスカートとハイレグはなぜにそうなった……?」
「可動域と機動性を重視しました」
「重視し過ぎなんじゃないかなぁ……」
身体のラインを隠す気が微塵もないピッチリボディースーツにハイレグ。しかも角度が結構……それを隠すつもりがあるのかないのかよく分からない丈が短すぎるミニスカート。
確かに似合っている。コレだと言われたら、確かにブルボンの勝負服といえばコレという気がする。
「カフェとタキオンはどう思う?」
「よくお似合いだと、思います」
「どう思うとは言うがね、トレーナーくん。ウマ娘の勝負服はいわばそのウマ娘の魂を反映したものだとも言われるものだ。そういう意味では私も含めて外野がとやかく言うのはナンセンスというものさ」
私が過剰に反応しているだけなのだろうか。
いや、私だってブルボンたちのトレーナーなのだから、ただ単にトレーニングを見るだけでなく、ブルボンたちを守る責任がある。なので、色々と調べたりはした。
前世と比べて人々の民度が良いというのはある。前世ならスポーツ選手の盗撮問題とかもあったし、仮に私の可愛い教え子がそんな被害に遭おうものなら持てる力を全て使って物理的に解決するのも辞さない覚悟だったが、調べてみた感じ、そういう被害はあまりないらしい。完全にない訳ではないようだが、目くじらを立てて警戒するほどではないと。
取り締まりもちゃんとしているらしいし。
「……うん、オッケー。一旦それ着たまま走ってみよう」
私の感覚が前世の価値観に引っ張られているだけなのか、それともウマ娘とヒトで価値観が違うのか分からないので、一旦勝負服のまま外に出てもらう事にした。トレセンの中なら他の人に見られてもまだ大丈夫だろう。
おかしいのは私だったらしい。
宇宙を飛び回る戦闘機をイメージしたらしい勝負服は色んな方面から好評を頂いた。
宇宙を駆けるブルボン。宇宙を飛び回るブルボン。そんなイメージが浮かぶ。
まぁ、誰もデザインについてネガティブな事は言ってこないから大丈夫なんだろう。うん。
◆
12月。ホープフルステークス当日。
時間が過ぎるのは早いもので、あっという間にレースの日が訪れた。
控え室。
勝負服で身を包んだブルボンの仕上がりは完璧で、負ける要素はない。不安な要素がなさ過ぎて私が今日着てくる服に一番悩んだぐらいだ。
そもそも普段の格好だが、トレーナーになって最初の方はスーツを着ていたが、ある時にリーフちゃんに言われたのだ。前から思ってたけどSPか何か? と。いや、SPがこんな丸サングラス掛けるかとかツッコミどころはあったが、確かにスーツにサングラスは厳ついという自覚はあった。
で、ある時からは普通に黒いジャージを着ていた。ミット打ちに付き合ったり、普通に私も運動するし、そっちの方が合っていたからだ。単純に黒は好みだが。
じゃあレース本番もジャージで良いのかという話だ。
メイクデビューの時は仕方ないのでスーツを着て行ったのだが、今回は新しく買う事にした。真っ黒ワンピースと真っ黒コート。
いや、私の格好はどうでも良い。
今はブルボンだ。
「どう? 緊張してる?」
「いいえ。『緊張』ではなく、ステータス『高揚』です。不安要素はありません。マスターの懸念要素だった空中で3回転半するほどの転倒に対しても、『ダイナミックリカバリー』を習得済みです」
「あれはもう曲芸だけどね?」
半分冗談みたいなものだったが、ブルボンは不安要素を潰すための努力も欠かさなかった。転倒時の反応もそうだし、レースが始まるまでの体調管理も。数日前からお腹に優しいものをいっぱい食べたり、タキオンに何か飲まされそうになった時なんてガチで取り押さえてタキオンは半泣きになっていた。あれはタキオンが悪い。
「既に中距離での走行は問題なく、それを見せ付けるのがオーダーだと理解しています」
「うん。こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、今のブルボンが負ける理由はないからね」
公で言ったら普通に怒られるだろうが、このホープフルステークスは言ってしまえば中距離を走っても全然大丈夫だというのを世間に示すための舞台だ。勝つ事は前提で、その上で強さを見せ付ける予定でいる。
「加速前の段階でレコード1秒短縮計算だから問題ないとは思うけど、今回は最終コーナーで2バ身差のところまで迫られてたら第1段階加速解禁ね。最初から最後まで先頭でいくよ」
「了解しました」
ブルボンと一緒に考えた2段階加速は、差しや追込のウマ娘に最終直線辺りで並ばれそうになっても突き放せる、あるいは最悪一瞬抜かれても抜き返せるように想定している。加速込みの上がり3ハロンのタイムを計測すると何の脚質で走っているのか分からなくなるぐらいのタイムが出る。
発動条件を1バ身差以内に詰め寄られる事にしていたのは、無闇やたらに加速を乱発しないようにするためだ。レースの展開によっては逃げのウマ娘が差しや追込のウマ娘に並ばれる間もなくあっという間に追い抜かれてしまうという場面を見る事がある。もしそんな状況なら1バ身差以内に来られた時点で加速しても間に合わないかもしれないが、ブルボンの能力ならそもそもそんな状況にはならない。
ただ、今日は中距離でも変わらない強さを見せ付けるのが目的だ。いつもよりも条件をゆるめにしておく。
「最後に何か不安は?」
「ありません。視界良好、オールグリーンです」
「いいね。それじゃ、行っておいで」
ここにきて、ダラダラと長い言葉は必要ない。
控え室からブルボンを見送る、というところでブルボンが振り返った。
「マスター」
「うん? 何か忘れ物?」
「はい。忘れ物です」
そう言ったブルボンは扉の近くから私の目の前まで歩いて来た。そして、正面で止まる。
「マスター、『グータッチ』を要望します」
「そっか。確かに忘れ物だ」
グータッチは前回のレースの時に教えたものだ。頑張ろうぜ的なものだと言ったような記憶がある。
「じゃあここでワンポイントアドバイス。そういう時は何も言わなくてもこうやって拳を向けたら応えてくれるよ」
拳を突き出す。ブルボンはそこへ自分の拳を重ねた。
「了解しました。ミホノブルボン、任務の遂行に向かいます」
そうして、今度こそブルボンを見送った。
◆
「さて、トレーナーくんの目から見てブルボンくんの勝率は如何ほどかな?」
「まぁ、軽く見積もって100だよね」
ゴール板の前。タキオンとカフェの2人を連れてブルボンのゴールを待つ。
「私の集めたデータからすると、唯一ブルボンくんに追いすがる可能性があるのはライスシャワーくんのみ。メイクデビューから前走までの内容にトレセン内での特訓風景を見てもね」
「おー、さすが。私もやっぱりデータとか集めた方が良いかな?」
「良いかな、ではなくそれもトレーナーとしての仕事の一つだろうに」
「データ集めるって言ってもどういうデータ集めたら良いのか分からないんだよねぇ」
「トレーナー養成学校で習わなかったのかい?」
「私実地研修組だったから。リーフちゃんもだけど。大学は出ときたかったし、うちの学部在学中に研修行けたから」
「実地研修でも教わるだろう……」
「それがねー、ウマ娘の子たちと遊んでた記憶しかないんだよねー。トレーニングの組み方とかはやったような気がするけど」
リーフちゃんがついたトレーナーはどうだったのかは知らないが、私がついたトレーナーは結構テキトーなところあったし。まぁ、私も私でとりあえずライセンスの受験資格さえ取れれば良かったからアレなんだけども。地方だったし。
「2人とも……全員、ゲートに入りました……」
「あっ、ほらそろそろ来るって」
カフェの言った通り、ウマ娘たちは全員ゲートに入っていた。
そして、スタートする。
「よっし、完璧」
「さすがのスタートだね」
出遅れなし。ブルボンはぐんぐんと加速し、先頭へと躍り出る。
ホープフルステークスは中山2000m。スタート直後のウマ娘たちはゴール前を通り抜け、そこから一周してまたゴールに戻ってくる。
先頭で集団を引っ張ってくるブルボンにはサムズアップしておいた。
「ストップウォッチの一つぐらい持ったらどうなんだい……」
「まぁ、ブルボンがどこ走ってるかで時間ぐらい分かるし……」
そんな事を言いながら自分の手にはストップウォッチを持っているのが真面目なところではあるのだろう。まぁ、普段から真面目であれば良いのだが。
「そもそもここまできて私に出来る事はないしさ。時間を測ったところで何が変わるわけでもないし。ここで私に出来るのはブルボンを信じるだけだよ」
結果から言うと、ブルボンは2着のライスちゃんに5バ身の差をつけて勝った。切り札を使わず、GⅠという舞台での圧倒的な勝利だ。
歓声もすごい。計算通りちょうど1秒レコードを短縮したわけだから当然ではあるが。これで誰もブルボンの中距離進出に文句は言わなくなるだろう。長距離はまた話が別かもしれないが、皐月賞と日本ダービーを取れば心配よりも三冠への期待が上回るはず。
「マスター、ミッションコンプリートです」
「さっすが!」
観客たちの最前列。手すりを挟んで向こう側のターフにいるブルボンへ、拳を向けた。
そこに、一瞬ポカンとしたもののブルボンも拳を重ねた。
「帰ったら祝勝会するよ! どこか食べに行く? それかスーパーか何かで買って帰る?」
「トレーナーさん……その前にウイニングライブが……」
「え? あっ、もちろん忘れてないよウイニングライブね!」
勝つとは思っていたし、切り札も込みで言えば勝って当然ぐらいには考えていたが、それはそれとしてブルボンが勝つのは嬉しいものだ。
「じゃ、控え室で待ってるね」
「了解しました」
◆
ウイニングライブも終わり、4人でトレーナー室に戻ってきた。
「じゃ、改めて! 祝! GⅠ勝利!」
パン、パーンとクラッカーを鳴らす。ちょっと前に買ったお得用クラッカーセット(50コ入り)を開封した。タキオンとカフェも一緒に鳴らした。
「とりあえずピザとお寿司買ってきたけど他に何か欲しいのある? 今日は私の奢りで何でも頼んでいいよ!」
「たこ焼きとお好み焼きを所望します」
「いいね! タキオン、出前の電話!」
「まったく……今日だけだよ」
「あの……ここに出前を取るのは……良いんですか……?」
「大丈夫、大丈夫。何かあったら理事長頼るから。私、理事長とマブダチだから」
前に学園中の呪霊を祓いまくった件で理事長とは仲良くなったので、ちょっとぐらいの無茶は聞いてくれるはず。実際、出前を頼んでも良いのかどうかは知らないが。
「適当に頼んでおいたよ」
「ありがと」
「トレーナーくんも疲れているだろう? ささ、ぐいっといきたまえよ」
「今日だけね」
気分が良いのでタキオンの薬だって飲んであげよう。
まぁ、どうせいつもみたいに光るだけ……。
◆◇◆◇◆◇
「あっるぇ……? お酒飲んだっけぇ……?」
ミホノブルボンのマスターである五条美咲が足を滑らせ、後頭部を床に叩きつけた。
「マスター!」
「あぁ、だいじょうぶ、だいじょうぶ……これねぇ、無下限のオートガードが……」
どうやら怪我などはない様子だが、明らかに様子がおかしい。
「何を飲ませたんですか……」
「そ、そんな目で見ないでくれよカフェ。今のはちょっと元気が出る栄養ドリンクだったはず……心を込めて作った特製ドリンクだよ」
「解毒剤は、ないんですか……?」
「解毒とは随分な言い様じゃないか」
ブルボンは肩を貸し、美咲を立ち上がらせる。
「大丈夫ですか、マスター?」
「だいじょぶ、だいじょぶ…………アルコールなら反転……練れねー……」
「ステータス『酩酊』と推測。水を飲んで横になるべきだと進言します」
「だいじょぶ、だいじょぶ……悟の方とちがってねぇ……わたしお酒だいじょぶだから……」
そう言いつつも、肩を借りた状態でありながらもその足取りはふらふらとしている。ブルボンは美咲をソファーへと座らせた。
その直後、パーンと破裂音が響いた。美咲の手にはクラッカーが握られている。
「GⅠおめでとー!」
「ありがとうございます。マスター、水を……」
「ブルボンは勝つとおもってたけどさぁ……やっぱじっさい勝つとちがうっていうかぁ……」
どこからどう見ても酔っ払いだった。それもだる絡みするタイプの。
「どうするんですか……タキオンさん……」
「……気分が良くなってくれる分には良いんじゃないかい?」
「そんな適当な……」
「まぁ、最悪はトライリーフトレーナーに引き取ってもらうとしよう」
飲ませた張本人であるタキオンは対応を早々に放棄した。
「いい子、いい子ー」
そんな間にも美咲はブルボンの頭を撫で回す。
「タキオーン! カフェー! たべてないんじゃないー?」
「まったく……典型的な酔っ払いじゃないか」
「……それをあなたが言いますか……?」
そもそもがアルコールなのかどうかも分からないが、美咲を今の状態にした犯人であるタキオンがやれやれと頭を振る。
「むしするのかー、ノリわるいぞー」
そんなタキオンの背後から、いつの間に移動したのかその肩に美咲が腕をかける。その反対側ではカフェも同じように首に腕を回されていた。
「ブルボンのお祝いしろー」
そんな状態のまま、美咲はキングサイズのソファーベッドの方へ向かっていく。
「あ、相変わらずの馬鹿力だね……ウマ娘の私が全く抵抗も出来ずに引きずられている始末だよ」
「呑気ですか……」
そしてタキオンとカフェは共に首元をロックされたまま、美咲はソファーベッドへと倒れ込んだ。さらには直後、寝息を立て始めた。
「これはピンチだねぇ……抜け出せそうな気配がない」
「どうしてくれるんですか……」
「時には諦めも肝心だよ、カフェ」
美咲が馬鹿力なのはこの中ではもはや周知の事実となっているため、ウマ娘の腕力で抜け出せないという事には誰も疑わない。カフェなど、タキオンの様子を見て最初から抵抗すらしていなかった。
1人自由な状態にあるブルボンは美咲のサングラスを外し、机に置いた。寝る時にサングラスを付けたままにするのは良くないからだ。
その後もブルボンはタキオンが取った出前を受け取りに行き、1人で色々と残っている食べ物を完食。寝泊まりする時用に美咲が用意していた大きいキングサイズの布団を収納スペースから取り出して、3人と一緒にソファーベッドの上で横になった。予備としてトレーナー室に置いていたジャージに着替えてから。
「それではおやすみなさい」
「もはやツッコむ気力すらないねぇ……」
カフェは結構前から既に眠っていた。
ほどなくしてブルボンも寝息を立て始め、観念したタキオンも眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
翌朝。
「ぅーん……? えっ!? これどういう状況!?」
朝起きたら両脇にタキオンとカフェがいた件について。ついでにカフェのさらに隣にはブルボンが寝ていた。
「タキオン、カフェ、起きて……って、頭いっった!?」
そうだ、だんだん思い出してきた。タキオンの薬か何かを飲んでから記憶飛んでるんだ。
反転術式、反転術式……。
「やっと起きたようだね、トレーナーくん。冬休みだから授業は良いにしても、外泊届けを出していないから面倒な事になるだろうねぇ」
「うーわ、これ私がやらかした感じ? でもタキオンが変なの飲ませたせいだよね? 怒られるのタキオンだけで済んだりしない?」
「確かにきっかけは私が作ったかもしれないが、最終的に私とカフェをこの場所に監禁したのはトレーナーくんだろう?」
「監禁やめてね」
そういえば起きた時タキオンとカフェに抱き着いていたような気もする。それで逃げられなかったとか言われたら100%私が悪いじゃんか。
気分が良くなってノーガードでタキオンの薬飲んだのも私だし。
「もしかしてブルボンも……?」
「ブルボンくんは自分の意思でここで眠っていたよ。ご丁寧に1人で全て平らげてね。薄々思っていたんだが、トレーナーくんの能天気なところがブルボンくんに伝染ったんじゃないかい?」
「ブルボンは元々天然だから」
「それはそれでどうなんだい……」
まぁ、ブルボンが天然とかは一旦置いといて、だ。
「ブルボン、起きて」
「ミホノブルボン、起床します」
「起きる時もそんな感じなのね……」
「おはようございます、マスター」
「うん、おはよう。ちょっとね、君たちを無断外泊させてしまった件について良い感じの言い訳を考える会始めるから……」
◆
少しして、昼前ぐらいに理事長室へのお呼び出し。
一緒に言い訳してもらうためにブルボンたちを連れて訪れると、そこには理事長と駿川さんだけでなく、皇帝の二つ名を持つシンボリルドルフがいた。
「お待ちしていました、トレーナーさん」
「いやー、えっと……どのような御用でしょう……?」
真っ先に口を開いたのは駿川さん。顔は笑っているはずなのに笑っているように見えないのはなぜ……?
「栗東寮、美浦寮の両寮長から無断外泊の報告がありました。念の為、昨日の23時30分頃トレーナー室を覗いたところ、仲良くお眠りでしたので」
「あー……いやー……」
見られてたのはちょっと衝撃。覗くのやめてね、とは言いづらい雰囲気。理事長助けて。
「私も無断外泊などするつもりはなかったのだがねぇ。トレーナーくんにベッドに押し倒されてしまってね」
「──トレーナーさん?」
「ちょっ!? こ、こら! さっき作戦会議したでしょっ!」
「それはもう自白をしているようなものだねぇ。そう思わないかい、カフェ?」
「否定は……しませんが……」
「カフェー!?」
これは大変にマズい状況だ。
まさかタキオンカフェコンビが裏切ってくるなんて。
「ブルボン、言ってやって! 押し倒したりしてたとしても私のせいじゃないって」
「マスター、今の状態は『墓穴を掘っている』ではないかと推測します」
「ブルボンさん……?」
あれ、私の味方は……?
縋るように理事長の方を見ると、理事長は扇子を勢いよく広げた。
「決定ッ! ターフ引きずり回しの刑ッ!」
「ウソでしょ!? 私たちの絆は!?」
理事長はマブダチだと思ってたのに……!
最後の頼みはシンボリルドルフ!
「五条トレーナー。私たちはどこかで会った事があったかな」
「ナンパか!」
一体君は何をしに来たのかな!?
「というのは冗談ですよ、トレーナーさん」
「駿川さんが言うと冗談に聞こえないんですけど……理事長も悪ノリしないでくださいよ」
「ふふ、ついな」
「冗談とは言いましたが、担当ウマ娘の皆さんを無断外泊させたのは事実ですから。気を付けてくださいね?」
「それはマジでスイマセンでした」
まぁ、何はともあれ許される流れっぽい。
そもそも元はと言えばタキオンが原因みたいなところあるし。私のせいじゃないという事でこの件は終わりだね。
「と、前置きはこれまでにしておくとして」
「今の前置きなんですか?」
「実は次の春のファン感謝祭、そこで……トレーナーによる特別ライブを開催するッ!」
「トレーナーによる特別ライブ」
「そこに、出てもらいたい!」
「まぁ、それぐらいなら……」
「出演するトレーナーのため、担当ウマ娘の勝負服を模した衣装を用意する!」
「勝負服を模した……って、ちょっと待とうか秋川くん」
「むむっ?」
べつにね? ライブぐらいならやっても良いよ? リーフちゃんとか葵ちゃん巻き込むし。
でも勝負服はちょっとアレじゃんか。特にブルボンの勝負服は。
「ライブだけにしましょ? ブルボンの勝負服はブルボン以外が着たらヤバいですって」
「しかし……つい先ほど既に注文してしまっていてな」
「ちょーっとお話しましょうねぇ」
「ぬおーっ、た、たづなーっ」
なんだか話が右往左往したが、結局ブルボンの勝負服レプリカを着てライブをする事が決定してしまった。
とりあえずリーフちゃんと葵ちゃんは強制参加。
○五条美咲
五条悟とは違って普通に酒は飲める。酔ったら面倒くさい絡み方をしてくる。
特別ライブがあと1年後ろ倒しならかすり傷で済んだ。タキオンとカフェにはまだ勝負服はないが、3人の中だとカフェの勝負服が一番好み。(黒系統が好きであるため)
○ミホノブルボン
元々天然ではあるが、それはそれとしてやっぱりマスターに似て図太くなってきている。
○アグネスタキオン
原作とは違い、呪力を自覚した上で非科学的な現象を起こすつもりで(能動的に呪力を込めて)実験をしていたので、原作とは違う効果の薬が出来上がる事になった。呪ったり危害を加えるためではなく、一応は元気にする事を目的とした特製栄養ドリンクなので、一時的に酔ったような状態にはなるものの肝臓などにはほとんど負担をかけず、ちゃんと疲労も回復するし、むしろ元よりも元気になる。人によっては少し記憶が飛ぶぐらいで後遺症もない。アルコールが含まれている訳ではないため未成年が飲んでも大丈夫ではあるが、実際に飲んで他人に見られたら大変な事になる。
○シンボリルドルフ
問題児たちがトレーナーと上手くやっていけているかを確認するという名目で同席した。
○秋川理事長
トレーナーが担当ウマ娘の格好をしてライブをするというイカした案を思い付いたが、何人かのトレーナーに声をかけたところ、敢え無く断られるという結果に。そんなところにちょうど良くやらかしたトレーナーが現れた。