藤原佐為の碁 ~転生したら神童ヒカルになってた件~   作:梅酒24

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第三局:VS塔矢行洋 後編

 

――中盤、再び均衡。

だが、その均衡は張り詰めすぎていた。

わずかな綻びで、すべてが崩れる。

私は盤を見つめる。

この先は、さらに深い領域――そう直感する。

◆

【佐為視点】

対面の

塔矢行洋。

その気配が変わる。

先ほどまでとは違う、研ぎ澄まされた圧。

次の一手が、この局面のすべてを決める――そう告げていた。

◆

【塔矢行洋の内面】

塔矢行洋(今度は、大正時代に流行し最強の1手と呼ばれた『十字架』を使うか……先ほどの一手は『耳垢』初めて打たれると耳を赤くしてしまうほどの1手であるが、対策後はこれを打つこと自体で負けを意味するので耳赤……あるいは相手が1手でも手順をミスれば好手になることから相手の耳を赤くさせるために打つ手という意味が込められている……そして現代では垢のようにプロでは使うと自分のクビを絞めるから赤ではなく垢と言われるようになった)

静かな整理。

歴史と理論の積み重ね。

そして――

塔矢行洋(十字架は……1本道ではなく2本道、知っていれば対応できる道と知っていても対応できない道が用意されているので相手に合わせて道を選べることから最強の1手と呼ばれた手……)

決断。

◆

【佐為視点】

その瞬間――

――バチン

鋭い石音が響いた。

(……!)

盤上に現れた形。

(石の並びが……十字……)

◆

【佐為の思考】

佐為(石の並びが十字になった……ただこれも新手……)

一目で理解する。

これは、先ほどの手とは違う。

佐為(先ほどとは違う気配……)

もっと露骨に、もっと直接的に――

選択を迫る手。

佐為(言うなれば二つの分かれ道 光が差す道と真っ暗な道どちらを通るか試されているような……そんな手……)

◆

盤が、問いかけてくる。

どちらへ進むのか、と。

◆

佐為(この手は見るからにどちらかの道を辿るしかない……そういう意味ではさっきとは違い楽……3択目はない……どちらが正解なのか)

◆

【塔矢行洋の内面】

塔矢行洋(この手は強制2択……打たれた側が選べるという意味では両方に対応できる者でないと扱いにくい1手……)

冷静な評価。

塔矢行洋(しかも相手が自身の有利な方を選べる点では基本的にはやや不利になることがある……)

それでも――

塔矢行洋(ただしこれを知らないなら脅威)

◆

【佐為視点】

(……なるほど……)

理解する。

この一手は“自由”ではない。

(選ばされている……)

だが同時に――

(……面白い……)

胸の奥に熱が宿る。

◆

二択。

それは――読み切れる可能性。

◆

私は盤に没入する。

◆

一つの道。

安定。

光。

だが――主導権は薄い。

◆

もう一つの道。

危険。

闇。

だが――主導権を奪える可能性。

◆

(どちらだ……)

思考が加速する。

◆

対面の塔矢行洋は微動だにしない。

だが内側では――

◆

【塔矢行洋の内面】

(選べ……)

静かに見ている。

(安全か……勝負か……)

◆

【佐為視点】

(……決める)

迷いを断ち切る。

◆

――コツン

一手。

選択。

◆

盤が再び動き出す。

◆

【塔矢行洋の内面】

(……そちらか……)

瞬時に理解する。

(ならば……)

◆

【佐為視点】

(来る……!)

◆

攻防が始まる。

◆

一手。

また一手。

◆

互いに踏み込み。

互いに読み合う。

◆

(……速い……!)

思考の応酬。

◆

(だが……)

私は食らいつく。

◆

(この二択……)

どちらが正解かは――まだ確定していない。

◆

【塔矢行洋の内面】

(いい……)

確信。

(やはり……)

◆

盤上。

十字の分岐。

そこから伸びる二つの未来。

◆

そのどちらが勝利へ繋がるのか――

まだ誰にも分からない。

◆

ただ一つ、確かなこと。

それは――

この戦いが、さらに深い領域へ踏み込んだということだった。

 

***

 

静寂が、盤上に落ちる。

観客のざわめきさえ、遠くへ押しやられるような――

濃密な沈黙。

その中心に、二人はいた。

◆

【佐為視点】

私は、目の前の“十字”を見つめていた。

盤上に刻まれたその形は、ただの配置ではない。

問いそのもの。

(……分岐……)

光か、闇か。

◆

【塔矢行洋の内面】

塔矢行洋(十字架に対しての長考……これも知らないということか……そして闇の道を選択……光の道なら打つ手順が決まっているから、手順通りに打てば楽に対応できる……解法を知っているプロは光の道を選ぶが、中盤以降の流れがお互いに読めない……闇の道を選ぶか……面白い……解法を知らないなら闇の道を選ぶ方が無難だな……)

◆

【佐為視点】

その内面を、私は知らない。

だが――感じていた。

(試されている……)

この一手は、力ではなく“選択”を問うている。

◆

もう一つの道。

光の道。

(……整っている……)

一本道。

整然とした流れ。

だが――

(私には……見えない……)

その正確な手順。

この短い時間では。

◆

佐為(もうひとつの道は1本筋に見える……ただ私にはどのような道筋で打てばいいのかはこの短い時間では考え付かないでしょう……おそらく数百年をかけて解明できる一手ならば先が読めない闇の道を……乱戦といきましょう)

◆

(ならば……)

選ぶべきは――

◆

闇。

◆

――コツン

石を置く。

静かに。

だが、確固たる意思をもって。

◆

【塔矢行洋視点】

(……やはり……)

その選択を見た瞬間、行洋の内に静かな納得が広がる。

(闇の道……)

理にかなっている。

(知らぬなら……)

無理に光へ進むよりも。

(混沌へ身を投じた方が、生き残る可能性はある)

◆

そして同時に――

(……面白い)

純粋な興味が、胸に灯る。

(この者は……)

恐れない。

未知を。

◆

【佐為視点】

(来る……)

次の一手。

その気配が、盤から立ち上る。

◆

――コツン

応手。

速い。

迷いがない。

◆

(……速い……!)

だが、その速さの裏にあるものを感じる。

(すべて……読んでいる……)

◆

私は応じる。

さらに踏み込む。

◆

盤が、暴れ始める。

◆

整然とした構造は崩れ、

石と石が絡み合い、

互いの意図がぶつかり合う。

◆

(……これは……)

(楽しい……!)

抑えきれない感情が、内から溢れる。

◆

【塔矢行洋視点】

(……強い……)

改めて、確信する。

この相手は――

(本物だ)

◆

一手一手が、最善。

だがそれだけではない。

(読めない……)

予測を、わずかに外してくる。

◆

(この感覚……)

久しく味わっていなかった。

(未知との対局……)

◆

そして――

(……高揚している……)

自分自身が。

◆

【佐為視点】

私はさらに踏み込む。

守りではなく、攻め。

◆

(この混沌……)

(すべてを呑み込む……!)

◆

だが――

◆

【塔矢行洋視点】

(甘い)

わずかな歪みを捉える。

◆

一手。

鋭く。

◆

【佐為視点】

(……!)

受ける。

即座に。

◆

だが、その応酬の中で――

(……深い……!)

相手の読みの深さを、思い知る。

◆

(これは……)

ただの乱戦ではない。

(頂点同士の……)

純粋な、ぶつかり合い。

◆

【塔矢アキラ視点】

盤を見つめる

塔矢アキラ。

(……闇の道……?)

気付く。

二人の選択に。

◆

(なぜ……)

普通なら。

安全な道を選ぶはず。

◆

(なのに……)

あえて。

読み切れない道へ。

◆

その理由を理解した瞬間――

息が止まる。

(……違う……)

(この二人は……)

◆

勝つためだけではない。

◆

(最善を求めている……!)

◆

その領域は、自分の知る囲碁ではない。

(……すごい……)

ただ、圧倒される。

◆

(これが……)

(父さんの世界……)

◆

そして同時に――

(進藤ヒカル……)

その存在の異質さに、震える。

◆

【佐為視点】

盤上は、すでに戦場。

◆

(まだ……終わらない)

◆

一手。

また一手。

◆

(もっと……)

(もっと先へ……!)

◆

【塔矢行洋視点】

(来い……)

静かに、受け止める。

◆

(この勝負……)

(どこまで行ける……)

◆

二人の思考が、ぶつかる。

◆

光も闇も越えた場所で――

ただ、碁がそこにあった。

 

***

盤上に流れていた均衡は、すでに過去のものだった。

静かに、だが確実に――流れは傾いている。

◆

【佐為視点】

私は盤を見つめる。

指先に伝わる、わずかな震え。

それは恐れではない。

(……攻められている……)

現実の認識。

(序盤は……3目差……)

確かに優勢だった。

だが今は違う。

(中盤の終盤で……2目差……)

逆転。

それも、はっきりとした形で。

◆

対面の

塔矢行洋。

(……強い……)

今まで出会った誰よりも。

◆

(それどころか……)

思考が、さらに深く沈む。

(新手を……2度も……)

◆

私が“新手”と呼ぶ手。

だが――

(おそらく……)

この時代では。

(すでに新手ではない……)

◆

自分の立場を理解する。

(私は……)

(現代の囲碁を……始めてまだ3日目……)

定石。

流行。

理論。

(当然……分からない……)

◆

だが――

(それでも……)

積み重ねてきたものがある。

千年の時。

(どう対応すべきか……)

“ある程度”は見える。

◆

だが。

(……足りない……)

その“ある程度”では――

この相手には届かない。

◆

(ならば……)

覚悟する。

(超える……)

今、この場で。

◆

私は石を持つ。

そして――

◆

――コツン

◆

盤上に現れる、新たな形。

◆

(……これでどうだ……)

平成の新手――

「北斗七星」

◆

【塔矢行洋視点】

その一手が置かれた瞬間。

時間が止まる。

◆

(……これは……)

盤を見つめる。

◆

理解が追いつかない。

だが同時に――

(……美しい……)

◆

塔矢行洋(闇の道を誰も通らないからこそ……現れることがなかった新手……そうかここまで打ち手でないと見ることができない……一手……それに私は遭遇した……)

◆

胸の奥に、静かな高揚が広がる。

(未知……)

それも――

(最高峰の未知……)

◆

塔矢行洋(ふむ……この1手に挑戦するのは私が世界で初めて……)

◆

そして――

沈黙。

◆

長考。

◆

【佐為視点】

(……止まった……)

その沈黙の重み。

◆

(考えている……)

深く。

非常に深く。

◆

私は盤を見つめる。

(この一手……)

自ら放ったもの。

だが――

(完全には……読めていない……)

◆

可能性が広がる。

(枝は……6つ……)

少なくとも。

◆

(その中で……)

最善を選んだ。

つもりだった。

◆

だが――

(あの方は……)

どこまで見ているのか。

◆

(……何種類……?)

思考が揺れる。

◆

【塔矢アキラ視点】

盤を見つめる

塔矢アキラ。

(……これ……)

理解できない。

◆

(こんな形……)

見たことがない。

◆

だが、それ以上に――

(闇の道を進んだからこそ……)

現れた手。

◆

(すごい……)

二人がいる場所。

それはもう、自分の知る囲碁ではない。

◆

(もし自分なら……)

考える。

◆

打ち先の候補。

一つ。

二つ。

三つ。

◆

(……この3つ……)

それが限界。

◆

だが――

(父さんは……)

どう打つ。

◆

【塔矢行洋視点】

思考の海に沈む。

◆

一手の意味を解体し、

再構築し、

未来を繋ぐ。

◆

(3通り……では足りない)

さらにその先。

◆

(……ある……)

第四の道。

◆

(これだ)

◆

――コツン

◆

石が置かれる。

◆

【塔矢アキラ視点】

(……!?)

息を呑む。

◆

(その手……!?)

考えていなかった。

◆

だが――

(……理にかなっている……!)

瞬時に理解する。

◆

(これが……)

(父さん……!)

◆

【佐為視点】

その一手を見た瞬間――

◆

(……っ……!)

胸が跳ねる。

◆

(その返し……)

六つの候補の中で。

◆

(最も……打たれたくない手……!)

◆

(……見抜かれた……)

◆

だが――

◆

(……楽しい……!)

抑えきれない感情。

◆

(これほどの読み……)

(これほどの応酬……)

◆

今まで感じたことのない感覚が、溢れ出す。

恐れと――歓喜。

◆

(塔矢行洋……)

◆

(あなたは……)

◆

(いったい……何手先まで……)

◆

盤上。

すでに、常識は通用しない。

◆

ただ一つ確かなのは――

この戦いが、頂点と頂点の衝突であるということ。

盤上には、すでに終局の気配が漂っていた。

だが――終わってはいない。

終わりへと向かう、その最後の“もがき”こそが、最も濃密な時間だった。

◆

【佐為視点】

私は、盤を見つめていた。

(……まだ……)

石は生きている。

だが――

(……苦しい……)

呼吸が浅くなるような圧迫感。

盤上のすべてが、こちらに牙を剥いている。

◆

先ほどの一手。

“北斗七星”。

あれが流れを決めると、どこかで思っていた。

だが――

(違った……)

◆

【塔矢行洋視点】

盤を見据える。

静かに。

確信とともに。

◆

塔矢行洋(おそらく新手に対して最善手で返せた……)

◆

一切の慢心はない。

ただ、事実の確認。

◆

(だが……)

過去が、牙を剥く。

◆

塔矢行洋(ただ序盤の『耳垢』の悪手がここで現れた……)

◆

序盤。

あの一瞬の歪み。

◆

それが、いま――

(収束している)

◆

塔矢行洋(昭和の流行手『狐火』と明治の流行手『妖(あやかし)』そして……その二つの条件を満たす……強力な1手『妖狐』……)

◆

盤上に浮かび上がる構造。

◆

(完成している)

◆

塔矢行洋(この手は崩し手がない……)

◆

逃げ場はない。

◆

塔矢行洋(『妖狐』にならないように打たなければいけなかった……そして死に碁)

◆

◆

【佐為視点】

(……妖狐……)

その形を、私は見ていた。

◆

(……崩せない……)

◆

どこから手を入れても。

(……間に合わない……)

◆

(……これが……)

◆

理解する。

◆

(終わり……)

◆

だが――

◆

(まだ……終わっていない……!)

◆

私は石を持つ。

◆

――コツン

◆

一手。

可能性を、わずかでも繋ぐために。

◆

(ここから……)

細い糸。

◆

(拾えるか……)

◆

【塔矢行洋視点】

応じる。

迷いなく。

◆

(最善を……積み重ねるだけだ)

◆

感情は静か。

だがその奥底には――

(……見事だ)

確かな敬意。

◆

(ここまで追い詰められた局面でなお……)

抗う。

◆

(美しい……)

◆

【佐為視点】

一手。

また一手。

◆

だが。

◆

(差が……縮まらない……)

◆

むしろ。

(……広がっている……?)

◆

呼吸が乱れる。

◆

(読みが……)

(追いつかない……)

◆

(いや……)

違う。

◆

(すべて……読まれている……)

◆

◆

【塔矢アキラ視点】

盤を見つめる

塔矢アキラ。

◆

(……終盤……)

ここが、勝負の最終局面。

◆

だが――

(……差が……)

見える。

◆

(父さんが……)

押している。

◆

だが、それ以上に――

(進藤ヒカル……)

◆

(まだ……戦っている……)

◆

普通なら。

とっくに崩れている。

◆

(なのに……)

一手一手に、意志がある。

◆

(……すごい……)

◆

胸の奥が、熱くなる。

◆

(この二人は……)

(どこまで行くんだ……)

◆

◆

【佐為視点】

盤が、静かになっていく。

◆

(……終局……)

◆

もう、分かっている。

◆

(3目半……)

◆

負け。

◆

だが――

◆

(……悔しい……)

◆

その感情と同時に。

◆

(……楽しい……)

◆

満たされていた。

◆

これほどの相手。

これほどの対局。

◆

(初めて……)

◆

◆

最後の一手を置く。

◆

――コツン

◆

沈黙。

◆

【塔矢行洋視点】

盤を見下ろす。

◆

(……終わった……)

◆

結果は明確。

◆

3目半。

◆

勝利。

◆

だが――

◆

(……なんという……)

◆

言葉が見つからない。

◆

(これほどの対局……)

◆

胸の奥に、深く刻まれる。

◆

(また……打ちたい)

◆

それが、すべてだった。

◆

◆

【佐為視点】

私は、盤を見つめ続けていた。

◆

(負けた……)

◆

だが。

◆

(届かなかった……)

ではない。

◆

(あと……少し……)

◆

その距離が、確かに見えた。

◆

(ならば……)

◆

微笑む。

静かに。

◆

(次は……)

◆

必ず。

拍手が、遅れてやってきた。

それは一斉ではなく、波のように広がる。

静寂に支配されていた空間が、現実へと引き戻される音だった。

◆

【佐為視点】

私は盤から視線を上げた。

(……終わった……)

胸の奥に残るのは、敗北の重み。

だが同時に、それ以上の何か。

満たされるような感覚。

◆

観客たちのざわめきが耳に届く。

「進藤ヒカルって誰だ……?」

「あの打ち筋……普通じゃない……」

◆

その声を、どこか遠くに感じながら――

私は対面の

塔矢行洋を見た。

◆

【塔矢行洋視点】

盤を離れ、ゆっくりと顔を上げる。

(……少年……)

目の前にいるのは、まだ幼いはずの存在。

だが――

(中身が違う)

◆

静かに口を開く。

「……見事だった」

短い言葉。

だが、その中に込められた評価は深い。

◆

【佐為視点】

(……嬉しい……)

その一言が、胸に沁みる。

◆

だが同時に――

(……まだ……)

足りない。

◆

【塔矢行洋視点】

視線を外さず、続ける。

「……少し、話をいいか」

◆

その声音は穏やかだが、明確な意思を持っていた。

◆

◆

個室。

外のざわめきが嘘のように消える。

◆

【佐為視点】

扉が閉まる音を聞きながら、私は意識をヒカルへ向ける。

(……ここからが本当の勝負かもしれませんね)

◆

ヒカルの中で、私は言葉を選ぶ。

◆

【塔矢行洋視点】

向かい合う。

◆

静かな圧。

◆

「聞きたいことは……山ほどある」

◆

一つずつ、言葉を紡ぐ。

「君は何者なのか」

「なぜ、トッププロの棋力がありながら……」

「プロなら知っている“解法”を知らなかったのか」

◆

わずかに目を細める。

「打ち方も……古い」

◆

(偶然ではない)

◆

「理由があるはずだ」

◆

◆

【佐為視点】

(……来ましたね)

◆

私はヒカルに静かに語りかける。

(ここは……正直に。ただし“形”を整えて)

◆

(“二重人格”として話しなさい)

◆

◆

【進藤ヒカルの外側の会話】

ヒカルは一瞬、迷う。

だが――

覚悟を決める。

「……俺……その……」

◆

息を吸う。

「二重人格なんです」

◆

◆

【塔矢行洋視点】

(……ほう……)

◆

驚きは、わずか。

否定はしない。

◆

「続けてくれ」

◆

◆

【佐為視点】

(そのまま……私の言葉を)

◆

ヒカルの口を通して、語る。

◆

「もう一人の人格が……碁を打つんです」

「それが……俺よりずっと強い」

◆

◆

【塔矢行洋視点】

(なるほど……)

◆

「発症はいつだ?」

◆

◆

「……最近です」

「両親が事故で……植物状態で……」

「病院にも……行けてなくて……」

◆

◆

【塔矢行洋視点】

静かに頷く。

◆

(珍しくはない)

◆

世界には存在する。

幼い身体に、大人の人格。

◆

「……理解はできる」

◆

そう言い切る。

◆

◆

【佐為視点】

(……受け入れた……)

◆

わずかに安堵する。

◆

ヒカルが続ける。

「このことは……今は秘密にしてほしいです」

◆

◆

【塔矢行洋視点】

「……ああ、約束しよう」

即答だった。

◆

◆

【佐為視点】

(ここからです)

◆

私はさらに言葉を託す。

◆

◆

【進藤ヒカル(佐為の言葉)】

ヒカルの声が、わずかに変わる。

落ち着きが宿る。

◆

「……先ほどの対局、感謝いたします」

◆

◆

【塔矢行洋視点】

(……変わった……)

◆

その変化を、見逃さない。

◆

(これが……もう一人か)

◆

◆

「君が……打っていたのか」

◆

◆

【佐為(ヒカルの口)】

「はい」

◆

◆

【塔矢行洋視点】

静かに息を吐く。

◆

(納得した)

◆

そして――

新たな思考。

◆

「一つ、提案がある」

◆

◆

【佐為視点】

(……提案……?)

◆

◆

【塔矢行洋視点】

「アキラには……同年代のライバルがいない」

◆

言葉に、わずかな父としての感情が混じる。

◆

「プロ試験に受かる力はある」

「だが……どこか熱が足りない」

◆

視線をヒカルへ。

◆

「君が……もしプロ試験を受けるなら」

◆

◆

一拍。

◆

「良い刺激になる」

◆

◆

【佐為視点】

(……なるほど……)

◆

(これは……)

◆

単なる勧誘ではない。

◆

(“期待”……)

◆

◆

私は静かに、ヒカルへ伝える。

(……受けなさい)

◆

(この時代で、さらに上へ行くために)

◆

◆

ヒカルは、わずかに息を飲む。

◆

その先に広がる道を――

まだ知らないままに。

 

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