藤原佐為の碁 ~転生したら神童ヒカルになってた件~   作:梅酒24

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第五局:VS塔矢アキラ

【佐為視点】

春の光は、どこか柔らかく、それでいて確かな輪郭を持っていた。

制服に袖を通したヒカルは、もうあの頃の少年ではない。

(……変わりましたね)

歩き方。

視線。

言葉の間。

そのすべてに――

(“迷いの少なさ”がある)

中学生。

たったそれだけの変化のはずなのに、

ヒカルの内側には、確かな“芯”が生まれていた。

(覚悟……でしょうか)

両親のこと。

碁のこと。

未来のこと。

背負うものが、彼を静かに強くしている。

若獅子戦。

会場には、独特の緊張が漂っていた。

プロ、院生、アマチュア。

それぞれの誇りが、静かにぶつかり合う場。

ヒカルは席に座る。

その目は、盤ではなく――

(……先を見ていますね)

対戦表の先。

勝てば――

塔矢アキラ。

(意識している)

だが、その感情に飲まれてはいない。

(良い集中です)

対局開始。

相手は――

村上二段。

若手ながら、堅実で隙の少ない打ち手。

「よろしくお願いします」

静かな挨拶。

ヒカルも応じる。

「お願いします」

(では……)

私は盤面へ意識を落とす。

序盤。

私は、石を散らす。

――夕霧。

(再び、この形を)

石は、まとまりなく広がる。

だがそれは、無秩序ではない。

(すべては……後のため)

【佐為視点】

村上は、冷静に受ける。

(堅実……)

不用意に踏み込まず、

形を整えながら進めてくる。

(良い打ち手です)

中盤。

差はない。

互角。

ヒカルの呼吸も、安定している。

(焦りがない)

以前のヒカルなら、

どこかで揺らいでいた局面。

だが今は違う。

(耐えている)

(“待つ”ことを覚えた)

村上が仕掛ける。

一手、圧をかける。

(良い判断)

だが――

(まだ、早い)

私は静かに応じる。

石と石が、呼応する。

(……来ます)

中盤の終わり。

散らばっていた石たちが、

ゆっくりと――

息を吹き返す。

【村上の変化】

(……なんだ……?)

盤面の印象が、変わる。

(全部……効いてくる……!?)

【佐為視点】

(夕霧の本質)

石は、生きる。

一つ、また一つ。

(ここからです)

終盤。

私は一気に詰める。

無駄なく。

正確に。

ヒカルの指先も、迷いなく石を運ぶ。

(……良い)

(完全に、流れに乗っています)

村上は粘る。

だが――

(届きません)

差は開く。

五目。

十目。

そして――

(十五目半)

「……負けました」

村上が静かに頭を下げる。

ヒカルも、ゆっくりと礼をする。

「ありがとうございました」

盤上には、明確な差。

だがそれ以上に――

(内容の差)

私は、静かにヒカルを見つめる。

(……強くなりましたね)

そして同時に――

(次が来ます)

視線の先。

塔矢アキラ。

(いよいよ……)

胸の奥が、わずかに高鳴る。

楽しみと。

緊張と。

そして――

(避けては通れぬ一局)

ヒカルは、何も言わない。

だがその目は――

まっすぐに、次を見据えていた。

(参りましょう)

(この先へ)

【佐為視点】

盤上に残る余韻は、まだ消えてはおりませぬ。

先の一局――勝負は既に決しておりながら、その流れは、確かに“次”へと繋がっております。

(此度、夕霧を用いたは……)

ただ勝つためにあらず。

(長き勝負を見据えてのこと)

短き戦いにて圧することは、たやすきこと。

されど――

(それでは、届かぬ)

私の意識は、盤の外へと向けられておりました。

(見ておられるか……)

静かに、背後。

塔矢アキラ。

あの者は、必ず勝ち上がる。

そして――

ヒカルの対局を、見に来る。

(ならば)

(見せねばなりませぬ)

我が打ち筋を。

時を越えし一手を。

(夕霧……)

平安の世にて生まれし、悠久の流れ。

序にて決せず、

中にて争い、

終にてすべてを生かす。

(現代の碁打ちには、馴染み薄きもの)

されど――

(だからこそ、心に残る)

【塔矢アキラ視点】

後方にて、静かに盤を見つめる。

(これは……)

その瞳が、わずかに見開かれる。

(“夕霧”……)

記憶の奥にある、古き打ち方。

(中盤までに差をつけるのは難しい)

(だが終盤……すべての石が生きる)

視線が、進藤ヒカルへと向く。

(まさか……)

(僕に見せるために……?)

一局の意味が、変わる。

(あえて、長き勝負を……)

胸の奥に、熱が灯る。

(進藤ヒカル……)

【佐為視点】

感じ取られましたか。

(それで良い)

勝負とは、ただの勝敗にあらず。

(語りかけるもの)

(伝えるもの)

そして――

(次の一局へ)

第二局。

盤は新たに据えられ、

静寂が満ちる。

開始まで、まだ時がある。

されど――

ヒカルと

塔矢アキラは、

既に席についておりました。

十五分前。

その時の流れすら、張り詰めております。

アキラが、先に口を開く。

「……見ていたよ」

静かな声。

ヒカルは、軽く肩をすくめる。

「そりゃどうも」

アキラは、盤を見つめたまま続ける。

「“夕霧”……だね」

ヒカルが、少しだけ目を細める。

「詳しいな」

アキラの指が、碁盤の縁をなぞる。

「古い打ち方だ」

「けれど……あれほど完成された形で見るのは初めてだ」

一拍。

そして、視線を上げる。

「……僕に見せたのかい?」

空気が、わずかに揺れる。

ヒカルは、ふっと笑う。

「どう思う?」

アキラの目が、鋭くなる。

「……そうだとしたら」

「ずいぶんと、挑発的だ」

ヒカルは背もたれに軽く寄りかかる。

「別に」

「ただ打っただけだよ」

(……見事な返し)

私は、内にて微笑む。

アキラは、しばし沈黙する。

そして――

「いいだろう」

静かに言い放つ。

「受けて立つ」

ヒカルが、わずかに前へ身を乗り出す。

「最初から本気で来いよ」

アキラの口元が、わずかに緩む。

「もちろんだ」

そのやり取りは、短く。

だが――

(十分)

二人の間に流れるものは、

言葉など必要とせぬほど、濃密に満ちておりました。

やがて、開始の時が訪れる。

(いよいよ……)

私は、静かに盤を見つめる。

(この一局)

(時を越えしものと、現代の極みが交わる)

胸の奥に、確かな高鳴り。

(参りましょう)

【佐為視点】

対局場に満ちる気配は、先ほどまでとは明らかに異なっておりました。

静けさの中に、張り詰めた糸のようなものが走っている。

(来ましたか……)

私の視線は、自然と一人の少年へと向かう。

塔矢アキラ。

その手が――

わずかに震えておりました。

碁石に触れ、

離し、

また触れる。

指先が定まらぬ。

ふとした拍子に、碁笥の蓋が小さく音を立てて転がる。

(……それほどまでに)

胸の内に渦巻くもの。

抑えきれぬ熱。

【塔矢アキラの内】

(僕は――)

(どれだけ、この一局を待ち望んでいた……)

脳裏に浮かぶ。

過去の対局。

何度も。

何度も。

繰り返し、反芻する。

(あの一手……)

(あの流れ……)

(どう打てば届いたのか)

(それでも――)

(届かなかった)

それは、もはや幻想にも似た存在。

(進藤ヒカル……)

だが――

(僕は、変わった)

一戦目。

プロ相手に、三目差。

冷静に。

正確に。

勝ち切った。

(確かに……成長している)

それでも。

(なのに……)

手が震える。

(止まらない……)

【佐為視点】

その震えは、隠そうとしても隠しきれるものではありませぬ。

ヒカルもまた、それを見ておりました。

「……震えてるのか?」

短く、問いかける。

アキラは、わずかに顔を上げる。

「いや……」

否定。

されど――

(声に、揺らぎがある)

そのやり取りだけで、十分でございました。

(よい)

(この緊張こそ……真の勝負)

やがて。

開始の合図。

【佐為視点】

(参りましょう)

私は、盤へと意識を落とす。

ヒカルの手を借り、

石を置く。

――夕霧。

再び、石を散らす。

規則なきようでいて、

すべてが繋がる布石。

【塔矢アキラの内】

(来た……)

(やはり“夕霧”……!)

視線が、盤をなぞる。

(見ていた)

(何度も、頭の中で試した)

(僕なら……どう打つか)

序盤の応酬。

静かに、

しかし確実に、

火花が散る。

【佐為視点】

(……良い)

アキラの打ちは、迷いがない。

(ただの模倣ではありませぬ)

己のものとして、

消化し、

打っている。

【塔矢アキラの内】

(違う……)

(ただの夕霧じゃない)

盤を凝視する。

(桂馬……?)

将棋に似た跳躍の配置。

(配置の密度が……違う)

(間合いが……計算されている)

【佐為視点】

(気付きましたか)

私は、ただ見つめる。

(よい目)

(よい打ち方)

(よい表情)

そして何より――

(熱意)

院生の中でも、

これほどまでに満ちた者は、そうはおりませぬ。

(すべてが、高い)

中盤へ。

アキラは攻める。

一手。

また一手。

(見事)

一切の無駄がない。

(誤りと言える手が……見当たらぬ)

こちらが、

わずかに押される。

(当然)

夕霧は――

(序から中にかけて、脆きもの)

巧者に攻められれば、

そのまま崩れ去ることも多い。

(ゆえに)

(この流れは……必然)

だが――

私は、微かに微笑む。

(……楽しい)

胸の奥に、湧き上がるもの。

(ヒカルも、著しく伸びておりますが)

視線の先。

塔矢アキラ。

(この者もまた……)

(なお、伸びるか)

盤上にて、

時を越えたものと、

現代の才が交わる。

(なんと……)

(愉しきことよ)

勝負は、まだ続く。

そしてその先に――

どのような景色が待つのか。

私はただ、

その一手一手を、

味わうように見つめておりました。

【佐為視点】

面白い――

その一言に尽きましょう。

盤上に流れる気配は、もはやただの勝負にあらず。

互いの思考が絡み合い、

幾重にも折り重なりながら、深みへと沈んでゆく。

(……誘っておりますな)

私の内に、静かなる確信が芽生える。

この流れ。

この構え。

この呼吸。

(本因坊秀策の戦いへと)

本因坊秀策の碁。

それは、静かにして絶対。

無駄を削ぎ落とし、

一手一手が盤の理に沿い、

やがて逃れ得ぬ流れへと導く。

(……何度も、何度も)

あの少年は、

その影を追い続けてきたのでしょう。

【塔矢アキラの内】

(のってきた……)

胸の奥が、熱を帯びる。

(僕は……)

(この展開を、どれだけ望んできた……)

過去の対局。

敗北。

悔恨。

(もう負けないと……)

(何度も、何度も……考えてきた)

【佐為視点】

(この気迫……)

(よくぞ、ここまで)

学び、

磨き、

昇華している。

ならば――

(応えねばなりませぬ)

私は、夕霧の流れを崩さぬように保ちつつ、

その内に、秀策の理を織り込む。

柔と剛。

散と収。

相反するものを、

一つの流れにて結ぶ。

(では……この一手)

盤に、静かに石を置く。

【塔矢アキラの内】

(……っ)

(ここで……新手)

盤面が、わずかに揺らぐ。

(試されている……)

長考。

視線が、石の連なりを追う。

(お父さんとの対局……)

記憶がよみがえる。

(あの時、僕は三つしか考えられなかった)

(だが父は……六つ)

(差は……歴然だった)

拳を、膝の上で握る。

(この手に対して……)

(有効手は……七つ)

思考が、枝分かれする。

一本。

二本。

さらにその先へ。

【佐為視点】

(さて……)

私は静かに、見守る。

(この新しき手への応じ方は……八通り)

(さあ、アキラ)

(どこまで見えておりますか)

七か。

六か。

それとも――

(九に至るか)

盤上に、静寂が満ちる。

誰もが息を潜める中、

ただ一人、

少年は考え続ける。

(……よい)

やがて。

指が、石を掴む。

そして――

置く。

【佐為視点】

(……ほう)

その一手。

流れに沿い、

要を押さえた、力強き手。

(それは――)

(次善)

だが、

その価値は決して低くない。

(よい手です)

私は、わずかに微笑む。

(夕霧に対してであれば)

(なお優れた応じもありましたが……)

されど。

(ここまで辿り着いたことこそ)

(賞賛に値しましょう)

盤上の空気が、さらに熱を帯びる。

互いに一歩も退かぬまま、

より深き領域へと踏み込んでゆく。

(……よい勝負です)

そして私は、確かに感じておりました。

この一局が、

ただの勝敗では終わらぬことを。

(時を越えしものと)

(今を生きる才が)

(真に交わる一局)

その只中に、

私はいるのだと。

【佐為視点】

中盤――

盤上は、まさしく均衡。

互いに一歩も譲らず、

呼吸を合わせるかのごとく、

石は置かれてゆく。

(よき均衡……)

されど。

(ここより、流れは変わる)

私は、ひとつの石に意識を向ける。

そして――

(……伸ばしましょう)

ノビ。

その一手は、

あまりにも穏やかに見える。

春の風のように、

静かに、

やわらかく、

盤の上をなぞる。

(夕霧に紛れる……春風)

だがその風は――

(止まらぬ)

(伸びゆくもの)

【塔矢アキラの内】

(……イーブン)

盤を見据え、

静かに分析する。

(いや……違う)

夕霧。

それは――

終盤にて息を吹き返す打ち。

(今、互角ということは……)

(終局では押し切られる)

わずかに、喉が鳴る。

(……厳しい)

視線が、そのノビへと向かう。

(この石……伸びたか)

(ならば……さらに重くなる)

胸の奥に、重圧がのしかかる。

だが――

(逃げてはならない)

「……」

アキラは、わずかに目を閉じ、

(肝を据える)

そして――

攻める。

【佐為視点】

(……来ましたか)

その一手は、

鋭く、

強く、

迷いがない。

(よい……)

胸の奥が、震える。

(この気迫……)

(もはや――)

塔矢行洋にも、

劣らぬ。

攻防は、激しさを増す。

夕霧の弱み――

中盤の脆さが、

露わとなる。

押される。

じわりと。

確実に。

(四目……)

差がつく。

(強い……)

だが。

(それでも)

私は、微かに笑みを浮かべる。

(この風は……)

(穏やかにあらず)

(ここより荒れる)

――雷轟。

ノビは、うねる。

直線ではなく、

蛇のごとく、

折れ、

曲がり、

絡み合う。

それはもはや、

風ではない。

(命を削る嵐)

【塔矢アキラの内】

(……来たか)

その気配に、

息を呑む。

(捨て身の一手――雷轟)

(本来なら……固く来るはず)

(夕霧を活かすために)

だが――

(ここで……跳ね返せば)

(終局を待たずに……勝てる)

視線が鋭くなる。

(掴める……勝ち筋)

【佐為視点】

(……そうはさせませぬ)

ここからは、

一手の緩みが、

即ち死。

(綱渡り)

石と石が、

互いの命を削り合う。

一瞬の迷いが、

全てを崩す。

(……よい)

(実に、よい)

【塔矢アキラの内】

(落ち着け……)

状況は、

わずかに有利。

(だが……一手でも崩れれば)

(終わる)

それでも、

手は止まらない。

冷静に。

正確に。

そして――

終盤。

空気が変わる。

【佐為視点】

(……来ました)

散らばっていた石たちが、

ゆっくりと、

息を吹き返す。

一つ、

また一つ。

(夕霧)

それは、

静かに、

だが確実に、

盤を覆う。

【塔矢アキラの内】

(……何だ)

視界が、

曇るような感覚。

(見えない……)

盤面が、

歪む。

(どこが境界だ……?)

(どこまでが生きて……どこが死んでいる……?)

それはまるで――

霧。

深く、

濃く、

重たい霧。

足元さえ、

確かでなくなる。

一歩踏み出せば、

奈落へと落ちるような、

不安。

(……読めない)

どれほど目を凝らしても、

先が見えぬ。

石はある。

形もある。

だが――

(意味が……掴めない)

霧の中に、

無数の影が揺れる。

それが味方か、

敵かも分からぬ。

(……これが)

(夕霧……)

心が、揺らぐ。

(違う……落ち着け……)

(考えろ……)

だが、

思考は霧に呑まれてゆく。

(……こんな……)

胸の奥に、

初めての恐怖が芽生える。

それは、

敗北の予感ではない。

(理解できないものへの……恐怖)

【佐為視点】

(……感じておりますね)

霧の中に迷い込んだ者の、

戸惑いを。

(だが)

それでもなお、

この少年は崩れぬ。

(実に……見事)

私は静かに、次の一手を見据える。

勝負は、最終の領域へ。

霧の奥に、

ただ一つの結末が、

静かに待っておりました。

【佐為視点】

震えておりますね。

指先のわずかな揺れ。

呼吸の乱れ。

視線の定まらぬ一瞬。

(……感じております)

それは恐れではなく、

理解し始めた証。

(この『夕霧』の深さを)

盤上は、もはや一つの景にあらず。

流れは連なり、

形は崩れ、

再び生まれる。

(『夕霧』)

(『雷轟』)

そして――

(さらに荒れる……)

『雪嵐』。

静かなる白は、

もはや静寂ではない。

吹き荒ぶ雪のごとく、

黒を覆い、

かき消し、

存在そのものを曖昧にしてゆく。

私の白石が、

黒石を、

一つ、

また一つと――

(溶かすように)

奪ってゆく。

(さぁ……)

(如何に応じますか)

【塔矢アキラの内】

(くっ……)

胸を締め付ける圧。

(厳しい……!)

それは、

まるで自然そのもの。

逃げ場などない。

抗うことしか許されぬ。

(だが……)

拳を強く握る。

(僕は……)

(進藤ヒカルを……追い続けてきた)

敗北。

悔しさ。

それらすべてを、

飲み込み、

ここまで来た。

(負けてたまるか……!)

【佐為視点】

……良い。

その一手。

(力で捌くか)

理を越え、

流れに抗い、

正面より切り裂く。

その打ち様は――

塔矢行洋にすら、

劣らぬ。

(見事)

盤上は、

さらに激しさを増す。

互いの石が、

命を削り合う。

一手の遅れも許されぬ、

極限の領域。

(そして……)

終局へ。

私は、最後の一手を見届ける。

(六目半)

静かに、

しかし確かに、

勝負は決した。

【塔矢アキラ】

「くそぉぉぉ!!」

机を、強く叩く。

乾いた音が、室内に響く。

そのまま、

力が抜けるように、

倒れ込む。

そして――

涙。

【佐為視点】

……言葉は、ございませぬ。

ただ、時が流れる。

一分。

沈黙。

その重みは、

どの言葉よりも深く、

強く、

心に残る。

やがて――

アキラが、顔を上げる。

「……どこが、駄目だった」

その問い。

逃げも、

言い訳もない。

ただ、真実を求める声。

(……よい)

私は、ヒカルを通じて、

言葉を紡ぐ。

「強く打ったのは、間違っていない」

静かに。

「あの姿勢がなければ、差はもっと開いていた」

アキラの瞳が、わずかに揺れる。

「夕霧を相手にして……」

一拍。

「これほどまで追い詰めた者は、初めてだ」

空気が、変わる。

「それに――」

視線を、まっすぐに向ける。

「本因坊秀策の流れへと誘ったこと」

(見事でございました)

「ただ……」

盤を指し示す。

「この新しき手に対しては」

「さらに良き応じがあった」

「もし“夕霧”を見抜いていたならば……」

「こちらの手が、最善であったでしょう」

静かに、示す。

【佐為視点】

すべてを伝える必要はありませぬ。

されど、

進むべき道は、

示さねばならぬ。

(この者は……)

まだ、

伸びる。

大きく。

どこまでも。

私は、静かにその姿を見つめる。

(いずれまた)

(この霧の先で)

再び、相まみえる日が来ることを――

確信しながら。

 

次号 ヒカルVS倉田 勝つのは?

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