盾鉱人と冒険者の話(旧:ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話) 作:お前の隣の後ろの斜め右
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「ときに冒険者さん」
盾鉱人は顔をあげた。
馬を操る商人が、こちらを横目で捉えたところだった。
「貴方、『盾剥がし』という技術は知っていますか?」
彼の言葉に読書をしていた魔術師が、身じろぎする。
何となく、盾鉱人は盾を触った。
「ああ、よく知っている」
唐突な質問に、自然と語気が強くなる。
だが商人は、気にする素振りも見せぬまま、言葉を続けた。
「では破り方は?」
「……何?」
「『盾剥がし』の破り方ですよ。攻略法と言い換えても良い」
盾鉱人はじっと、商人の顔を見つめた。
商人の顔は無表情のまま。
反対に盾鉱人は、眉に皺がよっていく。
彼はヒゲをしごいて応える。
「まあ、知っている」
「ほお‼︎ それはそれは」
一度、わざとらしく破顔させ、次に魔術師へ顔を向けた。
「私は知らないわよ」
商人が何かを言う前に、魔術師はピシャリと言い放つ。
「前衛は彼に任せてるの」
すました顔で、本からは目を離していない。
商人は「なるほど」と呟く。
彼がこちらを向いた。
「詳しい方法など、お聞きしても?」
「構わんが、なぜ今だ」
「ただの世間話ですよ」
「さっきのは、……いや良い」
盾鉱人は首をふる。
馬の『紋章』のこともあるし、商人相手に舌戦など、勝てる気もしない。
(藪蛇はごめんだ)
盾鉱人はわざと、大きく息を吸った。
「とはいえ俺も師匠から見て盗んだものだが」
「簡単に言えば、武器に力を入れさせない」
「というと?」
「自身の身体操作と、腕力、あとは盾の角度だ」
商人が静かにうなる。
文を追っていた魔術師の眼も、いつの間にか止まっていた。
「想像し辛いわ。言葉だけだと簡単に聞こえるもの」
本を閉じながら、魔術師がこちらを向いた。
盾鉱人は静かに言葉を続ける。
「高度な重心移動と隙を逃さない目の良さ。簡単なはずがない」
「師匠は逆に、仕掛けてきた相手を引き倒していた」
空中を向いて想像している二人を見比べてから、盾鉱人は「説明は苦手だ」と顎を掻く。
「要するに、剥がされないように空かすってことだ」
「何らかの、特殊技能ってこと?」
「あー、まあそうだ」
しばらく悩んだ魔術師が、歯切れ悪く付け足せば、盾鉱人も渋い顔をして頷いた。
「一応別の方法もあるが、俺は使わん」
居心地の悪そうに身じろぎをする盾鉱人に、魔術師が薄く笑みを浮かべて杖で突いた。
「その『特殊技能』を、冒険者さんも使えるのですね?」
「ああ」
商人の問いに、ゆるく、盾鉱人は頷く。
彼の表情は、兜と髭に隠れて見えなかった。
商人は盾鉱人を一瞥しながら、大げさに手を広げる。
「流石です。辺境一の盾使いと言われていただけある」
「……誰だそれを言ったのは」
「受付の方ですね。『信用に足る冒険者です』と太鼓判を押されました」
「あの訓練所の一件以来、貴方有名人よ」
「昼の訓練場に行ったのは迂闊だったか」
「このまま『辺境最硬』とか呼ばれるかもね」
「それは、やめてほしい」
いたずらっぽい笑みを浮かべる魔術師と、口元をへの字に曲げた盾鉱人。
彼等を眩しい物を見るように目を細めた後、商人は含み笑いを浮かべた。
そっと、彼は馬を撫でた。簡素な馬具が音を立てる。
馬が短く、鼻から息を吐いた。
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上から、剣が振り下ろされる。
盾を構えようとして、後ろから別の男が、剣を横凪にしてくる姿を横目に捉えた。
横に転がり、体勢を立て直したと同時に、盾を前に構えて突撃する。
「うわっ‼︎」
剣を振り下ろして隙だらけの男を転ばせて、顔に棍棒を振り下ろす。
鈍い音が響き、男の手から武器が離れる。
「クソっ」
盾鉱人は殴った相手が戦闘不能なことを横目で確認して、もう一人の男に手投げ斧を投げる。
男は腕で顔を守る。斧がたまたま剣に弾かれて、地面に落ちた。
「へ?……ハハッ」
地面の斧を視線で追って、勝ち誇ったような表情を浮かべる。
男は顔をあげ辺りを見回す。だが敵は見当たらない。
その隙に、後ろに回った盾鉱人は、彼の後頭部を棍棒で殴りつける。
どさり、と悲鳴もあげずに男は地面に倒れ込んだ。
残心をとった後、盾鉱人は無言で手投げ斧を拾った。
倒れた男は白目を向いて、時折痙攣している。
「練度が低い」
盾鉱人は呟いた。
彼の視線の先では、商人と魔術師が固まって動いている。
商人は剣の心得があるようで、一対一なら危なげなく倒している。
魔術師によるスリングの援護も相まって、盾鉱人が助けに入らなくても対処できている。
対処できてしまっている。
先ほどの雑談から、そう時間が経たない内に、襲撃に遭った。
商人の行動、言動の節々から感じられる無視できない違和感もあり、警戒しながら戦っていた盾鉱人だったが、襲撃自体は簡単に対処できてしまった。
ーーー襲撃をかけるにしては、練度が足りていない。
商人の馬に後ろ足で蹴られ、意識を飛ばされた襲撃者を見つめながら、盾鉱人は警戒を続けた。
(棍棒が伝説の武器で強かった、なんてオチだったら笑うしかない)
右手に握る棍棒に向けて、皮肉気に小さく微笑んだ。
「まあ、悪くはない」
言い訳のように声に出して、盾鉱人は馬車の元へ駆け出した。
「大丈夫か」
魔術師は合流した盾鉱人を見もせずに、スリングを振る。
ヒュッ、と空気を切り裂いて、石弾が斬りかかろうとしていた男の腕に命中する。
悲鳴をあげて、男が武器を取り落とす。
隙を逃さず、商人が男を斬り倒した。
「見ての通りよ」
「あの商人、戦える者だな」
「そうね。でも依頼人なのに前線に立たせてる」
「……交代してくる」
「よろしく」
盾鉱人はわざと音を立てて、接近する。
目線の先では、油断なく剣を構える商人を、数人で取り囲み、ジリジリと追い詰めていた。
「こっちを向け‼︎」
足音を立て、声を上げながら近づけば、案の定、何人かがこちらを向く。
自分から意識が外れたのを察知して、商人がまた一人、斬り伏せる。
襲撃者の注意が、倒れた仲間に戻った。
その隙に盾鉱人は接近し、先ほどのように棍棒で殴り付けていく。
こちらでは盾鉱人に殴られ気絶、彼方では商人に斬られて、戦闘不能。
殴られ、斬られ、挙句、逃げた先には石弾が飛んでくる。
そうして作業の如く、襲撃者達は地面に倒れていった。
「片付きましたか」
商人が辺りを見回して、剣についた血を払う。
流れるような動作で鞘に収める。
ふー、と口から息を吐き出した。
盾鉱人は商人の肩を叩いた。
「良い動きだった」
「ありがとうございます。まだまだ未熟ですが」
「そんなことはない。商人としては十分すぎる」
「ありがとうございます」
謙遜する商人に、盾鉱人は首を横に振った。
「周りにはもう、いないみたい」
魔術師がいつの間にか近付いて来ていた。
盾鉱人は頷く。
「奴ら、不自然に練度が低い。何かあるぞ」
油断なく、盾鉱人が棍棒を握り直した瞬間だった。
「ご明察」
後ろから声が聞こえた。
ーーー声の方向へ盾を構える。すぐに衝撃が走った。
一瞬、ふわり、と身体が浮き、身体が引っ張られる。
「盾鉱人‼︎」
(油断した。気配に気付かなかった)
魔術師の悲鳴を聞きながら、盾鉱人は体勢を立て直す。
受けた衝撃を転がる勢いに変えながら、下手人を確認する。
頭巾付きの外套を深くかぶり、右手には刀身が炎のような剣が握られている。
(あいつか)
勢いを乗せて、手投げ斧を投げつけた。
凄まじい速度で、斧が飛んでいく。
「巧い」
低く艶のある声が、頭巾の中から響いた。
下手人は左手に握っていた鉤爪で斧を弾く。
甲高い音を立てて、斧が明後日の方向に飛ぶ。
しかし、斧の勢いは強く、被っていた頭巾が飛ばされて、下手人の顔があらわになった。
「なかなかやるわね」
氷のような端正な顔付きに、灰のごとき髪と褐色の肌。そして、何より目を惹くのは、両頬の辺りに彫られた爪のような刺青だった。
「女性?」
「そうよ。悪い?」
魔術師の呟きを拾いながら、その目は、盾鉱人を捉えて離さない。
「俺がやる。援護頼む」
盾鉱人は魔術師を背中に庇いながら、一歩前進する。
横目で、彼女が頷いたのを確認した。
女を睨みつけながら、盾鉱人は商人にも話しかける。
「ここは俺達に任せろ。流石にアレは相手できないだろう」
返事は返ってこなかった。
顔だけ、商人へ向けた。
彼の表情は、驚きと諦めと、そして安堵に彩られていた。
「おい、しっかりしろ」
「彼女です」
商人は、服の上から胸元を握る。
握った拳が白くなった。
「……何がだ」
薄々勘付きながらも、盾鉱人は訊ねる。
「前任者。『ソリが合わなかった』前任者です」
前任者の顔が、ぴくり、と反応する。
口を歪ませて、彼女は舌打ちをした。
(何だか混み合ってきた)
盾鉱人は、現実逃避気味に低く唸った。
見直せば見直すだけ、自分の文の稚拙さに気付きます。