盾鉱人と冒険者の話(旧:ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話)   作:お前の隣の後ろの斜め右

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投稿がかなり遅くなりました。申し訳ございません。


第二十二話 前任者

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「ときに冒険者さん」

 盾鉱人は顔をあげた。

 馬を操る商人が、こちらを横目で捉えたところだった。

「貴方、『盾剥がし』という技術は知っていますか?」

 彼の言葉に読書をしていた魔術師が、身じろぎする。

 何となく、盾鉱人は盾を触った。

「ああ、よく知っている」

 唐突な質問に、自然と語気が強くなる。

 だが商人は、気にする素振りも見せぬまま、言葉を続けた。

「では破り方は?」

「……何?」

「『盾剥がし』の破り方ですよ。攻略法と言い換えても良い」

 盾鉱人はじっと、商人の顔を見つめた。

 商人の顔は無表情のまま。

 反対に盾鉱人は、眉に皺がよっていく。

 彼はヒゲをしごいて応える。

「まあ、知っている」

「ほお‼︎ それはそれは」

 一度、わざとらしく破顔させ、次に魔術師へ顔を向けた。

「私は知らないわよ」

 商人が何かを言う前に、魔術師はピシャリと言い放つ。

「前衛は彼に任せてるの」

 すました顔で、本からは目を離していない。

 商人は「なるほど」と呟く。

 彼がこちらを向いた。

「詳しい方法など、お聞きしても?」

「構わんが、なぜ今だ」

「ただの世間話ですよ」

「さっきのは、……いや良い」

 盾鉱人は首をふる。

 馬の『紋章』のこともあるし、商人相手に舌戦など、勝てる気もしない。

(藪蛇はごめんだ)

 盾鉱人はわざと、大きく息を吸った。

「とはいえ俺も師匠から見て盗んだものだが」

「簡単に言えば、武器に力を入れさせない」

「というと?」

「自身の身体操作と、腕力、あとは盾の角度だ」

 商人が静かにうなる。

 文を追っていた魔術師の眼も、いつの間にか止まっていた。

「想像し辛いわ。言葉だけだと簡単に聞こえるもの」

 本を閉じながら、魔術師がこちらを向いた。

 盾鉱人は静かに言葉を続ける。

「高度な重心移動と隙を逃さない目の良さ。簡単なはずがない」

「師匠は逆に、仕掛けてきた相手を引き倒していた」

 空中を向いて想像している二人を見比べてから、盾鉱人は「説明は苦手だ」と顎を掻く。

「要するに、剥がされないように空かすってことだ」

「何らかの、特殊技能ってこと?」

「あー、まあそうだ」

 しばらく悩んだ魔術師が、歯切れ悪く付け足せば、盾鉱人も渋い顔をして頷いた。

「一応別の方法もあるが、俺は使わん」

 居心地の悪そうに身じろぎをする盾鉱人に、魔術師が薄く笑みを浮かべて杖で突いた。

「その『特殊技能』を、冒険者さんも使えるのですね?」

「ああ」

 商人の問いに、ゆるく、盾鉱人は頷く。

 彼の表情は、兜と髭に隠れて見えなかった。

 商人は盾鉱人を一瞥しながら、大げさに手を広げる。

「流石です。辺境一の盾使いと言われていただけある」

「……誰だそれを言ったのは」

「受付の方ですね。『信用に足る冒険者です』と太鼓判を押されました」

「あの訓練所の一件以来、貴方有名人よ」

「昼の訓練場に行ったのは迂闊だったか」

「このまま『辺境最硬』とか呼ばれるかもね」

「それは、やめてほしい」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる魔術師と、口元をへの字に曲げた盾鉱人。

 彼等を眩しい物を見るように目を細めた後、商人は含み笑いを浮かべた。

 そっと、彼は馬を撫でた。簡素な馬具が音を立てる。

 馬が短く、鼻から息を吐いた。

 

 

        1

 

 上から、剣が振り下ろされる。

 盾を構えようとして、後ろから別の男が、剣を横凪にしてくる姿を横目に捉えた。

 横に転がり、体勢を立て直したと同時に、盾を前に構えて突撃する。

「うわっ‼︎」

 剣を振り下ろして隙だらけの男を転ばせて、顔に棍棒を振り下ろす。

 鈍い音が響き、男の手から武器が離れる。

「クソっ」

 盾鉱人は殴った相手が戦闘不能なことを横目で確認して、もう一人の男に手投げ斧を投げる。

 男は腕で顔を守る。斧がたまたま剣に弾かれて、地面に落ちた。

「へ?……ハハッ」

 地面の斧を視線で追って、勝ち誇ったような表情を浮かべる。

 男は顔をあげ辺りを見回す。だが敵は見当たらない。

 その隙に、後ろに回った盾鉱人は、彼の後頭部を棍棒で殴りつける。

 どさり、と悲鳴もあげずに男は地面に倒れ込んだ。

 残心をとった後、盾鉱人は無言で手投げ斧を拾った。

 倒れた男は白目を向いて、時折痙攣している。

「練度が低い」

 盾鉱人は呟いた。

 彼の視線の先では、商人と魔術師が固まって動いている。

 商人は剣の心得があるようで、一対一なら危なげなく倒している。

 魔術師によるスリングの援護も相まって、盾鉱人が助けに入らなくても対処できている。

 対処できてしまっている。

 先ほどの雑談から、そう時間が経たない内に、襲撃に遭った。

 商人の行動、言動の節々から感じられる無視できない違和感もあり、警戒しながら戦っていた盾鉱人だったが、襲撃自体は簡単に対処できてしまった。

ーーー襲撃をかけるにしては、練度が足りていない。

 商人の馬に後ろ足で蹴られ、意識を飛ばされた襲撃者を見つめながら、盾鉱人は警戒を続けた。

(棍棒が伝説の武器で強かった、なんてオチだったら笑うしかない)

 右手に握る棍棒に向けて、皮肉気に小さく微笑んだ。

「まあ、悪くはない」

 言い訳のように声に出して、盾鉱人は馬車の元へ駆け出した。

 

「大丈夫か」

 魔術師は合流した盾鉱人を見もせずに、スリングを振る。

 ヒュッ、と空気を切り裂いて、石弾が斬りかかろうとしていた男の腕に命中する。

 悲鳴をあげて、男が武器を取り落とす。

 隙を逃さず、商人が男を斬り倒した。

「見ての通りよ」

「あの商人、戦える者だな」

「そうね。でも依頼人なのに前線に立たせてる」

「……交代してくる」

「よろしく」

 盾鉱人はわざと音を立てて、接近する。

 目線の先では、油断なく剣を構える商人を、数人で取り囲み、ジリジリと追い詰めていた。

「こっちを向け‼︎」

 足音を立て、声を上げながら近づけば、案の定、何人かがこちらを向く。

 自分から意識が外れたのを察知して、商人がまた一人、斬り伏せる。

 襲撃者の注意が、倒れた仲間に戻った。

 その隙に盾鉱人は接近し、先ほどのように棍棒で殴り付けていく。

 こちらでは盾鉱人に殴られ気絶、彼方では商人に斬られて、戦闘不能。

 殴られ、斬られ、挙句、逃げた先には石弾が飛んでくる。

 そうして作業の如く、襲撃者達は地面に倒れていった。

「片付きましたか」

 商人が辺りを見回して、剣についた血を払う。

 流れるような動作で鞘に収める。

 ふー、と口から息を吐き出した。

 盾鉱人は商人の肩を叩いた。

「良い動きだった」

「ありがとうございます。まだまだ未熟ですが」

「そんなことはない。商人としては十分すぎる」

「ありがとうございます」

 謙遜する商人に、盾鉱人は首を横に振った。

「周りにはもう、いないみたい」

 魔術師がいつの間にか近付いて来ていた。

 盾鉱人は頷く。

「奴ら、不自然に練度が低い。何かあるぞ」

 油断なく、盾鉱人が棍棒を握り直した瞬間だった。

「ご明察」

 後ろから声が聞こえた。

 ーーー声の方向へ盾を構える。すぐに衝撃が走った。

 一瞬、ふわり、と身体が浮き、身体が引っ張られる。

「盾鉱人‼︎」

(油断した。気配に気付かなかった) 

 魔術師の悲鳴を聞きながら、盾鉱人は体勢を立て直す。

 受けた衝撃を転がる勢いに変えながら、下手人を確認する。

 頭巾付きの外套を深くかぶり、右手には刀身が炎のような剣が握られている。

(あいつか)

 勢いを乗せて、手投げ斧を投げつけた。

 凄まじい速度で、斧が飛んでいく。

「巧い」

 低く艶のある声が、頭巾の中から響いた。

 下手人は左手に握っていた鉤爪で斧を弾く。

 甲高い音を立てて、斧が明後日の方向に飛ぶ。

 しかし、斧の勢いは強く、被っていた頭巾が飛ばされて、下手人の顔があらわになった。

「なかなかやるわね」

 氷のような端正な顔付きに、灰のごとき髪と褐色の肌。そして、何より目を惹くのは、両頬の辺りに彫られた爪のような刺青だった。

「女性?」

「そうよ。悪い?」

 魔術師の呟きを拾いながら、その目は、盾鉱人を捉えて離さない。

「俺がやる。援護頼む」

 盾鉱人は魔術師を背中に庇いながら、一歩前進する。

 横目で、彼女が頷いたのを確認した。

 女を睨みつけながら、盾鉱人は商人にも話しかける。

「ここは俺達に任せろ。流石にアレは相手できないだろう」

 返事は返ってこなかった。

 顔だけ、商人へ向けた。

 彼の表情は、驚きと諦めと、そして安堵に彩られていた。

「おい、しっかりしろ」

「彼女です」

 商人は、服の上から胸元を握る。

 握った拳が白くなった。

「……何がだ」

 薄々勘付きながらも、盾鉱人は訊ねる。

「前任者。『ソリが合わなかった』前任者です」

 前任者の顔が、ぴくり、と反応する。

 口を歪ませて、彼女は舌打ちをした。

(何だか混み合ってきた)

 盾鉱人は、現実逃避気味に低く唸った。

 




見直せば見直すだけ、自分の文の稚拙さに気付きます。
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