緋眼の舞姫〜英雄と悪役の約束〜   作:神無月ほたる

8 / 45
7話:鍵を閉める

「……すみません、お父様。遅くなりました」

 

そう言いながら電話に出る。

 

「今、大丈夫か?」

 

「……はい。周りに誰もいません」

 

「そうか。なら本題だが、最近お前の学校の付近で事件が多くてな。

 

どうやら(じゅつ)を使う霊がいるらしい。すでに何人か被害にあってるようだ。早めに処理を頼む」

 

「……はい。分かり、ました。終わったら報告します」

 

それだけ言い残して電話を切る。

 

……何処(どこ)までいっても私は、人形でしかない。

 

あ〜あ。私はただ、二人と一緒に毎日を過ごしたいだけなのになぁ。

 

何でかなぁ。こう上手くいかないのは。

目に涙が浮かぶ。

 

最近はこうした呼び出しが無くなっていたから、油断していた。

 

でも結局のところ、私は人形。その運命からは逃れられないのだ。

 

ギュッ、と強く胸元を握りしめて──ガチャン、と心の鍵を閉める。

 

すっと視界が冴えわたる。

 

深呼吸をする。

 

「……さて、ちゃちゃっとやりますか」

 

 

 

それから私は、学校の周辺を歩いた。

 

霊の気配は近ければ嫌でも分かる。

 

だから見つかるまで、歩けばいい。

 

サラサラと風に揺られて、花びらを散らす桜の木が見えた。

 

「あなたも私と同じように空っぽなのかな?それとも、何かあるの……かな?」

 

軽く木肌に触れて、独り言を(つぶや)く。

 

「ねぇ、そこの人。死にたいなら殺してあげようか?」

 

後ろから女の声。

 

振り向くと、空中に浮いている大人の女がいた。

 

「最近(うわさ)になっている霊って、あなたのことでいいの?」

 

「あれ?そんなに有名になってるんだ。なんかちょっとだけ嬉しいな」

 

ニヤつく(そいつ)を見て、私は何も言わずに制服の後ろから刀を抜いた。

 

──斬る。

 

不意打ちの一閃は、女の霊の片手を斬り飛ばした。

 

「えっ?あれっ!?」

 

少し遅れて、自分が斬られたことに気づく女の霊。

 

霊は物理をすり抜ける。

 

……けど、霊力を通した刃は違う。

 

「……っ!」

 

女の霊の顔が歪む。

 

「……よくも、よくも私の腕をっ!!」

 

「殺す!殺してやるっ!!」

 

ブワッ、と女の霊の手から(ほのお)が溢れ出す。

 

「死ねっ!」

 

迫りくる焔は、私に触れる直前──女の霊の方へと帰っていった。

 

「うぎゃぁぁっ!! 熱いっ!! 熱いぃ〜!!」

 

霊は本来痛みは感じない。

 

……でも、実際に自分が傷ついたと理解した瞬間だけは、話が別だ。

 

「残念だけど、私に(ほのお)は効かないんだよね」

 

必死に火を消そうとして暴れる女の霊に向かって、淡々と言う。

 

「安心して。私は別に、無意味にあなたを苦しめるために来たんじゃないから。

 

今のは、あなたが反抗しないようにしただけ。何もしないなら、これ以上苦しめることはないよ」

 

優しい声でそう言いながら、近付く。

 

「謝るっ!謝るからっ!もうしないって約束するからっ!」

 

怯えながら必死に言う女の霊。

 

「……謝っても、あなたの殺した人は帰ってこないよ」

 

そして、もう一つ。

 

「それに、嘘はいけないよ?私には分かる(・・・)からね。あなたが嘘つきなのは」

 

見慣(みな)れた命乞(いのちご)い。

 

……どうでもいい。早く終わらせよう。

 

普段から隠し持っている緋色(ひいろ)扇子(せんす)に指を掛けた、そのとき。

 

「ちょっと待てよ」

 

男の声がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。