「そいつ反省したんだろ?なら無理に成仏させる必要なんてないだろうが」
そんなことを言いながら、除霊高《じょれいこう》の制服を着た男子生徒が姿を
正義感ぶったお人好し。まさしく今のこの状況のような印象を受ける見た目をしている。
漫画なら主人公とでも言えそうな見た目の男子生徒だ。
「私は私の仕事をしてるだけ。誰か知らないけど邪魔しないで」
「俺は
そう言いながら、チラリと女の霊の方を見る。
「こいつだって元々は人だ。人はいつだってやり直せる。
そのためのチャンスは誰にだって必要だろ?だからそいつを無理に成仏させる必要なんてないだろ」
情に訴えるように言ってくる
「そう。ならあなたは、こいつが殺した人の責任を取ってくれるの?
もしここで許して、また誰かを殺したら?」
「それ......は......」
私の言葉に言い淀む
...きっと彼の言い分は正しい。
そうであるべきだ。
けど、この世界は彼が思っているほど正しくはない。もっと、もっと汚れている。
だからこそ私は、彼みたいな気持ちを持っている人を汚したくない。
「いいよ。チャンスをあげる」
彼が納得するには理由が必要だ。
自分の考えは間違っていなかった。けど、力が及ばなかった――そう言える理由が。
どうするかって? 簡単なことだ。
「私を倒せれば、この女の霊を見逃す」
実力で負かせればいい。それだけで、彼の中に都合のいい言い訳が作られる。
もっと強くならないと守りたいものが守れない――そういう言い訳が。
負けたせいで守れなかった――そういう言い訳が。
そして、そのための悪役は私がやるのがちょうどいい。
「言ったな?」
ニヤ、と
「......それはそれとして、あなたは逃さないよ?」
私と
「痛っ!?」
見えない壁にぶつかったように、女の霊が跳ね返る。
逃がさないための結界を張った。
「結界か?それに今の
「まぁ、そんなところかな」
「これで安心だね。いつでもいいよ」
「俺は女だからって手加減はしないぞ?後悔すんなよ?」
「......しないよ」
「約束、守れよ?」
「さてね」
そう言って軽く肩を
この結果がどうなるにせよ、私は女の霊を成仏させる。
これは言わば茶番みたいなものだ。
ダッ!! という地面を蹴る音とともに、
「っ!」
咄嗟に自分の左側を両手で十字にして守る。
同時に衝撃が走り、右に吹き飛ばされる。
何度か地面にバウンドして威力を殺し、起き上がる。
「まじかよ...。お前、人間か?」
驚いた表情をする
それはこちらのセリフだ。
人ひとりの身体を浮かせるほどの蹴りなんて、常人が出していいものじゃない。
それも、見えないほど速く。
大体どこを狙ってくるか
でも、普通の人なら死んでるか重傷だ。
防御に使った腕がビリビリと痺れている。
下手をすれば折れていた。
──ドクン、と心臓が高鳴る。
......あぁ。久しぶりに張り合いがありそうなやつを見つけた。
心の中のどこかで、楽しんでいる自分がいる。
少しだけ
(私は人形なのに?)
その言葉で一気に熱が冷めた。
...あぁそうだ。私は人形として仕事をするだけ。
静かに歩いて女の霊に近付いていく。
...残念だけど、
「お、おいっ!」
どうせ結界の中には入ってこれない。
「ごめんね。せめて苦しめないように一太刀《ひとたち》で終わらせるから」
「やめろっ、近づくなっ!!」
ブワッ! と再び
「......せめて来世ではまともな人になれるといいね」
女の霊だったそれは音もなく光の粒になり、空へと昇っていく。
無駄に綺麗で、幻想的な光景だ。
結界が消えるとともに、
「おい!まだ途中だっただろうが!何で約束を破ったっ!」
「チャンスならちゃんとあげたでしょ。
あなたは私を一発で倒せなかった。それだけだよ」
淡々と告げる。
「最初からこうするつもりだったのかよ......」
クズ野郎。そう
「いいか、俺は絶対にお前のやり方を認めねぇからな!
誰もがやり直す権利ってのがあるんだよ!それを不意にしてやがって!
確かに何かをやらかしたやつに罰を与えるのは間違ってねぇよ!
そうやって平和な世の中になっていくんだからな。」
バッと腕を横に振りながら叫ぶ。
「だけどそうやって嘘をついてまで殺すのはおかしいだろ!
誰だって幸せが一番だ!
その幸せを壊して、誰かが不幸にならなきゃいけない平和なんて認めねぇっ!
──絶対に認められねぇっ!」
そこまで言ってギリッ、と歯ぎしりをした後、私を突き飛ばす。
そしてそのままその場を立ち去った。
「......」
尻もちをついた私は土を払い、立ち上がる。
胸に手を当てて鍵を外す。
「...私だって、好きでやっている訳じゃないんだけどなぁ」
目に涙を浮かべながら
でもさ、仕方ないでしょ?
誰かがやらなきゃ、他の誰かがやらされる。
みんなが幸せになるためには、誰かが不幸になるしかない。
誰かが手を汚さなければいけない。
......そんな世界なのだから。
それがたまたま私だったってだけ。
私はただ、守ると決めたみんなを守るために生きている。
そして、そのためなら何でもやる。
......それが私。私に生きる意味を、心を教えてくれた恩返し。
だから──
「──だから、私が幸せになりたいなんて望んだらいけないのに...」
今以上を願ってしまう。
「『誰かを不幸にする平和なんて認めない』、か」
もし、もし本当にそんな世界だったら――
「──私も、もう少しだけ幸せになれるのかな......」
そんな、あるわけのないもしもを考えようとして、止める。
だってそうでしょ?
存在しないものを願ったところで、世界は変わらないのだから。