Good Luck , Raccoon City 【第二部始動】   作:持麻呂

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Nothing floats forever...


第三十話 Crash

エイブリーは暫く気絶していたが、1時間もしない内に目を覚ました。

 

その頃にはかなり憔悴しており、半ば無気力になっていたので手錠を外し座席に座らせて、リアルウォーターのボトルを手渡す。

洗脳で植え付けられた偽の記憶は、そう簡単に脳みそから抜けるわけでは無いので、多少本当の記憶を思い出したとしてもグチャグチャに混ざって、どちらが本当なのか本人の記憶の整理が付くまでは幻覚などにも悩まされる。

 

スティーブもクレアも、本当のアレクシアでは無いということ知ってしまった今は、どうにも敵意を向けられずにいる。

 

後何回か外側から刺激を与えてやれば、自然と記憶の統合性も取れてくるようになる。

まぁ、そうは言っても今までの記憶がなかったことになるわけではないので、PTSDになったりすることも多いが、それは本人次第なのでなんとも言えない。

 

しばらく重苦しい空気が機内に漂っていたが、ふと思ったことをスティーブに聞いてみた。

 

「スティーブ、そう言えば飛んでからかなり時間経っているけど、今どこの上空を飛んでいるか分かる?」

 

「えっ?ちょ、ちょっと待っててくれ」

 

ノロノロとスティーブが床から立ち上がり、操縦席の方へと歩いて行く。

そして、沢山ある計器類を覗き込んで暫くスイッチを操作していたら、急に素っ頓狂な声を出したので、クレアとエイブリーの肩がビクッと跳ねる。

私も少し驚いた。

 

「な、な、なんでなんだ!?」

 

「ちょっと、アンタまさか、ミスってたんじゃないでしょうね」

 

「いやまさか、そんな事ない!俺は絶対に東海岸座標を入力したぜ!」

 

スティーブが額から大粒の汗を垂らしながら、振り向いて必死な顔で否定する。

あまりに迫真な表情をしているので、否定はしないことにした。

 

「それで、今どこに向かっているわけ?」

 

「……南極」

 

ボソボソっとスティーブが言うので、ターボプロップの甲高い音に掻き消されて聞こえなかった。

 

「なんだって?」

 

「……だから、南極」

 

「聞こえないから、ハッキリ言ってって」

 

「だから、南極だって言ってんだろ!」

 

「はぁ?南極ぅ?」

 

スティーブが逆ギレしたかのように、大きな声で怒鳴る。

その行き先が南極になっていたとは、これは一体どういうことなのだろうか。

北極ならまだ分かるが、南極だとアメリカとは真逆の方向では無いか。

 

「今から変更出来ないわけ?」

 

それにスティーブはガチャガチャとスイッチを操作するが、すぐに首を振る。

 

「ダメだ、操作を受け付けないぜ。それに、もう戻れるだけの燃料も無い」

 

戻れるだけの燃料が無い?

おかしなことを言う。

ロックフォード島で満タンまで燃料は給油した筈だ。

水上機とはいえ、輸送機の航続距離はそんなにも短いものなのだろうか。

とりあえず、操作できないのはそれ以前の問題なので、クイックハックして調べてみると自動航法装置は簡単に解除は出来た。

なんと無く操作していたら解除できた風に装い、スティーブに言うとすぐに座席に着いて操縦桿を引く。

 

「そんなに焦ってどうしたの?」

 

クレアがスティーブの座席の後ろに立ち、同じようにフロントガラスの先を見る。

外は真っ白で何も見えない。

どうやら、外は吹雪いているらしく、既にだいぶ南に来過ぎていたらしい。

ガクンと機体が急に揺れて急降下していく。

高度計と思われる機器の数値が見る見る下がっていくが、スティーブは必死な顔で操縦桿を引っ張っており、彼がやっているわけでは無く、自動操縦が切れていなかったらしい。

 

「このままじゃ突っ込んじまうよ!」

 

再びクイックハックで今度は自動操縦装置の乗っ取り、制御を取り戻すが機体の角度が付きすぎていて元に戻すのが難しいらしい。

私も副操縦士席に着き、ゴリラアームで無理矢理操縦桿を手前に引っ張る。

グイッとエレベーター*1が無理矢理動いた感触がして、機体が急激に機首上げしていくが、手を通して凄まじい振動と抵抗、そしてミシミシと機体の構造体が負荷によって軋む音が聞こえて来る。

 

『V!やり過ぎた!機体が真っ二つに裂けちまう!!』

 

ジョニーが私の手を上から掴んで、操縦桿を押して来る。

 

『じゃあどうしろって言うのよ!!』

 

『少し力を抜くんだよバカ!!』

 

言われた通りに力を抜くと、今度はスティーブが悲鳴をあげて前のコンソールに顔面をぶつけそうになってしまった。

 

『少しで良いって言っただろうが!』

 

『少ししか抜いて無いわよ!』

 

外の吹雪のせいもあるのか、激しく操縦桿が揺れているため加減が分かりづらい。

それでも機体が軋まない程度にゆっくりと操縦桿を引き続けると、徐々に水平になって行くが高度計の数字は既に5000ft*2を切っている。

 

「もう着水するしかない!みんな、下が海であることを祈ってくれよ!」

 

次回は相変わらず真っ白で前も下も全く見えないが、高度計だけは嘘をつかない。

機体が水平になるにつれて高度計の速度は緩やかになって行くが、ほぼ着陸姿勢のようになっている。

 

「V!手が離せないから、フラップを全開にしてくれ!」

 

スティーブが叫ぶが、どれがフラップかわからない。

 

「どれよ!」

 

『これだよ!』

 

ジョニーが指差すレバーを掴み、目一杯下に下げてフラップを全開にすると、速度が急速に下がって行く。

もう高度は1000ft*3を切り、そろそろ水面から地表が見えても良い頃だが、ここでもまだホワイトアウトして見えてこない。

 

「エンジンカット!クレア掴まれ!!」

 

パッと吹雪の切れ間に見えたのは、残念ながら水面では無く真っ白な地面と何かしらの施設だった。

減速したまま機体下面が雪上にぶつかり、そのままフロートを圧し折って翼が地面に接触し、左翼が中程で破断する。

そのせいでバランスを崩した機体は、前進しようとする力と横転しようとする力によって、我々の乗っている機首側が捻り切れて雪上を滑走した。

背後の方で爆発音と光が発生したのが分かった。

滑り続ける機首の前方に、黒い建物が見えてきてそのままそれに突っ込んで行くのが確定したので、後部の座席に倒れ込んでいたエイブリーを掴んで床に伏せさせ、サンデヴィスタンでスティーブとクレアも同じように連れて来て床に押し付ける。

そのままその上から私が覆い被さり、床に両手で穴を開けてしっかりと身体を固定した。

一瞬、スキージャンプのようにフワッと浮き上がった後に途轍もない衝撃が襲ってきて、そして視界が真っ暗になった。

 

 

 

ーーーーーーろーーきろ!ーーーーしっかりしろV!』

 

誰かが私のことを揺さぶって来る。

全身がバラバラになったみたいに痛む。

UIに赤字が踊っている状態で目を開けると、目の前には建物の外壁を突き破って止まっている水上機の機首部分があり、フロントガラスが全部割れて無くなっている。

どうやら、あそこから外に投げ出されたらしい。

 

さっきから身体を揺さぶっていたのはジョニーだったようで、顔の横に座り込んでこちらを覗き込んでいる。

立ち上がろうとするが、上手く力が入らないことと、ジョニーが起き上がるのを手で制してくる。

 

『おっと、すぐに起き上がるなよ。土手っ腹を見てみろ』

 

重い頭を動かして、言われた通りに自分の腹を見てみると水上機の構造材だと思われる太いアルミ片と、なにか欄干のようなパイプが突き刺さっている。

パイプは、背中側から入って腹から突き出ているらしい。

 

「さい…あく」

 

インプラントで痛覚を遮断し、腹から飛び出ているパイプを掴んで捻り切る。

それから、アルミ片を掴んで引き抜いた。

血が飛び散り、傷口からじわじわと溢れ出て止まらない。

こんな傷を負って、よく即死しなかったものだ。

幾ら頭蓋骨もチタン骨に置き換えられているとはいえ、脳挫傷や脳溢血はするし、頭カチ割れてもおかしくなかった。

辺りに手を這わし、手の届く範囲にあった掴まれるものに掴まって、ゆっくりと身体を起こして背部に刺さっていたパイプを抜きに掛かる。

痛覚遮断出来なかったら、多分痛みで何度も気絶して、その間に失血死していただろう。

 

血反吐が逆流して口から溢れ出るが、それでも無視して一度で全部抜き去り、そのまま地面に倒れ込んだ。

出血が酷くて立ち上がれない。

 

『おい、しっかりしろ!こんなところでくたばるようなタマじゃ無いだろうが!』

 

意識朦朧としたまま血液ポンプ*4を発動させ、一気に活力が湧いてきたところですぐにバウンスバックを打ち込み、傷を回復させる速度を早めた。

急速に傷口が再生するが、直径3センチ近い中空のパイプに貫かれて空いた穴を塞ぐには、もう少し時間が掛かる。

 

キチン質や皮下アーマーさえも貫いて突き刺さったのだから、いったいどれほどの衝撃と速度が乗っていたのだろうか。

ナチュラルなら、体がバラバラになっていてもおかしく無い。

 

漸く立てるくらいにまで回復したので、なんとか立ち上がり外壁に突き刺さっている機首に近付いた。

少し高さがあるものの、強化腱で2段ジャンプすれば届かない程では無い。

土手っ腹に空いていた穴もほとんど塞がったので、割れているフロントガラス目掛けて飛び上がった。

窓の縁に手掛かり、両手でしっかりと掴む。

幸いなことに、機首は外壁にガッチリと引っかかっているようで、私が掴まってもびくともしなかった。

 

中に滑り込むと、3人の姿がない。

まさか、私と同様に外に放り出されて床のシミのようになってしまったのか?

慌てて破れた窓から建物内の広い空間を見渡すが、私の血溜まりのほかに赤色のものは見えなかった。

 

つまり彼らは、床のシミにもミートパティにもなっていないわけだ。

 

「ジョニー、私はどのくらい気絶してたのかしら」

 

『どうだかな。多分2時間くらいじゃねえか?』

 

2時間くらいか…

それなら3人とも無事で、私のことを死んだと思って移動していてもおかしくはない。

 

「仕方ないわね。彼らを追うしかない」

 

『まだ生きてりゃ良いな』

 

ジョニーが冗談でも笑えないことを言う。

 

「ジョニーやめて」

 

『まぁ、あの嬢ちゃんと小僧ならゾンビ程度には殺られることは無えだろうが、問題はもう1人の足手纏いだな』

 

もう1人の足手纏い、エイブリーのことだろう。

彼女の死体も無かったことから、茫然自失状態だったが2人に連れて行かれたのか、自ら着いて行ったのか…

どちらにせよ、あの状態の人間に武器を渡すかどうか分からないので、早めに合流したほうがいいだろう。

スティーブはともかく、クレアが万が一死んだりしたらクリスに合わせる顔がない。

 

水上機が突き刺さった建物は、円筒形のドーム?のような構造物で、シャフトのようになっており下は暗くてよく見えない。

一歩間違えたら、この底の見えない縦穴に落下していたと思うとゾッとする。

 

機首から再び通路に飛び降りて、壁沿いのところにあった扉まで行くと鍵が開いている。

そこから中に入ると、中の廊下にはゾンビの死体がチラホラと転がっていたので、クレア達が始末したに違いない。

 

転がっている死体を道標にして、死体を辿って行く。

もちろん、廊下なので右も左もゾンビが撃ち殺されているわけだが、今回は一発で正解を引いたらしい。

行き止まりにならず、ほとんどの扉が開錠されて開いているので、開けゴマ(Open Sesame)(物理)をしなくて良いのは楽である。

 

時たま、クレアたちが討ち漏らしたゾンビが床を這いずって来たり、突然立ち上がって向かって来たので、そいつらは蹴り殺して先に進む。

機械室と書かれた扉の前に来ると、人の話し声のようなものが聞こえて来た。

何か一方的にキレ散らかしているようだが、扉越しなので内容までは聞こえ辛い。

ともかくここに皆が居ると確信し、扉を開けて中に入ると、ドンっと言う何かに扉が当たる衝撃がした。

向こう側に誰か立っていたらしい。

 

「ああぁぁ!?」

 

男の悲鳴が聞こえて、扉の向こう側にあった柵を乗り越えて落ちて行く足の先が見えた。

 

『ドンケツかよ』

 

そこ向こう側に、肩を押さえて尻餅を付いているスティーブと片膝をついて助け起こしているクレアの姿が見える。

ちゃんとその脇にはエイブリーの姿もあったが、呆然とした表情をして両手をこちらに伸ばしていた。

私がドンケツしてしまったのは誰だったのだろうか。

まぁ、状況から見るにスティーブを撃った奴なのは間違い無いので、そんな奴どうでも良い。

 

急に入って来た私の姿を見て、クレアとスティーブが驚愕したような顔をしている。

 

「どうしたわけ?死人でも見たような顔をして」

 

『お前、わかって言ってんだろ』

 

ジョニーの皮肉は無視する。

 

「V!い、生きてたの!?」

 

「ば、化け物!」

 

「スティーブ、アンタ後で覚えておきなさいよ」

 

「ひでえ!!」

 

クレアが私に飛び込んでくるので、両手を広げて受け止める。

ギュッとしてくるので、私もしばらくされるがままに抱き締めた。

 

「…死んじゃったと思った」

 

「ちょっと気絶してただけ。あのくらいじゃ死なない」

 

トントンと背中を叩いて合図すると、クレアが身体を離した。

強く振る舞ってはいるが、こうしてみるとまだ19歳の子供なのだとわかる。

 

「それで、私は誰をドンケツしたわけ?」

 

「えぇと…それは…」

 

チラチラと2人とも気まずそうにエイブリーの方を見ている。

エイブリーの方も、なんだか元気が無い。

 

「あー、なるほど理解したわ」

 

十中八九、アルフレッドだったのだろう。

落ちて行ったところから下を覗くと、こちらも底が見えない。

どれだけ落ちて行ったのか不明だが、まぁ助からないだろう。

扉の前に立っている方が悪い。

 

「エイブリー、悪かったわね」

 

「……いい」

 

元気なく項垂れているが、ただ一言だけそう言って立ちつくしている。

なんだか悪いことをした気分になってくるのでやめてほしい。

 

スティーブは肩を撃たれた衝撃と、ジェット切れになって来たようで痛みで動けないようだ。

肩を見ると、弾は向こう側まで抜けていないようなので、痛いだろうがほじくり出さないといけない。

 

「痛いわよ」

 

「え?…うぎぃぃぃぎぎぎ!?痛い痛い!!」

 

指を傷口に突き入れて、中に残っている弾を穿り出した。

スティーブは痛みのあまり、口から泡を吹いている。

仕方ないので、バウンスバックを投与してやる。

もうそろそろ、仲間と思っても良い頃だろう。

 

スティーブはそのまま気絶してしまったので、せおって先に進むことにする。

南極なんて、さっさとオサラバするに越したことはない。

*1
昇降舵

*2
1524m

*3
約304m

*4
循環器系のクロームの一つ。使用すると、マックスドクにバウンスバックのリジェネ効果を足したような感じになる。動作不要で回復するので、咄嗟回復の時には便利だが、これ単体で使うよりも予備心臓と生体モニターを合わせて使うことでかなり死にづらくなる。肉体パークのアドレナリンラッシュを習得してから本領を発揮する。この4点セットが大体のセオリーであるが、プレイスタイルは人それぞれなので、好きなモノを体にぶち込むと良いだろう。ちなみに、失血状態で血圧をブチ上げるとショック状態になって死ぬので、多分原理としては自分の血液や人工血液か何かを一定時間貯めておいて、それをポンピングして体内輸血するんじゃ無いかなぁと勝手に予想している。リジェネ効果は多分ナノマシン(便利な魔法の言葉)




だいぶ期間が空いてしまってすみませんでした。
子供が里帰りから帰って来てから、毎日大変で書く暇が無いです…
しばらくはこんな調子が続くと思います。
よろしくお願いします。
あと、中々ご感想のお返事書けなくて申し訳ありません。
目はしっかりと通しておりますので、ご容赦願いたく思います。
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