怪魚と呼ばれる魚の姿をした怪物によって文明社会が終末を迎えた地球。

 人々はコロニーへと潜り、息を潜めての生活を余儀なくされた。

 そんな世界で、地上に生き、怪魚を狩る者たちがいた。

 人は彼らを怪魚狩りと呼んだ。

 これは、そんな怪魚狩りの少年の終末世界の日常を描いた物語。

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長編として考えていたものです!とりあえずまず短編として書いてみました!


終末世界の怪魚狩り

 かつて、地上には人類の文明が栄えていた。

 

 しかし、それはもう過去の話。

 

 文明は崩壊し、人類は、地下のコロニーで息を潜める生活を余儀なくされた。

 

 始まりは、10年前。

 

 マリアナ海溝より現れた巨大な触腕。

 

 それが、全ての始まりだったのだろう。

 

 触腕を見た者は狂い、直接見た者は発狂の末に死に、映像越しで見た者であっても、精神に異常をきたした。

 

 既知のどの生物のものとも異なるその触腕に、生物学者は興味を示した。

 

 が、触腕を調べることは出来なかった。

 

 見たら発狂するから?

 

 否!!!

 

 触腕の発見から数日後、海からそれは現れた。

 

 一言で言うのなら未知の魚。

 

 空中での呼吸、そして空の遊泳すら可能とする魚。

 

 外見も既知のものと大幅に異なっており、それは怪物と呼称すべきものであった。

 

 怪魚と名付けられたそれらは、人類にとっての絶望そのものだった。

 

 既存の兵器は全て効かず、人類の文明は、たった1年で崩壊した。

 

 既存の兵器が効かないことが判明すると、至急地下コロニーの作成が行われ、生き残った人類は地下のコロニーへの避難を余儀なくされた。

 

 既にその時点で生存していた人類はたったの2000万人であった。

 

 現在、人類は、かつての栄光など露程もなく、ただ、息を潜めて地下で生活を送っていた。

 

 が、しかし。

 

 全ての人類がコロニーに潜ったわけではなかった。

 

 地上に生き、怪魚を狩る者たちがいた。

 

 人は彼らを怪魚狩りと呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、今日はどれを食べようか」

 

 蔦が這い、今にも崩壊しそうなビルの屋上に少年が立っていた。

 

 目の下に大きな隈があり、手入れもされていないボサボサの長い髪を束ね、ボロボロのツナギを着た少年。

 

 少年の両肩には、それぞれクロスするようにバックがかかっており、その手には銛が握られていた。

 

「丁度いい。あれにしよ」

 

 少年は、ビルから見下ろし、眼下の空を泳ぐ鋭利な刃物のようなヒレと尖った角を持つ体長5メートル程の怪魚を見やると、笑みを深める。

 

 そして

 

「いただきます」

 

 手を合わせ、そう言い、飛び降りた。

 

 空気抵抗を最小限にすべく、垂直落下し、そして、その勢いのまま銛で怪魚を突いた。

 

 銛が怪魚へと突き刺さり、鮮血が舞った。

 

 少年の落下位置は、丁度怪魚の真上。

 

 そのまま怪魚の上に乗り、刺した銛を強く握り、バッグの中から鉈を取り出し、怪魚を切りつける。

 

『■■■■■■■■!!!』

 

 絶叫をあげ、怪魚が暴れる。

 

 周囲の建物に体をぶつけ、少年を振り払おうとする。

 

 しかし、銛を握る少年の握力は強く、振り払えず、少年は鉈で怪魚を切りつけ続けた。

 

 怪魚は徐々に弱り、そのまま地面へと落ちた。

 

 兵器の効かない怪魚に傷をつける銛と鉈。

 

 それは、怪魚の骨や鱗を材料としたもの。

 

 少年は、縄張り争いをし、そして死んだ怪魚から材料を得たのだ。

 

「今日はどんな料理にようかな」

 

 目の前で息絶えた怪魚を見下ろし、少年は呟く。

 

 少年の目には恐怖はない。

 

 何故なら、これは少年のただの日常なのだから。

 

 これは、怪魚に怯える人間の物語ではない。

 

 これは、怪魚から地上を取り戻す英雄譚ではない。

 

 これは、怪魚を狩り、喰らう怪魚狩りの少年の日常の物語である。

 

 

 

 

 

 

 荒廃した街。

 

 そこから少し離れた場所を少年が歩いていた。

 

 少年は、先ほど怪魚を狩った少年。

 

 少年……コウは、肩にかけたバッグとはまた違う袋を手に持っていた。

 

 その中には、先ほど狩った体調5メートルはある怪魚の一部と思われる身と骨と鱗が入っていた。

 

 その袋は、怪魚から得た戦利品を入れておくための袋で、普段はバッグの中に畳んで収納している。

 

 怪魚を殺しても、その素材全てを持ち帰れるわけでは無い。

 

 欲を出せば死ぬ。

 

 それが、この世界の常識だ。

 

 怪魚は、死んだ場合、他の怪魚が寄ってきて、その死肉を喰らう。

 

 故に、他の怪魚が来る前に、必要な分の素材を取り、そこから離れる必要があるのだ。

 

 しばらく歩くと、荒廃した村が見えてきた。

 

 村の家屋の壁は蔦が這い、苔むし、窓ガラスにはヒビが入っていた、あるいは完全に割れていた。

 

 とりわけ大きい家の庭には井戸があり、どうやらまだ使えそうだった。

 

「ここで良いか」

 

 周囲に怪魚がいないことを念入りに確認し、コウは焚き火を焚いた。

 

 そして、袋から怪魚の身を取り出し、バッグからは包丁を取り出し、怪魚の身を切り始める。

 

 もちろん、この包丁も怪魚の素材から作ったものである。

 

 そのため、不恰好。

 

 しかし、切れ味は抜群であり、怪魚の身は、簡単に切れる。

 

「井戸があったし、洗い物も出来る……なら今日はフライパンとかを使うのもありだな……よし、今日は久しぶりにムニエルにしようかな」

 

 コウは、そう呟くと、バッグから塩、胡椒、ハーブ、小麦粉を取り出し、怪魚の切り身に下味をつけ小麦粉をまぶした。

 

 そして、バッグの中からフライパンを取り出し、そのフライパンに怪魚の脂身を乗せ、焚き火にかざした。

 

 怪魚の脂身は、魚の脂身というより豚肉の脂身に近く、ラードのように使えるのだ。

 

 脂身を溶かし、フライパンが熱せられたのを確認すると、ヒナタは、小麦粉をまぶした怪魚の切り身をフライパンの上に乗せた。

 

 ジュワアアアと、魚の焼ける音がすると共に、香ばしく、美味しそうな匂いが辺りに立ち込める。

 

 この周囲に怪魚はいないため、襲われることはないが、怪魚が多くいる街中でやろうものなら一瞬で大量の怪魚に襲われ、死んでしまう。

 

 そのため、匂いが出る料理は、怪魚が周囲にいないことを念入りに確認してからすることにしているのだ。

 

 しばらく片面を焼き、菜箸で少し持ち上げ、いい感じに焼き目がついたことを確認し、ひっくり返す。

 

 それから数分そのまま焼き、真ん中を割って中完全に火が通ったことを確認し、皿に盛り付けた。

 

「いただきます」

 

 手を合わせ、そう言い、食べ始める。

 

 怪魚の身は、箸で簡単に切ることが出来るほどにホロホロになっていた。

 

 一口分取り、食べる。

 

 口の中に幸福の味が広がった。

 

 あんなにも強く、恐ろしい見た目の怪魚であるが、その身はとても旨みがある。

 

 そして、鱗や外皮は硬いものの、身は柔らかいのだ。

 

 下味でつけた塩がその旨みを更に引き出し、香り付けで使ったハーブも心地よい香りで食事を彩る。

 

「美味しい……」

 

 幸せそうに、しかし、どこか寂しそうにコウは呟く。

 

 10年前、コウは、多くの『もの』を失った。

 

 自分の家や趣味で集めていた漫画などの『物』だけでは無い。

 

 家族や親友……大切な人々を多く失った。

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 食べ終わり、手を合わせてそう言うと、コウは、少し離れた場所にある井戸から水を汲み上げ、食器や調理器具を洗った。

 

「よし、それじゃ、次は武器作りかな」

 

 洗い終わると、怪魚から採取した骨と鱗に向き合う。

 

 そして、バッグから短剣を取り出し、加工を始める。

 

 この短剣も怪魚の素材から作った物。

 

 これは、主に怪魚の素材を加工する際に使うものだ。

 

 骨の先端を鋭利にし、銛の形へと仕上げていく。

 

 幅の広い骨は、持ち手の部分を作り、そしてそれ以外を鋭利な刃物へと変え、銛にする。

 

 比較的小さく、細い骨を鋭利にし、棒手裏剣のようにする。

 

 鱗は元々鋭利な形をしているため、銛に使わなかった細い骨にくくりつけ、反対側に鳥の羽をつけ矢にする。

 

 弓は長く使っているものがある。

 

 怪魚との戦いは命懸けである。

 

 しかし、怪魚が蹂躙したこの世界において、怪魚以外に食糧となるものはほとんどない。

 

 小麦粉や米などは、食べ続ければいつか尽きてしまう。

 

 野生の動物も、警戒心を強めているためほとんど見かけない。

 

 矢に使った鳥の羽は、偶然落ちているのを見つけられただけだ。

 

 だからこそ、生きるためには怪魚を狩るしかない。

 

 また、怪魚の身は、何も腹を満たすためだけのものでは無いのだ。

 

 怪魚の身を食べると、身体能力が僅かに上がる。

 

 食べ続ければ、その身体能力は遥か高みへと至るだろう。

 

 それはおそらく、人としての進化ではなく、人ではない何かへの堕落。

 

 しかし、この世界において、身体能力の強化は喜ぶべきことだ。

 

 怪魚から身を守るには力が必要である。

 

 そして、怪魚と戦う場合、武器は消耗品と考えた方が良い。

 

 今回は武器は壊れなかったが、それは運が良かったから。

 

 だからこそ、武器は作り続けなければならないのだ。

 

 太陽が沈み始め、空が徐々に赤くなる。

 

「そろそろ寝るか」

 

 武器の作成を一旦終わらせ、コウは井戸から水を汲んできて、それで布を濡らして体を拭いた後、ラフな格好に着替え、寝袋を取り出し、比較的崩落の危険が少なそうな家の中で寝た。

 

 今日もまた、コウの1日は終わる。

 

 平穏とは程遠く、けれど日常といえる1日が。

 

 

 

 

 

 

 

 朝、日が昇ると同時にコウは起床する。

 

 井戸まで行き、顔を洗い、常備している怪魚の燻製を数個食べ、それで朝食を済ませる。

 

 ツナギに着替え、バッグ2つと銛を持ち、準備を整える。

 

「良し。準備万端。狩りに行こう」

 

 今日もまた、コウの日常が始まる。

 

 直後、轟音が響き、土煙が立ち上った。

 

「チッ」

 

 コウは舌打ちをし、その場から離れる。

 

 土煙の発生源、そこには口から何本もの触手を生やし、左右の目の他の額にもう1つ目がある合計3つの目を持つ体調10メートル程の怪魚がいた。

 

「触手持ち!!!」

 

 コウは、それを確認すると警戒心を強める。

 

 怪魚にもいくつか種類があり、その中でも触手持ちは特に厄介な存在なのだ。

 

 その触手は、マリアナ海溝から現れた件の触腕と同様、見た者を狂わせる性質がある。

 

 最も、その精神汚染は触腕と比べれば易しいのだが、それでも常人からすれば見た瞬間発狂死してもおかしくない精神汚染である。

 

 それを見たコウは、

 

「あの触手……美味いんだよな」

 

 と、笑う。

 

 死そのものを彷彿とさせる触手に対抗するために必要なのは強靭な精神力である。

 

 怪魚を狩る中で、精神力はおのずと強靭となる。

 

 強靭とならざるを得ない。

 

 そうしなければ早死にするだけである。

 

 故に、現在生きている怪魚狩りは、総じて精神力が強い。

 

『■■■■■■■■■■■!!!』

 

 怪魚の絶叫が響く。

 

 そして、次の瞬間、大量の触手がコウに殺到する。

 

 その触手1つ1つが家屋を倒壊させる威力を持つ。

 

「速っ!!!」

 

 コウは殺到する触手を避けながら、バッグから鉈を取り出す。

 

 そして、一気に怪魚に接近する。

 

 しかし、触手が方向を変え、横から殴るように殺到したため、それを避けることに集中しなければならなくなった。

 

 触手を避け、後退しながらコウは呟く。

 

「焦りすぎたな……徐々に……確実にやらなきゃ」

 

 コウは、鉈をバッグにしまい、今度は棒手裏剣を取り出した。

 

 怪魚から視線を離さず、触手を避け続け、機会を伺い続ける。

 

 そして、

 

「1つ」

 

 コウは、そう言い、棒手裏剣を投げた。

 

 投げられた棒手裏剣は、触手の間を縫うように怪魚へと飛び、そしてそのまま怪魚の額の眼球に突き刺さった。

 

『■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

 

 絶叫をあげ、怪魚の触手が乱れる。

 

「2つ」

 

 その隙を逃さず、コウは続けて棒手裏剣を投げる。

 

 それが右の眼球へと突き刺さり、

 

「3つ」

 

 3つ目の棒手裏剣が左の眼球に突き刺さった。

 

 怪魚は全ての視覚を失った。

 

 しかし、魚であるため、嗅覚によってコウの位置は掴める。

 

 そのため、怪魚が落ち着きを取り戻したら、先ほどのような正確な動きで触手がコウを襲うだろう。

 

 だからこそ、怪魚が落ち着きを取り戻す前に終わらせる必要がある。

 

 コウはバッグから鉈を取り出し、そして地面を蹴り、一気に怪魚の下へと走る。

 

 そして、怪魚の真下へと到達すると共に、怪魚の腹を鉈で掻っ捌いた。

 

 腹を切られ、怪魚の内蔵が露出する。

 

「見えた」

 

 素早い動きで棒手裏剣を取り出し、投げる。

 

 棒手裏剣は、露出した内蔵の1つへと突き刺さる。

 

『■■■■■■■■■!!!!!』

 

 先程よりなお大きい怪魚の絶叫が響く。

 

 棒手裏剣が突き刺さった内蔵。

 

 それは、怪魚の心臓だったのだ。

 

 魚であるために、心臓が傷付こうとも怪魚はしばらく生き続ける。

 

 けれど、致命傷であることに変わりはない。

 

 怪魚の叫びは徐々に小さくなり、怪魚はその場に倒れた。

 

 ビチビチと未だ小さく動き続ける怪魚を見ながら、コウは素材の採取に取り掛かる。

 

 怪魚は、死んでも少し動き続けるものも多いのだ。

 

 コウが採取したのは、骨と鱗、そして触手である。

 

 怪魚の触手は、コウの好物なのだ。

 

「ここ、少し拠点に使えそうだったんだけどな」

 

 採取が終わると、コウは名残惜しそうに村を見る。

 

 先ほどの怪魚の触手による攻撃は、村の家屋のほとんどを全壊させていた。

 

 そして、怪魚の死体がここにあるため、もうここに他の怪魚が向かい始めているだろう。

 

 コウは、採取した戦利品を袋に入れ、すぐにその場から離れ始めた。

 

「次はどこに行こうかな」

 

 少し離れたところで、コウはそう言い、木の枝を投げる。

 

 木の枝が落ちると、その指し示す方向を見て

 

「よし、あっちに行こう」

 

 目的地もない。だから、気の向くままにコウは歩む。




いずれは続きも書きたい!

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