勝利の女神:NIKKE 時空を超えた鬼神は何を成す 作:イオハ
楽しく読んでいただけたら幸いです。
翌朝
シオリが目を覚ましたのは夜が明ける直前だった。
眠る場所がいつもと違うためか、普段より早く目が覚めてしまったようだ。
いつもならそれなりにすることがあるのだが、立場上不用意に動き回ることもできない為、ソファーに座り外を眺める。
(本当に別の世界に来てしまったんだな……。)
アークの副指令室から前哨基地にある迎賓館まで案内されたが、その道中ではシオリは地下で暮らす人々を観察していた。
少なくともシオリが見た人たちは、貧困に喘ぐこともなく笑顔で平和を享受しているように見える。
恐怖を心の内に隠して表に出さないように生活しているのか、それとも本当に外のことを考えることなく生活しているのか。
シオリには判断できなかった。
元の世界では私の周りであそこまで平和に過ごしている人たちはいなかった。
皆今を生きるのに必死な人たちばかり。
そういう意味ではこの世界の人たちはまだマシなのかもしれない。
(二度寝をする気分でもないし、ストレッチでもして時間を潰そうか……。)
AGEとして身体能力が高いとはいえ、身体を動かさなければ良い動きはできない。
通常であれば任務で自然と身体を動かすが、今はそうもいかない。
軽い柔軟運動しかできないが、何もしないよりと思い身体を動かし始める。
――――――
柔軟運動が終わるころには日も上り、次は何をしようかとシオリが考えていると、控えめだがはっきりと聞こえる強さで扉を叩く音が聞こえてきた。
「もしもし!起きていますか!?」
「そんな大きな声出したら周りに迷惑やん……。」
「心配しなくても、迎賓館は清掃スタッフを除けば彼女しかいないから大丈夫すよきっと!」
「そういう問題じゃないと思うんやけどなぁ……。」
少し揉めている?のか大きめの声が聞こえてくる。ノックが良識的だった半面、声の大きさで台無しである。
一先ずここまま扉の前で大きな声で騒がれると面倒ごとになりかねないので、扉を開ける。
そこには、黒い長方形のケースを背負った半袖のツナギで前のチャックを胸元まで開けている見るからに元気いっぱいな少女と、
タンクトップに薄手のパーカーを羽織り、七分丈で身体のラインの出るスラックスを穿いている落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。
「どちらさまですか?」
「おはようございます!エリシオン所属、アーセナルワークス部隊のマルスといいます!この度、整備班としてハウンド部隊へ派遣されました!」
「アーセナルワークス部隊所属のニアです。マルスと同じく整備班としてハウンド部隊に派遣されました。」
「どうも……シオリです。」
呆気にとられつつもとりあえず部屋に入ってもらう。
部屋の前で騒がれるよりは、話を聞いて帰ってもらう方が早いと判断したためだ。
「お昼頃に来るって聞いてたんだけど……。」
「待ちきれなくて早めに来ちゃいました!」
「こんな朝早くから来てすいません……。」
先ほどの扉前で聞こえた微かな会話や今ここで軽く言葉を交わした感じ、ニアがマルスの尻拭いをしているのだろう。
初対面且つ少ないやり取りで分かる程度には感じるものはあった。
「シフティーから装備関係のサポートをしてくれるんだよね?それと待ちきれないって言葉から推察するに……目的はアレ?」
シオリはスタンドに立てかけてある神機を指差した。
マルスは神機を見た途端に目をこれでもないほどに輝かせ、いつの間にか神機の近くまで近寄っていた。
「おぉー!これがあの神機ってやつですか!」
「危ないから触らないでくださいね。」
「了解です!許可がない限り触りません!」
いろんなアングルから神機を観察するマルス。
呆れながらも神機に近づいて観察を始めるニア。
それを後ろから見守るシオリ。
「見ただけで何かわかりそうですか?」
「そうですね……思っていたいより生体パーツが少なかったのでやり甲斐がありそうやね。」
「……やね?」
発言に突然訛りのようなものが入り、反射的に復唱してしまう。
復唱が聞こえたのか、ニアは耳を真っ赤にしていた。
「……すみません。私も実物を見て少し興奮していたみたいです。初対面の方なので気を付けていたのですが、つい素が出てしまいました。」
コホンと軽い咳ばらいで誤魔化しつつ言い訳っぽく聞こえる弁明を口走るニア。
シオリとしては特に気にしていない上に、これから長い付き合いになるかもしれないことを考えるに、他人行儀のままでは寂しい。
「気を使わなくても大丈夫。これから長い付き合いになると思うから、普段通り話して。敬語もいらない。」
「……はぁ。わかったよ。」
口調が崩れ、砕けた感じになる。シオリとしてもこちらの方が好ましい。
ニアが右手を差し出してくる。それに応じるようにシオリも拘束されたままとはいえ差し出された手を握る。
「改めて宜しく。シオリ。」
「こちらこそ。ニア。」
「私を仲間外れにしないでください!私もよろしくですよシオリ!」
空いているシオリの左手を掴んで握手を元気よくするマルスに、シオリとニアは苦笑していた。
――――――
「改めて説明すると、これは神機と言って私の世界で特定の人物達だけが使用できた私達の敵に対抗できる唯一の武器なの。」
自己紹介や現物鑑賞が終わり、神機に対するレクチャーが始まる。
とはいえ、シオリはキースほど詳しくないので彼からの受け売りや大まかなレクチャーしかできない。
オラクル細胞という細胞単位で捕食し、適応する細胞で構成された武器であること。
自分自身も捕食されるリスクがあること。
捕食されないために偏食因子というオラクル細胞が食べる傾向を誘導していること。
偏食因子を利用することで神機と言う存在が成り立っているということ。
他にもバーストやアクセルトリガー、エンゲージなどは無し始めたらきりがない分野まで存在していたが、今回は神機の説明だけでひとまず終了。
一通り神機についての説明を終えるとマルスが挙手をする。
「マルス。何か気になることがあるの?」
「シオリさん。さっき私に危ないから触らないように言ったのって……。」
「そういうこと。神機は何でも捕食できるから下手すると食べられちゃうよってこと。」
「コワイ!」
マルスの神機を見る目の好奇心が目に見えて減り、恐れの割合が増えた。
ただ完全に怖がっているわけではなく、興味が尽きない雰囲気もあるようなので大丈夫だろう。
「私としては貴方達にこの神機のメンテナンスをお願いしたいところではあるけど……。」
「今の説明を聞いた限りやと、保管はともかくメンテナンスは厳しいんやない?」
本題を投げかけてみるが、即座にニアから放たれる無慈悲な宣告。
膝から崩れ落ちるシオリ。
「まあでもそこにあるスタンドを見てわかるように、必ず捕食されるわけじゃないってのは分かるからさ。それ込みで色々試行錯誤してみよ。」
「ありがとうニア……。」
「じゃあ色々と確認なり、可能なら整備とかもしたいから神機は預かってもいいかな?」
「……。」
慰めつつ未知の武器に心躍らせる表情が見え隠れしているニアと、早く神機を弄りたくて仕方ないと顔に書いてるマルス。
最初は保護者と被保護者みたいな関係性なのかと思っていたが、どうやらに仕事になると似た者同士になるようだ。
「持って行ってもらってもいいけど、なるべく早く返してね。いつ任務が来るかわからないからさ。」
「フフフ……。そこは大丈夫!こんなこともあろうかとシオリのために武器を作ってきたのだ!」
「え、そうなの?」
「こういう形で渡すことになるとは思ってなかったんやけどね。」
マルスが持ち込んでいた長方形のケースのロックを解除して開けると、そこには神機ほどではないにしろかなり大きめの銃が収められていた。
形状的に狙撃銃なのだろうが、フォルムが全体的に丸筒にいろいろと付け足したような形状をしていてとても未来的なデザインに感じた。
ストック部分は折り畳み式で、必要最低限のパーツ構成になっている。
「じゃじゃーん!報告書から狙撃が得意と予測して狙撃銃を作ってきましたー!私たち特製の武器ですよ!フルスクラッチですよ!そんじょそこらのラプチャーなんて一発でドカンですよー!」
自分の作った銃をこれでもかとアピールするマルス。
テンションの高さも相まって、子供が自分で作ったものを誇らしげに見せつかるかのようでとても微笑ましかった。
「威力は保証するよ。この銃を正確に運用できるニケはほぼいないと――ちょっと待て。マルスこれニケ用なんやないん?」
「当り前じゃない!地上に武器もって任務に赴くのはニケ以外にいないでしょ!」
「目の前に例外がいると思んやけど、どう思う?」
「どうも何も……あっ。」
ここにきて自分の過ちに気付くマルス。
ニケ用の銃は通常兵器の効かないラプチャー対策に、弾薬の火薬増量やそれに耐えうる銃身の剛性確保、そのために銃自体の重量や発砲時の反動が増加している。
並の人間では銃を撃つどころか持ち上げることもままならないだろう。
デザイン的に軽量化が施されているように見えても、実際は人間が持ち歩くには無理があるし、仮に持ち上げれてもこれを抱えて任務に赴くなんて不可能だ。
出来るとしたら定点狙撃が関の山だ。打った時の反動で骨が折れる可能性が高いことには変わりはないが。
「シオリごめん。この銃はニケ用に作られてるからすごく重くて……仮に持てても打つ時の反動もかなり大きいから無理やと思うんよ。」
「シオリさんごめん!私基本ニケ用の銃しか作らないからその辺すっぽ抜けてた!」
平謝りする二人。
人が扱える対ラプチャー武器なんて存在しない。しかし、どうにかして自営できる程度の武器を作ろうと考える二人。
「二人とも顔を上げて、大丈夫だよ。とりあえずその銃を触ってみてもいい?」
「それはいいけど……多分持てないと思うよ?」
顔を上げて恐る恐る言葉を続けるマルス。
シオリは怒っているわけでも呆れるわけでもなく、持ってきた銃に向き合っていた。
「そういえば神機のことばかりで、それを扱う私たち神機使いのことを説明してなかったね。」
そう言いながら銃のハンドガード部分を掴み、軽々と持ち上げる。
その光景を見たマルスとニアの表情は驚きとドン引きの境を行き来していた。
持ち上げるのはまだわからないでもない。ただ『軽々と』となると話は別だ。
つまり機械でもない生身の状態で、ニケと同等かそれ以上の怪力を持っているということのなのだから。
「私たちの体にも神機に捕食されないよう偏食因子が投与されてるんだ。その副産物ってわけじゃないけど肉体の強度や身体能力が向上してるの。」
「つまり……神機には食べる相手を誘導するために偏食因子が使われていて、神機を扱うシオリには神機に食べられないような誘導をするために因子が使われているってことなん?」
「そしてその偏食因子の副次的効果で身体能力が向上しているということ?」
「詳しい原理は私も分かっていないけど、凡そニアとマルスの認識で合ってるよ。」
もしそれを解析して量産できた場合、ニケにならずとも人間としてラプチャーと戦える。
そんな考えがマルスとニアの頭に過る。
「でも、この偏食因子って結局はオラクル細胞だから適合しないと死んじゃうんだよね。その適合率もそこまで高いものじゃないし。」
「あ、そのあたりはニケと似たようなもんなんやね……。」
しかしシオリの一言で目論見は崩壊する。
マルスとニアは武器開発畑だが、未知の探求は分野問わず心が躍るものだから。
「そういえば、ニケってどうやって作られるの?」
「あ、説明がなかったんですね。ニケは全身機械だけど脳は人間の脳だよ!」
その説明を聞いてシオリは驚き目を見開く。
そんなことをお構いなしにマルスは説明を続ける。
ニケは女性しかなれない。
女性しかなれないが全員がなれるわけじゃない。
自ら志願してニケになるものもいれば、怪我や病や余命僅かな人、更には犯罪者の脳も使われる時もある。
仮にニケになれても適合率のが低ければ量産型のニケになる。
「量産型?」
「量産型のニケは特定のプリセットの見た目のニケだね!私達みたいなのは特化型――つまりワンオフで、量産型は同じ顔同じ装備の子がいっぱいって感じ。」
「それは……なかなかだね。」
「因みに量産型になったら記憶消去されるよ!消去された後も断片的に生前の記憶がある子もいるみたいだけどね!」
マルスがなんてことなくニケ製造過程をざっくりと教えてくれる。
その説明に今度はシオリが複雑な表情をする。
元の話題からだいぶ逸れていたので軌道修正する。
「……話題が逸れたね。結局のところ、持ってきてもらった武器は持ち運びは問題なさそうだよ。反動制御は実際に撃ってみないとわからないけど。」
腕輪で両腕が拘束されているものの、それらしく銃を構えてみる。
重量も神機よりは軽いので取り回しに問題はない。
強いて言うのであれば、敵に接近されたときの対処ができないのが気になるところだが。
(神機も今のところ近接と盾は壊れてるから、あんまり変わらないか。)
むしろ神機よりも軽いのを生かしてヒット&アウェイの立ち回りがより行いやすいと前向きに考える。
「じゃあさ!射撃テストをしようよ!アークにある私たちの工房でさ!」
「もう少ししたら前哨基地にもウチらの工房ができるけど、それまではアークにある工房での作業になるんよ。」
「それなら射撃テストついでに二人の工房にお邪魔させてもらおうかな?」
抱えていた銃をケースに片付け、立てかけてある神機を持ち上げる。
時計を見れば既に11時を回っていたので、今から出ればアークにはちょうどいい時間に到着するだろう。
「早速だけど、案内をお願いしてもいいかな?」
「そっか。まだこの世界に来て間もないんやったね。」
「だったら私たちがアークまでナビゲートしてしんぜよう!」
ケースを抱えて大はしゃぎに前を進むマルスに、呆れながらも歩いて後を追うニア。
そして神機や連絡端末を抱えて、その後ろをついていくシオリ。
昨晩から思考を支配していた後ろ向きな考えは、彼女たちのおかげで鳴りを潜めていた。
この世界で生きるためにも土台を作り、実績を積み上げながら関係を築いていく。
(そっちに戻るまでこっちでいろいろ頑張ってみるよ。あの時ユウゴがしてくれたみたいに。)
3人がアークへ繋がるエレベーターに搭乗する。
二人の工房に到着するしばしの間、他愛のない雑談をするのであった。
すいません。
今回の話で物語の時間はあまり進みませんでした……。
勢いで書いていると迷走しがち。
次回は時間が進むと信じて……。
余談ですが
マルスはマルチスミスから名前を取って、
ニアはエンジニアから取りました。
ニアはともかくマルスはミチルにしようかとも考えましたが、わかり肉過ぎるということでやめました。
自分でやっといてなんですが訛り?言葉難しい。