シムリア星人国交断絶RTA 作:非術師
京都府呪術総監部 忌庫第三保管室
「うわ、カビくさ……」
扉を開けた瞬間これである。
まぁ地下だし、呪具だの封印物だの長年積み込んでる場所だからしょうがないんだけど。
でも、それを差し引いてもテンションは上がる。
棚、棚、棚。
呪具、結界媒体、術式記録、回収封印物。
一般人が見たら卒倒しそうな危険物の山だ。
でもオタクなら分かるだろ?
こういう“設定の倉庫”はテンション上がる
とは言っても持ち出し許可が出たのは目的の一点だけ。
「マジで通るとは思ってなかったわ。正式な手順を踏んで申請したけどね?」
あまり実感が湧かない。ただその夢中感もすぐに引き上げられる。
貸出ケースを開け、そこにあった物を見て思わず声が漏れる。
中に収められていたのは、大きな釘のような呪具だった。
渋谷事変当時、羂索が使用した嘱託式帷の残骸。
『破損済み、機能停止、危険性低』
そんな感じの分類らしい。
いや危険性低なわけあるか。
結界術の革命だろこんなん。
そんなツッコミを頭で入れながら呪物の構成を調べようと軽く見たのだが…
俺は頭を抱えていた。
「キッッッショ……」
“中に帷をそのまま入れてやがった”
意味が分からない
いや、分かるけど分かりたくない
とんでもないゴリ押しだ
完成済みの帷そのものを圧縮して呪具内部に押し込めている…らしい
この呪具の製作過程もなんとなく見えてきた。
①まず普通に帷を下ろす。
②そこから結界条件を変更し続けて境界を縮小し圧縮、圧縮、圧縮
③宿儺戦の如く結界を圧縮しピンポンサイズまで縮める、最終的にそれをさらに外殻結界で押さえつける。
④呪力を流すと外殻用結界が破壊されて、圧縮されていた帷が一気に再展開、上から広がり直す。
バーカwww
発想がきしょすぎる……えぇ?……
羂索ならもっと洗礼された物を作れたろう
メカ丸ですら簡易領域の展開筒を作れたのだ。死滅回遊を成立させた羂索が出来ないわけがない。
……めんどくさがったな?
ゴリ押しで解決できるなら、機能するならそれで良いよね!でやっつけ工作しやがったな……
羂索だから成立してるだけだろこれ。
再現性をまるで考えていない。
スマホが震える
《どうです?》
「キモい」
《えぇ……》
それ以外に表現のしようがないからしょうがない。夜行はケースの横へ設計図を広げる。
羂索式の構造を書き起こしながら、そこへ別の構造を継ぎ足していく。
"朧絶式"
基本構造は同じ、問題は外殻側。
「ここにお前の呪力を混ぜるのはいい」
机の上に置かれているのは、黒い杭に包帯を巻き付けた試作品だった。
見た目だけなら完全に呪詛師の工作物である。
《えぇ。結界の外殻へ私の呪力を浸透させます》
《漂白剤に布を浸すように》
「例えが嫌すぎる」
〜俺達の考えた朧絶強化プラン〜
嘱託式の帷を開発して術師達に配りまくって地道に呪力と術式データを集めて朧絶に喰わせよう!
んー、これは完璧ですね間違いない
消去法で1番マシなのが残ったとか言わないでね。
だって各地に結界を張り巡らせるとか論外だ。
今の呪術界でそんなことしたら虎杖に秒で気付かれる。
でも”便利な新型帷”なら話は別だ。
人手不足。
結界術師不足。
大祓の高頻度化。
今の総監部は効率化って言葉に弱い。
そういう所は現代化するのにセキュリティとか情報化ガバガバだから1話の呪詛師如きに宇宙人のことバレるんだよ。
まぁ都合がいい、便利なら通る。
多少危険でも、現場負担が減るなら採用される。
なるほど完璧な計画っスねーーっ
不可能だという点に目を瞑ればよぉ〜〜
問題はここからですね。
「帷を下ろした後に結界の要件を変更、限界まで圧縮した後さらにそれを覆え維持できる強度の結界で覆って封印すればいいだけだな!」
《えぇ!》
「無理に決まってんだろぶっ飛ばすぞ」
《えぇ…?》
む、無理や…出来るわけがない…
いやまぁ…出来ないことはないんですよ?
俺1人なら無理だ。圧縮はまだしも同時に二つの結界を生成、維持とか無理ゲーすぎる。
天元様の御仏のサポート込みならギリ…?
でもそれやったら何か経由でバレそうで怖いんですけど……
その旨を朧絶に伝えた所
《なんだそんな事ですか》
「そんな事とはなんだよ。十分でかい壁にぶつかってるが?時間だけはあるのに無強化とかいうカスみたいなタイパになりそうなんだぞ」
《いえ…結界の同時生成と維持がハードルならば私が外殻側担当しましょうか?》
「あぁ〜………悪くないけど……うーん」
それなら出来るけど……うーん…
帷はじゃんじゃん作ってじゃんじゃん使って欲しい。とにかく数がいるのだ。
俺1人で作れた方が何かと都合がいい。
毎回帳作るのに人外魔境東京行くとか危険すぎる。
そもそも朧絶と会う事自体がリスクの塊だし、人外魔境のどこでそんな繊細な作業をするというんだ。
呪霊のご飯行きだよ俺なんて
そんなウチくる?みたいなノリで誘わないでもらっていいですか?
《でしたら工房を作りましょう》
「工房?」
《正確には作業用生得領域です》
……ん?
《入口条件を極端に限定します》
《侵入座標固定》
《展開空間室内固定》
《呪力遮断》
《内部術式行使制限》
《それらを対価として強度に全振りします。
えぇ…以前呪練礎術で似たような事をしましたからね
五条悟でも破れないとまでは行きませんが、野良呪霊の流れ弾程度では擦り傷つかない程度の強度は担保できるでしょう》
俺はスマホを持ったまま固まった。
………俺1人で縛りを使って作るよりよっぽど合理的な提案をされて固まっちゃった。
生得領域そんなノリで展開していいのかよ…
人外魔境とか生得領域まみれだしバレないだろうけど
どっちみち朧絶の呪力を浸した布を手に入れるには定期的に合わなければならない。
それなら工房作ってまとめて数作った方が良くない?って言われてるのだ。
呪霊のくせにまともなこと言うじゃん。
負けました
「じゃあ今度有給まとめて5日ぐらい取るから生得領域…工房の用意よろしくね」
《ようやく進展、と言った所ですかね》
今年の夏は人外魔境で呪霊と呪物量産!
夏の帷量産祭り!ってか
前世の俺が聞いたら泡吹いて倒れそうな企画
なお実際の俺は大真面目である。
ーーーーーーー
半年後
北海道 旧アイヌ呪術連管轄エリア
某炭鉱廃墟
空気が重い。
湿っているとか寒いとか、そういう話じゃない。
山を削って掘った穴の奥に、長い時間放置された場所特有の淀みが溜まっている。かつて過酷な環境に身を置かれ、無茶な作業を続けた末に無念の末路を遂げた者達が眠る地。
その土地の人々の負の感情が特に集中する超危険地帯、本来であればこんな少人数で来る場所じゃない。
だがそれも昔の話。東京に呪霊が集中するようになってからは殆ど強力な呪霊は確認されなくなった。
それでも尚、定期的にこの場所に呪霊が湧くのはこの場所の恐ろしさを物語っている。
そうして足を進めていると既に現地術師達が入口付近で待機していた。
旧アイヌ呪術連…現呪術庁北海道窓口の人達だろう。年齢はまばらだが全体的に若い。戦力不足で地方にも人を回している影響か、装備も少し古い。
その輪の中へ監査名目で京都から派遣された補助監督…私が、資料端末を片手に近づいていく。
「京都総監部から来ました。今回は監査兼支援で入ります」
「おいっす。本部のお偉いさんがこんな僻地までどうも〜」
「あんまり喧嘩売るなよ…」
「寒いし早く終わらせましょうよ」
あまり歓迎ムードというわけではない
まぁ当然だろう。地方術師からすると監査は大体めんどくさい存在だ。
書類増えるし、なんか言われるし、現場知らない奴が来る印象もある。
一人が空を見た。
「帷どうします?」
「あぁ、大丈夫ですよ」
腰ポーチから黒い釘のような呪具?を取り出す。
現地術師が首を傾げた。
「なんすか?それ」
ヒョイと隣に寄って手元の呪具を覗き込んでくる。
「最近支給された帷を降ろす呪具です」
そう言って呪力を持たせた手で軽く杭を上に投げる。
パキッ、っと小さい音だった。
次の瞬間黒い球状の結界が上空に弾き飛ばされていき、下部が解放されドーム状に展開されていく。
境界、認識阻害、侵入制限
全てが一瞬で完成する。
詠唱は当然不要
結界術の知識すら必要ない
なのに帷だけが綺麗に成立していた。
現地術師の一人が目を丸くする。
「……え、今ので終わり?」
「終わりですよ?」
「マジかぁ〜進んでるな本部の呪術は」
いつ見てもこの反応は新鮮で面白い。私が作ったわけではないですけど…
「嘱託式帷っていう新型です」
周囲が空を見上げる。
確かに張れている。
違和感も少ない。
精度も悪くない。
普通の帷だ。
問題はそこじゃない。
普通の帷を、普通じゃない手順で展開したことだ。
現地術師の一人が近寄る。
「……これ便利すぎない?」
補助監督は肩を竦めた。
「結界術師不足対策らしいですよ。事前構築型なので最低限呪力流せれば誰でも使えます」
「いや結界ってそんな雑に扱うもんじゃ……」
「まぁ分かります」
そう言いながら補助監督はポーチからもう一本取り出した。
今度は軽く前に投げると圧縮され頑丈な球状の結界をその場に展開。
今度は小さな局所的な展開
補助監督はその後ろに軽く身を隠した。
「こう言った使い方も便利と評判なんですよ」
「展開早いので即席の遮蔽に使えます。誰でも使えるので全員の戦闘の選択肢が増えると言うことで評判ですね」
「それ本当に制作者意図してる???」
便利。
便利すぎる。
呪術ってもっと面倒で、手間で、理屈と才能の塊みたいなものだったはずなのに。
一人が手を出した。
「……ちょっと触ってもいい?」
補助監督は一本渡した。
「どうぞ。支給品です」
受け取った術師が軽く重さを確かめる。
普通の呪具みたいだ。
拍子抜けするくらい普通。
補助監督は何でもない感じで続けた。
「ちなみに支給分以外は本部で定期的に個数限定販売してるので、追加欲しかったらそちらのルートを使ってくださいね」
「呪具を販売ぃ?」
「制作者の人は企業秘密だと言って製作方法は教えてくれませんでしたけどね」
こんな便利な呪具です。
恐らくその手の縛りでも貸しているのでしょう。単純に利益のためにバレたくないだけかもしれませんがね…
「ちょっと欲しいかも…」
「俺らが帷下ろすことなくねぇ?別にいらねぇだろ……んなこと、さっきまで思ってたが…」
「呪術師がコレ欲しがるのほぼ盾用としてじゃない?」
三者三様の反応を持って現地術師達は杭を見下ろした。
包帯の巻かれた黒い杭。
そして誰も、その包帯の繊維一本一本に何が染み込んでいるかなんて気にしてはいなかった。
ーーーーーーー
総監部社員寮
夜行は報告書を読んでいた。
「……なんか違くない?」
《何がです?》
「情報収集用なんだけど」
《利用方法に正解はありません》
夜行は次ページを開く。
・遮蔽物用途
・撤退補助用途
・即席封鎖用途
・囮用途
・携行希望多数
「盾扱いされてんだけど」
《結構なことじゃないですか》
全然良くないが??
想定より普及速度が早くなるなこりゃ…
いや待て。
普及速度が早い?
使われる回数が増える?
……。
《良い傾向ですね》
「……いや、まぁ……うん」
普通に使って欲しかっただけなんだけどなぁ。
そのうち朧絶が主人公になりそう