チャラノ小路チャラ隆の野望   作:ぺこりーにょ

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もう後戻りはできんぞ
10話以上書いちまったからな。


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 昼休みの教室は、午前中の授業から解放された生徒たちの声で、一気に騒がしくなっていた。

 

 机を寄せ合って弁当を広げる女子グループ。購買で買ったパンを片手に馬鹿笑いする池や山内。平田洋介の周囲には、自然と男女問わず数人の生徒が集まり、まるで小さな太陽系の中心のように穏やかな空気を形成している。

 

 そして俺の席の周囲には、今日も半径二メートルほどの清らかな無人地帯が形成されていた。

 

 実に見事な結界だ。

 

 おそらく、俺の放つ圧倒的なチャラ男オーラに、パンピーたちの肉体が耐えきれず、無意識のうちに適切な距離を取っているのだろう。覇者とは常に孤独を背負うものだ。

 

 俺は購買で入手した焼きそばパンを片手に、今夜の予定について極めて重要なシミュレーションを行っていた。

 

 今夜は、たまに俺の部屋に現れる悪い子ちゃんとのパーティナイッが予定されている。あの黒ニーソの怪盗見習いは、こちらの都合などお構いなしに突然現れる傾向があるため、迎撃準備は常に万全でなければならない。

 

 床にはもう一度掃除機をかけるべきだろう。ベッド周辺の埃は、チャラ男の格を下げる致命的な要素だ。念のため、シーツと枕カバーも交換しておきたい。さらにムスク系ルームフレグランスの噴霧量、間接照明の角度、冷蔵庫内の炭酸水の残量、グラスの曇り一つない透明度。そのすべてが、夜のバイブスを左右する。

 

 俺が焼きそばパンを咀嚼しながら、脳内で部屋の清掃ルートを最適化していた、その時だった。

 

「綾小路くん、ちょっといいかな? ここ、座っても」

 

 爽やかな声が、俺の隔離結界の外側から投げ込まれた。

 

 顔を上げると、そこには平田洋介がいた。

 

 手には購買で買ったらしいサンドイッチと紙パックの飲み物。柔らかな笑顔。敵意を微塵も感じさせない穏やかな立ち姿。女子たちの視線が、彼の背中に吸い寄せられているのが分かる。

 

 可愛い女子でもないため、本来なら「悪いな、俺の隣は子猫ちゃん専用シートなんだ」と断るのが最高にナウでヤングでクールな判断だ。

 

 だが、相手は平田洋介である。

 

 このDクラスにおいて、俺と覇権を争っている男。王道爽やか系イケメン。加えてサッカー部という強力な属性持ち。玉転がし部というアドバンテージは決して侮れない。活躍する野球、サッカー、バスケ、テニスの男子はカッコ良さが120パーセント増しのバフを得ると、数多の福音書が俺に教えてくれている。

 

 なかなかの強敵である。

 

「ウェーイ。いいぜ、平田きゅん。ついに俺の領域に足を踏み入れる覚悟が決まったってわけだな」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 平田の笑顔がわずかに固まった。

 

 その直後、隣の席でサンドイッチを食べていた堀北鈴音が、冷たい目を平田へと向けた。

 

「……平田くん。忠告しておくけれど、その席に座るなら遺書を書いてからにした方がいいわ。あるいは、最低でも防犯ブザーを持っておくべきね」

 

「いや、そこまで危険な話じゃないと思うけど……」

 

「あなたはこの男の危険性を甘く見ているわ。午前中、彼は授業中に二十分間も無言でホワイトボードを凝視していたのよ。普段の奇声も不快だけれど、静かにされるとそれはそれで精神にくるの」

 

「ほりぴー、俺の静寂にそこまで心を乱されてたのか。罪な男だぜ」

 

「その舌を焼きそばパンごと引き抜かれたいのかしら」

 

 堀北の殺意を含んだ視線が、俺の首筋をなぞる。

 

 平田は困ったように笑いながら、俺の机の斜め前に椅子を持ってきて腰を下ろした。その瞬間、周囲の数人が明らかにこちらを見た。池と山内は口を半開きにし、女子グループの一部は「平田くん、勇気ある……」と小声で囁いている。

 

 どうやら、俺の結界内に平田が侵入したことは、クラス全体にとってちょっとした事件らしい。

 

「それで? 用件を聞こうか、平田。俺は今夜に向けて、部屋バイブスを最大値まで高めるという重要ミッションの最中なんだ」

 

「部屋のバイブス……?」

 

「お前と違ってオレは夜の玉転がしに邁進してるわけよ」

 

 平田の表情が、爽やかなまま微妙に引きつった。

 周囲の女子たちが一斉にこちらを見て、そして一斉に目を逸らした。恐怖と羞恥と軽蔑が混ざった、実に複雑な反応である。

 

「……綾小路くん。まず、その手の話はあまり教室で大きな声でしない方がいいと思う」

 

「なるほど。女子たちの想像力を刺激しすぎるからか」

 

「違うかな」

 

 即答だった。

 

 池が「平田、がんばれ……」と呟き、山内がなぜか十字を切っている。俺はそれらを横目に観察しながら、焼きそばパンをもう一口かじった。

 

「実はね、少し気になってたんだ。綾小路くん、クラスで少し浮いているというか……みんな、君とどう接すればいいのか分からないみたいで」

 

「フッ。覇者とは孤独なものだからな」

 

「うん。格好いい感じに言っているけど、たぶんそういう話ではないんだ」

 

 平田はあくまで穏やかに続けた。

 

「君が悪い人じゃないのは分かるよ。バスでお年寄りに席を譲ったって聞いたし、体育でも真面目に取り組んでいた。ただ……言葉の選び方で、かなり誤解されている気がするんだ」

 

「誤解?」

 

「たとえば、女子に向かっていきなり『子猫ちゃん』とか、変なあだ名をつけたり、距離を詰めすぎたりするのは、相手を怖がらせると思う」

 

 教室内の空気が、少しだけ静かになった。

 おそらく全員が、平田の勇気に心の中で拍手している。だが甘い。これは王道爽やか系の理論に過ぎない。ストリートの最前線では、多少の強引さこそが男の価値を証明する。

 とはいえ、敵の戦術を学ぶこともまた重要だ。

 

「つまり、俺のチャラ男としての火力が高すぎて、パンピー女子の受信機が耐えきれていないということか」

 

「違うかな」

 

 二度目の即答だった。

 

 堀北が鼻で笑った。

 平田は少し考え、俺に向き直る。

 

「まずは普通に挨拶するところから始めてみないかな。変なあだ名をつけない。相手の距離感を尊重する。それだけでも、かなり印象は変わると思う」

 

「普通に……」

 

 俺は腕を組み、脳内でその単語を解析した。

 王道(普通)。ホワイトルームには存在しなかった概念であり、外の世界において最も難解なカリキュラムの一つ。だが、平田はその王道(普通)を自然に操っている。やはりこの男、ただの爽やかイケメンではない。

 

「オッケー。試してみよう」

 

「うん。近くにいる人に、普通に声をかけてみようか」

 

 俺は視線を横へ流した。

 

 実験対象として最も適切なのは、当然、堀北鈴音である。俺の言動に対する耐性がクラス内で最も高く、加えて反応速度も優秀。初回テストには申し分ない。

 俺は堀北の方へ向き直り、平田の指導通り、余計なあだ名を使わず、距離も詰めすぎず、穏やかな声を意識して言った。

 

「こんにちは、堀北さん。今日も眼球にペンを刺してきそうなほど美しいね」

 

 堀北の手元で、紙パックがぐしゃりと潰れた。

 

「……平田くん」

「は、はい」

「あなたの教育方針は根本から間違っているわ。彼に普通を教えるのは、毒蛇にテーブルマナーを教えるより難しい」

 

 教室の数名が堪えきれずに吹き出し、数名が青ざめた。

 平田は額に手を当て、昼休み開始からまだ数分しか経っていないにもかかわらず、すでに一日の疲労を背負ったような息を吐いた。

 

「綾小路くん……今のは、かなり違うかな」

 

「惜しくもないのか」

 

「うん。だいぶ違う」

 

 なるほど。

 王道爽やか系の道も、想像以上に険しいらしい。

 

 俺は静かに頷き、焼きそばパンの最後の一口を飲み込んだ。

 

「ありがとな、平田。今日の助言は、胸の奥のチャラ男フォルダに保存しておく」

 

「そのフォルダに入れると、また変な変換がかかりそうで不安だけど……少しでも役に立つといいな」

 

「安心しろ。いつかお前を倒し、このクラスの女子視線市場を独占するその日まで、俺は成長を止めない」

 

「倒される予定なんだね、僕」

 

 平田は困ったように笑った。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、数日後。

 

 俺は机の上に置かれた一枚のテスト用紙を前にして、静かに眉根を寄せていた。

 

 教室内には、シャープペンシルが紙面を擦るかすかな音と、時折誰かが息を呑む気配だけが流れている。普段は昼休みになれば猿山のように騒がしい池や山内でさえ、今は目の前の問題用紙と死闘を繰り広げていた。須藤に至っては、問題文を睨みつけるその顔が、もはや敵対組織の構成員を威嚇するチンピラそのものである。

 

 小テスト。

 

 茶柱佐枝──我らが愛すべきボインティーチャーが、唐突に告げたそれは、一教科につき四問。国語、数学、英語、社会、理科。合計二十問で百点満点という、実にシンプルな形式のテストだった。

 

 彼女いわく、成績には反映されないらしい。

 

 ならば、本来であれば気楽に受ければいい。

 だが、今の俺は、久方ぶりに脳の演算リソースを大きく割く必要に迫られていた。

 

 難問だ。

 

 あまりにも難問である。

 

 サーモグラフィーで俺の頭部を観測できたなら、脳内の血流が急激に増大し、頭蓋骨の内側が真っ赤に染まっていることが確認できただろう。心拍数は平常値。呼吸にも乱れはない。だが、思考だけはかつてホワイトルームで複数分野の複合演算を同時並行で処理していた時と同等の速度で回転していた。

 

 もっとも、テストそのものが難しいわけではない。

 

 国語。英語。社会。理科。

 それらに関しては、頭の中におが屑でも詰まっていない限り、八十点は固い内容だった。基礎的な知識の確認、問題文の読解、単純な計算。高度育成高等学校という仰々しい名称から想像されるほどの難易度ではない。

 

 しかし、問題は数学だった。

 

 最初の一問はまだいい。中学生の復習に毛が生えたようなものだ。だが、最後の三問だけは明らかに毛色が違う。問題文の構造、必要とされる思考の段階、解法へ辿り着くまでの道筋。そのすべてが、他の教科と比べて明らかに異質だった。

 

 数年前に学んだ覚えはある。

 

 ホワイトルームのカリキュラムにおいて、似たような問題を処理した記憶が脳の奥底から引き出される。公式を使えば解ける。別解も複数存在する。計算そのものに障害はない。

 だが、一般的な高校一年生が初見でこれを解けるかと問われれば、答えは否だ。よほど勉学に自信がある者でなければ、問題文の意味を正確に理解することすら難しいだろう。

 

 隣の席のツンデレ娘に視線だけを向ける。

 

 堀北鈴音は背筋を伸ばし、いつもの冷ややかな表情を崩さずに問題用紙へ向かっていた。だが、彼女のシャープペンシルは数学の欄で止まっている。諦めたわけではない。むしろ逆だ。眉間にわずかな皺を寄せ、何度も何度も問題文に目を通し、条件を拾い直している。

 

 なるほど。

 あの堀北でさえ、即答できないレベルということか。

 

 教室の空気も、そこで変わっていた。

 

 序盤は軽快だった筆音が、数学に入ったあたりから目に見えて減っている。池はすでに遠い目をしているし、山内はシャーペンの尻で頭を掻きながら、答案用紙の余白に意味不明な線を引いている。須藤は夢の世界へと旅立っていた。

 

 普通なら、ここで俺は淡々と解答を埋めればいい。

 

 だが、俺の筆は止まっていた。

 

 理由は一つ。

 この小テストにおいて、チャラノ小路チャラ隆として最もモテる点数が何点なのか。その最適解が、未だ導き出せていなかったからである。

 

 満点を取る。

 これは一見、非常に分かりやすい選択肢だ。女子たちは「えっ、綾小路くんって実は頭いいんだ」と驚き、俺の秘められた知性にギャップ萌えを起こす可能性がある。普段は気怠く、ウェーイと鳴く謎のチャラ男。しかし、テストでは華麗に満点を叩き出す。これは確かに、福音書に記されていた「見た目は遊んでそうなのに実はデキる男」の条件に合致する。

 

 だが、危険もある。

 

 満点はあまりにも露骨だ。

 下手をすれば、ガリ勉判定を受ける。あるいは「高校デビューでチャラ男を気取っているだけの真面目くん」と看破される恐れがある。チャラ男として、それは致命傷だ。シャンパンの代わりに麦茶を飲み、ナイトプールの代わりに図書館で参考書を開くような男だと思われれば、俺の築き上げてきたストリート系バイブスは崩壊する。

 

 では、発言の軽薄さに合わせて低得点を取るべきか。

 

 たとえば三十点。

 いかにも「勉強なんてマジだるいっしょ」と言い出しそうな点数だ。だが、それではただの馬鹿である。真のチャラ男は、愚かであってはならない。愚かに見せるだけで、実際には女心、場の空気、ファッション、そして夜の流れを支配する知性を備えている必要がある。

 

 ならば八十点か。

 

 しかし、この内容で八十点では普通すぎる。今回のテストの大半は基礎問題だ。八十点など、少し真面目に授業を聞いていれば取れる範囲。女子の心に刺さるインパクトが足りない。

 平凡。無難。パンピー。

 どれも、俺の目指す圧倒的チャラ男像とは相容れない言葉である。

 

 では、九十点台か。

 

 ここで重要なのは、満点ではなく、あえて一問落とすという美学だ。

 完璧すぎる男は、時に隙がなくて近寄りがたい。だが、九十点程度ならば「すごい、でも少しだけ抜けている」という親しみやすさが生まれる。女子たちが「綾小路くん、惜しかったね」と声をかける口実にもなる。

 

 いや、待て。

 

 その一問をどこで落とすかが問題だ。

 簡単な問題を落とせば、ケアレスミスとして可愛げが出る。だが、あまりにも初歩的な場所で間違えれば、知性に疑問符がつく。逆に数学の難問を落とせば、自然に見えるが、「実は頭いい」感が弱まる。

 

 俺は答案用紙の空欄を見つめる。

 

 成績に反映されない小テスト。

 しかし、これはただの小テストではない。

 俺にとっては、己の知性、軽薄さ、ギャップ、そしてモテの可能性を数値化する、極めて高度な自己演出の場なのだ。

 

 茶柱のヒールの音が、教室の前方で小さく響いた。

 

 彼女は無言で教室内を見渡している。豊満な胸部装甲(パイオツ)を揺らしながら、答案用紙に苦しむ生徒たちを冷淡に観察していた。その視線が一瞬だけ俺の方へ向いた気がした。

 

 なるほど。

 ボインティーチャーもまた、俺の点数選択を見極めようとしているのかもしれない。

 

 俺は静かに息を吐き、シャープペンシルを持ち直した。

 

 導き出された答えは一つ。

 

 全問正解できる実力を持ちながら、あえて完璧にはしない。

 だが、凡人には見えない。

 女子には「この人、実は……?」と思わせ、教師には「何か隠しているのか」と疑念を抱かせ、しかしクラスメイトからはガリ勉扱いされない絶妙な点数。

 

 つまり。

 

 八十七点。

 

 俺は数学の最後の問題を2つだけ、計算過程の途中で意図的にずらすことにした。

 ミスに見える。だが、分かる者が見れば、途中までは完全に理解していると分かる。

 この絶妙なラインこそ、チャラ男における知性のチラ見せ。いわば、学力の胸チラである。

 

 俺は無表情のまま、答案用紙へとペンを走らせる。

 

 教室に、カリカリという音が戻ってきた。

 

 戦いは終わった。

 俺はまた一つ、モテるための難問を攻略したのだった。

 









えー只今より弁明をおかないます
実は私は二次はオリ展開もしくはIFルートしか認めへん!過激派に所属しております。
ですが、今回、現作沿いのギャグということもあって余裕綽々と現作やアニメの展開をただなぞって全部ギャグにすりゃええんやろ?チョロQと舐め腐った考えでいました。

まず一言。これ大変!思ってる数百倍きつかったです!!

えー次に高評価をくださった皆様に対してのお礼の言葉と日間ランキングでのあまりに不甲斐ない結果に対しての謝罪となります。
評価者の割合に対して数多くの10評価、高評価をくださりました皆様、本当にありがとうございました。結果、ランキングには度々顔を出すことができましたが、笑ってしまうほどランキングが伸びませんでしたぁ!
敗因はこの私! 読者の方々は最高評価をくれました!

まぁそりゃあんだけ話し進まなずに、ギャグやったらそりゃ伸びんわな。
ただお気に入り数にたいして、たくさんの感想をいただけているのが唯一の救いでござんす。
ネタバレでしがストーリーは今後も基本的に現作沿い展開をなぞるだけです!現作!アニメをみよう!



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