サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました 作:佐久間 譲司
磯部美帆は微かに笑みを浮かべる。
遠くから『聞こえる』標的二人の会話。および、活動の際に発生する音。それにより、自身が圧倒的に有利な立場にいることを確信していた。
空から暖かい日差しが降り注ぎ、周囲は穏やかな雰囲気に包まれていた。子供たちのはしゃぐ声が耳を静かに撫でる。
平和そのものの風景の中、美帆は思案を巡らせる。
相手の淫魔が、美帆が施した『範囲限定型操作魔術』の解に辿り着いたのはさすがだと思う。だが、できることはそれまで。本体である美帆の居場所を探り当てたり、ましてや辿り着くことなどほぼ不可能に違いない。
そう断言できる『理由』がいくつかあった。その一つが、美帆の特殊能力によるものだ。
美帆は、ずば抜けて優れた聴覚を有している。数百メートル離れていようと、まるで直近で集音マイクを使っているかのように、詳細に音を感知できるのだ。
破格の精度であり、心音すら容易に聞き分けられる。それにより、相手の心理状態すら把握可能だ。
この聴覚のお陰で、いわば、対象からの情報は全てこちらに筒抜けの状態となる。情報戦においては、極めて有利であった。
相手の会話や行動が完全掌握できているのなら、美帆が出し抜かれる恐れは皆無である。いくらでも接触を回避できるだろう。
そして、敵がこちらに辿り着けないもう一つの『理由』。
これこそが、相手の淫魔たちをかく乱できている最大の根拠となり得ていた。
あの祐真とかいうガキ。あいつは当初に接触した女を私だと思っている。しかし、それは間違いだ。
あの女は、美帆の魔術によって操作を受けたただの一般人である。近くのビルで働いていた女性会社員。
いくつか『目的』により、美帆が操作魔術を施し、あの男子高校生と接触をさせた。
結果、操作を受けただけの女性会社員を彼は、敵対する退魔士だと誤認をした。
美帆にとって、狙い通りの展開だと言えるだろう。
リコという淫魔が自ら召喚した使い魔を用い、当該の女を捜索しているようだが、いくらやっても無駄だ。向こうにとって不都合以外何物でもない。いたずらに消耗を続けていくのみである。
一昨日の沙希との戦いで、リコが弱っていく一方の存在であることは認識していた。
そう。このままだ。このままでいい。操作した人間をけしかけ、ひたすら淫魔を疲弊させていけば、いずれあいつは倒れるだろう。
汚らわしい淫魔め。必ず仕留めてやる。仕留めたあとの報酬は、全て私の総取りだ。高級車や、ブランド物の服やバッグ、宝石も好きなだけ買えるだろう。
私に相応しい待遇が待っているということだ。私はもっと輝かなければならない。タワーマンションも、高級ブランドも、宝石も全て私を高尚な存在へと押し上げるための道具なのだ。
中途半端な価値の服を着て、安っぽい家で日々を暮らす。そんな凡夫のような生活、私には相応しくない。
私は、この世界の人間たちを見下す立場に立つのだ。
だからこそ、何としてもあの淫魔を殺さなければならない。
私は勝てるはず。絶対に負けはしない。美帆は自分に言い聞かせた。
奴らは決して、こちらの『正体』に気づくことがないのだから。