『僕のヒーローアカデミア 〜呪いの血を、救いの力に。赤血操術の転生者はトガヒミコを愛したい〜』   作:まだら模様

1 / 1
第一話 「吸血の騎士、吸血の天使」

 

夕暮れ時の中学校。放課後の喧騒が遠ざかる中で、屋上だけが異質な静寂に包まれていた。

オレンジ色の陽光が、コンクリートの床を血のような赤色に染め上げている。

 

「あは……あはは……っ」

 

渡我被希美子(トガヒミコ)は、震える手でカッターナイフを握りしめていた。

 

彼女の足元には、切り傷を負って気絶したクラスメイトの男子。そして、床に広がった鮮血。

 

彼女はその赤色を見て、喉の奥が焦げ付くような飢餓感を覚えた。

 

同時に、頭の隅で両親の、教師の、社会の「声」が響く。

 

『普通になりなさい』

 

『そんな個性、不気味で異常よ』

 

『お願い、まともな子になって』

 

「……むりだよぉ。だって、きれいなんだもん。美味しそう、なんだもん……っ」

 

彼女が自らの本能に従い、ナイフをクラスメイトの首筋へ深く突き立てようとした——その時だった。

 

「——その一歩、踏み出すと後戻りできなくなるぞ。渡我(トガ)」

 

背後から響いたのは、あまりに場違いなほど冷静で、低い声だった。

 

 

トガが弾かれたように振り向く。

 

そこに立っていたのは、同じクラスの少年だった。

 

派手な外見ではない。だが、その瞳には中学生離れした、すべてを見透かすような冷徹さと、深い慈悲が混在していた。

 

「……君、は。……あは、誰だっけ? 邪魔しないでよ。私、今から『普通』を捨てるんだから」

 

トガが歪な笑顔を浮かべる。だが、少年の表情は微動だにしない。

 

「俺の名前は、前世でも今世でも大した意味を持たないが……今はそうだな。君の運命をブチ壊しに来た『通りすがりの救世主』とでも思ってくれ」

 

少年の言葉は、トガには理解不能だった。

 

だが、彼から放たれる圧倒的な威圧感——いや、血の匂いに、彼女の本能が警鐘を鳴らす。

 

「救世主? 変なの。君も私を叱るの? 警察に突き出すの?」

 

「いいや、逆だ。俺はお前の『好き』を肯定しに来た」

 

少年は一歩、トガへと近づく。

 

「止まれ!」とトガがナイフを突き出す。だが、少年は止まらない。

 

「お前が求めているのは、血そのものじゃない。血を通じて他人の人生に触れ、愛し、愛されたいという切実な願いだ。違うか?」

 

トガの目が見開かれる。

 

誰にも言えなかった。理解されるはずがないと諦めていた。

 

「普通」という檻に閉じ込められていた彼女の芯を、初対面に等しい少年が、いとも容易く射抜いた。

 

「……君に何がわかるの。私の個性が、どれだけ気持ち悪いか……っ!」

 

「気持ち悪い? 笑わせるな」

 

少年は、自らの左腕を無造作に掲げた。

 

その瞬間、皮膚から鮮血が霧のように吹き出す。

 

「ひ……っ!?」

 

トガが息を呑む。だが、異変はそこからだった。

 

空中に舞った血液が、まるで重力を無視するように集束し、一筋の鋭い矢へと形を変えたのだ。

 

**「——赤血操術(せっけつそうじゅつ)。」**

 

少年の呟きと共に、血の矢がトガの持つナイフの刃を、ピンポイントで弾き飛ばした。

 

金属音が屋上に響き、カッターが遠くへ転がっていく。

 

「これ……個性? 君も、血の……?」

 

「ああ。俺の血は、俺の意志で自在に形を変える。お前が『血を吸って他人になりたい』と願うなら、俺は『自らの血で己を、そして世界を律する』。……同類だよ、トガ」

 

 

少年——俺は、ゆっくりとトガに歩み寄った。

 

俺には前世の記憶がある。この世界が『僕のヒーローアカデミア』という物語であることを、そして目の前の少女が、救われぬまま孤独な悪の道へ墜ちていく未来を知っている。

 

赤血操術。前世で読み耽った『呪術廻戦』の術式を、俺はこの世界の「個性」として発現させた。

 

血流を操作し、脈拍を上げ、自らの血液を鋼よりも硬く、刃よりも鋭く研ぎ澄ます。

 

この日のために、俺は幼少期から「自傷」に近い過酷な訓練を繰り返してきたのだ。

 

すべては、この瞬間のため。

 

「トガ。お前が『普通』という言葉に殺される必要はない。お前の愛し方は、お前だけのものだ」

 

俺は右手を差し出した。

 

手のひらの上では、俺の血が小さな花の形を作って踊っている。

 

「……でも、私は、血を飲まないと……」

 

「なら、俺のを飲め」

 

俺の言葉に、トガが今日一番の衝撃を受けた顔をした。

 

「……え?」

 

「他人の人生を奪うのは行儀が悪い。だが、俺がやるという分には問題ないだろ? 俺の血は赤血操術で常に浄化され、エネルギーに満ちている。お前の『変身』には、うってつけの燃料(ガソリン)のはずだ」

 

俺は、彼女の細い肩を掴んだ。

 

トガの体は震えていた。恐怖ではなく、初めて「自分」を認められた衝撃で。

 

「お前の『好き』は、俺が全部肯定してやる。その代わり、俺の隣にいろ。ヴィランなんていう安っぽい居場所じゃなく、もっと輝ける場所に連れて行ってやる」

 

「……輝ける、場所?」

 

「ああ。——ヒーローだ。二人で、血まみれのヒーローになろうぜ」

 

 

トガは、しばらく俺の顔をじっと見つめていた。

 

やがて、彼女の目から大粒の涙が溢れ出し、頬を伝う。

 

彼女は俺の差し出した右腕に、縋り付くようにして顔を寄せた。

 

「……いいの? 本当に、いいの……?」

 

「ああ、約束だ」

 

トガが俺の手首に、そっと牙を立てる。

 

チクリとした痛み。直後、俺の血液が彼女の体内へと流れ込んでいく。

 

赤血操術によって酸素濃度と熱量を極限まで高めた俺の血は、彼女にとって至高の美酒だったに違いない。

 

トガの頬が赤らみ、その瞳に妖艶な、だがどこか幼い光が宿る。

 

「……あったかい。今まで飲んだ、どんなものより……美味しいです」

 

彼女は俺の腕に顔を埋めたまま、幸せそうに笑った。

 

その笑顔を守るためなら、俺は「ブラッディ」でも何でも名乗ってやる。

 

原作のシナリオなんて知ったことか。

 

オール・フォー・ワンも、死柄木弔も、この少女を絶望に追い込むすべての要素を、俺がこの血で塗り潰す。

 

「行こう、トガ。まずは……その気絶してる奴の治療だ。赤血操術を応用すれば、傷口を塞ぐなんて造作もない」

 

「はいっ! ……ねぇ、君の名前、教えてください」

 

「……俺か?」

 

俺は沈みゆく太陽を見据え、まだ名乗るには早すぎる、だがいつか世界に轟くはずの名前を口にした。

 

「……ヒーロー名なら、もう決めてある。——『ブラッディ』だ」

 

こうして、血を呪われた二人の、世界で一番熱い英雄譚が幕を開けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

シューターのヒーローアカデミア(作者:なかりょた)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ハイスぺの体と個性『射手』で転生した主人公がおくる物語。なお全方位にさわやかスマイルを振りまいて、脳破壊をしていく模様。


総合評価:599/評価:6.24/連載:24話/更新日時:2026年05月18日(月) 07:01 小説情報

ダイヤのアカデミア(作者:妖狐アルル)(原作:僕のヒーローアカデミア)

仮面ライダーギャレンに変身する橘 冴幸の物語▼ ⚠かなりのキャラ崩壊があります、主に耳郎響香のキャラ崩壊が凄いです


総合評価:48/評価:-.--/連載:7話/更新日時:2026年05月24日(日) 10:38 小説情報

プロトタイプのヒーローアカデミア(作者:sr999)(原作:僕のヒーローアカデミア)

Poppy Playtimeのプロトタイプとしての能力を個性として持った転生者のヒーローアカデミア▼原作知識はあり、性別は一応男、チートにはなりませんがそれは相性の問題を解決できていないからです。▼相性いい相手にはチートみたいな強さ出せます、まあプロトタイプの攻撃方法が基本殺すため▼のような状態なんで仕方ないっちゃ仕方ない▼こちらイメージ絵、人間verはUl…


総合評価:230/評価:7.7/連載:3話/更新日時:2026年04月05日(日) 16:29 小説情報

廻物語(作者:紡縁永遠)(原作:僕のヒーローアカデミア)

物語シリーズのメインキャラが僕のヒーローアカデミアの世界に転生してしまった世界であり、ほぼ乗りと勢いのシリアスぶっ壊す話▼青春は、命廻ってまだ続く


総合評価:22/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年04月19日(日) 00:00 小説情報

風岡雄次郎は仮面のヒーローになりたい(作者:アークル・オルタ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

特撮ヒーロー『仮面ライダー』をこよなく愛する男・風岡雄次郎(かざおか ゆうじろう)。▼ある日、事件に巻き込まれて命を落とした彼は、元いた世界とは異なる別世界へと転生する。▼彼が二度目の人生を歩むのは、人口の約八割が超常的な特異体質“個性”を持つ超常社会。▼“個性”を悪用する〈敵(ヴィラン)〉が犯罪を引き起こし、それを同じく“個性”で制圧する〈ヒーロー〉が人々…


総合評価:364/評価:8.64/連載:7話/更新日時:2026年05月22日(金) 19:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>