バベル   作:かりん2022

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魔法使い

五条は、手紙を撫でながら家入にも何があったか話していた。

その強制力に引っ張られた夏油は、仕方なく五条に寄りかかっている。

 

「やば。五条が夏油を嫌いにならないかぎり、夏油の方からは離れられないって事?」

 

 家入は2人を見る。磁石じゃん。もとより、五条が完全に手紙中毒なのは知れ渡っているほどだった。今回の離反騒ぎで、五条の手紙中毒はますますひどくなるだろう。医師見習いとして、流石に心配になってくる。

 

「そう」

「今回は良かったけどさ。……健全じゃないと思うよ」

「わかってる。それに、ずっと目をそらしてたけどさ、聞くわ」

「何かな」

「バベルって何。誰から習った?」

 

 五条は夏油をまっすぐに見た。夏油も起き上がって五条と向き合おうとするが、強制力が働いてパタリと五条の胸に頭を落とす。五条お前はまず手紙から手を離せ。それにしても、夏油は一般出のはずだった。あまりにも異質な知識だし、五条が調べた限り類似の文字はない。

 

「姉さん。魔法使いの生まれ変わりだけど、この世界に魔力はないから魔法は使えないんだって言ってた。今まで中二病って思ってたけど」

「バベルがあるんだからマジだろ」

「魔力の代わりに呪力が働いたんだろうな、多分」

「そうなのかな? 何もできないくせに我こそは偉大なる魔法使いぞ? 宮廷魔術師ぞ? その理論を提唱したのは私ですがとか言っちゃう系教授ぞ? とか眉唾なこと言ってたし、どこまで本当か本当に疑わしいんだけど」

「全部本当かもよ? 夏油のおねーさん、会って見たい。私も魔法使える?」

「ただ、なんか理由考えた方がいいかな。魔法を習いに行くってバレたら総監部が心配だ。今回、傑を一時的に操ってるし」

「それは大丈夫だろ」

 

 家入は自信満々に太鼓判を押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんせー! 五条が夏油のご家族に挨拶に行きたいっていうから、私もついて行きたい! 三人で休暇取りたい! 美々子と菜々子と津美紀と恵も連れて行くから」

「ついにか……!」

 

 夜蛾先生は緊張した顔で言った。

 五条と夏油の机だけくっついて、なんなら椅子もくっついている仲良しっぷり。

 五条の夏油からの手紙に対する執着っぷり。

 毎晩一緒の部屋で寝て、ひっついてる事多数。

 その2人がご両親に挨拶である。周囲が思い浮かべるのは一つだった。

 知らぬは当人ばかりである。なんで当人が知らないんだ。

 

「五条家が問題ないなら何も言えないが……いやしかし……いや、本人の意思が一番だし……」

「「???」」

「夏油様のご家族にご挨拶? 美々子、夏油様と兄弟になるの?」

「菜々子、五条悟と兄弟になりたい!」

「お? 傑より俺がいい?」

「菜々子、夏油様と結婚したい!」

「美々子も! 菜々子ずるい! 美々子も!」

 

 幼子達の細やかな望みに、涙する夜蛾。その願いは叶わないんだ……! そうだね年齢が違うね。

 

「あー。いっそ、2人で2人を娶ったらどうだ?」

「は? 年齢が違いすぎるだろ」

「いくらなんでも怒りますよ、夜蛾先生」

 

 五条と夏油は当たり前に腹を立てる。なにせ小学生未満の幼女である。

 

「それはそうだが……。お前達、ラストイヤーはしばらく離れて見たらどうだ」

「は?」

「なんでだよ」

「視野を広げてみろ」

「もう広々した視野を持ってますー」

「じゃあその夏油からの手紙は片付けたらどうだ? ほら、大事ならしまっておいたほうが長持ちするぞ」

 

 ギッと五条に睨まれて、夜蛾先生は黙った。

 

 とにかく夜蛾先生に強請って、五条達は休暇を手に入れたのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏油の家は、普通の家だった。

普通の、田舎でも都会でもない場所の、住宅街の家。

 

「悟、お土産郵送したって言ったけど、何送ったの? 大量に来てるって」

「えっ 家のやつに任せた」

「怖いなぁ……」

 

 早速家に入る。

 

「ただいまー」

「傑、お帰りなさい!」

「傑、おかえり。ああっと、君が、その……」

「傑、男と婚約したってまじで? よろしく」

 

 スタンバイしていたのか、家族総出で出迎えに来る。

 

「「してない!!」 普通硝子だろっ」

「硝子さんが婚約者なの?」

「どっちもなしですね」

 

 家入が一刀両断する。

 

「それはない。2人とも友達だよ。電話で話したけど、仕事の関係で子供2人を助けてね、家で面倒見たいんだけど、どうかな。生活費は払うし、頻繁に会いにくるよ」

「美々子ちゃんと菜々子ちゃんね」

「「よ、よろしくお願いします!」」

「それと、こちら五条悟と家入硝子。私の友達。それと、津美紀と恵は悟が面倒を見てる子」

「魔法使いっておねーさん? 俺も魔法使いたい」

 

 恵の言葉に、両親は笑った。

 

「あははははっ 魔法使いか!」

「お姉ちゃんの厨二病はとても長かったのよね。傑は本当だったけど」

「我とか言っちゃって!」

「うっうるさいなぁ! ガチで同級生の男子の家から結納の品がくる息子よりましでしょ!!」

「悟どういうこと?」

「俺、知らない!」

「そりゃラブレターあれだけ見せびらかしてイチャイチャしてればそう思われるだろ……」

「ラブレター?」

「そうなんだ。俺たち、傑のおねーさんと話があるから、津美紀、みんなの事見ててもらえないかな」

 

 

 それから、お姉さんの部屋で、俺達三人は正座した。

 呪力もない、もちろん天与呪縛でもない。普通のお姉さん。

 いまは普通にOLをしているというその女性は、傑に似てすらりと高い背以外はどこまでも普通に見えた。

 

「姉さん、私、バベルで手紙を書いたんだ。それから、ちょっと変な事が起きて、バベルについてもっと詳しく聞きたい」

「んー? この世界には魔力がないんだから、そうそう変な事にはならないわよ。よっぽど情念を込めて変なことを書かなきゃね」

 

 悟が、そっと手紙を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲラゲラゲラゲラゲラ!」

「姉さん!」

「いや、ちょ、これはないじゃろー! ここが魔力のない世界で良かったのぅ! セルフ隷属呪文になっとるぞい!」

「やっぱり?」

 

 お姉さんは完全に素が出ていた。なるほど、前世は教授というのも納得だ。

 

「それってもしも魔力があったらどうなるんです?」

「魔力があったなら、もちろん五条悟が夏油傑を友と思うかぎり、敵対陣営になる事を封じ、物理的に離れるのを封じ、嫌うことを封ずるじゃろう! だってざっくばらんにかつ包括的な文法で離れないじゃからの。ベッドの中まで強要できるぞ、ここが魔力のある世界で傑が女じゃったらそりゃーやりたい放題じゃぞ、五条くん! しかも自分でやった事じゃから傑の責任じゃ! いやー熱烈じゃのう!」

「えぐ」

「あわわわわ」

「まあでも救いはあるの! 五条悟が友と思わぬと契約は無効! 五条が心の中で裏切り、友と考えるのをやめて駒として利用を考えた時点で、契約は破棄され自由となれる! まあ、こんな契約で結ばれた仲なんぞ、そうそう歪むがのぅ! まあ、重ねていうが魔力がないのだ、実質的な拘束力はない。ただこの手紙を書いた時点で傑が五条くんを大好きじゃったというだけじゃ!」

「解呪方法はあるんですか?」

「ふむ。想いを代償にした誓約魔法ゆえ、想いもまた敗れる。無理に破ればお互いがどうでも良くなるが、解除してみるかね?」

「やだ」

「穏便に破る方法は……」

「別に魔紙でもなんでもない普通の便箋だからの。すでにボロボロじゃし、そのうち摩耗して自然消滅する分には問題なかろ。数年してもう少し摩耗したら燃やしてOKじゃ」

「良かった、確かにボロボロだし、何年かすれば完全に破けちゃうね」

 

 夏油と家入は胸を撫で下ろす。

 

「おねーさん、前世で魔法使いだったんだろ、色々話聞きたい!」

「おやおや。こんな戯言を信じるのか?」

「うん、発動しなくていいから、いろんな魔術知りたい! 教えて!」

「では、灯りの魔術からお話を交えて話してやろうか」

「【3の魔力を捧げ、右の指先から1センチの所を照らす】」

「「おおー」」

 

 しばらく試行錯誤して、結果硝子が、ついで悟が魔法を使えた。使えてしまった。

 手紙が呪力で起動したように、魔力は呪力で代用できてしまうようだ。

 明かりは黒い光で、おねーさんは度肝を抜かれていたし、五条は手紙をきっちりラミネート加工で保存した。




マシュマロ
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