僕のヒーローアカデミア 徹子の部屋(※違います) 作:まだら模様
例 本編2024年の場合 25年の年前の姿、26年の姿、10年前、5年前、全盛期、老衰期などいろんなバリエーションがあります。
一度来た人でも何度でも来る可能性があります。
やったね徹郎!たくさんの人とお話しできるよ!(白目)
# 徹子の部屋(白昼夢)
## 第三十二話「欲望30分前(※正直者が馬鹿を見る、なんて嘘だ)」
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「聞いたぜ哲郎! ヒーロー科の女子が続々ここに来てるってなぁ! けしからん、実にけしからん!」
スタジオの扉を蹴り開けようとして——届かなかった。
ジャンプして蹴り開けた。
「……で、おっぱいの話はいつするんだ? 尺の半分はくれよな!」
高潔な理想も、悲劇の過去も、一切持たない欲望の塊が、スタジオに颯爽と——転がり込んできた。
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眠りに落ちた瞬間——鳴った。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー
ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルルッルー
ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
スタジオに引き込まれた瞬間——なぜか、軽かった。
空気が、軽かった。
トゥワイスが来た夜より。常闇くんが来た夜より。ジーニストさんが来た夜より。
圧倒的に、軽かった。
舞台袖からソファを確認した。
小さな少年が、カメラのレンズに顔を近づけていた。
「……これ、ミッドナイト先生が映ったやつか? ちょっと失礼しまーす、確認させていただきます」
「確認しないでください!!」
徹郎が舞台袖から飛び出した。
「うわ! 司会者! どこから!?」
「ずっとここにいました!! レンズから離れてください!!」
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「えー……皆様、こんばんは。本日もご覧いただきありがとうございます」
「こんばんは! オイラが来たぜ哲郎! 待ってたろ!?」
「……待っていたかどうかは置いといて——」
「待ってたよな!? 正直に言えよ!」
「……本日のゲストをご紹介します。峰田実くんです」
「峰田実! モギタテヒーロー・グレープジュース! 雄英一年A組! ドーンとよろしく頼むぜ!!」
「……今夜は来てくれてありがとうございます」
「いやー来ちゃったよ! 来てよかったよ! なんかさ、この番組、女子めちゃくちゃ来るって聞いたんだけど、ホントなの!?」
「……来ます。色々な方が」
「波動ねじれちゃんとか来た!?」
「来ました」
「マジで!?!? あの椅子! あの椅子に座ったんだ!? ちょっと失礼——」
「座らないでください!! 別にそういう椅子じゃないです!!」
「夢がないな哲郎!!」
「夢の方向が違います!!」
(開幕三十秒で方向性がはっきりした……!!)
(今夜は、久しぶりに命の危険がないぞ……!!)
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「まず確認させてください。今いくつですか」
「十五! 雄英一年!」
(十五歳。一年生。普通の時期の峰田くんだ)
「……この番組のルールはわかりますか」
「三十分話したら哲郎が帰れるやつだろ! 失敗したら幽閉! やばいじゃんそれ!」
「やばいですね」
「怖くないの!?」
「……怖いですよ。でも慣れました」
「慣れちゃダメだろそれは!!」
(峰田くんにも言われた……!! ここ最近、同じことを何人かに指摘されている……!!)
「……峰田くんがここに来た理由は何かありますか」
「女子!!」
「……え?」
「女子が来てるって聞いたから来た! 以上!」
(すごい動機だ……!! でも正直すぎて怒る気になれない……!!)
「……残念ながら、ゲストのことは守秘義務があって」
「えー!! 守秘義務!? 夢の番組に守秘義務があんの!?」
「あります」
「けしからん!!」
「けしからないです。あなたの個人情報も守ります」
「オイラの情報は別に公開してくれていいぞ! 名前、峰田実、十五歳、女子が好き! 以上だ!」
「公開しません」
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```
「……ソファに座ってもらえますか」
```
「座る! ところでさ哲郎、その椅子——」
「通常の椅子です。何も特別なことはありません」
「そうかぁ……」
峰田くんが、少しだけしょんぼりしながら、ソファに座った。
足が、床につかなかった。
ぶらぶら、と宙に浮いた。
(壊理ちゃんと同じだ……! でも壊理ちゃんはかわいかったが、峰田くんの場合は……!)
「……峰田くんは、雄英でどんな日常を過ごしていますか」
「モテようとしてる!!」
「それ以外は」
「モテようとしてる!!」
「授業は」
「ちゃんと受けてる! 筆記は中の上だぜ! オイラ実はそこそこ頭回るんだけどな!」
「……それは意外でした」
「意外って何だよ!! 失礼だな!」
「すみません。でも日頃の言動から」
「日頃の言動と頭の良さは別の話だろ!!」
(それはそうだ……!!)
(この人、確かに機転が利く場面がある、と原作知識でわかっている……!)
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「コーナーをやってもいいですか」
十分が過ぎた頃、徹郎が言った。
「コーナー!! 好き!! 女子が出てくるやつ!?」
「出てきません」
「けしからん!!」
「『欲望の果てまでイッテQ』というコーナーです」
「名前が最高じゃないか!!」
「リスナーの悩みを、峰田くんが答えてください」
「任せろ!! オイラの欲望と知恵を総動員するぜ!!」
「……最初の問い。ダイエット中なのに、深夜にラーメンを食べてしまいます。罪悪感がすごいです」
「罪悪感!? 最高のスパイスじゃないか!!」
「違います!!」
「脂身を啜る時、お前は自由なんだよ!! 社会のルールをニンニクと一緒に飲み干しちまえ!!」
「ダメです!! 相談者の健康を考えてください!!」
「でも深夜のラーメンの背徳感、最高だよな!?」
「……それは否定できないのが悔しいんですが——!!」
「そうだろ!! 罪悪感が一番のトッピングなんだよ!!」
(論理はめちゃくちゃだが、なぜか間違っていない気がして悔しい……!!)
「次の問い——ヒーローを目指していいのかわからなくなった人に何か言いますか」
「やめちまえ!」
「……え?」
「迷ってる間は無理だ。でも——」
```
峰田くんが、少しだけ真面目な顔になった。
```
「でも、動機がカッコ悪くてもいいんだよ。オイラ、モテたくてヒーローになりたかった。それだけが最初の理由だった。……でも、いざ現場に出たら、そんなこと考えてる暇なかった。気づいたら動いてた」
「……動いていた」
「そう。動機なんて後付けでいいんだよ。動いたもん勝ちなんだから」
(……今、一瞬だけ本物が出た……!!)
(欲望の塊みたいな顔で、本質を言った……!!)
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「……峰田くん、一つだけ聞いていいですか」
徹郎が、少し声を落とした。
「なんだ、急に真面目な顔して。怖いぞ」
「怖くないです。……ヒーローを目指した最初の理由が、モテたかったから——それは今でも変わらないですか」
峰田くんが、少しだけ考えた。
「……変わった部分と、変わらない部分がある」
「どう変わりましたか」
「最初はさ、モテてぇから頑張るって思ってたんだよ。でも——」
「でも?」
「デクが目の前で、震えながら動くの見てさ」
「緑谷くんが」
「あいつ怖いくせに、震えながら動くんだよ。オイラと同じくせに。……なんでだって思ってたんだけど」
「……わかりましたか」
「わかった。ヒーローだからかっこいいんじゃねぇ——かっこいいからヒーローなんだって」
スタジオが、静かになった。
(……今のは)
(完全に本物だ。矛盾がない。欲望の話じゃない。核心だ)
「……それは、どこで気づきましたか」
「ピンチの時。死ぬかと思った時。……でも、その時に動けたんだよ、オイラ。モテたいとか関係なく、目の前の人間を助けたくて動けた。……その時にわかったんだよ、動機なんてなんでもいいって」
「……素晴らしいですね、その気づきは」
「褒めんなよ、照れるだろ」
「照れてるじゃないですか」
「照れてねぇ!! 顔が赤くなっただけだ!!」
(赤くなってるのが照れてることでは……!!)
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「……一つだけ、正直に聞いてもいいですか」
```
「なんでも聞けよ! オイラ正直な男だから!」
```
「……最近、ここに来たゲストに、重い言葉をもらってまして」
「重い言葉?」
「社会的な意味があるか、記録に残るか、一人を救うために世界を捨ててもいいか——そういう話を、色々な人にされて、少し疲れていたんです」
峰田くんが、少しだけ徹郎を見た。
「……なにそれ、重すぎだろ」
「重いですよね」
「哲郎、そんなこと考えながら毎晩番組やってんの?」
「……考えるようになりましたね、最近」
峰田くんが、少しだけ前を向いた。
「……何難しい顔してんだよ」
「難しいことを言われたので」
「いいか哲郎」
「はい」
「助けてもらって『嬉しい』って思われたなら、その時点で勝ちだ」
「……え?」
「理由が不純でも、動機がバカっぽくても——そいつにとってはヒーローなんだよ。オイラがモテたくてヒーローやっても、助けた奴には関係ないじゃん。助かったかどうか、それだけだろ」
「……それは」
「お前の番組も同じじゃん。意味があるかとか、記録に残るかとか——そういうの、来た奴には関係ない。話を聞いてもらえたか、それだけでいいんだよ」
徹郎の、何かが緩んだ。
(……ジーニストさんの言葉も。塚内警部の言葉も。トゥワイスさんの言葉も。全部本物だった)
(でも今夜の言葉が、一番軽くて——一番地面に近かった)
「……峰田くん」
「なんだよ」
「あなたが今夜来てくれて、よかったです」
「当たり前だろ!! オイラが来たんだぞ!!」
「ありがとうございます」
「礼なんていらねぇよ!! ……でも、もう一回言ってもいいぞ」
(言ってほしいじゃないか……!!)
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そのとき。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールー ルールルー ♪
エンディングのテーマが、流れ始めた。
峰田くんが、ぱっと顔を上げた。
「もう三十分!? 早い!!」
「お時間です。峰田くん、今夜は来てくれてありがとうございました」
「こちらこそ! いい番組だったぜ!!」
「最後に——一言、もらえますか」
峰田くんが、少しだけ考えた。
それから——親指を立てた。
「じゃあな哲郎! 次来る時はミルコさんも呼んどいてくれよ!!」
「呼べる方法がないですが」
「ランダムなんだろ!? 念じとけよ!!」
「念じません!!」
「けしからん!!」
テーマ曲が、最後の段階へ移った。
♪ ラーララ ラララ ラーララ ラララ ラーラー ラーラーラー
ラララ ラーラーラーラー ラララー ラーラーラーラー ♪
「あと、哲郎!」
「なんですか」
「女子の連絡先、台本に挟んどけよ! 次来た時のために!!」
「挟みません!!!」
「けしからん!!!!」
旋律が最後の一音まで鳴り切るとき——
峰田くんが、最高の笑顔で——消えていった。
スタジオに、グレープの消しゴムが一個だけ残っていた。
(……忘れていったのか。それとも、わざと置いていったのか)
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目が覚めた。
朝の七時。
布団の中で、徹郎は——笑っていた。
「けしからん!!」という声が、頭の中にあった。
(……最低だ)
(本当に最低な男だった)
(でも——今の俺には、このくらいバカバカしい、地面に近い言葉が必要だったのかもしれない)
「助けてもらって嬉しいって思われたなら、その時点で勝ち」
「動機なんて後付けでいいんだよ。動いたもん勝ちなんだから」
(正論じゃない。哲学でもない。欲望からの言葉だ)
(でも——それが、一番わかりやすくて、一番軽くて、一番地面に近かった)
(ありがとう、峰田くん)
(君のおかげで、ようやく空気が吸えるようになった)
攻略ノートを開いた。
「峰田実(15歳・一年):今夜のゲスト。開幕からカメラのレンズに顔を近づけていた——理由は言わなくていい。扉を蹴り開けようとしたが届かなかった——ジャンプして開けた。グレープの消しゴムを忘れていった(あるいは置いていった)。口調が元気すぎて最初は面食らったが、喋っているうちに慣れた。『ヒーローだからかっこいいんじゃねぇ、かっこいいからヒーローなんだ』——これが今夜の核心。モテたいという不純な動機からスタートして、その先に本物の気づきに辿り着いた。危険度:低(守秘義務に関してはうるさかった)」
ペンを止めた。
最後の一行を書いた。
「※スタジオにグレープの消しゴムが残っていた。拾って持って帰った。理由は特にない。でも——捨てたくなかった。この番組に来た人たちが残していったものは、全部大切だ。内緒」
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その日の学校で、廊下を歩いていたら後輩が下を向いて歩いていた。
重そうな顔をしていた。
徹郎は少しだけ迷って——「おはよう」と声をかけた。
後輩が、顔を上げた。
「……おはようございます」
それだけだった。
でも——少しだけ、顔が上がった。
(……動いたもん勝ち)
(それだけでいい)
夜になれば、また鳴る。
♪ ルールル ルルル ルールル ルルル……♪
明日のゲストは誰だろう。
それだけが、黒柳徹郎の仕事だ。
第32話、峰田実回でした。「動機なんて後付けでいいんだよ、動いたもん勝ちなんだから」——この言葉を欲望の塊みたいな顔で言う人間が書きたかった。だからこそ刺さる。かっこいいことを言おうとして言う人間の言葉より、欲望に正直な人間がぽろりと漏らした言葉の方が、時として本物だと思うから。
「ヒーローだからかっこいいんじゃねぇ、かっこいいからヒーローなんだ」——これが峰田実という人間の核心でした。
グレープの消しゴム、大切にします。
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