スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
陰謀燻らす一服の薫り
ルシウス・マルフォイは上機嫌だった。あのにっくきアルバス・ダンブルドアを、ホグワーツから追放出来たのだから。いや、一応まだ停職だが、それも時間の問題だ。
ルシウスは自身のマルフォイ邸を、大股で
「ごごご主人さま……。お客様が、おおお応接室でお待ちでございますです……」
「分かっている。だからこうして向かっている。ドビー、お前は下がっていろ」
「は、はいぃ……」
そう、ルシウスは今、応接室に向かっている。彼の比較的新しい同胞、ゴーント家現当主、マウリシオ・ゴーントを歓待するために。
ルシウスが応接室の扉を開けると、室内の立派なソファにマウリシオが座って待っていた。重厚な革張りのソファに深く腰を下ろし、片手を肘掛けに置いている。マウリシオはルシウスに気付くと、エメラルドグリーンの鋭い瞳でルシウスを
思いのほか冷たい目線を向けられて、ルシウスは一瞬面食らう。
「──やあ、マウリシオ。来てくれてありがとう。クリスマスには会えなかったから嬉しいよ」
「ああ、ルシウス。お招きありがとう、と言いたいところだが……」
やはり何か不満があるらしい。ルシウスは脳内で何か不備があったかと考えた。ドビーが何か
「あー、マウリシオ。一旦シガールームへ移動しないか? 良い葉巻があるんだ」
「……いいだろう」
2人はルシウスご自慢のシガールームへと移動した。そこは黒檀の壁に囲まれた部屋だった。重厚な革張りの椅子、整然と並んだクリスタルのデカンタ、天井近くに漂う淡い煙の層。空気が重く、静かだ。
ルシウスはマウリシオを上座のソファへ薦めると、机に置いてあった銀のケースを手に取った。そのケースを指先で開くと、丁寧に一本の葉巻を取り出す。
「
「……ありがたく」
2人はシガーカッターで葉巻の先を丁寧に切り取ると、杖先で火をつけた。途端に
先程までの硬い表情が、僅かに和らいだ気がしなくもない。ルシウスは口の端を薄く釣り上げた。
「……それで? やっと説明してくれる気になったのか?」
「説明、とは?」
「決まっている。ホグワーツの石化事件のことだ。事件は解決したのか?」
「何故あなたがそれを知っている?」
「クリスマス休暇に帰ってきた息子から聞いたのだ」
「……なるほど。まぁ、それ関連だ」
マウリシオの一瞬緩んだはずの目付きが再度鋭くなる。
「この前君から聞いた時は、50年振りに『秘密の部屋』が開かれたということしか言っていなかったと思うが?」
「確かにそうだ。しかし状況はますます悪くなるばかりだ」
ルシウスは葉巻を一度口に含んでから続けた。
「そこで私たち理事会はダンブルドアを追放することに決めたのだよ」
ルシウスはもはや表情を取り繕えず、口元を冷たく歪めてしまった。マウリシオが
「ダンブルドアを? 問題解決から更に遠くなるのでは? 確かにもうすぐ学期が終わってしまうのにまだ解決出来ていないのは問題だが、生徒たちは不安がるのでは?」
「確かにそれもそうだ。なので早急に新しい校長が必要なのだよ」
マウリシオが頷く。魔法学校に校長がいないなどありえない。今頃息子は不安そうにしているのでは? ……いやしていないか。マウリシオは、すんっとした顔になった。
「それで新しい校長にはあなたがどうかと思ってね」
「……私が?」
「そう。ドラコなどはセブルス──ああ、魔法薬学教授のセブルス・スネイプだ。スリザリンの寮監でもある──を推薦したいようだが、私の意見は違う」
ルシウスは葉巻の灰をクリスタルの灰皿に落とした。
「確かに彼は良い人間だ。能力も申し分ない。学生時代には可愛がってやったものだよ。……しかし、誠に残念なことに彼は半純血なのだ」
「……」
「母親はそこそこ名門の出だが、父親は貧相なマグルだったらしい。半分『穢れた血』だったが、まぁ同じスリザリンのよしみで多少面倒を見たのさ」
ルシウスがペラペラと話している間、マウリシオは無表情を保っている。何を考えているのか分かりにくいが、そもそも貴族とはそういうものだ。
「……せっかくのお誘いだが、校長職を務めるにはまだ私は若輩者だ。しかも仕事も忙しい。色々管理せねばならないのだ」
「ふむ。いくつだったかな?」
「今年で41歳になる」
「……私より2歳上か。確かに少し若いか……」
ルシウスは葉巻を唇に挟み、考え込むように煙を吐き出した。
「ではあなたのお父上、カシュートス様はどうだ?」
「父上か? 何故」
「あなたのお父上は政務の手腕に、古式魔術と結界運用にも通じておられるとか。加えて、カシュートス様の母君はかの高貴なる家門の出だと言うではないか。そんな方に英国魔法界に来ていただけたら、
ルシウスは意味深な笑みを浮かべた。マウリシオは、自身の家系のことを深く調べたらしいルシウスに、内心で警戒を強めた。開心術の気配は感じなかったが、最初から薄く掛けていた閉心術をまた薄く1枚分強化する。
「……父上がドイツを出るのは、向こう側からストップがかかる可能性が高い。しかも母上と離れることはないだろう。……まぁ一応打診してみるだけならしてもいいが。それより私を理事会に入れる気はないか?」
「あなたを? 校長職は蹴るのにか?」
「ふん。常勤の校長にはなれないが、それでも最近のホグワーツは目に余る。理事にでもならないと安心出来ん」
「……それには同意するが、残念ながら理事会の席は今のところ空いていないのだよ。定員12席でね」
ルシウスが溜息混じりに葉巻の煙を吐いた。マウリシオも同様にした。部屋の空気が少し重くなったように感じる。白い煙が天井に向かって立ち上っていく。
「……なるほど。残念だが仕方ないな。それより最近の魔法省の内実はどうなんだ」
「ああ、それなら──」
2人は気を取り直したように、雑談混じりに情報交換を行ったのだった。その内容を知っているのは、1人のみすぼらしい屋敷しもべ妖精だけだった。
◆ ◆ ◆
ハーマイオニー・グレンジャーとペネロピー・クリアウォーターの石化事件の翌日、なんとダンブルドアが停職にあったと聞いた。セリクス自身は特にどうとも思わなかったが、他の生徒はそうではなかったようだった。誰も彼もが蒼白い顔をして、ヒソヒソと噂話ばかりしている。廊下のあちこちで不安げな囁きが響いていた。
その中でもまだ余裕があるのは、スリザリン生たちだった。特にドラコなどは、得意満面の顔で堂々と廊下を闊歩している。まだ成長期のきていない小柄なドラコが、横にも縦にも大きいクラッブとゴイルを引き連れて歩く様はなんとも言えない心地にさせた。
「ねぇ、僕思ったんだけど、継承者ってやっぱりマルフォイ君じゃない?」
コーウェンがポツリと呟いた。セリクスは腕を組んで考える。銀の髪が僅かに揺れた。
「ふむ。マルフォイ家は元はフランス由来で、スリザリンの血筋ではないが。だが確かに被害者の全員が死亡ではなく石化しているのは、ドラコの性格を考えれば
「じゃあやっぱり……?」
「しかしドラコではない」
「……え?」
コーウェンはセリクスの横顔を見上げた。仲間意識があって犯人から除外しているのか? コーウェンは一瞬そう考えた。
「初めての被害者、ミセス・ノリスが石化されたのはハロウィン・パーティーの間だ。ドラコはスリザリンテーブルにいた。グレンジャー嬢が被害に遭った時はどうだ? 観客席にいなかったか?」
「……そういえばいたや」
「ドラコにはアリバイがある」
「なるほど」
ハロウィン・パーティーでは、ほとんどの生徒が参加していた。ポッターたちは不参加だったが、どうやらゴーストのパーティーに参加していたらしい。ゴーストたちがアリバイを証明していた。セリクスは最初聞いた時、随分と酔狂だなと思った記憶がある。
「また考え直しかぁ」
「早く見つけないと大変なことになる」
「本当だよ……」
2人は深刻な顔で考え込むのであった。
ちなみに森番ハグリッドが前回に引き続き、今回の容疑者としてアズカバンへ収監されたらしいが、セリクス始めスリザリン生は一笑に付した。あの木偶の坊がスリザリンの継承者の訳がないからだ。
◆ ◆ ◆
その夜、セリクスは机に向かって自身の日記帳を出していた。愛用の万年筆で、思い付いたことをどんどんと羅列していく。相変わらず星空のようなラメが煌めいている。ペン先が羊皮紙を滑る音だけが静かな部屋に響く。
・女子トイレ前、ミセス・ノリス、水の反射
・秘密の部屋の継承者
・50年振りに開かれた
・コリン・クリービー
・ジャスティン・フィンチ=フレッチリー
・ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン
・ハーマイオニー・グレンジャー
・ペネロピー・クリアウォーター
・図書室前の廊下、手鏡の反射
・バジリスク、蜘蛛が逃げる
セリクスはそこまで書いてから、深夜に見たゴーストを思い浮かべた。
・第1の現場の女子トイレ、嘆きのマートル
・ノートを投げ込まれた
・ポッターの持っていた古いノート
「……ノート。黒いノート──」
・古いノート。T.M.リドル
「リドル……。知らないはずだが……。でもどこかで……?」
セリクスは記憶を
◆ ◆ ◆
それからしばらくの間は、表面上は平和な学校生活だった。校長がいなくても、とりあえずはなんとかなるらしい。セリクスの周りは、いつにも増して騒がしい。クィディッチの練習が出来ないので、みんな暇なのだ。
『魔法薬学』の授業終わり、スネイプ教授が引率して次の『変身術』の教室に向かう途中、セリクスはまた日記帳を取り出して歩きながら読み返していた。行儀が悪いのは自覚していたが、どうにも思い出せないのが気持ち悪いのだ。
「リドル。リドル……」
「お前なに見てんの? ノート?」
興味を惹かれたらしいモンタギューが、ひょいっと顔を寄せてノートを覗き込んできた。セリクスの眉が吊り上がったので、周りの生徒たちはビクッと一歩ずつ離れた。
「見るな」
「T.M.リドル? こいつがどうかしたのか? 随分昔の卒業生だろ?」
「──知っているのか?」
セリクスの瞳がギラっと不気味に輝いたので、さすがのモンタギューも一瞬鳥肌が立った。しかし圧を掛けてくるセリクスに負けて、知っていることを話すことにした。
「えーと、俺知ってるぞ、そいつのこと。トロフィー室に飾ってあった、なんかのカップだか盾だかに名前が書いてあった」
モンタギューは記憶を
「去年、罰則でトロフィー室の掃除させられたんだよな、しかもマグル式でよ……。めちゃくちゃ大変だったぜ」
その時のことを思い出したのか、げんなりした顔で舌を出すモンタギュー。セリクスはもうモンタギューの顔を見ていなかったが。
「トロフィー室。そうか」
セリクスはやっと思い出せた。1年生のクリスマス休暇でホグワーツに1人残った時に、探索した際に見たのだった。セリクスはその時その後ろにあった封印された引き出しに意識が向いていて、表彰カップや盾の名前になんて注意を払っていなかったのだ。
ここ何日かのモヤモヤが、一瞬すっと消えたセリクスだった。しかし大事なのはこの先だ。エメラルドの瞳に決意の光が宿る。セリクスはその日の深夜、また寮を抜け出してトロフィー室へ潜入することにしたのだった。
【あとがき】
●セリクスのお祖父様はご存命です。
セリクスの父方の祖父は、カシュートス・ゴーントといいます。オミニス・ゴーントの嫡男です。オミニスはかなりの晩婚で、子供はカシュートス1人だけでした。オミニスの妻はドイツ人の魔女で、高貴な家柄の出身です。彼女の実家は、ドイツに亡命したオミニスを匿ってくれた家でもあります。設定は細かく決めていますが、いつかは出せるかもしれないし、このままお蔵入りかもしれません。書けるといいなぁ~。誰か燃料くださいスライディング =͟͟͞ _|\○_土下座
ちなみにカシュートスの名前の意味は、custos(守護者・番人)からきています。まぁ、名付ける時、カシウス・ワリントンの響きから取ったんですけどね(笑)
●あくまでも独自設定ですので!
作中ではルシウスがスネイプを見下していますが、原作のルシウスが実際にスネイプをどう思っていたのかは、正直よく分かりません。葉巻ぷかぷかさせているのも独自設定です。でも似合いそうですよね!
●トロフィー室の掃除という罰則
魔法を使わせず、マグル式に掃除させる罰則は、フィルチがよく課しそうじゃないですか? 原作でもロンがやらされていますよね。トロフィー室の掃除も、定番の罰則なのかもしれません。