スノーホワイトは反射的に身体を起こした。
すぐさま手元の武器を確かめようとするが、いつもそこにあるはずの相棒の感触がない。
そこで初めて、周囲へと目を向けた。
柔らかな光が満ちるテントの中。
外からは風の音に混じり、鳥の声がかすかに聞こえてくる。
寝具は、身体を包み込むように柔らかかった。
ふと、もう一方のベッドに目を留めた。
そちらの寝具もきちんと整えられていた。
ベッドから降りると、素足がふかふかのラグに触れた。
立ち上がると、手を握っては開き、次いで肩を軽く回した。
身体に違和感はない。
それどころか、いつになく調子がいい。
ぎゅるる……
さっそく空腹を訴える腹に手を添え、スノーホワイトはテントの入口へと向かった。
テントを出ると、青空と陽光がスノーホワイトを出迎えた。
降り注ぐ陽光の下、露わになった肩や腕、引き締まった腹部が目を引く。
黒のタンクトップの胸元ではドッグタグが揺れている。白い縁取りの入った黒のドルフィンショーツ。
足元は黒のクロックス。
昨夜、寝間着は何でもいいと答えたら、リヴェラがこれを用意したのだった。
配信終了後、リヴェラの提案で廃公園へと移動した一行は、湖畔近くの広々とした芝生にキャンプ地を設けていた。
一行が休んでいたのは、キャビン型のテント。
その近くにはアウトドアテーブルが置かれ、少し離れた場所には調理器具を並べたキッチンがある。
周囲には、かつて公園の一部だった遊歩道や、伸び放題になった草木が見える。
荒廃した地上の一角でありながら、そこには穏やかな空気が流れていた。
「おはよ☆ スノー☆」
銀色の髪を手櫛でざっくりと三つ編みにし、胸元へ垂らしている。編み込まれた髪の隙間からは、サンセットオレンジのインナーカラーが覗いていた。
アウターはオーバーサイズのギンガムチェックのシャツ。片方の肩を出し、裾は雑に結んでいる。インナーの白いタンクトップは、豊かな胸元にぴったりと沿っていた。
褐色の肌に、引き締まった腰と薄く浮かぶ腹筋。その下にはダメージデニムのショートパンツを穿き、足元はスニーカー。
そんなラフな姿のリヴェラが、木目調のアウトドアテーブルのそばに座っていた。
「おはよう。……何をしているんだ?」
柔らかな芝生を踏みしめ、スノーホワイトはリヴェラのいるテーブルへと歩み寄った。
天板の上には、弾倉とデコレーション用の道具が広がっている。
「それは……セブンスドワーフⅠのものか」
「そそ☆ ヒマだったから、スノーに貰った空の弾倉デコってた☆ どーよ?☆ 可愛く盛れてるっしょ!☆」
弾倉の左右の側面には、ピンクルビーの丸い宝石が輝いていた。
その周囲にも小粒のラインストーンが散りばめられ、さながら宝石箱のような仕上がりだ。
弾倉を一瞥し、スノーホワイトは眉をひそめた。
「よくわからん」
身も蓋もない返答を聞き流したリヴェラのピンクルビーの瞳が、きらりと輝いた。
その視線は、スノーホワイトの引き締まった腹筋へと吸い寄せられていく。
「え、てか待って☆ スノーの腹筋すげー!☆ おヘソもキレイだし☆ ……触っていい?☆」
「やめろ。……それより、水を貰えないか」
「オッケー☆」
二人はテーブルを離れ、近くのアウトドアキッチンへ向かった。
丈夫な金属フレームに支えられた調理台には、ツーバーナーコンロや調理器具が並んでいた。
その脇には給水タンクと小さなシンクが備え付けられている。
リヴェラは、調理台の隅に置かれた黒い箱型のポータブル冷蔵庫に近づき、慣れた手つきで蓋を開けた。
その内側に広がっていたピンクルビーの光の渦に腕を差し入れ、水差しを取り出す。
食器棚からガラスコップを取り出し、水を注ぐ。
「はい、どーぞ☆」
差し出されたコップを受け取り、スノーホワイトは水を口にした。
ひんやりとした水が喉を通り、乾いた感覚を潤していく。
瞬く間に飲み干すと、無言でリヴェラへコップを差し出す。
「はいはい☆」
リヴェラは、心得たと言わんばかりにおかわりを注ぐ。
一口、二口とコップを傾けると、スノーホワイトは小さく息をついた。
「……リヴェラ。聞きたいことがある」
琥珀色の静かな瞳が、ピンクルビーの瞳を見つめた。
「起きてから妙に体の調子がいい。私に、何かしたのか」
「んー?☆ よく寝たからじゃね?☆」
何でもないようにリヴェラは笑った。
その様子にスノーホワイトの眉が僅かに歪んだ。
「馬鹿を言うな。それだけで説明がつくはずが……」
「や、美味しいもの食べて、たっぷり寝ればそうなるって☆ てか、今までまともに寝れたことあったん?☆」
「………」
言葉に詰まったスノーホワイトを見て、リヴェラはひょいと話題を変えた。
「それよりお腹減ってない?☆ パンとお米選べるけど、どっちがいい?☆」
まだ納得していないスノーホワイトだったが、リヴェラの言葉で思い出したように、腹に手を添え、ポツリと言った。
「……腹持ちがいい方を頼む」
「なら、お米だね☆ 用意するから、ちょい待ってて☆」
そう言うと、リヴェラは袖を捲り、動き始めた。
芝生の広場に、食事を用意する賑やかな音が響く。
リヴェラの様子を少しの間眺めていたスノーホワイトは、小さく息をつき、歩き出した。
時折コップを傾けて水を飲みながら、ゆったりとした足取りで広場を横切る。
やがて、湖畔に辿り着いた。
ひしゃげた柵の先に広がる水面。
遠くに見える木々。
さらに向こうに広がる廃墟のビル群。
そよ風がスノーホワイトの頬を撫でていく。
【……おや】
ぼんやりと景色を眺めていたスノーホワイトに、頭上から声が掛かった。
声のした方へ目を向けると、枝木にちょこんと腰かけたちぃエニがいた。
白い大きな角帽と、長いプラチナブロンドの髪。暗褐色肌の小さな身体を包む白いドレスが木漏れ日の中で揺れ、まるで枝に宿る妖精のようだった。
ちぃエニは、同じ枝にいたリスに小さく手を振ると、枝から身を離した。
ふわり。
長い髪が広がり、白いミニドレスの裾がひらりと舞う。
小さな身体は風に乗るように、スノーホワイトの顔の高さまで降りてきた。
【その様子ですと、よく休めたようですね。もう昼前ですよ】
「……そうか」
スノーホワイトは視線を湖に戻した。
「……これほど休めたのは初めてだ」
呟くように言うと、コップを傾けて水を飲む。
また、そよ風が二人の間を通り過ぎていった。
静かに湖を眺めるスノーホワイトにならうように、ちぃエニも眺めようとして――視線が止まった。
【……その、肌の色は……】
「ん?これか」
外套を纏っていた時と違い、今の薄着だからこそ判る僅かな差異。
スノーホワイトの身体に刻まれた大小様々な傷。
そして、四肢の肌色が「違う」。
「昔、戦いで失った部分だ。仲間のニケから使えるものを貰った」
「……ラプチャーの部品も使っている」
淡々と語るスノーホワイト。
告げられた内容に絶句するちぃエニ。
「化け物を倒すために……私も化け物に近づいている」
己の手を見つめ、握りしめる彼女に、ちぃエニは戸惑いながらも口を開こうとして――。
ぐううぅぅぅ………
豪快に響き渡った腹の音に、ちぃエニの高度が、かくんっと下がった。
「戻るか。腹が減った」
【………はい】
スノーホワイトは腹の虫を宥めるように、コップに残った水を飲み干すと踵を返した。
ずれた角帽を直すと、ちぃエニは後を追いかけた。
「……そういえば、お前たちは食事を済ませたのか?」
【はい。今朝は、フィリーチーズステーキサンドをいただきました】
「フィリー…… ステーキだと?」
【……想像しているような、分厚い肉ではないですよ? 炒めた薄切りの牛肉とたまねぎにチーズ、グリルしたパプリカなどをパンに挟んだものです】
「肉とパンとチーズか……。美味しそうだ」
スノーホワイトは、目の前の食卓を満足げに眺めていた。
木目調のアウトドアテーブルには、畳を思わせる編み目模様のランチョンマットが敷かれていた。
その上には、和風の花柄が入った白磁の大きな丼に、どっさりと盛られた牛丼。
つやのある煮汁をまとった薄切りの牛肉が、ご飯を覆い隠すほどに重なっている。
隣には、普通サイズのお椀に入った味噌汁。
わかめと、細切りの油揚げが揺蕩っている。
ランチョンマットの端には、香の物が小皿で添えられている。
リヴェラが、冷えたほうじ茶を注いだ湯呑をスノーホワイトの前に置く。
「本日のブランチ、ドカ盛り牛丼でござ~い☆ ささ、おあがりよ☆」
「いただきます」
挨拶を終えるや否や、スノーホワイトは箸を手に取った。
丼を持ち上げ、たっぷりと牛肉をすくい、ご飯ごと一気に頬張る。
「――美味い」
その一言を境に、スノーホワイトの箸が勢いを増した。
見る間に大盛りの牛丼が吸い込まれていく。
【相変わらず凄まじいですね。信じられません】
「見てて気持ちがいいよね☆」
同じテーブルに座り、リヴェラとちぃエニはスノーホワイトの食べっぷりを眺めていた。
笑顔のリヴェラの横で、ちぃエニは呆れ顔だ。
程なくして、スノーホワイトが丼を置く。
中には米粒すら残っていない。
「……昨夜の分厚い肉も良かったが、こういう薄い肉も良いな。違った満足感がある」
「牛丼、気に入った?☆」
「ああ。おかわりをくれ」
「あいよー☆」
空になった丼をスノーホワイトから受け取り、リヴェラはキッチンに向かう。
その間に、スノーホワイトは味噌汁が入ったお椀を手に取り、一口啜った。
「…このスープも美味いな。具も食感が面白い」
【味噌汁と言います。わかめと言う海藻と油揚げの組み合わせは、アークでも定番だそうです】
「そうなのか。薄い泥水のようだが、これはこれで気に入った」
【……褒めているのですよね?】
スノーホワイトの独特な食レポが終わったタイミングで、リヴェラが戻ってきた。
「おかわりお待ち☆ あと、卵忘れてたわ☆」
リヴェラは牛丼を置くと、手にしていた生卵を掲げた。その艶やかな褐色の殻が、スノーホワイトの目に留まる。
「……卵?」
「そそ☆ あーしのオススメ!☆」
「ふむ。頼む」
「りょ☆ 前、失礼しま~す☆」
返事を聞いたリヴェラは、慣れた手つきで卵を割り、牛丼の上へと落とした。
濃いオレンジ色の黄身が、甘辛いタレをまとった牛肉の上で艶めく。
スノーホワイトは箸先でそっと崩した。
鮮やかな色が肉と米の間へ広がり、牛肉を包み込んで白い米に絡んでいく。
「……ほう」
スノーホワイトは興味深げに眺めた後、黄身の絡んだ肉と米を箸で掬い、口へ運ぶ。
「――!」
一瞬、動きが止まった。
次の瞬間には、猛然と箸が動き始めていた。
【……お気に召したようですね】
「っぱコレよ☆ 卵しか勝たん☆」
【ですが、卵の生食は衛生環境に注意を……】
ちぃエニがなおも注意を続けようとするが、スノーホワイトは、黙々と牛丼を掻き込んでいく。
【……】
ちぃエニは不満げに口を閉ざした。
「よちよち☆」
リヴェラは苦笑しながら、ちぃエニの頭を撫でる。
ぺちっ。
「いってwww☆ ちょ、叩くことなくない?☆」
リヴェラが額をさすりながら、ケラケラと笑う。ぷいっとそっぽを向くちぃエニ。
その後も、食卓では他愛のない会話と笑い声がしばらく続いた。
「……名残惜しいが、控えめにしておこう。出発の予定があるからな」
スノーホワイトは、空になった丼をしばし見つめていた。
【大盛り9杯、3kg相当を平らげて、よく言いますね】
「昨日のカレーよりは少ない」
【比較対象がおかしいです】
呆れた声を漏らすちぃエニ。
一方、リヴェラはスノーホワイトの後ろに立ち、その髪を丁寧に梳かしていた。
鼻歌交じりに、銀色のヘアブラシを白い髪の間にゆっくりと滑らせていく。
指先で毛束を整えながら、絡まりがないか確かめるように、毛先まで慎重に梳いていった。
スノーホワイトは特に気にする様子もなく、湯呑を傾けてほうじ茶を啜る。
食事を終えたばかりのキャンプサイトには、穏やかな風が吹いていた。
【……さて、話を戻します】
ひとつ息をつき、ちぃエニは手元にホログラムディスプレイを展開する。
【スノーホワイト。こちらが武装の修復状況です】
空中に浮かび上がった画面には、彼女の相棒――セブンスドワーフの状態と、修復の進捗が一覧で表示されていた。
【必要な部品を補充したことで、各部の状態は大幅に改善しています。詳細はこちらをご確認ください】
「ふむ……」
スノーホワイトは湯呑を置き、ホログラムディスプレイに目を向けた。
自ら修復を進めた仕上がりを確かめるように、表示されたデータをひとつずつ確認していく。
「……問題ないな」
最後の項目まで確認し終え、スノーホワイトは静かに息をついた。
かつては七つのうち、使えるものが限られていたセブンスドワーフ。
それが今では――
「まさか、万全の状態で使えるようになるとはな」
【調達した部品が役に立ったようで何よりです】
「ああ。……助かった、ちび助」
【ちぃエニです】
短く答え、スノーホワイトはホログラムを閉じた。
ホログラムディスプレイが消えるのと、リヴェラがヘアブラシを置くのはほぼ同時だった。
「はい、お手入れおしまい☆ 元がイイんだから、ケアしないと勿体ないよー?☆」
「そんなヒマがあれば、一匹でも多くラプチャーを倒している。……だが、ありがとう」
スノーホワイトは髪に軽く手を通してから、立ち上がった。
その様子を見て、リヴェラもキャンプの周囲へと目を向ける。
「んじゃ、そろそろ出発の準備しますか☆」
テントに入っていくスノーホワイト。
リヴェラとちぃエニは、手分けしてキャンプ道具を
少しして、いつもの白い外套を纏ったスノーホワイトが戻ってきた。
アサルトライフルを携え、腰の後ろには対艦ライフルを吊るし、背中には巨大な砲台同士が組み合わさったような装備を背負っている。
涼しい顔で立つスノーホワイトに、リヴェラは片づけの手を止めずに声をかけた。
「スノーのそれ、重くない?☆ どんくらいあんの?☆」
「7トンほどだ。動きに支障はない」
「ムキムキで草~☆ ……昔っから力持ちだよねぇ」
そこへ、小さな両手でコップを持ったちぃエニがやってくる。
【リヴェラ、これで最後です。……食欲もですが、ボディスペックも異常ですね】
「サンキュー☆ そういえば、ちぃエニはキャンプ楽しかった?☆」
【はい。それに、多くの野生動物を観察できました】
「あーね☆ あーしも、ここが天然の動物園になってるとは思わなかったわ☆」
リヴェラとちぃエニは、会話を続けながら、佇むスノーホワイトの元へ寄っていく。
三人は、同じ歩調で廃公園の出口へ向かった。
廃公園を抜け、街中へ。
頭上を覆う枝葉。
ひび割れた道路を押し上げる草木。建物の壁面を這い、窓を覆い隠す蔦。
道端には横転した車が転がり、錆びた街灯には鳥が巣を作っていた。
朽ちたラプチャーの残骸の陰では、小動物がこちらの様子を窺っている。
かつて人々の暮らしを支えていた人工物は、長い年月を経て、自然に呑み込まれつつあった。
ちぃエニは小さな身体を浮かせながら、周囲の景色を興味深そうに見回した。
【この辺りはデパート周辺と違い、自然の侵食がかなり進んでいるようですね】
「ねー☆ 道路とか草ボーボーだし、建物もツタまみれじゃんね☆」
【それに、動物たちの姿も見られます。廃公園が、周辺の動物たちの生息域の一部になっているのかもしれません】
リヴェラは街灯の上の巣を見上げ、それから道路脇を駆け抜けていく小動物へと視線を移した。
「人間がいなくなっても、こうやって暮らしてんの、なんかいいよね☆」
【……人類にとっては、複雑な光景かもしれませんが】
「それ人間の都合~☆ てか、配信で見せればよかったかな☆ タレ友のみんな大興奮じゃね?☆」
【今からでも配信準備できますが?】
「気分じゃないんでパース☆ それに、あーしらだけの景色ってのもオツじゃん?☆」
リヴェラは両手を頭の後ろで組み、歩調に合わせて三つ編みを揺らしながら歩いていた。
【それにしても、昨日リヴェラが廃公園へ向かうと言い出したときは、どうなることかと思いましたが】
「えー?☆ なんでよ☆」
【野営地として選ぶには、少々意外な場所でしたので】
「マザーホエールからダイブしたときに見つけたんよ☆ ちょっと『イジった』けど、動物の棲家になってたのは意外だったわー☆ それに、スノーの武器を修理する場所も必要っしょ?☆」
【なるほど。それで、あの場所を選んだのですね】
「広いし、周りに邪魔なもんもなかったし、ちょうどよくね?☆」
【結果的には、合理的な選択だったと言えますね】
「っしょー?☆ スノーもそう思わん?☆」
「そうだな」
スノーホワイトは淡々と答え、前へと視線を向けた。
廃墟も、草木に覆われた道路も、彼女にとっては見慣れた地上の風景だ。
いちいち足を止めることもなく、進む先へと視線を向けている。
ふと、その視界の端に折れた標識が映った。
「……そういえば、ひとつ聞きたいことがある」
「んー?☆ なになに?☆」
「お前たちに会う前に、真新しい墓標を見た。あれは、お前たちが用意したものなのか?」
「あー、あれね!☆ そそ、あーしがやったんよ☆」
【デパートの総支配人のものですね】
二人の返答に、スノーホワイトは視線を向けた。
「……なぜだ?」
「デパートの商品、全部譲って貰ったお礼☆」
【遺体は最上階の支配人室、その隠し金庫内で発見しました】
「隠し金庫だと?」
「あーね☆ 狭くて暗いトコよりかマシかなって思ってさ☆」
リヴェラは、さも当然のことのように答えた。
スノーホワイトはしばらく黙っていた。
「……そうか」
それだけ答えると、再び前へと視線を戻した。
「そうだ!☆」
今度はリヴェラが思い出したように手を合わせ、
「スノー、手出して☆」
「なんだ?……食べ物か?」
スノーホワイトは素直に手を差し出した。
リヴェラは得意げに、デコ弾倉をその手に載せる。スノーホワイトが起きるまで、せっせと作業していたものだ。
「これあげるっ!☆ オチカヅキの印☆」
それを確認したスノーホワイトは、無言で後ろ手に放り捨てた。そして何事もなかったかのように、足早に歩き出す。
デコ弾倉は、蓋の外れたマンホールへと
「――あーしの超大作がぁぁぁ!?」
リヴェラは両手を頬に当て、目を見開いた。
「ちょちょちょ、スノー!? 待って待って、今のはさすがにひどくね!?」
ショックのあまり、リヴェラは先を行くスノーホワイトに駆け寄っていく。
「ゴミはいらない」
「ゴミぃぃぃ!!?」
【……いったい、何をしているのですか】
ちぃエニは小さく息をつき、騒がしい二人の後を追った。
廃都市の境界が、自然にほどけていく場所。
かつて都市高速のランプ、あるいはインターチェンジだったのだろう。
ひび割れた路面はあちこちで陥没し、剥がれたアスファルトの隙間から草木が伸びている。
錆びついたガードレールは歪み、折れた道路標識が路肩に転がっていた。
かつて車が行き交った道路は、草に覆われながら荒野の先へと伸びていた。
三人は、その分かれ道で足を止める。
【分かれ道ですね】
「そだね☆ やー、廃都市見つけて寄ってみたけど、大正解だったわ☆ スノーにも会えたし☆」
「私も、装備の修理と補充に、美味いものまで食べられるとは思っていなかった」
「でしょー☆」
リヴェラは満足げに笑う。けれど、ふと思い出したようにスノーホワイトへ顔を向けた。
「ところでさー☆
腰に片手を当て、首を傾げる。銀髪の三つ編みが肩口で揺れた。
「……聞けば、素直に教えるのか?」
スノーホワイトは、目の前のコイツがヘレティックだったことを改めて思い出したようだった。
リヴェラはニヤリと笑うと、何も言わずに人差し指を上へ向けた。
「……?」
初めは不思議そうにしていたスノーホワイトだったが、やがて何かに気づいたように空を見上げた。
「……そういうことか。どうりで見つからないわけだ」
空を見上げたまま、スノーホワイトはしばし考え込んだ。
「あ☆ 多分三年くらいで、エデンの近くに来るんじゃね?☆」
スノーホワイトは、ゆっくりとリヴェラへ視線を戻した。
その顔には、隠す気もない呆れが浮かんでいた。
「……私は、お前がわからない」
「なにその顔www☆ ウケるんだけどwww☆」
リヴェラはけらけらと笑った。
ひとしきり笑うと、改めて口を開いた。
「んで、スノーはこれからどこ行くの?☆」
「このまま、北を目指すつもりだ」
「そっか☆じゃ、チャッターくんに会ったらよろしく言っといて☆……それと、『希望』もね☆」
「……私の目指す先に、トーカティブが居るように聞こえるのだが。それに、希望とは何だ?」
聞き返すスノーホワイトに、リヴェラは答えず、ちぃエニへと顔を向けた。
「ちぃエニ、これ☆」
リヴェラは
受け取ったちぃエニは、ふわりとスノーホワイトに近寄り、紙袋を差し出す。
【フィリーチーズステーキサンドです。道中に召し上がってください】
「スノーの朝ごはんの分、取っといた☆」
「! あれか。ありがとう、美味しくいただこう」
スノーホワイトは疑問も忘れたように、両手で力強く紙袋を受け取る。
「あとこれもね☆」
続いてリヴェラは、大きめのカーキ色のダッフルバッグを取り出し、スノーホワイトへと渡した。
【……少々、嵩張りませんか?】
「スノーは力持ちだから平気でしょ☆ ね、スノー?☆」
「これくらいなら問題ない」
スノーホワイトは何気ない様子でバッグを受け取った。
「これは何だ?」
「ニケ用と人間用の回復アンプル☆ それと、人間用の発熱マント☆」
「人間用……?」
その意図がわからず、リヴェラへ視線を戻した。
だが、笑顔で親指を立てているだけだった。
「……まぁ、いい。世話になったな、リヴェラ。ちび助も」
「うい☆ あーしも楽しかったぜ~☆」
【……もういいです。道中お気をつけて、スノーホワイト】
スノーホワイトは二人に背を向け、ダッフルバッグを携えて歩き出す。
遠ざかっていくスノーホワイトの背中を見送りながら、リヴェラがぽつりと呟いた。
「人類の為に戦うゴッデス部隊に感謝を、か……」
それから、ぐっと両腕を上げて伸びをする。
「んーっ☆ さて、お昼どーしよっかな☆ 牛丼でも食べる?☆」
リヴェラはそう言いながら、分かれ道を歩きだした。
【……リヴェラ】
「んー?☆」
ちぃエニも後を追いながら、先ほどの会話を思い返す。
【まさかとは思いますが……先ほど、スノーホワイトに伝えたのは】
「ラプチャークイーンの居場所と、降下地点だけど?☆」
【…………】
ちぃエニの動きが止まった。
【……い、今の話は本当なのですか?】
「おん☆ あ、牛丼なら卵も欲しいよね☆」
リヴェラは振り返り、後ろ向きに歩きながら、空中で固まったちぃエニに笑いかけた。
【それは是非。……ではなく!至急、本体に伝えなければ……!】
「ぶはwww☆ 慌てるちぃエニかわよwww☆」
重大な情報を前に、無表情のまま忙しなく動き回るちぃエニをよそに、リヴェラは再び前を向いて歩いていく。
広がる青空を見上げ、ふと思い出したように呟いた。
「いやー、配信でパイセンたち紹介したら、なんだか顔見たくなってきたな~☆」
リヴェラの頭の中は、次の楽しみでいっぱいだった。