ハリー・ポッター 「オーグリーの旗を掲げよ」RTA 1938年シナリオ トム・リドル攻略チャート 作:魔法省真理部記録局
イギリスが核の力を手に入れてウィンズケール原子炉が燃え、ソビエト連邦が人工衛星を打ち上げた時代。マグルの科学力が熱戦ではなく冷戦に活用されるようになり、戦後復興が安定してきた頃ですね。そして同時に、偉大なる大英帝国に限界が見え始めた時代でもあります。アメリカからの文化の流入は起こっていますが、それは若者のよろしくない趣味という枠に近いわけです。
まあマグルのそんな事情なんて田舎のホグワーツには特に関係ないんですがね。魔法省は相変わらず古い組織ですし、マンティコアからマグルの子供を救ったノーベル・トゥオンクが亡くなったころです。そもそもそういう事故が起こらないようにしろ、という話ではあるのですがね。
えっそのホグワーツで働いている職員が違法なマンティコアを含む生物の交配を行っている……? そんなことあるわけないじゃないですか、まともな人間なら殺されますよ。
というわけでそのまともでない職場を参観しに行きましょう。ちょうどスラグホーン教授から招待状も届いていますからね。
ホグワーツ魔法魔術学校副校長であるホラス・スラグホーンは冬のパーティーで語り合う人々を見て満足していた。多くの教え子が彼を訪ね、そして色々と贈り物をしてくれるのだ。そろそろ彼らも若い世代ではなくなり、実際に力をつけてくるはずの時期であった。
「しかし、君は言うほど出世してくれなかったね」
そう言ってスラグホーンは若々しい女性に話しかける。しかし、彼女がホグワーツを卒業したのは十年も前であった。
「トムとは違うのです。彼が普通に魔法省に入っていれば今頃大臣でしょう」
「まあ、そうなってもタフト並にはうまくやったとは思うがね。ところで……」
「わかってますよ、教授」
そう言って彼女はパイナップルの缶詰を渡し、教授は笑顔で受け取った。
「うん、やはりこれは美味しいものだ」
「あとは魔法省のほうで友人たちにはやはり気を配ってますよ、アメリアさんとか」
「ボーンズ家の人達は優秀だからな」
そう言ったスラグホーン教授の前を、若き防衛術教授が通った。
「おい、トム! 奥様がお越しだぞ」
「……ホラス、やめていただけないかね?」
同僚の笑顔に嫌そうな顔をし、溜息を吐きながら、リドル教授は二人の前で足を止めた。スリザリン寮副寮監、闇の魔術に関する防衛術教授、そして幅広い魔術に関する専門家にして多くの生徒から敬愛され、尊敬され、そして一部の学生から授業が厳しいと恨まれる人物。それが彼、トム・リドルだった。
「それでどうですか、彼は。変なことをしていないでしょうか?」
「彼は実に優秀だよ、ただ一つ欠点と呼べるものがあるかもしれないが」
「ほう」
スラグホーン教授の言葉に、ヴェルダンディは持っていたグラスを持ち直した。
「彼が魔法薬学教授の職を選ばなかったことだね。まったく、私も父のように悠々とそろそろ引退しようかと思っていたのだが」
「寮監としての仕事は私がほとんどやっているのですよ。ダンブルドア校長からも、もっと仕事をしろと言われているでしょう」
トムはきらめく目で二人を睨んだ。ヴェルダンディは少し目をそらし、スラグホーン教授は自らの内面に集中した。二人とも、この種の視線を向けてくる人物への対応には慣れていた。
「そうだったかな」
しらばっくれるスラグホーン教授の言葉に、ヴェルダンディは小さく笑った。
「しかしダンブルドア教授が校長ですか。仕事ができるのですか?」
「しっかりとホグワーツがやっていくために色々と骨を折ってくれているとも。君の方では彼の仕事を聞かないのかね?」
「彼が担わされている肩書からすれば、そこまでの仕事ぶりではありませんよ」
「それはそうだ!」
スラグホーンは実に楽しかった。一応は対立する寮の出身者であるし、学術的にも好敵手であった。それ以上に友人ではあったのだが、それはそれとして友人の失態を別の友人からこっそりと聞くのは悪趣味ではあるが悪くないものであった。
「……ただ、最近色々と話がありましてね」
ヴェルダンディは声を潜めた。それを聞いて、トムは小さく手を動かした。
「ほう、邪魔よけ呪文の一種か」
「アフリカのほうの手法ですね、呪文と杖無しに私達の会話を周囲から切り離す」
トムは手を止めて、二人に頷きを送った。
「それで、ヴェルダンディ。何があったんだ?」
スラグホーン教授は落ち着いた声で尋ねた。
「……純血主義者。そう呼ぶべき派閥が、少なくとも魔法省の中堅より上を中心に発生しています」
「血で才能は決まらん」
「ええ、しかし人脈が血で決まってしまうことがある。それを才能と勘違いするのは人の常です。どちらも否定できない力ではありますが、ね」
「その微妙なところを乱暴に扱う、それが純血主義者か……」
スラグホーンはホグワーツからあまり出るわけではない。外側から切り離された学校では、どうしても時勢を読み違えることがある。その影響力がホグワーツの範囲に限るのであれば情報収集を積極的にする必要はなかったが、スラグ・クラブという集団が困るとなれば彼にとっても無関係ではなかった。
「もちろん、魔法界にしてきた貢献に対してふさわしいものを受け取っていないという彼らの意見もあるのでしょう。『聖二十八家』は特に」
「……そうだな」
スラグホーンは、その名簿がどのように作られたのかを曖昧にではあるがわかっていた。その上で、静観を選んでいた。それは処世術であったし、どのような状態になっても対応できるようにするためであった。
「ただ、それが私の友人たちを追いやるようであれば話は別です。もしその時があれば、スラグホーン教授には口添えをお願いすることがあるかもしれません」
「……あまり期待しないでくれよ?」
「教授の人徳は魔法省の若手に広まっていますから」
少し困ったような顔をするスラグホーンに、ヴェルダンディは微笑んだ。
結構真面目に教師をしているんだな。生徒からも話しかけられていたぞ。まあやっていることはパーティーの来賓というよりも助手とか下働きとかに近い気がしたが。とはいえ、真面目なのはいいことですね。
ところでパーティーが終わって帰ろうとしたらトムくんに教授室に連れ込まれました。おっと、できればあと二年ぐらい我慢してほしいんですがね。ちょっとタイミングを合わせたい世代があるんですよ。そうじゃない?
「ボージン・アンド・バークスという店を知っているか?」
部屋の鍵をかけたトムは、椅子に座ったヴェルダンディに言った。
「
「そこが買い取り、売った品物の行方を追いたい」
「……公正に行われた取引について、権力が介入することはできない」
「それが詐欺的な手法で奪われたものでも、か?」
「その程度で取り締まれるなら我々も何回かバークをアズカバン送りにしているわよ。その手の捜査はきちんとした根拠が必要。言いたいことはわかる?」
「作れ、と」
「その通り。ホグワーツの防衛術教授が協力した捜査であれば根拠もしっかりとつく。その計画は、どのぐらい騎士団の皆さんに?」
「まだ、伝えていない」
「なるほど……」
ヴェルダンディはそう言って、腕を組んで上の方を見た。
「サラザール・スリザリンゆかりの品?」
「ああ、そうだ。ゴーント家に伝わり、そして……メローピー・ゴーントが売らなければならなかったものだ」
トムは当てられたことには今更驚いてはいなかった。むしろわかりやすいまでに情報をちりばめていたつもりでさえあった。
「それだけの代物をバークスが理解できないと考えるべきではない。となると買った側もそれなりの客ね。ただスリザリンの末裔であることを証明するのには使えないから……候補として出てくるのはマダム・ヘプジバ・スミスぐらいね。必要であれば闇祓いの中でも偏執的なやつを一人送り込めば、逮捕できるぐらいの理由は作れるだろうけれども」
「足りない」
「でしょうね。ならもっと大事を起こしましょう。大規模な闇の魔術に関する品の取り扱いを元に家宅調査に踏み切り、その過程で歴史的遺物が発見される。魔法省はそれを管理できないとすれば、その調査はトム、あなたに委ねられるようにすることができる」
「……それなら、もっと大きくしてもいい」
トムの言葉に、ヴェルダンディは姿勢を直した。
「聞きましょう」
「ダンブルドアを、魔法大臣にしないか?」
それを聞いたヴェルダンディは、しばらく固まって、そうして笑い出した。
「最高の発想ね。私はまだ全貌を理解できていないけれども、もしそれを企むのであれば多くの人の想定外になることは確実。計画は?」
「純血主義者を一掃する。どこかで大臣がいなくなった時に、彼らが焦って動いたのに応じて、それをもとに踏み込み、
「失敗しなかったら?」
「失敗させればいい。
「どれかの椅子を捨てて保身に走るかもしれないわよ」
「そうなればダンブルドアの名声は終わりだ。英雄もしょせん人間だったとなるだろう」
ヴェルダンディはトムの計画を聞いて、少し考えていた。動機自体は理解できる。自分が手に入れるべきだった品物の獲得と、自分の矜持を傷つけた男への復讐。いきなり強盗に入るか、あるいは決闘を挑むような方法を取らないことにヴェルダンディは感心していたが、それでもなお計画がずさんなところはあった。
「悪くない。ただ、もう少し計画が必要。ダンブルドアはそれでもなお、と拒み続けると思う。だからダンブルドアが拒めない準備をしっかりと固めないと」
「……そう、か」
「たとえばここでダンブルドアが大臣にならなければイギリス魔法界が二つに割れた大戦争になるだろう、とか。彼は同情的だから、一度純血主義者たちが折られればそれを受け入れようとするでしょう。おまけで彼らにダンブルドアの軍門に降るという屈辱も与えられるわよ」
そう言って屈託なく微笑むヴェルダンディに、トムは深く頷いていた。
「なにかいい計画はあるか?」
「純血主義者を暴走させる。その上で、我々のような善の、正当性ある、慈愛に満ちた正義の陣営が正しい道を示し、その象徴のような男を大臣とする。それを自然に起こさなくちゃいけない」
「……俺が狙うべき人物はいるか?」
そう尋ねられて、ヴェルダンディは「貴族」たちの勢力図を頭の中に思い浮かべていた。
「アブラクサス・マルフォイ。彼が我々の陣営につくことがあれば、計画は実行していいと思う。そうでなければやめたほうがいいわ」
「なぜだ?」
「かの
その言葉の意味を、トムは理解できた。それは一人の男を脅し、屈服させ、あるいは服従させることではない。魔法界において力を持つ
「……俺のために、働いてくれるか?」
「一つ、条件がある。安心して。個人的なものだし、あなたがあまり気にするようなものではない。ナギニさんとは少し話す必要があるかもしれないけれど」
「条件を聞いてからだ」
ヴェルダンディの言葉に警戒しながら、トムは呟いた。
トムくんも成長しましたねぇ。史実だと母親にゆかりのある品を分霊箱にするためにそこらへんの浮浪者を殺すような粗雑な扱いしかできなかったのに、今では世界を敵にする覚悟を決めているんだから。
とはいえ、この計画を動かすためにはそれなりに準備が必要でしょう。今の世代だと、スラグ・クラブや
というわけで次回はトムくんに協力の対価を払ってもらうところからかな。ナギニお姉様にはちょっと不義理になるのかな、でもまあ契約なので……。