グスタフ暗殺計画   作:芝三十郎

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web版読了後推奨。壊滅した白エルフの村で、リンデルたち山岳猟兵は、オルクセン騎兵を迎え撃つ。オークたちは魔術探知で白エルフを見つけるが...


亡き者たちのために

 白エルフの廃村に接近しつつある騎兵たちは、オーク騎兵の最精鋭とは言えないまでも、そこそこの水準の部隊だといってよかった。

 

 第三軍第七軍団隷下の捜索騎兵小隊で、巨大な輓馬を駆るオークの騎兵が約三十騎。輓馬に並ぶと仔馬のように見える小型馬が一騎だけ混ざり、それにはコボルトが乗っている。

 

 小隊長のレブレヒト少尉は、村まで二キロほどの地点で小隊を停止させた。小型馬に乗るコボルトを手招きする。

 

「もう一度、魔術探知だ。敵の規模と配置を探れ。さっきは小隊規模という話だったが」

 

 命を受けたコボルトの通信兵は瞑目し、村が存在する方向を向いた。魔術適性を持たないレブレヒト少尉には何も分からないが、空中を見えざる波が飛び、その反射波を受け取って、敵情を探っているはずである。魔術波の用途は二つ。一つは通信。もう一つが、この技、魔術探知である。魔力を消費するために濫用はできないが、かなりの確度で遠方二~三キロの敵を見つけ出すことができる。

 

 ややあって、通信兵は言った。

 

「やはり三十名ほどです。村の隣の林にいます。樹木線沿いに、分隊ごと固まって」

 

「射撃陣地だな。軽易なものだろうが」

 

 レブレヒト少尉は断定した。

 

「村の中はどうだ」

 

「哨兵らしいのが一名、それきりです。他は、何の通信波もありません。敵小隊は林に集中しています」

 

「分かった。よくやってくれたな」

 

 やはり魔術探知は便利だと、内心で感心している。敵歩兵が待ち構えているところに正面から突っ込めば、身体の大きいオーク騎兵はひとたまりもない。だが、敵情がこうも判明していれば別だ。射線を避けて接近してしまえば、歩兵こそ騎兵の敵ではない。

 

「部隊を分けますか」

 

 そう聞いたのは、小隊先任のドルン軍曹であった。オークには珍しい口髭を薄く蓄えており、少尉の父に近いほど年長だ。

 

 レブレヒト少尉は、若干の緊張を隠した声で言った。

 

「うん、小隊の半数は、村を遮蔽物にして側背へ出る。もう半数は林の正面から寄せるが、樹木線から一キロ以内には入るな。警戒するそぶりで、敵の目を惹きつける」

 

「敗残兵とはいえ、敵は白エルフです。こちらが分派したことは、じきに魔術探知で」

 

「それはやむを得ない。敵はいくらかを村側に割くだろうが、さらに少数になる。建物を遮蔽にして近づいて蹂躙できる。敵が全力で村側にまわるようなら、林側から樹木線沿いに突っ込む」

 

 軍曹は頷いた。敵はほぼ同数。こちらが機動力で勝っているからには、十分に成立しそうな手だと思えた。

 

「林側は、小隊長、お願いします。村から突入する方は私が」

 

「いや、俺がやる。そちらが主攻だからな」

 

 敢えて危険が多い方を指揮しようとする小隊長に、軍曹は心中で苦笑した。

 

「お言葉ですが少尉どの。部下の手柄を奪うものではありませんよ。村側が私、あなたは林側でお願いします」

 

「うん、分かった。軍曹がそういうなら、そうしよう。気をつけてやってくれ」

 

「そうします。それでは」

 

 兵たちにテキパキと指示を出しはじめたドルン軍曹は、戦闘を前にして、悪くない気分でいる。部下の意見を聞く度量があり、それでいて勇気には欠くところがない若者を、好きになりかけている自分に気づいたのだ。死なせるわけにはいかない。彼が偉くなった時に、自分を程よく引き上げてもらうためにも。

 

 ◇

 

<こちら第一分隊。接近するオーク騎兵を視認>

 

<第二分隊も視認した>

 

<第三、第四分隊はどうか>

 

 忙しなく交わされる魔術通信を傍受して、コボルトの通信兵は確信とともに報告した。

 

「敵はこちらを視認しました。敵の配置は変わらず。樹木線沿いに全力です」

 

「了解。意外と鈍い敵だな」

 

 傲然と言い放ちながら、レブレヒト少尉の内心には、やはりと納得するものがある。エルフィンド軍は下級指揮官と下士官の程度が低い。柔軟性に欠け、独自の判断が苦手なのだ。きっと状況に対応できず、与えられた持ち場を固守しているに違いない。これならば勝てる。

 

「通信兵、苦労だが、しばらくは林と村を探り続けろ。敵に隙ができれば、こちらが主攻になる」

 

 そう言葉にするだけで、若い血気が腹の底から湧き上がるのを、レブレヒト少尉は感じた。

 

 しばらく前進すると、林が視界に入り始めた。

 

 騎銃射程には遠すぎると承知の上で、敢えて散発的な射撃を部下に命じる。兵たちは即応した。パラパラという音を立てて騎乗射撃が始まる。

 

 敵は撃ち返してこないようだ。

 

「樹木線沿いに四個分隊。動きはありません。こちらを伺っているようです」

 

 距離が詰まるにつれて具体性を増した探知報告に、少尉は満足した。

 

 間もなく、村側から別動隊が突入する頃合いである。

 

 ◇

 

 林側、遠方からの射撃音を耳にして、ドルン軍曹は唾を飲み込んだ。小隊長、うまく惹きつけてくれるといいが。

 

 軍曹の率いる別動隊は、村自体と近くの丘が遮蔽となるよう巧みに迂回路をとった。白エルフが魔術探知波を発していても、間に地形や建物といった物理的な壁があれば、探知をほぼ無効化できるのだ。

 

 林から見て村の逆方向に姿をあらわすと、ドルンは直ちに命じた。

 

「速足!」

 

 もはや馬蹄の音を控える必要はない。十五騎もの輓馬騎兵が地面を震わせて急進し、村内へと突入した。まだ隊列を維持しているあたり、なかなかの練度ではあった。

 

「哨兵に気をつけろ!」

 

 ドルンは馬上で叫んだ。

 

(探知は一名だと聞いたが。村のどこに——)

 

 あちこちに視線を走らせつつ、村の広場に躍進。その瞬間である。

 

 あっ——と、ドルンは声をあげそうになった。

 

 確かに敵はいた。一名。だが、哨兵というには目立ち過ぎている。

 

 緑と茶のまだらという珍しい軍服を着て、広場の中央に立つ、一名の白エルフ女。赤に近い金髪を陽光に煌めかせ、こちらを睥睨しているではないか。

 

(これは)と、ドルンが異状を直感した。

 

 村に逃げ込んだ敗残兵などではない。

 

 その直感が恐怖に変わる前に、赤毛の白エルフが叫んだ。

 

「撃てッ」

 

 銃声は四方から聞こえた。否、上下からもだ。身体を複数の衝撃に貫かれ、軍曹はたちまち馬から投げ出された。

 

(伏撃……どこから)

 

 奇妙なほどゆっくりと流れる時間の中で、軍曹の視線に映ったのは、周囲の建物の戸口や窓から突き出した、数多い小銃の筒先だった。

 

 遮蔽に魔術探知波を阻まれたのは自分たちの側だったと、ドルンは地面に叩きつけられながら悟った。

 

 しかし、この敵、数十はいそうだが、どこから現れたのか。それを考える時間が、彼に与えられることはなかった。

 

 二度目の斉射音が響いた。

 

 ◇

 

 村側で響いた射撃音は、馬上のレブレヒト少尉にも届いた。

 

「やったか。突入したな」

 

 味方が、である。敵の背後に出現し、少数の後衛に襲いかかったに違いない。

 

「敵情!」

 

 問われた通信兵のコボルトは、直ちに答えた。

 

「変わりなし」

 

「よく確認しろ」

 

 そう命じると、レブレヒトは自らも双眼鏡を構え、林の有り様をレンズ越しに凝視した。

 

 永劫に思えるほどの数分間が過ぎてから、コボルトの喜色に溢れた声が聞こえた。

 

「動きあり! 後退していきます。四個分隊、すべて村の方へ。敵は陣地を捨てました!」

 

「よおし!」

 

 レブレヒト自身、双眼鏡越しに、その景色が見えている。騒ぐ木々、飛び立つ鳥。幹の合間に見え隠れする、慌てたように蠢めくエルフ兵の背中。

 

 時は来た。一瞬の迷いもなく、少尉はサーベルを抜いた。

 

「総員、抜剣!」

 

 無数の金属音が響き、天然の林に突入すべき、鋼の林を成した。

 

「敵を追撃する。挟み撃ちにできるぞ! 小隊、襲撃にぃぃぃ、前へッ!」

 

 オーク騎兵たちは馬腹を蹴った。勇む彼らの視線の先で、林から転がるように飛び出してきた白エルフ兵たち。すぐさま背を向け、村の方へ駆けていく。

 

 単に逃げているのか。それとも村側の別動隊を迎え撃とうというのか。

 

 騎兵たちには、どちらでも同じことだ。なぜならば、敵歩兵は彼らに背を向けている。歩兵の背中ほど、騎兵たちを昂らせるものはない。

 

「好餌!」

 

 追え、追えと叫んで、レブレヒトは兵と馬とを煽り立てる。

 

(少ないな)

 

 林から飛び出した白エルフの小さな背中が、ほんの五つしか見えないことに違和感を覚えたのは、既に突進のさなかであった。

 

 ◇

 

「全分隊、走れッ」

 

 そう叫び、尻に帆かけて疾走する白エルフ兵の先頭は、バランダル曹長であった。

 

 全分隊、と言ったのは彼女の茶目である。彼女に付き従って駆ける兵は僅か四名。だがその四名が、つい先ほどまで「第一分隊」「第二分隊」などとそれぞれ称し、活発に魔術通信を交わしていたのだ。

 

 無論、それだけで、五名を数十名に見せかけることは無理である。彼女らの欺瞞の主力は、バランダル曹長が一手に担っていた至芸にある。その技を、走りながらもやれるのは、山岳猟兵大隊でも彼女のみであった。

 

 徐々に近づく輓馬の足は、中型の駿馬ほど速くはないが、それでもエルフの駈歩では逃げきれない。距離はすぐに縮まる。

 

 その間合いを音のみで測りながら、頃やよしと判断。バランダルは、ふっ——と息を吸い、止めた。一瞬の間に神経を集中し、作り出した意識の塊を、離れつつある林の中へ向け、ひょいと放つ。果たして、敵は気づくか。

 

 気づいたらしい。追手は方向を変え、茂みの中へ駆け込んだ。

 

 ◇

 

 コボルトの通信兵は叫んだ。

 

「右前方に敵! 林の中に一個分隊!」

 

 伏撃か——と即断し、レブレヒト少尉は僅かに進路を変えた。部下が示す先、敵の伏兵が潜むあたりに突っ込んでいく。いかにも隠れやすそうな茂みを、輓馬の太い足が踏み破る。

 

 が、彼らが蹂躙できたのは枝葉のみであった。

 

「どうなってる! 敵はどこだ」

 

 何かがおかしいと、そう分かりはしても、何が起こっているかは分からない。

 

(誤探知か。使い過ぎたか)

 

 通信兵が消耗し、さらには戦いの緊張で、間違えたのであろう。便利使いし過ぎた自分が悪い。もう魔術探知はあてにできないと判断し、レブレヒト少尉はサーベルを掲げた。

 

 部隊の方向を転換せねばならない。突進の衝撃力は失われてしまったが、ともかくも、接敵するのだ。

 

「村へ突入するぞ。別動隊に遅れをとるな!」

 

 村内の銃声はとうに途切れている。若者の背筋を這う汗は冷たいが、もはや止まることはできなかった。

 

 ◇

 

「損害なし。うまく騙されてくれました」

 

 部下とともに村の広場に辿り着いたバランダル曹長は言った。

 

「流石だな、曹長」

 

 労うリンデルの声には、敬意と信頼がある。

 

「練度のいい敵で助かりました」

 

 曹長は酒焼けの赤ら顔に照れ笑いを浮かべている。疾走を終えた直後だというのに、汗一つかいておらず、息も乱れていない。

 

 彼女が実践してみせた秘術は、リンデルらの大隊の中では「魔術欺瞞」「対抗魔術」などと呼ばれている。魔術探知波の特殊な用法である。

 

 敵の魔術探知波を感ずるや、それを模倣し、わずかに変化を加えた波を打ち返す。それにより、味方の位置を実際より遠くに見せたり、数を多くに感じさせたりする術。

 

 広義には、それに偽の魔術通信、物理的な偽装や陽動を加えることで、敵を騙し、誘導する戦法全体をまとめて「対魔術戦」と名付けてもいる。

 

 だが、いずれも山岳猟兵大隊内での呼び名であって、軍の公称ではない。そのような技術があり得るということ自体、秘中の秘とされているのだ。

 

 バランダル曹長ほどの名手は稀だが、他の山岳猟兵も、一定の欺瞞は行えるように猛訓練を積んでいる。当然、極めて高い魔術適性が必須である。これもまた、山岳猟兵の部隊拡張を難しくした要因だった。

 

 それでも山岳猟兵は対魔術戦の習得に心血を注ぎつつ、そのような術が可能だということを、同じエルフィンド軍の中にすら伏せてきた。

 

 魔術欺瞞の習得は困難を極めるが、敵が高い魔術適性を持ち、魔術探知や通信に熟達していなければ、使い所のない技術でもある。

 

 つまりは、そういうことであった。

 

「ご苦労だった。仕上げといこう」

 

 答えたリンデルの後方には、既に骸と化したオーク兵たちと、足をばたつかせる輓馬が転がっている。

 

「了解しました。立射、打ち方用意!」

 

 バランダルとともに撤退してきた四名の兵は、速やかに銃を構え、敵騎兵が追ってくるであろう方へ向けた。

 

 無論、彼女たちだけではない。四方の建物にも兵が忍び、必殺の斉射を待ち望んでいる。

 

 待つ時間は、さほど長くなかった。

 

 まず聞こえてきたのは、枝葉を踏み折る音。次いで、地を打つ重い馬蹄の響き。それは瞬く間に大きくなった。

 

 広場の端、家屋と家屋の間から、最初の輓馬が姿を現した。

 

 速い。

 

 巨大な馬体が村道へ飛び込み、その背ではオークの将校がサーベルを肩に担ぐように構えている。続いて二騎、三騎。次々と騎兵が現れる。

 

 先頭の騎兵将校の顔に驚愕と恐怖が浮かんだ。

 

「と、止ま——」

 

 オルク語の命令が発せられるよりも早く、バランダル曹長がアールヴ語の大音声を響かせた。

 

「分隊、撃てェ!」

 

 横列を組んだ四名が斉射。敵先頭の輓馬が転倒し、将校は地面に勢いよく投げ出された。

 

 その後に続いてきた騎兵たちは、転倒した輓馬に阻まれて足を止める。

 

「大隊、撃て!」

 

 今度はリンデルの号令で、四方の建物から撃ち下ろす斉射。密集したところを狙われた敵騎兵は、幾つもの血の筋を噴き出して、次から次に倒れた。

 

「各個に撃て!」

 

 足を止められぬ勢いのまま、倒れた味方に蹴つまずき、次々に倒れ、あるいは停止する敵騎兵は、もはや射撃の的だった。

 

 次々に悲鳴があがり、すぐ途絶える。銃弾の雨が過ぎ去ったとき、その場には血と硝煙の匂いだけがあった。

 

「打ち方やめ」

 

 薄い白煙に満ちた広場で、リンデルは命じた。その目に油断はない。

 

 まだ地面には、死にきれぬ馬とオークが呻き声をあげ、手足をばたつかせて、不可避の死を払い除けようとするようだった。

 

「もう助かるまい。慎重に狙え。息のあるものに慈悲を——」

 

 そうリンデルが命じかけた、その時のことである。

 

 風音をたてて拳ほどの石が飛来し、まだ息のあるオークの頭を砕いた。白い脳漿が飛び散る。

 

 精兵たちは素早く振り返り、小さな投石手の姿を見た。

 

「え……」

 

 そう呟いたのはメレス伍長だった。その視線の先には、一時は死にかけており、保護して家屋のベッドに寝かせていたはずの、あの少女がいた。

 

 驚く周囲の白エルフ兵たちを無視し、あるいはそんなもの存在しないかのように、少女は二つ目の石を拾った。そして走り出す。

 

「あああ!」

 

 倒れたオークどもへ駆けていく。メレスらが「待て」と止める声も届かない。

 

 血の海に飛び込むように跳躍した少女は、握りしめた石を振り上げ、まだ息のあるオークの頭部を乱打。新たな脳漿を散らした。

 

「死ね!」

 

 隣で蠢く別のオークに一撃、また一撃。

 

「死ねぇ! 死ね!」

 

 言葉の通りのことを、少女の小さな手が次々に果たした。

 

「やめろ、馬鹿!」

 

 真っ先に我に返り、飛び出して、少女を羽交い締めにしたのは、メレス伍長だった。

 

 しかし少女は、色の濃い金髪をはためかせて抗う。振り回す細腕が、メレスの顔にも石を打ちつけた。

 

 が、メレスも山岳猟兵である。直ちに本腰を入れると、少女の体の節を巧みに抑え、身動きをとれなくした。

 

「ぐぅ! ぐ……」

 

 なお抗おうとする少女に、メレス伍長は言った。

 

「やめるんだ。こんなことしちゃいけない」

 

 力では敵わぬと悟った少女は、血を吐くように叫んだ。

 

「この、敗残兵!」

 

 皆が気圧されるほどの迫力がある。あるいは狂気が。

 

「お前らが! お前ら兵隊が負けるから、みんな死んだんだ。村から奪うだけ奪って、敵がきたら逃げて。お前らが戦争なんかするから!」

 

 実際、少女は、叫ぶとともに血の飛沫を飛ばした。口中が破けるほどに、歯を食いしばっていたに違いない。そうして悲鳴を抑えてか、ただ独りで生き残った。血に染まり、白エルフとオークの死骸の満ちる村で、命以外の全てを失った少女から、溢れるものは怒りだった。

 

「お前らも、みんな死ね、死んじゃえ。そ、そうしたら……」

 

 そうしたら。それでも、もう何も戻ることはないのだと悟ったように、少女は言葉を失い、やがて嗚咽を漏らしはじめた。

 

 メレスは力を緩め、やがて少女を胸に抱きしめた。

 

 次第に大きくなる嗚咽だけが響く村で、バランダル曹長が言った。

 

「この村だけではないでしょう。いつまで続くのでしょうか。こんなことが」

 

 それは全ての兵士の疑問だった。

 

 国家を守ること。

 

 そのために最善と思われるゲリラ作戦が、この村の悲劇を生んだ。

 

 つまり物言わぬ村民たちは、生き残りの少女は、敵に襲われ、自国に裏切られたのだ。

 

「まだ続く。戦争が続く限りは」

 

「間違っているのでしょうか。勝つために戦うことが」

 

「…………」

 

「負けたら、国中がこうなってしまうのじゃあないですか」

 

「そうならないようにするのが、私たちの仕事だ」

 

 やがて嗚咽は小さくなった。メレスから離れ、自らの足で立った少女に、リンデルは近づき、身を屈めて言った。

 

「君は私たちと来い。まだ無事な街に連れていってやる」

 

「いや、嫌! どこへもいかない。みんなと、ずっといる」

 

 リンデルの手が少女の頬を張った。

 

「周りを見ろ。この村には、もう何もない」

 

 少女の青い目が鋭くリンデルを睨む。

 

「それは、お前らが……!」

 

「ああ、そうだ。私たちは軍人の役割を果たせなかった。だから、これから義務を果たそうとしている。だが生き残った君にも義務はある。死んだ者達のために、君がやるべきことが。それに背を向けてはならない」

 

「…………」

 

 少女は、否定も賛成もしない。ただその瞳は問うていた。答えを求めていた。

 

「生きてディアネンに着けたら答えを教えてやる。急がねば次の敵が来る。すぐ出発するぞ」

 

 少女は無言のままだが、その瞳が怒りとも悲しみとも異なる意志の光をもった。それを認めて、リンデルは兵たちに命じた。

 

「我らには死者を埋葬する暇もない。ゆえにこそ、急がねばならん。行くぞ。今は亡き者たちのために。山岳猟兵大隊、騎乗!」

 

 

 

(次話「たった一つの希望」に続く)

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