よく来たね、ボクだけが勝つ教室に   作:透明な唐揚げ

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感想、ブクマ、評価等感謝です。



綾小路くん、なんと30点も買えます。

オレが図書館に戻ったときには、すでに勉強会は崩壊したあとだった。

三馬鹿はもちろん、沖谷もその場の空気に耐えきれず帰ってしまったらしい。

視線を響へ向ける。

彼女は小さく首を横に振った。

少なくとも、今回は何も仕組んでいないらしい。

この状況に限って言えば、流石にこいつのせいではなさそうだ。

 

「何があったんだ」

 

「あの……えっとね」

 

櫛田が言葉を選びかけた、そのとき。

 

「彼らがどうしようもないということが、一様にわかっただけよ」

 

吐き捨てるように、堀北が言った。

それだけで、だいたいの経緯は察しがついた。

堀北はすでに帰る支度を終えていたらしく、そのまま迷いなく図書館を後にした。

 

「綾小路に聞いてた通り、彼女は面白い子だね」

 

くすりと笑った響が、机に伏せていた携帯を手に取った。

 

「芸人として紹介した覚えはないんだが…」

 

オレたちのやり取りを見ていた櫛田は、終始困惑した様子だった。

 

 

勉強会の帰り、オレたちはケヤキモールを見て回っていた。

響曰く今後の物資調達も兼ねているらしい。

 

「話を聞くにDクラスは相当切羽詰まっているんだね」

 

「そうだな」

 

オレはDクラスの現状について響に明かした。

ハッキングによってメールのやりとりなどは筒抜けなのだから、どうせなら天災からの意見を聞いてみたいと考えたわけだ。

 

「でもさ、結局のところ綾小路が30点分買えばいいだけじゃん」

 

「……プライベートポイントで点数を買うということか?」

 

「キミなら担任の先生が初めにしてくれた説明で思いついてたんじゃないかな?10万ポイントは甘めに見積もってだけど、十分あり得る金額だろう」

 

たしかにオレはプライベートポイントで購入可能な範囲が広くあることに勘付いていた。

しかし普通の学校なら買うことのできないもの、特にテストの点数なんかは響の見立て通りそう安くはないはずだ。

あまり積極的に使いたい手ではないな。

そのうえ他にも幾つかの問題がある。

 

「仮にそれで乗り切れたとしても、根本的な解決にはならない」

 

「というと?」

 

「0点を取られたらどうしようもない。それに」

 

「今のままじゃ、あいつらは成長しない。中間を乗り切ったところで、結局期末試験で詰むだけだ」

 

これはあくまで保険として取っておく、最後の手段にしかならない。

 

「正解だよ、綾小路くんにボクから花丸をあげよう」

 

宙に指描きされた花丸には茎と根元の葉まであり凝っていた。

そして今、根っこまでもが追加される。

満点を取った答案にこれが書かれていたら殆どの生徒は何とも言えない気分になりそうだ。

 

「お前がしたかったのはこんな茶番か?」

 

「茶番でもないと思うけど、まあキミが協力する気なら退学者は出ないだろう。結局は無難な方法が最短になるようだしね」

 

そう言うと、響は先ほど買ったたいやきの袋を開けて勢いよく頭から頬張った。

 

 

勉強会がご破算になった日の夜。寮の近くで、私は部活動紹介以来、姿を見せていなかった兄さんと対面していた。

私がこの学校に入学した理由。

それは、兄さんのような偉大な人間になる、いいえ、少しでも近づくこと。

そのために、私は人生を懸けてきた。

 

「すぐにAクラスに上がってみせます。そうしたらっ」

 

「無理だ」

 

その一言で、私の覚悟はあっさりと切り捨てられた。

私は、ただ兄さんに認めてもらいたいだけなのに。

担任の茶柱先生は「なるべくしてなった結果だ」と言っていたけれど、私がDクラスに編入されたのは、きっと何かの間違いだ。

 

「……絶対に、辿り着きます」

 

「聞き分けのない妹だ」

 

兄さんが私の右手を捕らえる。

そのまま建物の壁に押し付けられて、私は詰め寄られた。

 

「お前には上を目指す力も資格もない、それを知れ」

 

そう言って、兄さんは右手を引いた。

やがて打ち込まれるその一撃に、私は思わず目を瞑る。

 

「おっと、暴力はよくないですよ会長」

 

声が聞こえた。

いっそ清々しいくらいに澄んだ声音は、余裕と傲慢さを孕んでいた。

待ち構えていたはずの衝撃は、いつまで経っても訪れない。

代わりに、すぐそばで鈍い音がした。

そしてどさり、と重たいものが落ちた音が聞こえた。

目を見開く。

 

「兄さんっ!?」

 

視界に飛び込んできたのは、床に倒れ伏した兄さんの姿だった。

それをやったのはおそらく、目の前に立つ人物。

茶髪のストレートに、サングラスとマスク。どう見ても怪しさしかない格好。

そしてその不審さゆえに、嫌でも記憶に残っている存在だった。

冷や汗が、背中を伝う。

「あなたは……たしか、綾小路くんの知り合いの森雪さん」

「いかにも、森雪鹿尾菜とは私のことです」

淡々とした返答。だが、その口調はどこか芝居がかっていて、絵に描いた詐欺師のようだった。

名前以外、何一つ分からない。正体不明の存在。

 

「助けたつもりか知らないけど、本当に勝手なことをしてくれたわね。……貴方は、一体何者?」

 

膝の震えを押さえ込みながら、どうにか言葉を絞り出す。

声が揺れていない保証もなかった。

あの兄さんが、不意打ちとはいえ一撃で――しかも完全に気絶している。

その事実だけで、本能が最大限の警鐘を鳴らしていた。

 

「ふむ、助けたつもりなど微塵もないのですが……まあ、いいでしょう」

 

彼女が軽く指を鳴らす。

その瞬間、どこからか録音音声が再生された。

微かなノイズが混じるその音に、嫌な予感が一気に膨れ上がる。

 

『退学しても構わないというのなら、好きにするのね』

 

それは、今日の勉強会で、まさに私が口にした台詞だった。

森雪さんと綾小路くんが席を外していた、あのときのもの。

 

「ッ……どういうつもりかしら」

 

「そこの生徒会長さんに、勉強会の成果を聞かせてあげたくはありませんか?」

 

まるで当然のように、彼女は告げる。

盗聴に躊躇いなど微塵も感じていない、そんな態度。

兄さんと私の関係を知っていての、悪辣な揺さぶりだった。

けれど、それは本来なら通用するはずのない手段。

 

「……それが脅しになると思っているなら、貴方はとんだ間抜けね。私はあのとき、何一つ間違ったことを言った覚えはないもの」

 

それに、この録音を聞かせたいという相手は、今まさに彼女自身の手で意識を奪われている。

兄さん……。

脈はある。呼吸もしている。きっと命に別状はない。

それを確認できただけで、わずかに心拍が落ち着いた。

 

「そうですね。私も、堀北さんがこの程度で屈するとは思っていませんよ」

 

対する森雪さんは、終始落ち着き払っていた。

まるで、私の反応など最初から織り込み済みだと言わんばかりに。

 

「ところで堀北さんは、綾小路くんの入試の点数についてご存じですか?」

 

あまりにも唐突な話題の転換だった。

意図が読めない。

マスクとサングラスに覆われた表情からは、何一つ手がかりを得ることもできなかった。

 

「……急に話を飛ばさないでくれる? 全教科50点だとか、彼はふざけた真似をしていたみたいだけど。――待って、何故貴方がそのことを知っているの?」

 

「彼が、二人きりのときに自慢してくれまして」

 

この女は、私を舐めきっていると確信した。仮にも彼と私は隣の席だ、その人となりを知る機会くらいあった。

 

「綾小路くんは、他人に威張るような性格じゃないわ。知ろうとしない限り、この情報は…」

 

そこまで口にした瞬間、理解してしまった。

納得はできない。しかし、この場で導き出せる答えは一つしかない。

 

まさか、彼女の指示だとでも言うの。

 

「そのまさかです。彼は優秀ですので、期待通りの結果を見せてくれましたよ。釣り針にかかる得物を、ね?」

 

「ッ……」

 

思考を先読みされたような感覚に、背筋が粟立つ。

信じたくない。

信じたくはない。

けれど、彼女の言葉が事実だとすれば。

綾小路くんは……。

そして私は、その実力に誘われた“鼠”に過ぎなかった。

 

「今日は、堀北さんに私の存在を知っていただくために来ただけですので。このあたりで失礼しますね」

 

「待ちなさいっ」

 

呼び止める声も虚しく、彼女は背を向ける。

そのとき、きっと彼女は笑っていた。

気味が悪かった。

私はただ、遠ざかっていくその背中を睨むことしかできなかった。

 

 

テスト返却日。

私は綾小路くんとポイントを出し合い、須藤くんの赤点を回避するための残り1点を買い取った。

茶柱先生が屋上を去ると私たちの間に沈黙が満ちる。

目の前にいるのは、クラスメイトで、隣の席の男子。

そして、Dクラスの、私の敵かもしれない人。

それでも、聞かなくてはならない。

 

「ねえ、これも彼女の指示?」

 

「何のことだかわからないな」

 

白々しい返答。

それがかえって答え合わせのように思えて、私は苦虫を噛み潰した気分にさせられた。

 

「入試の点数でわざとDクラスに入り、過去問の入手から櫛田さんを通じてのクラスへの配布。そして須藤くんの1点を私と折半。………本当に貴方が何がしたいのか分からないわ」

 

綾小路くんは何も答えない。

再び、居心地の悪い沈黙が流れる。

やがて彼は何も言わず、屋上のドアノブに手をかけた。

 

「森雪さんは、彼女は何者なの」

 

「別クラスの知り合いと言っただろ、オレもあいつのことはよく知らないんだ」

 

とぼけたような返答。

俯いていた私が嫌味の一つでも返そうと顔を上げたとき、彼は既に屋上を後にしていた。

 

 

時は少しばかり遡る。

図書館で、綾小路と二人きりになったときのことだ。

 

「キミに言った通りなんだがね、ボクの高校生活最初の目標はキミを奴隷にすることだって」

 

「ちなみに無理そうなら友達100人を優先しようと考えているよ」

 

高校生活の目標について語るボクに綾小路は眉を寄せた。

 

「その友達100人をけしかけてくるのだけはやめてくれ」

 

「あれは駄目、これは駄目。好き嫌いの克服はホワイトルームのカリキュラムになかったかな綾小路」

 

軽く肩をすくめて言う。

無論、そのような無駄な授業があればホワイトルームを生き残れてはいないだろう。

 

「なら、一つ交渉をしようか。なにキミを騙そうってわけじゃない。むしろキミにボクを利用させてあげよう」

 

「話が掴めないな」

 

「目立ちたくないんだろう?ボクはキミが実力を発揮しても注目を肩代わりすることが出来る。現に堀北さんから、キミは疑いの目を向けられている」

 

ボクが行き着いた、綾小路攻略の答え。

それは、“綾小路が目立たなければいい”ということだった。

 

「お前を隠れ蓑にしろと?」

 

「相対的な隠蔽ってやつさ。なにせ呼吸するだけでスポットライトを浴びるこのボクが、さらに目立つ振る舞いをしているのだからね。信頼してくれていいとも」

 

「お前、さっきは目立たない格好とか言ってなかったか……」

 

「あれを真に受けるなんて、綾小路もまだまだ純粋だね」

 

わずかに半目になる綾小路。

少しからかっただけなのだがやはりホワイトルーム生には冗談が通じないようだ。

仕方ない、卒業生のボクがユーモアとは何たるかを教えてあげなくてはならない。

 

「正直に言って悪くない話だ。だがお前にメリットはあるのか」

 

狙いが知れないうちは安心出来ないと綾小路は冷静に問うてくる。

もちろん、メリットはある。

この交渉が成立しさえすれば、その見返りは大きい。

少なくとも三つ。

そのうち最後の一つはシンプルだが、初見では気づきにくいものとなっている。

 

「キミと協力関係を結べることかな?それでも納得できないなら……そうだね、ちょっとしたお願いでも聞いてもらうとしよう」

 

中間テストから数日後。

ボクと綾小路はカフェに来ていた。

女子客が多めの、少しおしゃれな雰囲気の店だ。

もちろん、変装は解いていない。

雪響と綾小路清隆の関係は、ボクたちにとって機密事項だからだ。

 

「さて、この一件が一段落したところでボクのお願いを聞いてほしい」

 

「内容によっては、一考に値しないとしてすぐに帰るからな」

 

当然ながら、ボクたちの声は周囲に漏れないよう工夫している。

会話の内容が他人に聞かれることはない。

 

「まずはボクと、友達から始めてくれないかな」

 

「……どうした、変なものでも食べたか?」

 

身構えていた綾小路が、呆気にとられた様子で茶化す。

 

「ボクに服従することを前提に、友達になってほしい」

 

「それが本音か」

 

何故納得した表情になるのだろう。

彼と話すとき、毎度のこと素直に物を言った方が好感触に見えたのは気のせいじゃなかったらしい。

 

「服従する気はさらさらないが……友達くらいなら、なってもいいぞ」

 

「本当かいっ?」

 

「ああ。友達の定義で言えば、知り合いから毛が生えた程度だがな」

 

「ありがとう、清隆! これからよろしく。今日からボクたちは親友だ」

 

「知ってはいたが、お前は本当に話を聞かないな」

 

綾小路だけがボクの名前を呼ぶのは、不公平だとずっと思っていたのだ。

なぜ名前で呼ぶのか、その理由も教えてくれないままだったし。

ようやくその不均衡が解消されて、ボクとしても満足だ。

 

「しかし今回のこれは結局のところ、オレばかりが得をしているような気がするがお前はいいのか」

 

「いいや、ボクの一人勝ちさ」

 

たしかに綾小路は、ボクという隠れ蓑を手に入れたことで、堀北さんからの注目を逸らすことができた。

平穏な高校生活にも一歩近づき、何か行動を起こすたびに疑われるのはボクのほうになる。

一見すれば、得をしているのは彼だけに思えても無理はない。

だが、それは裏の盤面を考慮していない場合の話だ。

 

隙を突いて両腕を彼の腕に絡ませた。

こんなにも可愛い美少女に抱きつかれておきながら相変わらず綾小路は死んだ魚の目をしていた

周囲に目をやると、別のテーブルでは池と山内が鬼の形相で綾小路を睨んでいた。

彼らと同席していた櫛田さんは驚いた表情を浮かべ、須藤くんと堀北さんもまた、動揺と警戒の入り混じった視線をこちらに向けている。

どうやら、綾小路を通じてここに呼んだ甲斐はあったようだ。

堀北さんから見れば、綾小路はボクに従っているという構図になっている。

その前提を崩したくない以上、綾小路は彼女の前でボクの指示に逆らうことはできない。

つまり、教室の前で堂々と綾小路に用件を伝えることが可能になっていた。

 

『清隆くん。私は勉強会の皆さんとぜひ親睦を深めたいと思っています。ですので彼らをカフェに誘っておいてもらえますか?』

 

これこそが、今回の交渉――契約の最大のメリットだった。

美少女からの接触に耐性がないのか、綾小路は固まったまま動かない。

これをからかいと取るか、嫌がらせと取るかはキミ次第だよ。

 

「……響、お前な」

 

そうさ。今回もボクの勝ちで、キミの負けだ。

 

だってここは――

 




よく来たね、ボクだけが勝つ教室へ


原作1巻までの内容はここで終了となります。
以下裏話?
堀北視点だと分かりませんが会長は手刀でのされました。綾小路があの場にいなかったのはケヤキモールで食べ歩きしたせいで夜に外出する理由がなくなったからです。
アニメ見返したら堀北さん何も間違ったこと言ってなくてビビった、協調性加味してもこの人Aクラスでは?

少しでも良ければ評価等お願いします。
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