ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

98 / 98
――戦いは終わり、少年達は羽を休める

これは、仲間達の一旦のお別れの話……。


最終話 また会う日まで〜別れと旅立ち〜

「ちょっとカグヤ、いい加減起きなさい!」

「……うー……」

少し乱暴に身体を揺さぶられる。

もぅ……うるさいなぁ、私の身体を揺さぶっている人物に背を向けて拒絶の意を示す。

「ニャ、ミャー」

むぅ、エネコロロもうるさいよ……もう少し寝かせて。

 

「ほらカグヤ、朝ごはんできるわよ!」

「お願い……後五時間でいいから」

「普通そういう時は後五分とかでしょ!! そういう問題じゃないけど」

「じゃあ十時間でいいから……」

「何で増えるの!! 仕方ない……エネコロロ、10まんボルト」

「…………えっ?」

 

10まんボルトって……ヤバッ!!

慌てて起きようとするが時既に遅し。

 

「ニャー……ミャアァァァッ!!!」

「きゃあぁぁっ!!?」

エネコロロの10まんボルトが、私の身体を包み込んだ。

 

「起きたわね」

「うぅ……ひどいよヒメカ、エネコロロ」

「起きないのが悪いんでしょ、それより早く着替えて下に来なさい。朝ごはんできるから」

「ニャー」

「ちょっと待って、まだ痺れが……」

 

知らないわよ、そう冷たく言い放ちヒメカとエネコロロは部屋から出て行く。

ひどい……。

 

「………はぁ」

痺れもとれ、ようやく着替え始める。外を見ると確かにしっかり朝になっていた。

……今日も平和な1日が始まりそうだ。

ただでさえバタバタしてたから、そんな何気ない事が凄く嬉しく思える。

「いけないいけない……早く行かなきゃ」

また10まんボルトを受けるのは御免だ。

というかエネコロロ、何でさも当たり前のようにヒメカのいうことを利いてたんだろ。

……主人は私なのになぁ。

 

………。

 

『いただきまーす』

全員で手を合わせて、朝ごはんを食べる。

「沢山あるから、どんどん食べてね」

そう言ってくれたのは、ヒメカのお母さんであるキヨコさんだ。

うーん、さすがヒメカのお母さん……大きいな。

 

「あてっ」

「あなた、今また失礼な事考えてたでしょ?」

「凄いヒメカ、心が読めるの?」

「…………」

そう訊いたら、また頭を叩かれた。

ちょっとしょんぼりしながら朝ごはんを食べていると……。

 

「だぁーっ、表出ろこのクソ親父!!」

「親に向かってクソとはなんだこのバカイリ!!」

 

フタバタウンの名物らしいカイリとゲンリさんの親子喧嘩が始まった。

というか、あんな怒鳴り合いを前まで毎日やっていたというのだから、ちょっと呆れてしまう。

それに、街のみんなはすっかり慣れてしまったから誰も気に留めないというのも、また凄い。

私やシロナさんも4日連続で聞いたから慣れたけど、やっぱりミカンみたいな子はなかなか慣れないのか、今の声でびくりと身体を震わせた。

 

「……レイジくんも大変ね」

私達女性陣はヒメカの家に、そしてレイジ達男性陣はカイリの家で寝泊まりしてる。

男性陣といっても、ケイジとロストさんは二日前にフタバタウンを後にしてしまった。

「レイジ、またいつかどこかで会おう」

そう言って、ロストさんはあの物知りヨルノズクから聞いた故郷へと旅立ち。

「次は、そのやかましさを少しは直せよカイリ」

ケイジは相変わらずな事を言った後、また当てのない旅を始めた。

もう少しゆっくりしていけばいいのに…とは思ったものの、向こうには向こうの事情があるし、何よりまた会えるだろうから、そんなに寂しくはない。

 

「そういえば……定期船は明日出発するんでしたっけ?」

「そうよ。……ミカンはジョウトへ、そしてカグヤとレイジはカントーへ戻るのね」

「はい。……なんだか寂しいです」

 

――あの戦いから、もう4日が過ぎた。

そして明日には、私達はそれぞれの故郷に帰る。

 

「今までずっと一緒だったから、いつしかそれが当たり前になってたわね」

そう言うヒメカも、どことなく寂しげだ。

だけど仕方ない、いつまでも厄介になるわけにはいかないし……。

何より、私達はまだそれぞれやりたい事が残っているのだから。

「そういえば、ヒメカはこれからどうするの? またカイリと一緒に旅をするとか?」

せっかくだから、みんなのこれからを訊いてみる事に。

 

「そうね……正直まだ決めてないわ、カイリは落ち着いたらまた旅をするだろうけど……わたしは一緒に行くかわからない」

「えっ……でも、ヒメカはカイリが好きなんでしょ?」

なら、ずっと傍に居たいと思うはずなのに……。

「確かにカイリの事は好きよ、でも……ずっと傍に居るだけが大切な事とは限らないの」

「…………」

ずっと傍に居るだけが大切とは限らない、何故かその言葉が私の中で反復する。

 

「それにね、カイリはわたしにとって大切な人だけどライバルでもある。

 わたしだってトレーナーとしてもっと高みに登り詰めたい、だからカイリはわたしの障害でもあるわ」

「……そうね、ヒメカの言っている事は正しい」

「シロナさん……」

「私もレイジくんの事が一番大事よ、だけど彼は私にとって一番のライバルでもある。

 チャンピオンという立場だけど、私だってポケモンの全てがわかってるわけじゃないから。

 だから……ヒメカがもしカイリと行動を別にするなら、私は応援する」

「ありがとうございます、シロナさん」

「…………」

 

ライバル、か……。

そうだよね、私だってポケモンマスターになりたいって夢がある、決して諦めたくない夢が。

なら、レイジは私にとっても一番のライバルになるの、かな……?

今まで一度もそんな事考えてなかったから、よくわかんないや。

 

「そういうカグヤはどうするの? まああなたの事だから、また旅に出るのでしょうけど」

ヒメカに聞き返され、我に返った。

「うん……私、次はホウエン地方に行こうと思ってるんだ」

「ホウエンに、ですか」

「ホウエンリーグに出るためね、頑張りなさい。

 もしかしたら私やカイリもホウエンに行くかもしれないわ」

「レイジくんにはその事を言ったの?」

「……いえ、実はまだなんです。それに……今の話を聞いて、1人で行こうか迷ってます」

 

初めは、レイジと一緒にホウエン地方に行ければいいなとは思ってた。

でも……ヒメカの言葉を聞いて、当たり前の事に気づかされた今は……迷いが生まれてる。

 

「……沢山迷いなさい、その迷いの果てに掴んだ答えなら、きっとカグヤにとってプラスになるはずだから」

そう言って、シロナさんは優しく私の頭を撫でてくれた。

……そう言われると、少しだけ安心できた。

「シロナさんはこれからどうするんですか?

 チャンピオンですから旅に出るとかはできなそうですけど……」

「とりあえず考古学者としてシンオウを飛び回るつもり、あとジョウトでまだ調べてない遺跡があるから、ジョウトにも行こうと思ってるわ」

「ミカンは?」

「私はもちろんアサギシティに帰ります、ジムを長い間空けてしまっていますし、ちゃんと皆さんに顔を見せて安心させてあげたいですし……」

 

「そっか。……じゃあみんなバラバラだね」

「仕方ないわよ。始まりがあれば終わりだってある、それに永遠にお別れってわけじゃないんだから」

「うん……」

ヒメカはそう言ってくれたけど、やっぱり寂しいものは寂しい。

「――でも、ジョウトに帰る前に確かめたい事があります」

「………?」

そう言うと、ミカンは。

 

「――カイリさんに、私とヒメカさんどちらが好きなのか……ちゃんと確かめないと、帰れませんから」

部屋の空気を変えるような事を、口にした。

 

「…………」

だけど、驚くと思っていたヒメカの表情は不思議と冷静なものだ。

もしかしたら、ミカンがそう言ってくるってわかってたとか?

「……そうね。わたしも気になるわ、それ」

「別に明日までに答えを出してほしいわけじゃないんです、けれど今の段階でどちらが好きなのかを……はっきりさせたいんです」

控え目な彼女らしからぬ言葉に、私とシロナさんは少しだけ驚いた。

でも……ミカンの気持ちはよく理解できる。

私も、私達も同じようなものだから……。

 

「朝食を食べたら、カイリの所に行きましょうか」

「は、はいっ」

そんな短いやりとりの後、ヒメカとミカンはそれ以上何も話す事はなく食事を再開する。

……なんだか、少しだけ居心地が悪くなった。

だけど、カイリはどうするのかな?

2人に迫られても、タジタジになるだけだと思うけどなぁ。

 

 

 

 

時は少々遡り……カイリ宅では。

 

「だぁーっ、表出ろこのクソ親父!!」

「親に向かってクソとはなんだこのバカイリ!!」

「………はぁ」

今日も今日とて、カイリとゲンリさんのくだらない喧嘩が始まった。

確か今日の原因は目玉焼きに何を掛けるのかについて……激しくどうでもいい。

ポケモン達は当然の如くあのアホ親子の事など無視し、ポケモンフーズを食べている。

 

「まったく……毎朝毎朝やかましい、エアロブラストで黙らせるか」

「家が壊れるのでやめてください」

「だがなカノン、お前はあんなくだらない子供の喧嘩を鬱陶しいとは思わないのか?」

ルギアの問いに、カノンは視線を逸らす。

どうやら彼女も内心ではルギアとそう変わらない心境らしい、当然だが。

 

〈おっとっと……わっ、きゃっ〉

「………?」

足に軽い衝撃、何事かと視線を下げてみると。

「ティナ、どうかしたの?」

〈も、申し訳ありませんお父様。まだこの身体に慣れなくて〉

「仕方ないさ、ラルトスだったのは随分前なんだから」

そう言いながら、ティナを抱きかかえる。

 

――彼女は今、ラルトスに退化している。

 

一体何故か、それは……はっきり言ってしまうと僕のせいだ。

僕が人間として生きる為に、アルセウスはディアルガとパルキアの力の一部、そしてティナの強大なサイコパワーを用いた。

つまり、今までコツコツと頑張って強くしてきたサイコパワーの殆どを奪われてしまい――ラルトスになってしまったというわけである。

そりゃあもう初めはかなり驚いた、ティナなんか顔面蒼白になったくらいだ。まあ元々色白過ぎる顔だけど。

しかし、慣れとは恐ろしいもので今では一刻も早くサーナイトに戻る為に彼女なりの努力を続けている。

だけど……まともに歩けないしサイコパワーも殆どない今では、おとなしくしていてくれた方が僕も嬉しいのだが……。

 

「おーい、レイジ」

よちよちと危なっかしい歩行を続けているティナを見ていたら、カグヤとシロナさんがいきなり入ってきた。

どうでもいいけど、2人とも人様の家にさも当たり前みたいに入るのはどうかと思うよ。

それはさておき、何しに来たのだろう。

「ほら、行くよ」

そう言うやいなや、僕の腕を掴み引っ張っていくカグヤ。

 

「ちょ、カグヤ!?」

「いいから、黙ってついてくる!!」

抗議の声も彼女の前では虚しく消え、ルギア達のぎゃーぎゃー喚く声を背中越しに聞きながら、ひたすら引っ張られていく。

一体何なんだー、という叫びでも出してみようかと思っていると……カグヤは急に立ち止まり近くの民家の壁に身を寄せまるで探偵のような行動に出た。

……あの、さっきからずっと置いてきぼりな僕はどうすれば?

「レイジくん、見つからないようにね」

僕達に追いついたシロナさんも、カグヤと同じように壁にへばりつき身を隠す。

……端から見ると、怪しくて仕方がない。

 

「あのー……」

「しっ! 静かにして」

怒られた……。

文句の一つや二つや三つくらい言ってやろうか、割と本気でそんな事を考えつつ、彼女達のように身を隠して顔だけ出してみると……。

「あっ……」

僕達の視線の先には、カイリとヒメカとミカンの姿がある。

何をしているのだろう、なんだか雰囲気が少し変だ。

距離はさほど離れてはいないから、カイリ達の声はよく聞こえる。

 

「――それで、話って何だ?」

「大事な話なの。きっと驚くけど……ちゃんと聞いてね?」

「お、おぉ……」

ヒメカの言葉に含まれた重みに気づいたのか、少しだけ浮つきながらも頷きを返すカイリ。

すると、ミカンはさっそくカイリに話を切り出したのだが……。

 

 

「――カイリさんは、私とヒメカさんどちらが好きですか?」

はっきり言って、覗き見てる僕にとっても驚くような内容だった。

 

 

「えっ……」

「は……?」

「ちょっとレイジ、静かにしてってば」

「いやいやいや、何当たり前のように覗いてるのさ、こんな事ダメだよ」

「何言ってるの、友達の恋がどうなるのか気になるでしょ!?」

「……楽しみたいだけじゃないの?」

「ほらほら、わかったら静かにしててよ」

 

誤魔化したな、この子。

これじゃあデバガメじゃないか……というか、シロナさんまで何してるんですか。

 

「私、カグヤさんみたいにいつまでも待つなんてできない我が儘な女の子です。

 だから……聞かせてほしいんです、カイリさんの気持ちを。私とヒメカさん……どちらが大切かを」

「い、いや……その」

有無を言わせないミカンの迫力にすっかり呑まれてしまい、カイリはあからさまに困っている。

けれど、彼に逃げ道は存在しない、ここで答えを出すしかないようだ。

「今のカイリさんの気持ちでいいんです、私の事が好きでもなんでもないならはっきり仰ってくれても結構です。

 ――お願いします。カイリさんと暫く会えなくなるから……どうしても知りたいんです」

「………ミカン」

「…………」

 

やっぱり、こういうのはよくないんじゃないかな?

とは思うけど、いつの間にかカグヤとシロナさんに腕を掴まれてしまってそれも叶わない。

……でも、カイリの答えはどうなんだろう。

なんだかんだ言いながらも、少しずつ僕も気になり始めていた。

当のカイリはというと、ミカンの言葉にすっかり混乱しており、言葉を発せないでいた。

しかし……その表情は真剣そのもの。

彼なりに、ミカンの問いに真剣に考えてあげている何よりの証拠だ。

ヒメカもミカンもカイリのそんな心中を理解しているから、何も言わずに彼の言葉を待っている。

そして僕達は……相も変わらず覗き見をしてる。

 

――どれだけの沈黙が流れただろうか。

 

「……言うけど、怒らないか?」

少し遠慮がちに、カイリは口を開いた。

だが、なんとも首を捻るような発言である。

「えっ?」

「それ、どういう意味?」

「いや、その……言ったら2人とも怒る……というか、呆れるかもしれないから」

もごもごと小さな声で呟くカイリに、ヒメカ達だけでなく覗き見をしている僕達も首を傾げた。

一体何を言うつもりなのだろうか……?

 

「……怒りも呆れもしないから、言ってみなさいよ」

「お、おぅ……」

ヒメカにそう言われ安心したのか、カイリはようやく言葉を続ける。

だが……彼の言葉は、またも予想外なものだった。

 

 

「――2人とも、同じくらい、好きなんだ」

『えっ?』

 

 

2人の言葉が重なる。

だがそれも当然だ、僕達だって言葉の意味を理解できない……。

 

「……なるほど」

「いいわね、その考え」

「…………」

訂正、カグヤとシロナさんはわかったようです。

いやもちろん僕だって意味を理解してないわけじゃないけど……。

カイリの答えは、ちょっと意外だった。

 

「ヒメカもミカンも……同じくらい好きだから、同じくらい大切だから……どちらかなんて、今は選べない。

 ――呆れるよな? 2人は真剣に俺を想ってくれてんのに……俺がこんなんでさ」

気まずそうに、すまなそうに、カイリは呟く。

……けれど、これがカイリの答えなのだから、恥じる必要などないと思った。

答えを曖昧にせず、2人の想いを真剣に受け止めたが故の返事。

それをどうして、恥じる必要があるというのか。

だから――彼女達の出した答えは、僕の予想通りのものとなった。

 

「じゃあ、仕方ないですね」

「そうね。仕方ないわ」

「えっ?」

「カイリさんが私とヒメカさん両方が好きなら……私達、3人でお付き合いをしましょう!」

「は………はぁっ!?」

 

素っ頓狂な声を上げ、芸人顔負けの仰け反りリアクションを見せるカイリ。

うん、まあ……たしかに驚くよね、それは。

けど、結構理にかなっていたりするのだ、これが。

周りからすればちょっと特殊な関係になる、けれど……本人達がそれで幸せなら、別に構わないではないか。

 

「あら、わたし達みたいな美少女2人と付き合えるのよ? まさか……不満だなんて言うつもりじゃないでしょうね……?」

「そ、そんな事はねえけど……2人はそれでもいいのかよ?」

「わたし達から提案してるのよ? それなのに嫌なわけないじゃない」

「カイリさんと交際できて、ヒメカさんとの友情もこのまま。良いこと尽くめじゃないですか」

「あー、まあ、うん……」

 

あ、カイリが懐柔されかけてる。彼は単純だからミカンとヒメカの話術の前では逆らう事はできないだろう。

そして、数分後……。

 

「――よし。じゃあ付き合うか」

単純カイリ、すっかり洗脳されてしまいました。

 

(いいのかな、こんなんで……)

とは思ったものの、3人の笑顔を見たらどうでもよくなった。

みんなが幸せならそれでいい、難しく考えるからダメなのだ。

とまあ、カイリ達の方は上手く行ったみたいだけど。

 

「……2人とも、その期待に満ち溢れた視線は何なのかな?」

どうやら、こちらも決めなくてはいけないみたいだ。

「いつまでも待つとは言ったけど、あんなの見せられたら……ねぇ?」

「そうね。やっぱり答えを聞きたいというか……」

見せられたじゃなくて勝手に君達が覗いてただけじゃないか、とは雰囲気的に言えない。

……どうやら、言うまでここから逃がしてはくれないらしい。

はぁ、仕方ない……言うしかないか。

 

「………僕もカイリと同じく、2人とも大事な人だ。だから……今はどちらかを選ぶ事はできない」

我ながらなんとも情けない答えだが、カグヤとシロナさんには予想できていたのか、特に変わった様子はなく。

「よし、じゃあこっちも3人で恋人同士になっちゃおう!!」

予想通りの展開が、待ち受けていた。

 

「シロナさんも、いいですよね?」

「ええ。これが一番良い選択だと思うわ」

「……やれやれ」

「むっ、レイジは私達と恋人同士になるのは嫌なの?」

「そういうわけじゃないさ、だけど……これから大変そうだと思って、ね」

「あら、言うじゃないレイジくん」

「言いますよ。だけど……楽しみでもあるから」

口元に笑みを浮かべつつ、そっと2人を自分の所に抱き寄せて。

 

 

―――2人とも、僕を幸せにしてね。僕も2人を幸せにするから。

 

耳元で、誓いの言葉を口にした。

 

「わぁ……」

「うっ……」

僕から離れた2人は、顔をほんのりと赤く染め、驚いた表情をこちらに向けていた。

「……レイジって、こんなキャラだったっけ?」

「さてね……色々あったから」

 

そう、本当に色々あった。

死すべき運命が変わり、生きる道を選ぶ事ができた。

だったら、この人生を悔いの残らないよう、自分に正直に生きようと思っただけだ。

 

「それじゃあ2人とも、これからも宜しくね?」

「うん!!」

「こちらこそ、宜しくねレイジくん!」

飛び込んでくる2人をしっかりと抱き留め、温もりを楽しむ。

と、視線を上げると、その先には呆れたような表情のカイリ達の姿が。

どうやら先程のやりとりで見つかってしまったらしい。

 

「お前等、覗き見した挙げ句に何ラブコメみたいな事やってんだよ……」

「いいじゃないか、そっちだって人の事言えないだろ?」

 

軽く言い返し、意識を2人に向ける。

……ああ、僕は今本当に幸せを感じられてる。

二度と得られないと思っていた幸せを掴む事ができて、涙が出そうになる。

しかしここで泣いたらまた心配を掛ける、それは止めておこう。

何せこの時間は、僕達の関係が新しいものに変わった瞬間なのだから。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それじゃあヒメカさん、抜け駆けはしないようにしてください。それとカイリさん、毎日電話くださいね?」

「カグヤ、抜け駆けなんかしないようにね? それとレイジくんは、毎日電話をするように」

「お、おぅ……」

「はいはい……」

 

まったく同じような事を言うミカンとシロナさんに、全員が苦笑。

だが仕方ない、今日はミカンはジョウトに、そして僕とカグヤはカントーに帰る日なのだから。

もうすぐ船が出る、すぐに行かなくては。

 

「それじゃあみんな、元気でね」

「お前もなレイジ、次に会ったらバトルしようぜ!!」

「もちろん、次は負けないよ」

固い握手をカイリと交わし、互いに笑みを浮かべ合う。

 

――船の汽笛が鳴った。

 

「もう行くよ。……さよならは言わないから」

「当たり前だ。また近い内に会おうぜ!!」

「またね!!」

もう急がないと拙い、すぐさま全速力でカントー行きの船に乗る。

乗り込んで数秒後、船は少しずつ港から離れていくので、カグヤと2人、急いで甲板へ。

そこには、まだ手を振っているカイリ達の姿が。

「カイリ、ヒメカ、シロナさん、また会いましょう!!」

「じゃあねー!!」

だからこっちも負けじと手を振り返す。

……やがて船は加速していき、カイリ達の姿も見えなくなった。

 

「…………」

少しだけ、ほんの少しだけ寂しくなったけど……大丈夫だ。

きっとまた会える、そう約束したのだから。

「…………」

隣に立つカグヤも寂しそうに俯いているが、やがてパッと顔を上げたかと思えば――そこにはいつも通りの彼女が。

 

「レイジ、お腹空いたから早くごはんを食べに行こうよ!!」

「………はいはい」

無理して明るく振る舞っているけど、彼女が凄く寂しがっている事くらいすぐにわかった。

けれど僕は何も言わない、だって言えば彼女は絶対に泣いてしまうから。

必死に我慢している彼女に余計な事は、絶対に言えない。

だから……僕はおとなしく彼女についていくだけにした。

 

 

 

 

――旅は終わり、僕達は故郷に帰る。

 

けれど、これで旅の何もかもが終わったわけではなく、きっといつまでも故郷でのんびりと暮らす事はできないだろう、主にカグヤが。

 

だから、そう遠くない未来で僕達は再び旅に出る。

 

でもそれまでは……ほんの少し、足を止めていよう。

 

次は、どんな旅になるのだろう?

 

未来は誰にもわからない、だからこそ生きるのが楽しい。

 

選定者としての僕はこの世から消え、人間の僕はこの世界に残る事は許された。

 

これからも僕は、沢山の仲間達と共に歩み続けるだろう。

 

この、儚くも楽しい世界の中を―――

 

 

 

 

FIN....




このような作品に最後までお付き合いしてくださってありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:15文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ポケットモンスター チームオブブルース(作者:局務事通交ピルア)(原作:ポケットモンスター)

サトシくんと同期になったトレーナーの物語、開幕開幕。▼


総合評価:1116/評価:8.24/連載:41話/更新日時:2025年11月15日(土) 22:04 小説情報

誰にも祝われない旅立ち(作者:ひよこ大福)(原作:ポケットモンスター)

マサラタウンの外れのボロ屋で暮らす十二歳の少女・カエデ。▼人には心を閉ざし、ポケモンにだけ優しい彼女の隣には、森で出会った色違いのガーディがいる。▼誰にも祝われなくても、ここを出るために。▼これは、居場所のなかった少女が相棒と旅に出る物語。


総合評価:344/評価:7.83/連載:46話/更新日時:2026年05月12日(火) 17:00 小説情報

アニポケ転生者物語(作者:投稿者)(原作:ポケットモンスター)

物心ついた時、主人公はこの世界がアニメ『ポケットモンスター』の世界だと気づいた。▼リーグ制覇や最強を目指すつもりはない。ただ、この世界の空気を吸い、ポケモンたちと触れ合う「エンジョイ勢」として生きていきたい。▼そう思っていたはずが、旅立ちの日に母から託されたのは、シルフカンパニー製の試作デバイスと、データ収集用のポケモン「ポリゴン」。▼オーキド博士から貰った…


総合評価:1665/評価:7.47/連載:341話/更新日時:2026年05月09日(土) 22:26 小説情報

貴殿転生 元の知識で本気出す(作者:MENOUENOTANKOBU)(原作:無職転生)

無職転生の世界に転生した男子高校生がパウロの弟ピレモンの息子として生きていくお話▼ほぼワンピースの知識しか使いません▼初めて小説書くので抜けている部分があったら教えてほしいです▼結構都合いい展開ありますのでそこは寛大な心で許してください▼あとアニメと原作が混合しています ▼感想でモチベーション爆上がりするので、是非お願いします▼以前の名前は既存の題名の作品が…


総合評価:666/評価:7.55/連載:69話/更新日時:2026年05月10日(日) 12:54 小説情報

ベルが七つの大罪と戦っていたのは間違っているだろうか(作者:寝心地)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ベル君がブリタニアに転移し魔神王との戦いを終えて帰って来た後から始まるオラリオでの話


総合評価:771/評価:7.25/完結:59話/更新日時:2026年03月17日(火) 02:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>