小逆転!ベレリアンド戦争!  ~if キャメロット王国参戦す~   作:koe1

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戦 争 終 結 か ?


第17話「これで・・・よかったのか?」

星暦877年5月11日、これはオルクセン側が直接交渉日と指定した日だ。

場所もオルクセン側が指定した。

オルクセン側占領地にあるコンクオスト村。

幸い鉄道が通っている村なので、鉄道での移動が指定された。

会談場所はオルクセン側列車に連結している車両。

それらを全てこちらはエルフィンド側は受け入れた。

キャメロット側は黙ってそれに従った。

オルクセンが指定したアグラレス女王陛下以外の随員は大変少なく、クーランディア首相閣下と外務大臣閣下の2名が主要随員で、その主要随員に1名ずつ秘書の帯同が認められた上で、速記手も2名随行を認められている。

ちなみに女王陛下の秘書という名目で侍従武官長であるファラサール海軍大将殿が女王陛下の随員としてついている。

キャメロット側は、公使閣下と特使閣下どちらかが向かうかで話し合いがおこなわれたが、グスタフ国王陛下の友人であるアストン特使閣下が向かうこととなった。

既に俺が手紙を運んで秘密外交で諸条件はほぼ纏まっているのと主役はエルフィンドということで、特使閣下の他には秘書役で甥っ子がつき、公使館参事官が副使役になり、その秘書が1名。

更に速記手が2名だ。

秘書にはテーブルは用意されずに席のみだが、速記手にはテーブルをしっかりと用意するとのことだった。

で、なぜか、どうしてか、全く理由がわからないが、俺も行くことになった。

名目上は講和会議・・・というかオルクセン側としては降伏調印式というイメージを諸外国に植え付けたい直接交渉にキャメロット側がオルクセンに要請した上で、エルフィンドも同意したという形で。

ただし席もテーブルも用意されない。

車内の端っこで立っているだけだ。

なので行くことになったからにはしっかりと見届けをすることにした。

前々から仕込んでいたこともあるが、果たしてそれを使う羽目になるかどうか。

 

そしていよいよ迎えた女王陛下とグスタフ国王陛下の直接交渉の日。

エルフィンドが仕立てたエルフィンド・キャメロット連合の列車はコンクオスト駅に開催時間より約30分ほど速く到着した。

不測の事態を考慮して早めの行動をするのは当然だ。

列車から降りた女王陛下を始めとするエルフィンド代表団だったが、驚いたことに直接交渉の場であるオルクセン側の列車内にすぐに案内されることはなかった。

乗降場の上で、女王陛下も含めたエルフィンド側代表団は各国記者やオルクセン側の各国観戦武官へ晒し者となっている。

名目上は講和会議であるというのに『流石にこれは・・・』ということで、エルフィンド・キャメロット連合の列車で一緒にやってきたエルフィンド側やキャメロット側の各国観戦武官がオルクセンに対して苦言を呈するが、オルクセン側はそれを受け流す。

さらにキャメロット側の代表団が列車から降りようとすると、警備のオルクセン側に「キャメロットの皆様は時間になるまでそのまま車内にてお待ちください」といって押しとどめる。

流石にアストン卿や参事官殿も抗議するが、女王陛下が微笑みながら「キャメロットの皆様、お気になさらず」と御言葉を発せられると、一礼して車内に戻っていった。

なお俺は押しとどめられたのを全力で無視して、エルフィンド代表団の端っこに当然といった顔でついている。

俺の襟には、左にはエルフィンド海軍と、右には陸軍の大佐の階級章が燦然と輝いてついているし、胸には『ファルマリア防衛章』をつけているからな、当然だ当然。

あとキャメロット人義勇エルフィンド海兵隊の隊長だし(笑)。

しかし・・・これって諸外国に対してエルフィンドがオルクセンに敗北したというイメージをつけさせるためなんだろうが、オルクセン側は女王陛下が、実年齢はともかく見た目は可憐な美少女で、随員全員が美人な女性であるということをオルクセンは忘れているぞ。

か弱い女性を駅の乗降場で立たせたまま、晒し者にする。

これってまたオルクセンの外交イメージが悪くなるんじゃ・・・。

これは建前上は講和会議だぞ・・・。

実際にはこれから女王陛下がグスタフ王との直接会談に及ぶ場ではあるがな。

確かに決裂する可能性もあるが・・・やり過ぎじゃないかこれは。

 

そんなことを考えつつ、各国記者達が容赦なく女王陛下の写真撮影をする中、女王陛下は常に笑みを浮かべ、時折記者に向かって御手を振るわれたりする中、他の随員全員は俺も含めて無表情かつで無言で立っていたエルフィンド一行だが、30分ほどして開催時間になると、ようやく会議の場であるオルクセン側列車の車両に案内された。

ただその車両の入口の左右には大鷲族と、初めて見る超でっかい狼もいた。

超でかい狼の方は、アストン卿が前に教えてくれたグスタフ国王陛下の護衛役である巨狼族のアドヴィン殿かと思った。

小便漏らしそうな迫力だな。

ギザ歯ソバカスのじょーちゃん、よくこんなのから逃げおおせたな・・・。

『定時哨戒中に開戦と知らされて、伍長殿の指示で銃弾を装填した上で着剣して守備陣地に戻っているときに巨狼族に襲われた。無我夢中で引き金引いて銃を突きだしたらたまたま襲ってきた巨狼族に刺さって、そのままみんなで全力で逃げた』とかいっていたが、運がよすぎだろ・・・。

俺は2頭に会釈しつつ入ろうとすると、大鷲族の方に突然声をかけられた。

「失礼。私は我が王より大鷲軍団長に任じられておりますヴェルナー・ラインダースと申します」

俺はなぜ声をかけてきたと思いつつその大鷲族の方をみると、首から下げているコルゲットに少将の階級章を見たので慌てて敬礼した。

その俺の様子になぜか愉しそうな目をしたラインダース少将殿は続いて

「ファルマリアで我が軍の大鷲族とパイロットのコボルト族の捕虜をしっかりと扱ってくださったのはあなたですね。彼らが家族宛に送った手紙にキャメロット人の船乗りのおかげで命が助かったことや良くしてもらったと言うことが記されていたと家族から私に報告が来ています。彼らの長として感謝します」

と仰って頭を下げられたので、俺はしっかりと返礼をした。

 

皆に少し遅れて入った車内にはオルクセン国旗とキャメロット国旗は用意されていたが、エルフィンド国旗はない。

このあたりは予想どおりだ。

なので敗北者であるこちら側は一切なんの抗議もしない。

というか『女王陛下御自らいらした直接交渉の場』なんだから、抗議するべきなンだろうが、事前に女王陛下がこういった事態を色々と予想して使節団全員に言い含めていたので誰も抗議を口にしない。

やっぱり女王陛下、優秀だわ・・・。

俺はそんな不敬なことを考えつつ車内を見回すと、当然のことながら警備の紅い眼鏡のじょーちゃん達が沢山いる。

流石に乗降場や駅構内に沢山いた図体のでかいオーク兵はいない。

車両内という狭い場所のせいだろう。

オルクセン側の参列者、は一度だけだお会いしたグスタフ国王陛下の他にはビューロー外務大臣閣下や、先日の初交渉の際に部下のやらかしを謝り倒してくれたゼーベック上級大将殿。

さらにはコボルト族、ドワーフ族、そして紅い眼鏡以外の闇エルフもいる。

こりゃーもしキャメロットがオルクセンに宣戦布告していなかったら、アストン卿もあちら側にいらしたかもな・・・グスタフ国王陛下とご友人だというから、個人的に雇われたという形で。

そんな感じで、いよいよオルクセン側の発表では『エルフィンドの降伏調印並びにキャメロットとの講和会議』が始まった。

まぁ実際には単なる・・・と言っていいかわからないが『女王陛下と国王陛下のサシでのエルフィンド降伏の条件闘争』だがな。

俺は車内の端っこで直立不動で立ったまま、無事に終わりますようにと祈った。

ファルマリアで知り合った腕のいい印刷所の連中と組んで仕込んでいることを使わずに、何ごともなく、平和的に交渉が纏まりますように、戦争が終わりますようにと。

 

 

 

まず女王陛下がグスタフ国王陛下へ

「本日はこの様な時間を勝者であるグスタフ王をはじめとするオルクセン王国の皆様に作って頂き、心より感謝致します。そして共に戦ってくださいましたキャメロット王国に対して、我が国の至らなさから敗北してしまったことをお詫び致します」

と仰り、頭を下げられる。

オルクセン側は誰も頭を下げなかったが、キャメロット側は頭を下げて女王陛下の発言を受け入れる。

続いて女王陛下は

「こちらに記されておりますのが、我が国が求める内容でございます。ご確認ください」

と仰りつつ、御自らしたためた親書をオルクセン側に差し出す。

それをビューロー外務大臣閣下が受け取り、グスタフ国王陛下にお渡しし、グスタフ国王陛下はそれを黙って読まれた後にビューロー外務大臣に渡し、ビューロー外務大臣もそれを読まれた後、ゼーベック上級大将殿に渡す。

そしてグスタフ国王陛下は、成績が悪いがそれを理解しない寄宿舎生徒に対して忍耐強く説明する先生の如くの口調で、

「アグラレス女王、これは敗者がおずおずと差し出した講和を求める条件かね?エルフィンド軍のオルクセン領内からの名誉ある撤退とオルクセンへの返還。名誉ある撤退、これは努力してきた将兵に対して当然といえる権利だ。占領地の返還も当然だ。しかしだ、オルクセンのエルフィンド全占領地の内、シルヴァン河南岸のモーリアとノグロストを除くエルフィンドへの返還。さらにエルフィンド発行の戦時外債のオルクセン側負担。こんなのが認められると思っているのかね?まぁキャメロットに対する謝罪と賠償、これは当国に責任があるので当然受け入れる。しかし繰り返しだが、オルクセンのエルフィンド占領地の大半をエルフィンドへの返還。エルフィンド発行の戦時外債のオルクセン側負担。こんなのは認めるわけにはいかない。アグラレス女王、次にお会いするときはティリアンでお会いできそうですな」

と女王陛下に対して厳しく言う。

ちなみにそんなグスタフ国王陛下の隣で、ビューローが政務大臣閣下とゼーベック上級大将閣下が女王陛下の親書を手に持って、ひそひそと相談されている。

こりゃー王様、親書を最後まで読んでないな。

条件部分だけ読んで渡したなこれ。

しかし女王陛下は、そんなグスタフ国王陛下に全く怯まずに再度口を開かれる。

「勝者である偉大なるグスタフ王。手紙をしっかりと最後までお読みになってくださいましたか?私達白エルフは『この条件をオルクセン王国が受け入れてくださった場合、エルフィンド王国はオルクセン王国への併合を願い出る』と記してあります。同じ国になるのですから、後々の人間族国家からの怨恨を買わぬためにも債務処理をお願いしているのです」

その御言葉を聞いたグスタフ国王陛下は慌ててビューロー外務大臣閣下の方をみると、ビューロー閣下は黙って頷き、親書を再びグスタフ国王陛下に渡す。

オルクセン側はこっちが講和を飛び越して、あり得ない『併合』まで求めてきたことが予想外だったようで、ざわついている。

グスタフ国王陛下は親書を両手で持ち読み直している。

そんな中で我らが外務大臣閣下が

「我が国のオルクセン王国への併合はどのような形でも問題ありません。エルフィンドを下とした二重王国体制でも、同君連合・・・これは我らが女王陛下を・・・廃位の上でそれなりの公的立場を頂くのが前提ですが・・・それでも。他にはオルクセン王国を帝国と改めて、グスタフ国王陛下が皇帝へ戴冠された後の一地方としても、エルフィンドを1つの州とした上でのオルクセン王国への併合であっても一切抗議致しません。ただ白エルフ居住地域は可能な範囲で構いませんので各個の行政地域として頂きたい。そのためのシルヴァン河以南のオルクセン王国への割譲です。これは我らが女王陛下の断固とした御意志でございます」

と堂々と述べると、オルクセン側のざわめきが大きくなる。

さてさて、どうするどうする。

グスタフ国王陛下は親書を紅い眼鏡ーのじょーちゃんを介してテーブルに着いている闇エルフのじょーちゃんに渡した後、少し意地悪そうに

「アグラレス女王、もし私がこの要求をのまなければどうするつもりかね?」

と尋ねると、女王陛下は

「それは・・・私の友人である博識な郵便配達夫さんから説明させて頂きます」

そう仰ってから、我らが親愛にして麗しい女王陛下が、この会議の場で一番下っ端であることは間違いない俺に話しを投げる。

この車内の端っこで黙って直立不動でたっていた俺に視線が集中する。

おいおいおい!この話は首相閣下がするんじゃなかったのかよ!

俺は首相閣下の方を見るが、素知らぬ顔でオルクセン側を見続けていた。

あと…正直、女王陛下に『友人』と紹介されてびびりまくっている。

確かに何度か手紙や詩のやりとりをしているが、あれって報告や指示を受けるための暗号文だったし・・・それなのに『御友人』なんて立場を賜っていいのか?

まぁそれはともかく一旦置いておいて、俺は覚悟を決めて芝居がかった動作でお辞儀をしてから口を開いた。

「我らが親愛にして麗しい女王陛下より、ただ今『友人である』という人生最大の名誉を賜ったキャメロット生まれの郵便配達夫の『二角帽』と申します。お初にお目にかかる方は何卒よろしくお願い致します。そしてこの郵便配達夫の本職は、実は船乗りでございます。さらに最近のことですが印刷業にも手を出しております」

俺はそう言ってから、車内警備で立ち入っている紅い眼鏡の闇エルフのじょーちゃんに目配せすると、察してくれたのか近づいてきたくれたので

「すまねえが、我の胸ポケットに入っている物を取り出してくれ」とお願いすると、じょーちゃんは警戒しつつ胸ポケットにゆっくりと手を入れて、そこに入っていたオルクセン紙幣の中で最も高額である1万ラング紙幣の束を取り出してくれた。

じょーちゃんは少々困惑しつつ、その新札や使い古した紙幣が混じっている束を調べていったが、匂い、感触等に一切問題はないと判断して、無言で俺に手渡した。

俺は「ありがとうよ」と言って、それを受け取り、また芝居がかった口調で

「さあさあ偉大なる勝者であるオルクセンの皆様、どうかこのオルクセンの1万ラング紙幣をご覧ください。キャメロット人の私からしても素晴らしい出来でございます。もちろんエルフィンド、キャメロットの皆様もご覧ください」

俺はそう言って車内のテーブルをぐるりと回っていき、後ろからこの講和会議参加者に紙幣を1枚1枚渡していった。

ぶっちゃけ、紅い眼鏡のじょーちゃん達の圧が怖いが耐えきる。

そして配り切ったところでまた口を開く。

「このオルクセン王国が誇る1万ラング紙幣、素晴らしい製品でございます。まさにオルクセンの技術の象徴の1つといえる物でございます」

というと、グスタフ王を始めとしてオルクセン側は『なにを当たり前のことを言う』という態度で呆れた感じで紙幣を見て、エルフィンド側は大半が初めて見るオルクセン紙幣の精巧さに驚き、キャメロット側は『こいつなにをやらかす気だ?』という目で見る。

なおアストン卿は目を閉じている。

俺がこれからやらかすことを知っているのは、女王陛下にクーランディア首相閣下、甥っ子、そして最後までこのことに反対していたアストン特使閣下の4人だけだ。

というか、元々は首相閣下が説明するはずだったんだがな!

俺はにっこりと笑い、芝居がかったお辞儀をしながらこう言った。

「この1万ラング紙幣は私が最近手がけました製品でございます。自画自賛ではございますが、大変素晴らし出来であると自負致しております」

俺が口にした言葉の意味を会議参加者の大半は理解できていなかったようだが、グスタフ国王陛下とビューロー外務大臣閣下は一瞬の間の後、俺が何を言ったのかを理解した様で表情が一気にこわばった。

それに遅れたものの、エルフィンドの外務大臣閣下も気がつれたようで表情が変わった・・・というか顔が青くなった。

さらにゼーベック上級大将閣下と闇エルフのじょーちゃんも俺の言葉の意味を理解したようで驚いた顔になる。

そして事前に知っていたアストン特使は大変嫌な顔をされていて、クーランディア首相閣下は無表情のままで、女王陛下は年相応といえる笑みを浮かばれていらっしゃっていた。

「これは・・・まさかとは思うが・・・偽札かね?」

グスタフ国王陛下が大変怖い顔をして俺に尋ねる。

ビューロー外務大臣は片眼鏡に指をかけて紙幣をじっと見ている。

他のオルクセン側参加者はざわつきながら紙幣をじっと眺めたり、何度も裏返したりを繰り返していたり、指で撫でていたりしている。

俺はまた芝居がかったような声で

「流石はオルクセン諸種族3500万を束ねる偉大なる王!おわかりになりましたか。私が印刷業に手を出して初めて作った製品でございます」

オルクセン側が更にざわつく。

財布を持っていたらしいドワーフ族が慌てて1万ラング紙幣を取り出し・・・つうかよくそんな高額紙幣を持っているなと感心しちまったが、俺が手渡した1万ラング紙幣と見比べているが・・・見分けつかねーだろう。

そして見比べていたドワーフ族は「いや、これは本物だろう。冗談はよせ」といってきたので、俺はニヤリと笑い、芝居がかった口調で

「いえいえ、手前が印刷した製品にございます。さて、皆様。これより手前が印刷しました偽札であるという証拠をお見せ致します。隣の方と紙幣を見せ合い、通し番号をご確認ください。皆様にお渡ししたのは敢えて番号を一緒に致しております」

というと、オルクセン、エルフィンド、キャメロット問わず、紙幣を隣の者と見せ合い、それぞれが持っている1万ラング紙幣の通し番号が同じであるとわかると、あちこちから驚きの声や怒号が上がる。

「手触り・・・色・・・大きさ・・・そしてもちろんデザインも完全に瓜二つだ。見分けがつかない・・・」

1万ラング紙幣を持っていたドワーフ族からそれを渡されたビューロー外務大臣閣下が見比べながら呆然としたような声を上げつつ、グスタフ王に真正の1万ラング紙幣を渡し、王もそれを色々と見比べているが全く見分けがつかないようで唸っている。

エルフィンド側とキャメロット側の一部はついてこれないようで、隣同士で色々とひそひそ話をしている。

真正と偽札を比較し終えたグスタフ国王陛下は、大変怖い顔で俺やエルフィンド側を睨み付け

「つまり・・・私達の要求を飲まないとこれをばらまくといいたいのかな?」

という。

女王陛下は無言で微笑んでいて、クーランディア首相閣下は無表情で、外務大臣閣下だけが救いを求めるようにあたりをきょろきょろと見回している。

事前に教えてなくてすまねーなと心の中で謝っておく。

そんなエルフィンド側の様子を見たグスタフ国王陛下は

「二角帽殿、先にこれをこの場で見せたのが失敗だな。対応は簡単だ。この講和・・・降伏条件に関する会議が決裂した後に1万ラング紙幣の流通を停止させればいいだけだ。そして新しい1万ラング紙幣を流通させる。残念だったな。最後に我が国はこの戦争に勝利して君を縛り首にする。完璧だ」

と、何かを押さえつけているような平坦な声でいう。

だがそれははったりだ。

俺を縛り首にするのは本気だろうが、海軍力を完全に喪失し、グロワールとアスカニアが国境線でチャンスをうかがっている今、あんたは何が何でもこの戦争をこの場で終わらせないといけない。

その証拠の1つが、この偽札に関して敢えてエルフィンドという国家そのものやエルフィンド側を誰も指さずに俺個人だけを標的にしてきたことだ。

つまり『二角帽と名乗る不埒な人間族が勝手に起こした犯罪』という形に持っていくためだろうが、偉大なるオークの王よ、魔王様よ、あんたはちょっとだけ勘違いしているぜ。

俺は舌なめずりをしながら

「偉大なる魔王様、それは間違いでございます。既に千枚ほど・・・・1千万ラング分ほどオルクセン国内にばらまいてございます。さらに1万ラング紙幣の他にも百ラング紙幣、5百ラング紙幣、千ラング紙幣、5千ラング紙幣もいつでもばらまけるようになっております。この会議が決裂した瞬間、既にオルクセン国内や近隣各国に運び込んでいる偽札を犯罪組織等にばらまく所存でございます。ただでさえ戦時外債の利息が上がっているオルクセン経済、紙幣全てを一斉停止したとなると、紙幣を停止しなくとも偽札が数え切れないぐらいばらまかれますとどうなりますか。まぁ交戦国ですから私達は知ったことではございませんが」

といって、また芝居がかったお辞儀すると、椅子が倒れる音がした。

その方をみると、グスタフ国王陛下が今まで見たことがない怒りに満ちた顔をして立ちあがってこちらを睨み付けていた。

まさに魔王だな、オークの王様よ。

だけど、こっちも少しでも良い条件で戦争に負けるためには、未来の白エルフ同士の内戦やオルクセンの再侵攻で起きるであろう今回と比較にならないであろう悲劇を避けるためには手段を選んでいられないんでな。

というか『併合してください』なんて最高の講和条件だと思うんだがな。

だから許してくれとはいわんが、諦めてくれ。

それにどうせその態度も芝居なんだろう?

俺は一応顔を引き締めながらグスタフ国王陛下と、大変不敬だが睨み合う。

お互い一歩も引かずの睨み合いだ。

その様子から俺は『あれ?もしかして本気でお怒りか?あ~魔王様のお怒りをかっちまったかな?こりゃキャメロットから亡命しないと駄目かもな…。アスカニア・・・は海がないから、北星大陸に亡命するか?』とこちらも本気で考えていると、

「二角帽殿、短期間でこれほどの偽札が用意できるとは思えない。はったりだな」

と、ビューロー外務大臣閣下が間をとりなすかのようなタイミングで偽札を指で弾きながらいう。

その隣にいるゼーベック上級大将殿や闇エルフのじょーちゃんも無言で頷く。

俺は『ありがとうございます』と心の中で思いながら視線をビューロー外務大臣閣下に変えて

「では試しますか?既に海上輸送は我らが海軍の手によって完全に停止している上に、さらにこれから沿岸の都市や町や村は全て艦砲射撃で灰燼と化し、今までは見逃していた漁船も大小関わらず1隻残らず沈め、グロワールかアスカニアのどちらか、もしかしたら両国も貴国に攻め入り、その上で偽札が国内に蔓延したらオルクセン王国の経済がどうなるかを。それにお忘れかもしれませんか?私達はオルクセンに降伏を求めているわけではありません。私達が降伏と併合を受け入れてくれと懇願しているのです。そこは誤解がありませぬように」

そう言って俺は頭を下げる。

女王陛下とクーランディア首相閣下、外務大臣閣下も頭を下げ、ファラサール海軍大将殿をはじめとする随員達も頭を下げる。

グスタフ王はため息をつくと、紅い眼鏡のじょーちゃんが直してくれた椅子にどっかりと座り、

「この条件でのエルフィンドの降伏を・・・我が国への併合を認める・・・これ以外の細かい条件や内容についてはこの後、調整していこう・・・」

と絞り出すように言った。

俺達の勝ちだ。

いや、負けたのはエルフィンドなんだがな(爆笑)。

 

 

 

寛大にも俺達の降伏と併合を認めてくださった魔王様は疲れ切った声で「デュートネ戦争の講和会議を思い出す…」と、とても嫌な顔をされながら仰る。

それを耳にした女王陛下が「どの様な会議だったのですか?」と無邪気にお尋ねになると、

「アングラレス女王。まさに今の様な会議です。勝ったはずの我々の方が負けているような感覚に何度も襲われました。貴方方よりもはるかに傲慢に語りかけ、責任は全てデュートネ個人にのみあると皇帝であった彼に一人にのみ責任を押し付け、講和を受け入れなければ戦い続けると。我々が限界にあることを理解した上の脅しでした…。それを思い出すと・・・貴方方の国を併合できるこの会議の方がよほどマシであると言えますが…」

グスタフ国王陛下は、心底嫌そうな顔をして説明してくださった。

本当にクソな思い出なんだろうな…。

疲れ切った魔王様を癒すためか、会議参加者全員に飲み物が出された。

オルクセン側にはコーヒー、エルフィンド・キャメロット側には紅茶が。

なんと速記手達にも振る舞われた。

つまり一旦休憩の雑談タイムということか。

ちなみに席がないはずの俺にも、この雑談タイムだけは椅子を用意してくれた。

ありがたい。

グスタフ国王陛下はコーヒーカップを持ちながら「しかしなぜ、我が国に併合を求められた?」とこちら側に尋ねられると、女王陛下が「それがオルクセンの最終目的ではないのですか?」と無邪気に尋ね返されると、グスタフ国王陛下は無言でコーヒーを飲む。

その様子をみていた首相閣下が、俺が予想したオルクセンのエルフィンドへの侵攻理由を語っていく。

グスタフ国王陛下やビューロー外務大臣閣下、ゼーベック上級大将閣下と闇エルフは黙ってそれを聞いているが、残ったコボルトとドワーフの参加者はひそひそ話を始めていた。

アストン特使閣下は目を瞑って聞いていらっしゃっている。

参事官殿は自分の秘書やアストン特使閣下の秘書である甥っ子とコソコソ話をしながら聞いている。

首相閣下は侵攻理由を語ったあとに紅茶を一口飲まれてから

「まだ降伏と併合に関する調印はおこなっておりませんが、双方が条件に合意し、調印がおこなわれた時点でエルフィンド軍は直ちにオルクセン軍の指揮下にはいります。女王陛下の護衛部隊を除いて全面武装解除にも従いますし、もし人間族国家がオルクセンに侵攻した場合は共に戦います。もちろんオルクセンの旗を掲げて」

というと、ゼーベック上級大将閣下と闇エルフとコボルトとドワーフは驚いた様子だったが、グスタフ王とビューロー外務大臣閣下だけは無表情を装っていた。

続いて女王陛下の随員扱いのファラサール海軍大将殿が

「当然海軍もです。エルフィンド海軍はオルクセン海軍戦闘旗を掲げて戦わさせて頂きます。海兵隊も同様です。ただ・・・これは船乗りとしてのお願いなのですが、オルクセン海軍戦闘旗の下にエルフィンド海軍戦闘旗も共に掲げて戦うことを何卒許して頂きたい」

と言って頭を下げる。

オルクセン側参列者の軍人は全員陸軍なせいか、海軍の戦闘旗へのこだわりが理解できないようで、国王陛下も含めて困惑したようなひそひそ話をしているが、ガン決まりじょーちゃんが俺の方を向いて頷いたので、元海軍軍人として、船乗りとして俺が説明することにした。

「失礼ながら海軍軍人にとっての戦闘旗は陸軍における連隊旗と同じぐらい貴い物です。戦闘旗さえ船のマストに翻っていれば、船が浮いている限り戦い続けます。伝統であり誇りであり自分達の象徴なのです。もっとも海軍の戦闘旗は汚れたら棄てる使い捨てではあるので、どんな状態になっても棄てることをせずに、伝統として受け継いでいく陸軍の連隊旗とは違うといえば違いますが」

と説明すると、オルクセン側はある程度は納得したようだったが、当然のことながらこの場での回答はしてくれない。

 

そしてお互い話題が途切れたせいで一瞬の沈黙が訪れた後、グスタフ国王陛下が「ちなみにだがアングラレス女王。エルフィンド国民である白エルフ達にオルクセンへの併合を納得させることができるのかな?」と先ほどに比べるとよほど柔らかい口調で尋ねると、女王陛下は手に持っていたティーカップをテーブルに置くと「はい、ございます」と言う。

さぁー来るぞ・・・これはキャメロット側にも一切知らせいない上に、家臣一同最後まで猛反対したのだが、女王陛下がご自身の強い意志でもって決定した非常な手段だ。

ただ大変有効であると認めざるを得ない方法でもあったので、女王陛下の強い御意志の前に俺達は全員認めざるを得なかった。

全ては白エルフ達のためと仰る女王陛下の覚悟を決められたお顔の前に、情けないながら俺も含めた全員が泣いてしまった。

見た目はまだ20才にもなっていない少女といっていい顔つきである女王陛下の、自身を犠牲にするという貴い御聖断の前に、俺達は皆涙してしまった。

なんとか翻意を得ようと努力したが駄目だった。

あ・・・そうか・・・俺は陛下にとって『御友人』だったからこそ、あんな決断を伝える際にもあの場に、キャメロット人の中年男がいることをお許しになってくださっていたのか・・・と今更ながら理解した。

「この私、エレンミア・アグラレスがオルクセン国王であるグスタフ・ファルケンハインの妻となります。調べさせて頂きましたが、グスタフ国王には婚約者や特に親しい女性の御友人がいらっしゃらないご様子と。もちろん形だけでも結構ですし、この私を如何に弄んで頂いてもかまいせん。妻がお嫌でしたら愛妾でも構いません。持参金としてこの私が有していることになっている個人財産も全て差し出します。目録も持ってきておりますのでご確認ください」

とグフタス国王陛下から視線を外さずに言い切る。

エルフィンド側の参列者は涙をこぼしているのをオルクセン側に気づかれないために、俺も含めて全員、オルクセン側に向かって無言で頭を垂れている。

オルクセン側は騒然としていると言っても構わない有様だった。

だが俺は、頭を垂れる寸前に女王陛下がほんの少しだけ震えているのを見てとってしまった。

怖いよな・・・そりゃ怖いよな・・・他族食いどころか同族食いもおこなっているオークの妻になるんだからよ・・・。

だが政治的には本当に申し分がない手だといえる。

古き時代では亡国の美姫を手に入れるのは勝者の権利である。

そして魔種族の命は永遠だ。

だからこそその古き時代の勝者の権利を当たり前ととらえる者もそれなりにいるだろう。

オルクセン国内は本土の一部が占領されたことや艦砲射撃されたことを忘れて大勝利に沸き返るだろうし、王の妻や愛妾の同族であるのならば、完全に融和するのは俺がくたばった後だろうが、オルクセンの現在の各種族も白エルフ達を受け入れざるを得ないだろう。

そして白エルフ達してみればその逆で、オルクセン国王の妻もしくは愛妾となった女王陛下は自分達がオルクセンに決定的に敗北したという象徴であり、王妃もしくは愛妾となったということは人質であるといえる。

エルフィンド各省庁内にいた女王陛下よりも『教義』を絶対優先する輩は、少なくともエルフィンド政府から終身年金と名ばかり名誉職付で追放しているので、年金という生活保障と名誉が保たれている限りは下手なことはしないと信じたい。

なので、一番問題がありそうな連中は存命の間は反乱を起こそうとしないはずだし、現行のオルクセン各種族が白エルフを認めさえしていけば、融和していくはずだ。

繰り返しだが、俺がくたばった後ぐらいにだろうがな。

政治的には最高だ。

個人的にはクソだがな。

 

と思っていたが、室内からどうも不穏な気配を感じた。

俺以外は誰も・・・いや、紅い眼鏡のじょーちゃん達以外は誰も気がついていない様子だった。

俺は顔を上げて、その不穏な気配がどこからしているのかを気配の元を探っていくと、テーブルに着いている唯一の闇エルフのじょーちゃんがその気配の元だと言うことに気がついた。

いや、不穏な気配なんていう生やさしいもんじゃない。

表情が、俺のことを見ていた前エルフィンド首相ドウラグエル・ダリンウェンの様な顔・・・同じ知的生物として認めていない物体を眺めているような顔だった。

そしてその視線の先は女王陛下だった。

それに対してグスタフ国王陛下は・・・異常なほど慌てていた。

政治的には最良といえる手段を提案している女王陛下に対し、女王陛下の決断を告げられたときの俺達のように懸命に翻意を促している。

それは『一度は断ったが相手がどうしてもというので』というふりではなく、『お願いだからそれは勘弁してくれ!』という全力でのお断りだった。

だがエルフィンド側は俺以外誰もそれを理解できていないようだった。

いや、オルクセン側もそうなのかもしれない。

だからグフタス国王陛下と闇エルフのじょーちゃん以外のオルクセン側参列者はグスタフ国王陛下の慌てっぷりを理解できていない様子でただ眺めていた。

で、俺は気がついた。

あ、これはまずい。

下手すりゃこの会議がきっかけでオルクセンは内戦に突入するし、白エルフは絶滅させられると。

俺は持っていたカップを俺の隣にいた紅い眼鏡のじょーちゃんに押しつけながら、叫びように「は、発言の許可を!発言の許可を!」と言いながら勢いよく立ちあがった。

一瞬、紅い眼鏡のじょーちゃん達が俺を殺そうとするような動きをしていたが、そんなことに構っている場合じゃねぇ!

「二角帽殿、発言を許可する!」

グフタス国王陛下が、俺の発言許可要請に飛びつく。

ちなみに今は『雑談の時間』だから、こんなことを言わなくとも喋るのは、不敬であるのに目をつぶれば自由なはずではあるが、闇エルフのじょーちゃんから発せられる不穏な気配の前にそう言うべきだと感じ、きっとグフタス国王陛下もそう感じたから発言を許してくださったのだろう。

俺は女王陛下に向かって、口を開いた。

「陛下!もうおやめください!このままでは白エルフは1人残らず地上から消え去ることとなります!オルクセンも下手したら内戦に突入します!」

女王陛下をはじめとしたエルフィンド側参列者は、納得していたはずの俺が掌を返したのをみてびっくりした様子でみていた。

オルクセン側やキャメロット側は「こいつは何を言っているんだ?」という顔で俺の方をみていたが、発言を許可したグフタス国王陛下が止めようとしないので、俺の言葉を遮ることができない。

「女王陛下!グフタス王のご様子からいって既に誓い合った中の御方がいらっしゃるかと思われます!そして誓い合っているその御方は、これが政治的には最良な手段であろうとも、正妃ではなく側妃や愛妾であったとしても、欠片も許すことができない御方で、もしグフタス王がここで女王陛下とのご婚約等を口にしてしまったら、国王陛下が例えトイレの中に隠れたとしても見つけ出し、懸命の命乞いを無視して縊り殺すことは間違いございません!!女王陛下!御撤回を!!何卒御撤回を!両国和親のためにも御撤回を!!全魔種族融和のためにも御撤回を!!何卒!何卒!」

俺は、前にこの女王陛下のご決断を聞かされたとき以上の熱意で、一心不乱に発言の撤回を願い出る。

そんな俺をエルフィンド、オルクセン、キャメロット全ての参列者がぽかーんとしている。

女王陛下も年相応(?)な、吃驚としたお顔で俺の方をみている。

そしてグフタス王の方をゆっくりと向くと、顔が赤いんだか青いんだかわからない複雑な顔色をされていらっしゃるグフタス王は片手で顔を押さえながら無言でうなずく。

女王陛下は自身の斜め後ろに座っているファラサール海軍大将殿に向かって、

年相応な少女が困っているような声で「ファラサール、どうしよう・・・?」とお尋ねになられたが、ファラサール海軍大将殿をはじめとして誰も答えられず、大変気まずい沈黙が車内を覆う。

どうなっちまうんだよ、この直接交渉・・・。

 

 




何 が 何 だ か 訳 が わ か ら な い よ 。
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