『夏目く〜ん!! 毛利小五郎大先生が東都パークの開会セレモニーに出るんですって!! 超楽しみ!! ファンとして行かなくちゃね!! 絶対に乗せる!! ボクが送り迎えをするから盗らないでよ!!』
……無線機でいちいちいちいち。
「うるせぇぞ石川元気!! プライベートな話はプライベートで聞いてやるって言ってるだろうが!!」
怒鳴り声を上げながらバックミラーを確認した。
自分で言うのもなんだが、素材がいいから変装しても美形になるんだよなー……。
身嗜みチェックを一通り済ませると、いつも通りのタクシー乗合所まで走らせて停車した。
都内は客に困らないから良い。
絶えずひっきりなしに次から次へと客が流れ込んでくる。
……のだが、前のタクシーが中々進まず場所取りが出来ない。
「ハァ……休みだからな……」
通勤通学の臨時的な移動手段としての利用が主だから、休日の交通手段はバスや電車が使われがちだ。
手持ち無沙汰ゆなったのでスマホで喫茶ポアロの利用客の呟きを確認していると、窓ガラスをコンコンと叩かれた。
「おい兄ちゃん、業務中にサボりはマズイと思うで」
後部座席の扉を開けて声を掛けた。
「すみませんお客さん! 中々利用される方が少なくて、ついついサボっちゃいました」
すると褐色肌に黒髪の若者と茶髪を一つ縛りにした女子が小さいスーツケースを指差した。
「すまん、PPホテルまで頼めるか?」
まさか学生風情が男女二人でホテルに泊まるのか?
仕方ねえな……。
「はい! トランクにスーツケースを積み込みますのでお待ちください」
運転席から降りてトランクを開けるとスーツケースを積み込んで安全確認をして閉めた。
「なんや兄ちゃん、工場に務めとったんか?」
……何故そうなるんだよ。
確かに星雲センターではオンサイト業務もしていたから、あながち間違いではない。
「えー? まさか指差し呼称をしただけで工場と断定するのは早いですよー!!」
後部座席に二人が乗り込んだのを確認して扉を閉め、運転席に座り直した。
「タクシーの約款や積み荷の挟み込み、紛失を防ぐKYトレーニングの話……ちゅうよりもスーツケースの扱い方が『中身が何か、重さや揺れがあるかを確かめる』ように触診しとったやろ? せやから『危険物を取り扱う癖』やないかな、そう思っただけや」
あの短時間で……まあ当てずっぽうで言える範囲だな。
「お客さんは観察眼が鋭いみたいですね!! 探偵になれるんじゃないですか?」
「そうや!! 平次はこんななりでも『西の高校生探偵』っていわれててな!? 運転手さん、平次を知っとる?」
知っているも何も……服部 平次は東の高校生探偵の工藤 新一と並ぶ高校生探偵で大阪府警本部長である服部 平蔵の息子だ。
ならこの女子は大阪府警刑事部長の遠山 銀司郎の娘の遠山 和葉か……?
「はい! お噂はかねがね……何か事件でもあったんですか?」
質問しながらエンジンを掛けるとぶっきらぼうな声が上がった。
「東都パークのセレモニーに呼ばれたんや。何でも『未来と過去の謎解きテーマパーク』らしいから探偵を集めて実演させるっちゅう話やて」
俺が設営に携わった『リアル体験型推理アドベンチャー』の公的機関が運営するバージョンってところか。
「へぇー……スゴイなー……」
二度とあんな裏方業務は願い下げだ。
「そうだ平次!! チケット余ってるし運転手さんにプレゼントしたらどうかな? 廃棄するの勿体ないやん!!」
初対面の人間にチケットを渡すのはどうなんだ。
「別にかまへんけど……。あ、いいこと思いついたわ。クイズ出すから正解したらチケットくれてやる」
要らねえんだけど、繋がりは確保しておきたい。
いずれジンの計画にも使われる駒になるかもしれねぇからな。
「ありがとうございます!! 気前がいいですね!!」
そう答えると服部は口頭で問題を提示した。
「『25 41 14 61 54 25 4*』……何のことだか分かるか?」
……答えがアレだったらめちゃくちゃ簡単だぞ……。
「あー……もしかしてガラケー使いを意識した問題だったりする感じですか……?」
バックミラー越しに顔色を伺うと、服部はにたりと笑った。
「なんや、簡単過ぎたか。せやけど一応答え合わせさせてもらうで」
そろそろPPホテルにつく頃あいだ。
「『答えはねこだ』……ガラケーの入力キーですよね? いやぁ即興で問題を作れるとはお見逸れしました」
ホテル前に停車して料金を精算してスーツケースを取り出して渡すとチケットを手渡された。
「オレの方も見くびっとったわ。兄ちゃん、名前は何ていうんや?」
アレくらいで評価が上がるのは癪に触るが……。
……今度こそチャンスが到来したな。
「俺は夏目 安慈。しがないタクシー運転手です。今後東都でタクシーをご利用する際には俺に是非ご連絡下さい!! 翔んで行きますよ!!」