リゼロEx ナツキ・ぺトラ 作:[email protected]
長らく、お待たせして申し訳ありません。
最近、リアルで少し忙しかったのと18禁の方の執筆を進めてたので遅れました。
その分、今までで一番力を込めて書きました。
お楽しみいただけたら幸いです。
まだ子供の頃、ペトラは自分は世界の中心だと信じてた。
可愛いし、頭がいいし、器用で、要領が良くて、村の人気者。
イタズラをしてもペトラが謝れば大人は許してくれるし、友達の失敗も大目に見てくれる。
ペトラが頼めば、大人も友達も大抵の事は聞いてくれる。
そうして周りの子供も大人も手玉に取れると自分の可愛さと才覚を過信し、狭い世界の女王様を気取っていた。今にして思えば、恥ずかしい思い出だ。
そんなペトラの世界をスバルが変えてくれた。
スバルの勇敢さは、ペトラや、その友達の命を救ってくれた。
スバルの優しさは、ペトラの心を救い、同時にペトラに周りの大人たちの優しさに気づくきっかけを与えてくれた。
スバルの一生懸命さは、ペトラに諦めずに努力する事、運命に抗う事の大事さを教えてくれた。
気が付いたら、ペトラはスバルに恋をしていた。
スバルがすでにエミリアを好きだと知っても、胸に宿った想いは揺らがなかった。
メィリィのお姉さんに刃物を向けられ、メィリィの操る魔獣に追い回され、死ぬような思いをしても、スバルへの想いは冷めるどころか、熱く強くなり続けた。
スバルの傍にいたいと、スバルの力になりたいと、スバルのお嫁さんになりたいと想い続けた。
そして、その想いが叶い、めでたくスバルと結婚した今も、ペトラのスバルへの想いは少しも冷めたりしない。
むしろ恋は明確な愛になり、どこまでも強くなり続けていた
スバルの事を想うだけで胸が温かくなり、幸せな気持ちになれる。
もちろん、その幸せに浸るだけではない。スバルはとても頑張り屋さんなので、その妻であるペトラだって頑張らなくてはならないのだ。
スバルと朝の口づけを済ましたペトラは朝食の準備に取り掛かった。
ロズワール邸のメイドとして磨いた腕の見せ所だ。
「スバルに美味しいご飯を食べてほしいからね」
スバルの故郷には「男の心を掴むには胃袋から」という言葉があるらしいが、それは心を掴んで結婚した後だって同じだ。
むしろ結婚して、毎日一緒にいるようになったのだから、これまで以上に気合を入れなくてはならない。
ちなみにスバル自身もロズワール邸で使用人の仕事をしていた時期がある上に器用で凝り性なので、それなりに料理ができる。
なのでオットーや村の友達が訪ねてきたときなどは、彼らに出す料理をスバルと共同で作る事もあり、それはそれで至福の時間である。
スバルの契約精霊であるベアトリスは大抵スバルと一緒にいる。
ある意味、スバルと二人きりになれる時間を減らしてる存在と見ることもできるが、ペトラはベアトリスを邪険に思った事はない。
本当にペトラがスバルと二人きりにしてほしいと感じたら、ちゃんと席を外してくれるし、これは口に出したらベアトリスに怒られるだろうが、スバルとの間に子供ができた時のための予行演習だと思えばどうという事はない。
そういった事を抜きにしても、ペトラにとってベアトリスは数年来の友達であり、この先も、ずっとスバルの相棒を務めてくれる存在なのだ。
それを邪険にしたり、嫉妬するなど、スバルにとっても、ベアトリスにとっても、そしてペトラ自身にとっても損になるだけのバカげた話だ。
というわけで、今日も三人で仲良く「いただきます」をする。
正直、夫婦二人きりでの食事に憧れた事がないと言えば嘘になるが、三人での賑やかな食事も、とても楽しくて充実している。それに――。
「はい、あなた。あ~ん」
「あ、あ~ん」
ペトラが口元に差し出した料理を、スバル顔を赤くしながら口にする
ベアトリスの呆れたような、軽く引いてるような視線など気にしない。
――いざとなれば周囲を気にせずスバルとイチャイチャするだけの強かな根性がペトラにはあった。
仕事部屋で、スバルと一緒に服を仕立てる時間はペトラにとって夢のように幸福な時間だ。
服を作る仕事は、ペトラの憧れであり、初めての夢であり、そして挫折だった。
それまで可愛さと器用さと要領の良さで何でも望み通りにしてきたぺトラだが、「王都で服を作る仕事をしたい」と言った際には、両親も友達も、みんな「そんなのは無理だ」一笑に付して否定した。
あの時、ペトラは初めて「可愛いだけでは叶わない事もある」のを知った。
そんなペトラの夢を認めて「素敵な夢だ」と褒めてくれたのはスバルだけだった。
そのスバルと一緒に毎日服を仕立てる。その服がスバルの友人のオットーのツテで王都の服屋に並ぶ。
それだけでもペトラにはスバルに出会えてよかったと心から思う。もちろん、それ以外の事でもスバルに出会えてよかったと思い続けているが。
「ペトラは美的センスがいいし、なんでも上手にできるからな。正直、俺は簡単な手伝いしかできなくて申し訳ないぜ」
しかし、スバルはそんな聞き捨てならない事を言い、ペトラはムッとなって思わず子供のように頬を膨らませた。
ペトラのスバルに対する数少ない不満の一つは、スバルのその自己評価の低さだった。
謙遜ならまだいいが、スバルは本当に自己評価が低く、しかもすぐに自虐する。
ぺトラたちを魔獣から救った一件にしても、「俺なりに必死に頑張ったのは確かだけど、ぺトラたちを助けたのはレムだし、魔獣のボスを倒したのはロズワールだし、大したことはできなかったんだよ。むしろ格好つけておいて、レムやラム、果てはロズワールにまで助けられて、思い返すとメチャ恥ずかしい」などと、とんでもない事を大真面目に言ってる始末なのだ。
スバルが異変に気付かなければペトラたちは人知れずに魔獣の餌食になっていた。
確かにぺトラたちを治療して村の青年団に引き渡してくれたのはレムだし、その事でレムには深く感謝してる。だが、そもそもスバルが動かなければレムだって何もできなかったのだ。
しかも、そのレムもスバルは助けてるというではないか。魔獣の牙から身を挺して庇い、鬼の力を暴走させてるレムを正気に戻し、疲弊してるレムとラムを守るために自分を囮にして魔獣のボスに立ち向かったのだ。
結果的に魔獣のボスを倒したのがロズワールだったからといって、それまでのスバルの働きと活躍が薄れるわけではない。
それは服の仕立て作業についても同じだった。
スバルの裁縫や刺繍の技術はかなりのもので、それは仕立て作業において、大きな助けになってる。
ペトラの服の仕立て技術はオットーがツテを作っていた件の王都の服屋で奉公して学んだものだが、スバルから伝授された裁縫の技術だって大いに役に立ってるのだ。
そもそもペトラが真剣に服を仕立てる仕事をしたいという夢を持ち続けられたのは、あの日、スバルがペトラの夢を肯定して褒めてくれたからだ。それがなかったら、ペトラの初めての夢は、夢のまま薄れて消えていただろう。
そのスバルに「申し訳ない」などと言われては、それこそペトラの立つ瀬がない。
「前に言ったよ、スバル。私の星に悪い事なんてないんだよ」
ペトラは自虐癖のある夫をそう窘めた。
「それともスバルは私が信じられない? スバルは世界一の旦那様で、スバルはとても頼りになって、スバルと一緒に仕立て作業するのが幸せだって言う私を信じてくれないの?」
ペトラは左右の腰に手を当ててスバルを睨んだ。
「悪かったよ。世界一の嫁さんにそうまで言わせちゃ、それこそ男が廃るよな」
スバルはそう謝罪して、ペトラを優しく抱擁した。
「俺はペトラの旦那様なんだから、もっと自信を持たないとダメだよな」
「うん。そうだよ。私のスバルは凄いんだから」
ペトラは愛おし気にスバルの胸に顔をうずめた。
「村の花嫁衣装だって、私とスバルで新しく綺麗なのを新調して、村のみんなにも好評だったでしょう?」
大して豊かでもない小村のアーラム村では一着の花嫁衣装を村人共有で使っている。
しかし長く使われて傷みも激しくなってきたので、スバルの発案で、スバルとペトラで花嫁衣装を新調したのだ。
材料は例によって、オットーから友達価格で用意してもらった。
とはいえ、最高級の布を用意してもらったので、それでもかなりの値段だったが。
「あんな高価な布を短時間で仕入れてくるんだから、オットーの顔の広さと手腕も侮れないよな。普段は要領が悪いのに」
ロズワール邸でラムやペトラにおちょくられてた頃のオットーを思い浮かべたのか、スバルは自分の腕の中のペトラの頭を撫でながら、楽しそうに笑っている。
そのオットーが仕入れた最高級の布をスバルは一括で買い取った。
幸いにして、スバルはエミリアの騎士として、それなりの給金を貰っていたし、贅沢を好む性格でもなかったので、結構な蓄えがあった。
ペトラもロズワールのメイドだった頃の給金をかなり貯めてたので自分が半額は支払うと申し出たのだが、スバルは自分だけで支払うと譲らなかった。
『ペトラが大事に貯めたお金は、いざって時のためにとっておいてくれ』
『でも……」
『こういう時は男を立てるのがいい女の条件だぜ」
そう言って片眼を瞑りながら笑いかけてくれたスバルの笑顔を、ペトラは今も鮮明に覚えてる。
「ああいう格好いいセリフを自然体で言えるのに、すぐ自分を軽く扱うんだから」
と、ペトラはスバルのたくましい胸を指で突っつく。
スバルは優しいし、いつもペトラや他の人たちのために一生懸命だ。それなのに、そんな優しくて頑張り屋で素敵な自分を軽く扱うのが、ペトラは最初は理解できなかった。
どうもスバルは他人に対しては良い所を見つけて大事にするのに、自分に関しては悪い所ばかり見て、自分を責めたがる悪癖があるようだった。
ペトラはそれがもどかしくて仕方がなかった。
「私はずっとスバルと一緒にあの花嫁衣装で結婚式を挙げるのが夢だったよ。その夢が叶った時、私は世界で一番幸せだって、そう思ったの」
だからペトラは何度でも言葉を重ねる。スバルにはずっと助けられてるし、スバルのおかげで幸せだと。
「今日もスバルのおかげで、私は幸せだし、大好きな仕事ができるんだよ」
と、ペトラはありったけの可愛い笑顔を作って、愛する夫に向けた。
「じゃ、いってくる。愛してるぜ、ペトラ」
「うん。いってらっしゃい。愛してるよ、スバル」
畑仕事に行くスバルにお弁当を持たせ、愛情をこめて送り出す。
その後は畜舎の家畜の世話だ。むろんスバルとペトラで世話できる家畜の数はなど大した事はないが。
ともあれ、最初の相手は決まっている。
可愛くて、賢くて、気位が高い、一頭だけ特製の竜舎を与えられてるスバルの愛竜パトラッシュだ。
正直に言うなら、当初ペトラはパトラッシュと相性が良くなかった。
パトラッシュはとても賢い地竜で、スバルにすごく懐いていて、献身的と言っていいくらいに慕っている。
しかし、パトラッシュは少しだけ独占欲が強いようで、スバルに近づく女性がいると露骨に不機嫌になるのだ。
もちろん賢いパトラッシュは、それで相手を無暗に威嚇したり、ましてや危害を加える事など絶対にしないが、それでも、そういった不機嫌さ、こちらをよく思ってない雰囲気というのは伝わるものである。
なんでもベアトリスも同じように感じてたらしい。
「スバルは『パトラッシュは母性に溢れてる』なんて言ってたけど、あの地竜のベティーを見る目には母性どころか、明らかに敵意がこもってたのよ」とのことである。
しかし、ペトラは根気よくパトラッシュと仲良くなる努力を重ねた。スバルのお嫁さんになろうというのに、スバルの愛竜の心すら掴めなくて、一体どうするのかと自分を叱咤激励した。
スバルの故郷には「将を射んとする者はまず馬を射よ」という言葉があるらしいが、まさにペトラはそういう気持ちでパトラッシュに挑み続けた。
ロズワール邸のメイドの仕事の合間に、竜舎のパトラッシュに声をかけに行き、率先してパトラッシュの体を洗い、スバルが忙しい時は代わりに食事を持って行く役を引き受けた。
そして、その努力はメイドを辞めて、スバルのお嫁さんになった現在も続いている。
「パトラッシュ」
ペトラは笑顔で夫の愛竜に声をかけた。
「スバルとは、もうご挨拶したんだよね」
スバルは毎朝、朝食の前に「らじお体操」とパトラッシュへの挨拶を欠かさない。そしてパトラッシュへの朝食は自分で用意して運ぶ。
「――」
パトラッシュはペトラに視線を向けると、小さく鳴いた。
それがパトラッシュなりの挨拶だと知っているペトラは「てへへへ」と照れたように笑って頭をかいた。
「あなたもずいぶん私に気を許してくれるようになったよね」
ペトラはパトラッシュの首を撫でた。
気位の高いパトラッシュはわかりやすく表情を変えたりはしなかったが、気持ちよさそうに目を細めてる。
スバルに「地竜は首を撫でると落ち着くのだ」とスバルに教わってから、ペトラは幾度もパトラッシュの首に触れようとしたが、パトラッシュはスバル以外の者に首に触れられるのを拒んだ。
「それが今はこうして触らせてれるんだもんね。ベアトリスちゃんとも仲良くなったし」
「――」
ペトラがしみじみしてると、パトラッシュが鳴いた。
「うん。ちゃんとお昼ご飯は持ってきたよ」
ペトラはスバルの手製である木製の台車を引いてきていた。
台車の上にはパトラッシュのための食事が盛られたお皿をいくつも乗せたお盆が置かれている。
スバルとオットー曰く、お嬢さま気質の淑女であるパトラッシュのための特別仕様だ。
他の家畜の餌は別にまとめてある。
ペトラがパトラッシュの前にお盆を置くと、パトラッシュは盆の上のお皿から器用に、そして丁寧に料理を食べていった。その姿には不思議な気品があり、お嬢さま気質というのも頷ける。
「美味しい?」
「――」
「そう、よかった」
「――」
「うん。スバルはさっき出かけたよ。今日もスバルは格好良くて素敵だよね」
「――」
「ええ。次の『どらいぶ』が楽しみだね」
パトラッシュの鳴き声に合の手を入れるペトラ。
むろん、ペトラは『言霊の加護』を持っていないので、オットーのようにパトラッシュの言葉がわかったりはしない。
でも、これだけ長く一緒にいれば、なんとなく言いたい事がわかるようになるのだ。
「私たちは同じ人を大好きになった同志だもんね」
「――」
ペトラが微笑みながら告げた言葉に、パトラッシュは苦笑したように鳴いた。
畑仕事を終えたスバルを迎えに行き、ベアトリスも伴って三人で帰路に就く。
「だからさあ、ベアトリスちゃんやメィリィちゃんに、あんな可愛いお人形やぬいぐるみや刺繍をたくさん作ってあげたスバルだって十分に『せんす』はいいんだよ」
と、ペトラは今朝の話の続きとばかりにスバルの『美的せんす』について言及した。
「それは服のデザインセンスとは別物じゃないか? そもそも俺の故郷の動物や実在人物をモデルにしてるんだが」
「それを可愛く仕上げられるのも才能なんだよ。ベアトリスちゃんもそう思うよね?」
「ベティーも、スバルはオリジナリティはともかく、美的センスはなかなかだと思うかしら。美的センスのない奴に、あのにーちゃの毛深さ、可愛さを再現したぬいぐるみは作れないのよ」
ペトラに話を振られたベアトリスは、腕組みしながら肯定した。
ベアトリスは彼女が「にーちゃ」と慕うパックを模したスバル手製のぬいぐるみがお気に入りなのだ。
他にはパックの刺繍が入ったハンカチやエプロンも大事にしている。
「そうそう。ドレスの飾りつけだって綺麗に仕上げてくれるし」
「俺はペトラの指示通りに仕事をしただけさ。ペトラの指示が的確だったおかげだよ」
「も~。その指示をした私が褒めてるんだから、素直に『俺ってスゲーな』って思えばいいんだよ」
あくまでぺトラばかり褒めようとするスバルに、不満げなペトラ、やれやれと肩をすくめるベアトリス。
そうして家につくまでの間、三人は楽しく雑談を続けた。
家に帰ったスバルは真っ先にパトラッシュの元に顔を出した。
パトラッシュはスバルが帰って来たのを臭いなり気配なりで察してたのか、竜舎の中で行儀よく姿勢を正して待っていた。
「パトラッシュ」
スバルが駆け寄ると、パトラッシュ嬉しそうにスバルにすり寄った。
ペトラはそれを微笑まし気に見守った。
買い物など、明日以降のための様々な用を済ませる頃には日が沈みかけていた。
スバルとペトラは夕方の分の仕立て作業にかかった。
「ねえ。今度試しにスバルが作ったお人形やぬいぐるみをオットーさんに商品として扱ってもらったら?」
仕事の合間にペトラはそんな提案をしてみた。
「いや、さすがに金を取れる程のクオリティじゃ……」
「そんな事ないよ。絶対に女の人や子供に人気が出るって」
イマイチ自信を持てないスバルに、ペトラは力説した。
「単品で売るのに自身が無いなら、私たちの仕立てた服のおまけにしてもらうのはどうかしら? きっと人気が上がると思うな」
自分とスバルが仕立てた服とスバルが作ったぬいぐるみが並んで売り出されるのを想像してペトラは目を輝かせた。
「うう……俺の作ったぬいぐるみだけ捨てられそうな気が……」
と、スバルの方はネガティブな想像に頭を抱えていた。
仕立て作業が終わった後は、夕方の分の家畜の世話だ。
そして仕事が終わった後は一日の疲れを洗い流す入浴タイムである。
ルグニカ王国では火の魔鉱石が、スバルのいた世界でのガスの代わりに、厨房や風呂場で大活躍してるが、王侯貴族や王都や水門都市の住民など裕福な層と違い、花嫁衣装を村人全体で使い回してるようなアーラム村では、家事や風呂に魔鉱石を使うような裕福な家はない。
――例外はペトラのメイド時代の貯蓄に加え、王都で服を売り出して一定の臨時収入を確保してるナツキ家だけである。
おかげでナツキ家の風呂は、わざわざ薪を用意して手間をかけて火を起こさなくても、すぐさま適温のお湯で浴槽を満たせるのである。
「でも、俺たちだけなんて、なんかみんなに悪い気がするな」
「そんな事まで気に病まなくていいんですよ、あなた。自分たちで稼いだお金で贅沢するのは何も悪い事じゃないんですから」
放っておいたら、アーラム村の全員に火の魔鉱石をくばりかねない様子――実際に、それが可能かはともかく――のスバルをペトラは良妻モードで窘めた。
ナツキ家の風呂場と浴槽は村で一番大きい。むろん、あの懐かしきロズワール邸の広大な大浴場とは比べるべくもないが、成人した男女二人がのびのびと余裕を持ってくつろげるくらいの大きさはある。
「今夜は星がきれいですね」
「ああ、本当だな」
そうして新婚夫婦は同じ浴槽の湯に浸かりながら、浴室の窓から星々がきらめく夜空を見上げた。
星が好きなスバルは浴室に星が見える窓を望み、その希望が叶った結果だった。
「お星さまにも祝福してもらえてるみたいで幸せな気分……」
素の口調に戻ったペトラは、すっと、自分の肩を夫の肩に摺り寄せた。
「うっ……」
スバルが身を固くし、風呂の温度とは違う理由で赤くなる。ついでにペトラの立派に成長した胸からずっと目をそらしてる。
「ふふっ。まだ緊張しちゃう? 毎日一緒にお風呂に入って、毎晩あんな事してるのに?」
「そ、それはそれ、これはこれ、と言いますか、なんと言うかね……」
と、動揺して口調がおかしくなってるスバルに、ペトラはクスリと笑った。
「しょうがないなあ、スバルは。でも、そういうところも可愛くて好きだよ」
「可愛いって、男に向ける誉め言葉じゃないぞ……」
からかわれたと思ったのか、スバルは不貞腐れたような顔で頭をかいた。
ペトラはクスッと笑うと、手を伸ばして、スバルの鍛えられた逞しい、そして傷跡だらけの体に愛おし気に触れた。
スバルはロズワールの使用人時代にペトラたちやレムを助けるために魔獣との戦いで体中に傷を負った。そしてエミリアの一の騎士時代も、多くの戦いで無数の傷を負った。
それらの傷はエミリアやレム、ベアトリスやガーフィールやフェリスなど、その場に居合わせた仲間や協力者が治癒魔法を施して治してくれたが、深い傷は傷跡として残った。普段は目立たないが、入浴でスバルの血行が良くなると浮かび上がってくるのだ。
王選の間、スバルは自分が他の一の騎士より弱い事をずっと気にしてた。
確かにスバルは『剣聖』ラインハルトのような万能の超人じゃないし、『最優の騎士』ユリウスのような『いけめん』で剣も精霊魔法もどっちも強い人でもない。
でも、それがどうしたのかとペトラは思う。超人じゃなくても、『いけめん』じゃなくても、スバルは誰よりも優しくて一生懸命で、こうして傷だらけになりながらも、ペトラを、みんなを助けてくれた。
「大好きだよ、スバル」
温かい湯に体を包まれ、愛する夫の体温を感じて心も温かくなりながら、ペトラは想いを告げた。
何度目だろうと、何十度目だろうと、この胸を温かくする想いをペトラは愛する夫に伝え続ける。
自分を好きになるのが苦手なスバルが、せめて自分と一緒にいる時は、この温かさを胸に抱いて欲しいと願いながら。
風呂から上がった後は夕食の時間である。
風呂上りの直後でも、ペトラの「スバルに美味しいご飯を食べさせたい」という『もちべーしょん』は少しも下がらない。
むしろ幸せな時間を過ごして、スバルへの愛を再確認した事で、熱く燃え上がっている。
その気持ちを込めた夕食は、その甲斐あって、スバルにもベアトリスにも大好評だった。
そうして一日の最後。夫婦の夜の営みの時間。
「ペトラ……」
「スバル……」
二人は互いを求め合った。
幸せな一日の終わりに、ペトラは自分が世界で一番幸せな女だと実感した。
この営みの繰り返しの果てに、スバルとの愛の結晶を授かったら、自分はもっと幸せな気持ちになれるのだろうか?
「今でも私は世界一幸せなのにね」
スバルはペトラを際限なく幸せにしてくれる。
「スバルは私を幸せにする天才だね」
ぺトラはうっとりと愛する夫の顔を見つめ、その顔に手を触れた。
ゆっくりとペトラとスバルの唇が重さなる。
そうしてナツキ・ぺトラの一日は終わった。
明日も、夫への変わらぬ、否、日々強くなり続ける愛を胸に。
第6話終了です。
最期まで読んでくださり、ありがとうございます。
終盤のスバルとペトラの混浴&夜の営みは、全年齢の小説に入れていいのか迷いましたが、スバルとペトラのイチャラブ新婚生活を描くのに入れない手はない&描写をポカせば有りかな、という判断で入れました。
ちなみにスバルとペトラがアーラム村の結婚衣装を新調したエピソードは、今は亡きリゼロスのペトラルートが元ネタです